私の実家と夫の実家のぎくしゃくが原因で起こった事件の話
義実家は絵にかいたような上流家庭で、
割と貧しい家で育った私は、その空気にあまり馴染めなかった
うまく溶け込もうとはしていたのだけど、
住む世界が違うという感じで、どうも話がかみ合わない
馴染めない私にとても気をつかってくださったのだけど、
そうすると余計に疎外感を感じてしまって、うまくいかなかった
私自身がそうなのだから、私の実両親はもちろん義両親とうまく付き合えず、
実家と義実家はほとんど交流がなかった
これでは悲しいということで、今から十年前のお正月、
義両親、夫、私、九歳、六歳の私の息子が集まった義両親家に、
私の実弟が挨拶に来ることになった
でもその後が続かない
話せば話すほど変な違和感ばっかりふくらむ感じで、
弟は途中からほとんど無言で相づちを打つだけになってしまった
しばらくして弟がこそこそ席を立った
私の息子たちが遊んでいる隣室に入っていった
なんだったのか、後から聞くと、
手洗いに行きたくなったけど、場所がわからず、
しかし義両親には聞きづらいので、息子たちに聞きに行ったということらしかった
戻ってきた弟に、息子二人がついて来た
なんだか場の空気がほっとした感じになって、
義母が嬉しそうに二人を構いはじめた
それで、下の子は楽しそうに料理をほおばったりし始めたのだけど、
上の子はじっと弟を見つめて、
「おじちゃん(私の弟)、楽しくないん?」
と、言った
「でもおじちゃん、楽しくなさそうやん」
「そんなことないよ」
「ある。全然笑ってないやん」
「そうかな。なんでやろ。初めての場所やから緊張してるんかな」
凍りついたような空気の中、息子は、今度は夫と義両親に言った
「おじちゃん、トイレの場所を僕に聞きに来たんやけど」
「……」
「なんで教えてあげへんかったん」
私は慌てて言った
「おじちゃんがトイレ探してるなんて、知らんかってん」
「なんで?」
「聞けへんかったから」弟が言った
「聞いても教えてくれへんの? 意地悪されてるん?」
「それは違う!」
「じゃあ、なんで?」
無言になった私と弟の代わりに、夫が言った
「あのな、難しい事情があるんや。だから今は向こうに行ってなさい」
息子は言った
「困ってる人をほっとく事情って、何なん?」
今度は誰も何も答えられなかった
「申し訳なかった。今まで、どうやら私たちの方で壁を作ってきたのかもしれない」
義父に頭を下げられたのは、それが初めてだった
無口で、なのに気づかい上手な義父で、
謝られるようなことなんて、一度もされたことがなかった
恐縮のあまり、涙が出た
「頭をあげてください」
でも、義父は頭をあげてくれない
義母までその隣りで、手をついて頭を下げてきた
異様な雰囲気に、下の息子が泣きはじめた
私は何も言えなかった
結局その修羅場は夫が収拾をつけてくれて、
しかもそれを切っ掛けに、私と義父母は胸を開いた話ができるようになり、
自然と、私の実家と義実家も親密になっていき、
全てが丸く収まってしまった
次の五月の連休、実両親と義両親の四人だけで旅行に行くという話を聞いて
思い出した十年前の修羅場でした
長くなって、申し訳ありません
当然、義父に頭を下げさせた後
子供のかなり失礼な発言を
発端である弟の実姉でもあり、子供の母でもあるあなた自身は
義実家に謝罪したんですよね
ほんと付き合いって大変
身内でも気使うしね