田舎と言う程ではないが、少し寂れた町の駅前商店街。
そこからちょっとズレた場所で自営業を営む我が家…自宅兼店舗が在ります。
店の前の道は狭く、車での来客は駐禁を取られかねないが、真向かいさんが
敷地の一角を月極駐車場にしているので、自家用車とお客用に借りています。
店の客入りは良いとは言い難く、売上増の為に買い物に行くのに
不自由な高齢者が多い地域に行商に行く事も多かった。
午前中に大方の仕事を済まし、午後は私に店番を任せ父が出稼ぎ(行商等)に
出掛けるといった日々を送っていました。
それが些細な騒動の始まりでした。相手は高齢のお婆さん…仮にキチ婆とします。
キチ婆「もしもし、〇〇(地区)の△△(苗字)ですが、お父さんいらっしゃる?」
私「いえ、今外に出てます」
キチ婆「御宅のお父さん、何してるか知ってるの?ウチの□□(地区)に住んでる娘の家の敷地に毎日勝手に車を停めに来るんですけど」
私「……は?」
キチ婆「それで朝からずっと家の中を覗いてるのよ」
父が人様に迷惑を??バカだけど温厚で人当たりの良さが取り柄な人で、とても
信じられませんでした。
後で冷静に考えれば、アリバイも確認しようが有り状況的にも有り得ない話なのですが
ウチを特定して電話してきた事やあまりの事態にとても冷静ではいられませんでした。
私「それ、本当にウチの父ですか??」
キチ婆「そうよ!車のナンバーも控えてるんだからね!」
この時点からキチ婆の口調はやや荒く、冷静さを装いつつも強い怒気を露わにしていました。
最初は知らない人だと思ってたのですが、ここで1つの可能性が頭を過ぎります。
お向かいの奥さん(以下Aさん)の実家が〇〇であり、旧姓も△△だった気がする。
敷地に勝手に停めると言うのは駐車場?暇な時は店の外を眺めるのですが、必然的に
お向かいさんの家が目に付く。
…つまり、電話の相手はAさんのお母さんかもしれない。
しかし、声の印象は似ているものの、その方は毎日の様にAさん宅を訪れ
とても感じの良いお母様です。何より、電話でなく直接抗議に来れる筈。
しかしその可能性を払拭し切れず、とにかく先ずは犯人が父である確証を得ようと思いました。
私「あの…本当にウチの父か判断しかねるので、その車の車種や男の特徴とか教えて貰えますか?」
キチ婆「何言ってるの!分かってるんだからね!こっちは御宅の前まで行って車のナンバー控えてるんだから。何なら読みましょか?」
…ん?と、ここで大きな違和感を覚える。
そしてここから一言毎にキチ婆の本領が発揮されていくのです。
キチ婆「分かってるって言ってるでしょ、頭悪いんじゃない!?」
私「証拠を提示して貰わないと判断出来ないじゃないですか!」
ここからは、こちらが何を聞いても数パターンの同じ答えの繰り返し。
それに罵倒や中傷も混ざり、私は疑問が確信に変わりつつ苛立ちを募らせていきます。
以下、キチ婆のテンプレループ
・ナンバーは控えてる
・御宅の家を知ってる、何度も前まで行ってる
・何で分からないの、バカじゃないの??
・親が親なら子も子だね
・それが御宅のやり方か
・ウチの娘が二階で泣いてる、可哀想
もうこれは間違い無く、彼女は頭がおかしいか呆けていると確信。
ここで大人の対応か黙って受話器を置くべきだったと思うが、そこまで人間出来てない私は
やられっぱなしで済ます事が許せず、ついに反撃に出ます。
ここからは感情丸出しの子供じみた口喧嘩です。
私「いい加減にしろ!意味の分からない事ばかり言って人を悪者扱いして……このボケがっ!!」
キチ婆「何て事言うの、やっぱり親が親なら子も子ね」
私「だから、ウチがやったってなら証拠出せって言ってるだろ!」
キチ婆「ナンバー書いてるって言ってるでしょ?言ったげようか!?」
私「さっきから言ってみろって何度言わせるの!早く言いなよ!」
キチ婆「ちゃんと御宅の前で見て来たんだからね」
私「それじゃ意味無いって言ってるでしょうが!マトモに会話も出来ないのか」
キチ婆「なんて酷い事言うの。だったら警察に言うわよ!」
私「言えよ。寧ろこっちが通報したいわ。電話でいくら話してもキリが無いから、警察連れて一緒にウチに来い」
キチ婆「もう何度も行ってるわよ」
私「今来いって言ってるんだよ!本当に頭沸いてるな、これ以上話しても無駄だわ」
最後にこちらが言い終えたところで、強めに受話器を置いて切ってやりました。
頭が冷えると共に不安も大きくなるのです。
もしも…万が一、あの婆さんがAさんのお母さんだったら……。
近所トラブル、駐車場の契約解除、店の評判…考える程に動悸が激しく胃が痛くなる。
考えてるだけでは余計にストレスが溜まり事態が悪くなる可能性が有ると、意を決して
お向かいさん宅へ。
インターホンを鳴らすと、都合良くAさんがドアを開けて出てくれた。
私「あのぅ…今変な電話が掛かって来て口論になったんですが、無いとは思いますがもしかしたらAさんのお母さんではと…」
Aさん「えっ?えっ!?何があったんですか?」
私は何があったのか事細かに説明しました。
もしお母さんなら一応謝罪をしておこうと思いつつも
「いや〜ウチじゃありませんよ〜」と笑って否定してくれるのを期待していました。
ですが、返ってきたのは予想外のリアクションでした。
…と何故か納得するAさん。疑問符を浮かべる私を見て理由を話してくれました。
何でも、昨晩だかその前の晩だかに突然警官がAさん宅を訪問。
しかし言われてる事が何一つ理解出来ず、ずっと気持ち悪かったのだそう。
それで私の話を聞いて例の警官の話が上手く噛み合ったらしい。
Aさん曰く…
以前、実家の父が近所とトラブルになり、それから何度かあらぬ因縁をふっかけられ揉めた。
どうやら今回も被害妄想的にAさんと実家に因縁を仕掛け、家の前まで押し掛けたところ
我が家に掛かる看板に書かれた屋号と電話番号を記憶し、何故かお向かいさんと混同して
標的として口撃された…そう推論に至りました。
何故かAさんに「巻き込んだみたいでごめんなさい」と謝られ、逆に申し訳なく…
取り敢えず解散となりました。
その日の夕食時、私も家族にその件を報告。
当然父は心当たりが無く、しかし母は何度か家の前に停まり誰も乗り降りせず
暫くして走り去る不審なタクシーを目撃したと言う。それが件のキチ婆だったのだろうか。
その件があってから、私は毎日警察やキチ婆、不審タクシーが来てもいい様に
待ち構えていましたが…幸か不幸か何事も起こりませんでした。
後日、Aさんからか風の噂だったか忘れましたが、件のキチ婆が
また警察に通報したらしいのですが、キチ婆宅に訪れた警官に
逆に注意だかお叱りを受けたとの事。
それが2年程前の事で、その後何も無いまま現在に至ります。
不意に思い出しては不完全燃焼でイライラモヤモヤして眠れなくなるので、
厄落とし的な感じで書き込ませて頂きました。