俺は某地方の県庁所在地住みで、女の幼馴染(A子)がいる。
A子とは幼稚園が一緒で、小学校は別だが同じ習い事をしていて、ずっと仲が良かった。
お互いに決まった相手が出来ると、メールのやり取りはするけど、一緒に遊ぶのは控えてた。
それでも付き合いが途切れた事は一度もなく、お互いの近況はよく知ってる関係。
男女の幼馴染っていうのは難しいもんなんだろうか。何度か修羅場を経験している。
第一の修羅場は、大学生の時。A子に彼氏(B男)が出来た。
その時もA子からメールがきて、真面目ないい人だよーとの事だった。
しかし、俺とA子の共通の友人(C子)が、B男に「A子には男の幼馴染がいる」と教えて、ややこしくなった。
C子は「俺君はA子の事ならなんでも知ってるよ」「A子の好みは俺君に聞くのがいちばん」とか
あれこれ面白おかしくB男をからかっていたそうだ。
なんでそれを知っているかというと、B男が俺の家に突撃してきたから。
「A子さんとはどんな関係なんですか」って尋ねられるくらいならただの幼馴染だよで済むんだけど
ちゃちな果物ナイフとはいえ、刃物をチラつかせられたのは怖かった。
B男は確かにA子が言うとおり真面目な男で、思い詰めてしまったようだ。
俺はその時たまたま買い物帰りで、持ってたゴボウで反撃して、事なきを得た。
でも、野放しにしておくわけにはいかなかったから、警察沙汰にさせてもらった。
B男は実刑は食らわなかったが、大学は退学して(させられて?)、実家に帰った。その後は知らない。
第二の修羅場は、その直後。俺とA子が一緒に昼飯を食べてたら、C子が突撃してきた。
A子にお冷をぶっかけて、錯乱したみたいに喚きまくって暴れた。
C子は、高校生の頃まで俺を好きだったそうだ。
俺とA子は本当にただの幼馴染なんだけど、C子はあれこれ勘違いしたり曲解したりで、俺の事は諦めた。
で、次に目を付けてたのが、B男だったんだそうだ。
なのにB男はA子が好きで、付き合い始めてしまった。
だったら俺とA子が深い仲だとB男に勘違いさせて別れさせ、傷心のB男を慰めてゲットしよう!
などと作戦を立ててたみたいなんだけど、第一の修羅場があって、その作戦はおじゃん。
全部A子のせいだ、となって、ブチギレたということらしい。
幸い、共通の友人のとりなしもあって、A子がお冷をかぶった以外は、大事には至らなかった。
もちろん、俺もA子も共通の友人達も、C子との関係は切った。
これがきっかけで、当時ちょっといいなと思ってた女の子から
疎遠にされてしまったのが、ちょっとした第三の修羅場かな。
それから何年も経って、俺はD子と、A子はE男と結婚した。
同時期に結婚して、全員同い年で、夫同士と嫁同士がそれぞれ趣味が一緒で、仲良くなった。
そのうちA子は男の子(Fちゃん)を出産した。それから数年後、D子とE男の不倫が発覚した。
俺はD子の帰りが遅い日が多くなったなー仕事忙しいんだろうなーと思ってた程度だったんだが
A子はE男の変化に気づき、さくっと素行調査を依頼し、不倫の証拠を掴んだ。
A子からD子とE男の不倫の証拠をつきつけられた時は目の前が真っ暗になったよ。
それから俺、A子、D子、E男、それぞれの父親の八人で話し合いをしたんだけど
D子が、Fちゃんは俺にそっくりだ! Fちゃんは俺の子供に違いない! 不倫だ! だから私も! と言い出した。
ここで後出しみたいで申し訳ないんだが、俺とA子は、一応親戚なんだ。
イトコとかのまあまあ近い関係じゃなく、遠い遠い親戚。
血は繋がってるはずだけど、ハトコのハトコのハトコ同士、みたいな、だいぶ遡らないとわかんないくらいの。
で、俺やその近い親戚数人が、上の方がやや尖っているような形の耳なんだけど、Fちゃんの耳もそうなってる。
俺は全然気づいてなかったんだけど、俺の父親は気づいてて、遠いとはいえ親戚だからかなと思ってたんだそうだ。
でもそれくらいの相似は他人でもありえるから、何の疑問も抱いてなかったとの事。
だけどD子はその耳の形で、俺とA子が不倫していると断定し、E男にもその妄想を吹き込んだんだろうな。
DNA鑑定はした。
結果、当然だけど、俺とFちゃんの親子関係はほぼ否定され、E男とFちゃんの親子関係がほぼ肯定された。
可能性はゼロじゃないとD子は喚いてたけど、結局俺とD子、A子とE男は離婚。
ここが最大の修羅場だったな。
D子が離婚から約一年後に再婚したって話を小耳に挟んだ時は、逞しいもんだなってちょっと笑ったけど。
E男がどうしてるか、俺は知らない。A子は知ってるだろうけど。
離婚から更に数年経って、俺はA子との結婚を考えている。
男女の付き合いではないけど、お互い修羅場をくぐって、もう三十路も越えて、結局ここがゴールなのかなと。
お互いの親同士も、俺とA子とで丸く収まって欲しいと考えているのがひしひしと伝わってくる。
ごく最近、偶然E男と遭遇して、ちょっと話したんだ。
A子とFちゃんには幸せになって欲しいって、どの口が言ってんだとは思った。
だけど、A子にプロポーズしようかどうか迷ってる俺は、背中を押されたような気にもなった。
どうするか、年内には決めたい。うだうだと悩んでいる今が、俺にとっての修羅場と言うか、正念場な気がしてる。
うん。聞いてない。一応ちょっと尋ねたけど、曖昧に返された。
出張先の、それも帰る間際の新幹線のホームでばったり会って
俺「久しぶり。あれ? 出張ですか?」
E男「まあ、そうですかね。俺さんは出張で?」
俺「です。そうですかねって、今こっちに居るんですか?」
E男「いやまあ。あの、最近A子さんとFには会ってますか?」
俺「たまに会いますよ。A子もFちゃんも元気にしてます。E男さんもたまに会ってるんですよね?」
E男「いや、なかなか…」
俺「そうなんですか? あ、俺この新幹線に乗るんで」
E男「すいません、こんなこと言える立場じゃないんですけど、A子さんとFには幸せになって欲しいんです」
俺「え? ああ、はい」
E男「すいません。よろしくお願いします」
こんなかんじ。正確ではないけど、こういう会話をした。
この事はA子には言ってない。