ここでちょっと語らせてくれ。
もちろん叩いてくれて構わない。
俺がどんなに妻に酷いことをしてきたか、懺悔したい。
妻は高校時代の同級生で、
7年付き合って25歳で結婚した。
当時、俺の父親は商売に失敗し、
7千万ほどの借金を抱えていた。
今の時代なら
あっさり自己破産だろうが、
当時はそんなことは許されなかった。
そんな俺だったが、
当時の彼女だった妻が
結婚をしぶるとは考えもしなかった。
借金だらけだったから、
両親も親戚も猛反対だった。
反対を押し切った形で結婚を決めた。
結納はなし。指輪も、
彼女の親の手前があるので用意したが
実は彼女自身の貯金で買ったものだった。
結婚すると決めて、
俺の親に報告したとき
お袋は
「○○(俺)は30まで結婚させたくないのに。」
と、嫌な顔で言った。
親父は「勝手にすればいい。」と言い、
すでに嫁いでいた妹だけが
「おめでとう。」と言った。
そのあと、にやっと笑って
「いっしょに借金返すんだね。」と言った。
「みんなで頑張れば、
家2軒程度の借金、
すぐに返せるよ。」
と俺に言ってくれた。
俺は前向きで明るくて
元気のいい彼女に励まされた。
親戚たちも彼女に好意的で、
彼女なら何とかしてくれるかもね、と俺に言った。
結婚式の費用は借金返済に当てようという彼女に、
俺の親は
「とんでもない。長男と長女の結婚式で
披露宴もしないなんて
そんな恥ずかしいことはできない。
だいたい、☆☆(彼女)ちゃんの親に申し訳ない。」
と言った。
俺達は普通の結婚式を挙げ、
披露宴をすることになった。
出席人数は俺側70人彼女側27人。
費用は折半でということになったが
実際は全額彼女の貯金。
嫁入りに先だって、お袋は彼女に
「着物は最低これこれ揃えてこい」
と言ったらしい。
結納も無いのにと
彼女は少し怒っていたが、
大半は揃えた。
ほとんど彼女ひとりでやった。
お金を使わないでも
親が恥をかかないようにと、
俺は式場のカタログモデルにされ、
彼女は古くて安い結婚衣装を選んだ。
式の6日前、
彼女の父親がくも膜下出血で倒れた。
彼女は式を延期してくれと言った。
俺の親は、
「お父さんが生きてるうちに
式をあげなくてはいかん。
タヒんでからだと面倒だ。」
と彼女の前で言った。
彼女は泣きながら延期してくれと、頼んだ。
親が生きるかタヒぬかと言うときに、
結婚式など出来ないと。
俺の親と仲人は
延期する気などさらさらなかったようだ。
彼女の叔父さんが、
俺の親と仲人に
ばか野郎!そんな家に姪はやれん!
この話はなかったことにしてくれ!」と
病院中に響き渡る声で怒鳴った。
「破談にして、
慰謝料をもらえばいいじゃん。」
俺は妹を怒鳴った。
そのまま式場へ直行し、
事情を話して延期をお願いした。
式場の担当者は、
「当然ですよ。
そんな大変な事情でしたら、
キャンセル料も不要です。
お父さんがお元気になられたら、
晴れて式を挙げましょう。」
と言ってくれた。
幸いにして彼女の父親は回復、
結婚式は3ヶ月遅れで挙げた。
3月末なのに、この地方には珍しい
ものすごい大雪が降って、
4時間も延期になったのはご愛嬌か、
神様が反対してたのか。
新婚時代くらい2人っきりで暮らしたいという彼女の希望で
俺達は市営住宅入居を申し込んでいた。
意外にあっさり入居許可が出た、
その通知が俺の家に届いたとき、
俺の親は妹を呼んで話し合ったらしい。
市役所へ勝手に入居辞退の電話をしたのは妹だった。
俺が呼ばれたとき、
妹はもう戦闘態勢だった。
「別居ってどういうこと?
親を見捨てる気?
それならそれで、
一切の縁を切って出てってちょうだいね!」
親も「何を考えとる!
別居だなんてふざけるな!」
「借金を返すために
嫁に来る奴が別居してたら、
借金が増えるだけじゃわ!」と
3対1で責められ続け、
俺は市営住宅をあきらめることにした。
どうせいずれは同居するんなら、
最初から同居しても同じかもしれない。
借金の返済のためだったら、
それは仕方がないだろうと思った。
彼女も納得してくれると思っていた。
当時『お前がどう考えてどうしたのか』が抜けてるぞ。
すまん。俺はあまり
何も考えていなかったと思う。
彼女はしっかりもので、
任せておけば何とかしてくれる。
甘えていた。
己で返せやボケ!……だな。
嫁に来たんじゃないんだ。
結婚するんだから、
あなたの家の借金を一緒に返すのは
当たり前だと言ってくれた。
妻ってことは今でも一緒にいるんだろ?
そんなDQNだらけのお前の家族の中で
どうやって嫁さん今までやってきてんの?
既に逃げられ済みらしいぞ。
電話で彼女に伝えた。
彼女が電話の向こうで
絶句したのがわかった。
数秒の無言の後、
「…仕方が無いよね。」
と、彼女の声が聞こえた。
気が抜けた声だった。
俺はほっとした。
彼女がどんな気持ちでいるのか、
考えもしなかった。
自分が責められなかったことだけに
ほっとしていたと思う。
新婚旅行。
彼女は海外を望んだが、
俺は日本語の通じない場所が面倒だった。
彼女の希望はグァムだったのだが、
俺の希望で沖縄にした。
「結婚したら海外なんて行けないかもしれないのに。」
「義妹ちゃんもハワイだったのに。」
彼女にしては珍しく、
長いこと愚痴っていた。
が、借金をしている親戚の手前もあって、
親も海外には反対だった。
その2年前の妹の結婚のときには、
「せめてハワイくらいは…。」と婿に言ってたがw
一切の縁を切って出てってちょうだいね!」
こんなこといわれたら、
渡りに船で俺なら速攻絶縁だな
こんなバカ親子+7000万の借金と
おさらばできるなんて最高じゃん
ぜつえんしてすっきりさっぱりして
嫁とラブラブ生活してるぜ
お前バカだなー
まったくだ。
そのとき縁を切っておけば、
彼女を壊すことも無かっただろう。
子供たちも泣かずに済んだだろう。
今になって口惜しい。
お前らが羨ましい。
あのときの俺には、
親を助けなくてはいけない、
という強い義務感があった。
親や妹のいう矛盾点にも気づかなかった。
彼女は黙って従うのが
美徳だと信じていたようだ。
ばかじゃねーの?
お前が言うべきことは
「借金返すために婿にきたんだろーな?」
この一言しかないだろ
思いだし思いだしして書いている。
結婚式にもらった祝儀は
すべて俺の親が持って行こうとした。
「今まで俺らが出しているから貰ったもんだ。
俺らが貰って当たり前だ。」
親父がこう言ったので、彼女の妹が
「お姉ちゃんのお友達の分だけは返して下さい。」
と言い
式場でちょっと喧嘩になりかかった。
俺の妹が後で返すから!といい
その場は収まったが、
返してはくれていないらしい。
マトモなのはいないんですかね?
ドラマだと思って聞いても
感情移入できないんですが。
そうだな。
誰がまともだったんだろう。
彼女の妹、彼女の叔父さん。
彼女の親父はマシなほうか。
俺の両親と妹は最低だった。
仲人も、今となってはどうかと思うよ。
新婚旅行は楽しかった。彼女は
「こんなに幸せでいいんでしょうか?」
と笑った。
帰って来た夜から
彼女の地獄は始まったようだ。
じゃなくて、お前が一番最低なんだよ!
一応最後まで聞きたい
少しも見えてこないんだよな。
「妹が…」「親が…」ばっかりで、
一番の当事者であり、
妻である彼女を
守るべきお前がさ
「傍観者」でしかいないってどういう事だよ。
そのとおりだ。
俺は彼女の
「いいよ。そのくらい、仕方が無いじゃん。」
という言葉を間に受けたし
彼女はあまり愚痴を言わなかった。
よく「あなたの親兄弟の悪口を聞かされたら、気分良くないよね。」
と言っていた。
それでもときどき、
俺の親のことで愚痴り始めると
「親の悪口は聞きたくない!」
とシャットアウトしてしまった。