海外支店への転勤の内示をうけたら、妻のウワキが発覚したというよくある話しなんですが。
5年も前のことなんで独り語りになるかな。
会社勤めしている既婚女性の3割は浮気経験者らしいが、妻もその1人だった。
登場人物は次の4人になる。(かなりフェイクあり)
僕:32才。製造系企業の技術者(国内需要が少ないので海外出張が多い)
妻:29才。大手商社系の営業
男:37才。ジェネコンの購買スタッフ(課長クラス)
弁護士:40過ぎの女性。(妻と男の代理人)
期間は3年を目途と言われた。
妻も一度はその国で生活してみたいと言っていたことを
思い出しながら、喜んで内示を受けた。
1ヶ月後に赴任だ。今までは海外出張だったが今回は転勤だ。
海外の生活は楽しい。うきうきした気分だった。
その日の夜、妻に話をした。
飛び上がって喜ぶかと思ったら、自分も仕事もあるので
一緒に行けるかどうか、ちょっと待って欲しいという。
仕事中に妻からメールがあり、マンション近くのレストランで待ち合わせすることになった。
行くと妻の他に会ったことのない男が一緒だった。
男は僕よりも少しばかり年上でしかも身なりが良く上品で落ち着きが感じられた。
優良企業に勤めている会社員のようだ。何事かと思った。
自己紹介された。優良企業はその通りだった。妻が担当するお客さんに当たるという。
非常に丁寧な口調で、今日は彼女に無理に頼み込んで同行させてもらったとまず言い、
申し訳ないが奥さんと別れて欲しいと切り出された。全責任は自分にあると。
男は続けて、半年ほど前からの付き合っている。
自分は37才独身でこれからの人生、彼女無しでは考えられない。
彼女とは仕事上の付き合いしかなかったが、半年ほど前、あまりにも寂しそうに見えたので、
既婚者と知りながら誘ってしまったと。あなたが海外出張に出た頃でしたと言う。
そしてある時一線を越えたと。
ま、まさか。展開が速くて付いていけない。
本当か、と彼女に目を向けると俯いたまま、小さな声で本当ですと言い、両手で顔を覆った。
すぐ気がついたが、彼女は指輪をしていなかった。
僕は、思わず自分の左手の指輪を見てしまった。
たまたまダブルスのペアとして組んだのが始まりだった。
2人とも学生時代は体育会系クラブに所属していたので、最強のコンビだった。
彼女は一般的な美人とは言えないが、頬が少し出た個性的な美人と言える。
日焼けし健康で若さに溢れていた。
お互いが引き合ってることは分かるし、半年後に結婚を申し込んだ。
以来、5年を経過した。
僕の友人たちは、お前にはもったいない、と羨ましがった妻だ。子供はまだいない。
妻と2人だけで話したいから、男に帰って欲しいと言うと、妻に向かって外で待ってるという。
僕は、多分、男女問題には鈍いのだが、この時初めてようやく2人の話しに追いついた。
いや、僕が妻を連れて帰るから待つ必要はないと。男は困った様子で妻のほうを見た。
妻は男と目で会話している。
あなたは妻と別れて欲しいという。
僕はとても話に着いて行けないし、このまま信じられると思いますか?
何があったのか、妻と2人で話するしかないでしょう?
その通りだけど・・・奥さんがどう思うか?(実際は彼女の名前を言った)
僕が妻を連れて帰っては悪いのですか?僕が暴力でも振るうとでも?
いや、そうは思わないが・・・
それじゃ、あなたが連れて帰るつもり?
そこで妻が、今日は姉の家に行きますと口を挟んだ。小さい声だった。
多分、初めからストーリーは出来ていたことに気づき、これ以上話を続ける気力を失った。
僕は妻に向かって、今の僕は、多分、冷静に会話が出来ない。
今日はこれ以上の話し合いは難しいと思う。別の日に話をしたいと言い、立ち上がった。
自分でも冷静さを保っているのが不思議なくらいだった。実際は動転していたのに。
この1年、仕事にかまけて妻を放置した結果だ。妻も悪いが僕も悪いに違いない。
2人で話をしたいと言いながら、何を言えば良いのか?謝るしかないと思っていた。
しかし、指輪をしていない妻を思い出すと、暗澹たる気持ちにならざるを得ない。
このままだと、紳士然としたあの男に妻を取られてしまう?どうして良いか分からない。
僕は妻との会話を避け、ずるずると2人で会うことを先に延ばしてしまった。
数日後の夜遅く、妻から電話があった。僕からの連絡を待っていたという。
ここ数日、帰宅しない妻に対する憤りと、電話してきた安心感とがない混ぜとなった。
僕は声を聞いて思わず元気かと問い、連絡しなかったこを詫び、ゴメンと謝っていた。
どこに泊まっているのかと聞くと、当分、姉の家にやっかいになると言う。
僕はすぐにも会いたかったが、今の僕はどうして良いか分らないと正直に言い、
もう少し時間が欲しいと応えた。
別れざるを得ないのか?いや、そもそも別れないという選択はあるのか?
妻の気持ちを確かめるしかないのだが。。。
或る夜、2人の代理人だという弁護士から電話が入った。
優しそうな女性の声だったが、突然、第3者が登場したので驚いてしまった。
当事者同士での話し合いはうまく行かない場合が多いので、弁護士に仲介を
頼むこともあるとの説明だった。
弁護士事務所の方が静かに話せるので如何でしょうかという。
妻は帰って来ないし、いつまでも放置できないことも事実だった。僕も追い込まれていた。
妻と2人だけで話せるのなら行きますよと応えざるを得なかった。
夕方、仕事を切り上げ心の整理がつかないまま出かけた。
どんな結果が待っているか不安だったが、もうどうでも良いという投げやりな気持ちもあった。
僕を迎えたのは40過ぎと思われる女性の弁護士だった。
男も来ているが、まずは彼女と2人だけで話して欲しいと言われた。
そして、穏やかにと付け加えた。
一体、何があった?どうしたんだとの僕の問いかけに、
彼女は、僕に目を避けるようにして、ゴメンなさい。あなたに会うのが怖かった。
あなたと会うことを考えると眠れなかったと。
もう自分では何も考えられない。早く楽になりたいという。
僕は不憫さがこみ上げてきた。
とっさに僕の口から出たのは、僕を許して欲しいだった。
君の笑顔を見たい。この気持ちは結婚して以来変わらないと言ってしまった。
浮気なんかどうでもいい。気にしていない。お互いに許しあえば、必ず立ち直れる。
私は、恥ずかしくってあなたの顔をまともに見ることすら出来ない。
彼の執拗さに負けたのか、自分が望んだのか分からない。
このままではあなたには会う勇気がなかった。
一線を越えてからは、家に帰るのが怖かった。
部屋に入るとあなたの存在を感じて怖かった。
それなのにズルズルと彼と付き合ってしまった。
私は許されないことをしてしまった。
別れて欲しいというより、お願いだから私を切り捨てて欲しい。
君を苦しめたくはないが僕は別れる気持ちは全くない。
僕を嫌いになったのか?別れたいのか?
あなたを嫌いになったわけではない。
何故、彼とこんな関係になったのかを考えていた。
初めは、お互いに同じ作家が好きなことが分り、本の内容を話すうちに親近感を持った。
彼はあなたとは違う魅力があり、自分にとっては初めての大人の男性だった。
彼といると気持ちが安らいだ。私は彼に期待を持たせてしまった。彼は一緒になろうと言う。
僕よりもあの男が好きなのかと聞くと、自分でも分からないと。声は小さい。
今、あなたと話していても混乱しているという。
いや、本当にあの男と一緒になりたいのか、君はあの男に引きずられていないか?
君を見ていると僕も混乱してしまう。
この調子で書いていくと長くなりそう。何とか今日中に終わらせようっと。
203の続きです。
この1年、僕は仕事に追われてしまった。
君のことを考える余裕がなかった。本当に申し訳ない。
確かに僕は、あの男と違って子供ぽいところがあるかも知れない。
君に対する気配りも不足だったと思う。
5年経って、君との生活に慣れ親しんでしまった。
5年前の君に初めて会った頃のドキドキするような感覚を失ってしまったが、
あの頃を思い出す度に本当に幸せな気持ちになる。君を失うのには耐えられない。
僕が今の仕事を辞めれば良いのかと聞くと、そうではない。それが理由でもないという。
私は、自分が浮気するとか不倫に陥るとか考えたこともなかった。
それなのにしてしまった。
彼と関係を持った理由は、多分に私自身にあり
それが何なのかはあいまいで今もって分らない。
私は浮気性の女とは自分では思っていなかったが・・・彼の誘いに乗ってしまった。
こんな女だという。
僕は、浮気とか不倫に陥った理由は聞きたくなかった。
どんな理由であれ妻が自分の意志であの男と行為したことに変わりなく、
それを僕がどのように受けとめるかだけだからだ。
彼女が他の男と行為しただけで、別れる必要があるのか???
あの男が本当に君を愛しており、君もまたあの男との生活を心から願っているのなら、
潔く身を引いても良いと本当に思っていた。こう考えるのは非常に苦しかった。
だから連絡できなかった。
君は、自分の責任意識から別れたいと思っているに違いない。
それなら話は違ってくる。責任は僕にもあり、お互いに許し合う問題だ。
必ず幸せにするとは言えないが、僕は最大の努力をするつもりだ。
2人で幸せな家庭を作る。約束する。
もう一度、自分で考え直して欲しい。あの男と別れて欲しい。
何回か同じ言葉を繰り返したが、妻はそれに応えることもなく力なく首を横に振っていた。
早く楽になりたいという妻を見て、僕が時間を必要としていると以上に
妻も時間が必要だと感じた。
あなたは何の責任もない。貴方が悪いとは誰も言っていない。
夫の仕事が忙しいことが不貞の理由にはならないという。
しかし、代理人の書類を示しながら、彼女は別れたいと言い、あなたは別れたくないという。
彼女があなたの元に戻った時、彼女が受けるストレスをあなたは想像できていない。
彼女の不貞行為はあなたに大きな傷を負わせたはずだ。
これが原因で離婚する場合、示談で済ませる、浮気の代償として
お金で解決するケースが多いのですという。
話し合いがうまく行かない場合、妻側が裁判所に離婚調停を申し出ることも出来る。
しかし、あなたが反対すると調停は成立しない。強制力が無いからですと。
最後に裁判に訴える手段もあるが、今回は妻側に責任があり
裁判に持ち込むことは出来ないのですという。
確かにあの男は、償いは何でもすると言っていた。それは慰謝料を払うという意味だったのだ。
妻を見ていると、精神状態は非常に危なっかしい。そのために早く決着しないといけない。
弁護士に対して、この1年ぐらいの間、妻の気持ちも知らずに仕事にかまけてしまった。
彼女は僕の心を見失ったんじゃないか。だから彼女だけが悪いわけではない。
今の僕は、彼女のためなら何でも出来る。
浮気だろうが不倫だろうが、僕にとっては大したことはない。
仕事だって辞める覚悟がある。話し合いを続け許しを得たい。
妻は、多分、自分の過ちを引きずって元に戻ることは難しいと考えるに違いない。
誰だって過去は存在する。僕と再婚すると思えばいい、と必ず伝えて欲しい。
弁護士さん、あなたは妻が平常心を維持していると思いますか?
あの男に引きずられているのではないか。
妻は、僕と別れたいと言っているが、実際は妻が浮気した自分から逃げたいのだと思う。
このまま別れると妻は何かを失い、心に傷を負ってしまう。それを僕は恐れると。
その傷を回復するには僕のところに戻ることだ。お互いに許し合うことだ。
僕が許され、彼女を許すことが出来れば、仮に別れたとしてもいずれ妻も僕も
元の自分に戻れるだろう。
しかし、あの男は何を失うでしょうか?
あの男は他人の人生に入り込んで、妻に一緒になろうと誘ってる。
その結果、妻は平常心を失っている。
紳士面して彼女の心の隙に付け込んだあの男は絶対に許せない。
彼女を幸せに出来るはずがない。絶対に一緒になって欲しくない。
僕の言葉は激しいものだった。
僕が彼女を幸せにするから、もう彼女には関わらないでくれと伝えて欲しい。
弁護士は、私はあなたと離婚条件について話し合うために
2人から代理人の依頼を受けたのです。
奥さんとは何回かお話した。
平常心を失っているとは思わないし、彼女は既に結論を出しています。
2週間後にあなたは海外に赴任すると聞いていますので決着を急いでいますという。
僕も、妻が本当に別れたいのならば転勤前に結論を出したいが、
僕のため妻のために、お互いが理解し合うまで会話することだと応えた。
同じ弁護士事務所だった。
妻は、あなたには着いては行けないという。今日も顔色が悪く声も少し震えていた。
あなたはお互いに許し合うことが大事と言っているが、その必要はない。
顔を上げなかった。
一体、この数日の間に何があったのか?妻は変わってしまった。
明確に別れたいという意思表明だった。許しをこう言葉もなかった。
戻ってほしいという僕の甘い期待は一瞬のうちに吹き飛んだ。完全に落ち込んだ。
後は弁護士さんとお話して欲しいと言い、応接室から小走りに出て行ってしまった。
この間、たったの2、3分。今日の妻は感情を失った操り人形のようだった。
僕は呆然としてしばらく動けなかった。これが話し合いか?
弁護士が入ってきて、彼女の意思は確認できましたね。
もう話し合いの必要はありませんと。
僕は思考停止状態だった。
しばらく応えることが出来なかった。妻の態度にショックを受けていた。
僕も悪かったし妻も悪かったのに、過去を遮断するような妻の態度は全く信じられなかった。
弁護士にその旨伝えると、早く別れたい気持ちが現れだという。
更に追い討ちをかけるように、2、3日前から僕の妻はあの男と同居始めたと付け加えた。
下を向いて感情を押し殺した。
これで僕は離婚するしかない状況に押し込まれたのだ。
彼女の会話拒否を指導し、このシナリオを書いたのはこの弁護士か?そうとは思えない。
僕の妻が他の男と同居することは許されるのか?
弁護士は、民法では認めていないが、罰則がない。
つまり法律で個人の自由を縛ってはいない。
これに対して、あなたは家庭裁判所に訴えを起こす権利がある。つまり離婚請求裁判ですよ。
僕から離婚請求する?完全に詰んだと同じだ。
同居しているというショックが収まらず、気が静まらない。言いようのない怒りだった。
ここは冷静にならなければ、妻を失ってしまう。
ふと、前回の話し合いで、妻は平常心を取り戻すための時間が必要と感じたことを思い出した。
あの男にシナリオがあるなら対抗するしかない。僕はどうしたら良いのか考え込んだ。
その間、弁護士は一言も言わずに待った。僕が分かりましたと言うのを。
弁護士に向かって、僕は彼女の幸せのために別れることもあり得ると考えてきた。
しかし、今なお僕の妻でありながら同居だけは許せない。僕の声は少し震えたと思う。
弁護士は、法的にはあなたの配偶者ですが、誰と住もうが個人の自由なんですよと言い、
冷静な言葉で、彼女の幸せを考えるというのなら示談協議に応じた方が良いという。
あなたは彼女の不貞によって傷を負った。今、この場で慰謝料の提示も可能と。
全てはあの男の描いたシナリオだ。妻を惑わせたあの男に激しい怒りを感じた。
しかし、あの男と同居したままでの話し合いは出来ないと伝えた。
矛盾するようだが、これが答えです。
この前もお話した通り、お互いに許しあうことが最も重要であると信じている。
もし、話し合うことが出来ないなら、僕は離婚協議に応ずることは絶対にない。
僕の要求は理不尽ですか?僕の声には怒りがこもっていた。
あなたの奥さんは、あなたとは話したくないと言っている。
また、誰とでも同居出来る権利も持っています。
あなたの要求は、奥さんの人権を侵害していますよ。
僕には僕の人権があり、僕は自分の希望を主張する自由がある。
離婚を強制されるいわれはないはず。
僕は、今この場で離婚に応ずるには気持ちの整理がつかない。
気持ちを整理するためにも話し合いが必要と。
お互いに許し合うなんて有り得ないのか?別れるにしても笑顔で別れることは出来ないのか?
弁護士は、まるで駄々っ子をなだめるように、許し合うとは具体的にどうすれば良いのか?
今日、お分かりの通り元には戻れないのですよと言う。
妻と納得がいくまで話し合いをすることだと思うと、僕は応えた。
弁護士は、代理人を立てたのは、あなたと話をしたくないとの意思表示なのですと。
あなたは私と話をするしかないのですという。
僕は妻と話が出来ず、更に同居状態が続けばいかなる協議もあり得ないと応えた。
弁護士は、そうなると彼女は宙ぶらりんの状態が続きます。あなたも同様ですよと。
話し合い拒否はあなた方が望んだことで、僕の責任でしょうかと応えた。
ご夫婦2人が不幸になるような状況の時は、大人の判断が必要と弁護士。
まるで僕を子どもをなだめている口調だった。
確かに子供のような要求かも知れなかったが。
自分の妻が他の男と同居することは、感情的に認めることは出来ないと知っていて欲しい。
彼女が法的に僕の妻だから言ってるのではない。
5年も一緒に暮らしたパートナーだから言ってるのです。
お互いに許し合って初めて次に進められるという僕の気持ちを理解して欲しい。
今日の妻の態度は、気持ちが僕から離れたとしても、残念ながら
5年間も一緒に生活した人とは思えなかった。
弁護士さんも今日の妻の態度を知っていたに違いないし、あなた方は
僕の気持ちを踏みにじったのです。
弁護士さんは代理人として代弁者に過ぎないのか。事務的に仕事を進めようとしている。
僕の身方ではないことは承知しているが、あなたが問題解決案を提示出来ないのに疑問を持つ。
同居を止め、妻との会話が継続できない限り、残念ながらあなた方の意向には従えない。
僕は代理人を立てることもない。
僕と話をしたいのなら、会社に問い合わせれば僕の居所は分かります。
あなた方の判断ミスが問題をこじれさせ、このような事態になったのですよと付け加えた。
弁護士は、あなたは意地を張っている。彼女が可愛そうですよと。
いや、意地ではない。
当事者同士が話し合いをしないやり方は、僕の生き方に反しています。
僕は今日、妻の幸せのために別れるなど詭弁に過ぎないことに気がつきました。
何故なら、既婚者に言い寄る男を信用出来ない。
妻が不幸になる可能性があるなら対抗するしかない。
妻が少し冷静になれば僕の気持ちは分かってくれると信じています。だからサスペンドしたい。
僕の最後お願いだが、妻には自分の人生は自分で考えて欲しいと伝えてくださいと付け加えた。
僕と直接話し合わない限り協議離婚には応じない。
男と同居したままでは話し合いには応じない。
僕が海外にいる限り離婚調停も出来ない。こんな状況に陥ったのだ。
その後も度々、弁護士から電話が入った。再度、話し合いたいという。
弁護士は、同居している状況は変わっていないというので、僕の条件は
伝えた通りと繰り返して切った。
その後、妻からも話し合いたいとメールが入ったが、海外でやり直せないか、
いつまでも待っていると返信した。この問題は本当にサスペンドしたのだ。
翌日、僕は出発した。
時々、赴任した先に妻からメールが入った。同居を解消したので帰国した時、会って欲しいと。
しかし、3ヶ月に一度くらいは日本に帰ったが、妻には教えなかったし会わなかった。
何故ならメールが短文過ぎるからだ。
その際、弁護士と会話する機会があった。女同士の会話だったとのこと。
私はどうしたら良いのか単刀直入に聞いた。
弁護士の意見では、もし本当に離婚を望むなら僕は必ず離婚協議に応ずる。
多分、私のことを考えてと。
だからしばらく待てばいい。待つのが嫌なら現地に行って話すればいい。
それで必ず解決する。
逆に、弁護士から、あなたの本心はどうなのか?と聞かれた。
浮気したから別れるしかないと思っていた。今では自己保身だったことは分ってる。
同居を止めてしまったのは何故か?
すぐに結婚できなくても同居は続けるのが普通と思うと弁護士。
彼は同居の継続を希望していたのに、あなたは止めてしまった。
その時点であなたは、ご自分では気づかないでご主人の元に戻ることを
選択したのではないのか?
ご主人は、言葉の端々から分かったことだが、貴女が傷つくのを恐れていたのは間違いない。
同居した時、貴女があれだけ落ち込んだのも、これ以上、ご主人を傷つけたくない
気持ちがあったからでは?
つまり、あなた方夫婦は、別れ話をしながらお互いを思いやっていたのですよと言われた。
しかし、あの時、長い沈黙の後、彼は踏みとどまった。
意地もあったとは思うが、彼はあなたに対する思いが強かったという印象を持ったという。
必ず妻を取り戻すという強い意志を感じた。
私たちは、結論を急ぐあまり離婚するための作戦を立てたが、それがご主人の態度を
硬化させてしまった。
その結果として、ご主人の時間稼ぎは貴女にとって良かったのではないかと。
今の貴女は、既に結論を持っていて、ご主人の元に戻りたいのでしょうと指摘された。
貴女にとって最も大事なのは、今でも好きかどうかだ。
そして弁護士は、少しでも元に戻りたい気持ちがあるなら、私は反省が足りないと指摘された。
当時、私は頭が回っていなかった。思い返せば、あなたを裏切ったことがひたすら怖かった。
だから、彼の元に逃げ込もうとした。今となっては全く幼稚だったと思う。
今は、私が自分の嫌な部分をあなたに見せたくなかったことに気がついた。
こんな私だから戻りたいのに戻れない。
離婚されてもしょうがなかったが、離婚されたら本当にあなたを失ってしまう。
本当に混乱した。
今だから言える。私が謝罪出来るようになるには長い時間が必要と思う。許してくださいと。
負けたかも知れないと言った。
自分がどこまで押すか迷っていたのだと思う。同居を解消した時も紳士的だった。
以来、たまに食事はしたが、もう私を求めなくなったし求められても断ったと思う。
もう半年くらい会っていないから、もう会うこともないと思う。
今は不思議とあなたが怖くない。今となっては、何故、私が浮気したかだけが残っている。
私は浮気性の女か?あなたは、それでも良いのか?
メールはここで終わっていた。
返事はこんな風に書いた。
日本にいる時よりゆったりとした生活をしている。これを分かち合う人がいないのが残念だが。
僕は、君の笑顔が見たいと言った。笑顔は確かに見たい。君の笑顔は僕の人生を楽しくする。
僕の記憶に残っているのは、テニスで僕を打ち負かせた瞬間の笑顔であり、
僕のシュートを受けきれず、思わず出た悔しそうな表情であり、
食事の準備をしている時の横顔なんだ。
その場、その場のカットが僕の記憶として強く残っていて、僕を苦しめる。
君と会わない期間が、1年近くにもなった。
僕も限界だ。そろそろ再婚したい。僕と再婚してまたテニスをやろう。待っている。
その間、メールや電話での会話はあったが、すべては枝葉末節だ。
ただこれだけは書いておこう。
僕は妻に対して、過去や足元ばかり見ないで、2人でもっと遠くを見よう。
それが未来だからだと。
空港でお互いに目を合わせた。少しの緊張感はあったが僕は妻を力いっぱい抱きしめた。
妻はちょっと恥らったような笑顔で応えた。忘れそうもない新たなカットだ。
元に戻った瞬間だった。
今後とも僕は、妻の浮気を問い詰めるつもりはない。再婚したと同じだからだ。
人は浮気の理由を追究したがるが、詮の無いことだ。
考えても仕方がないことに悩まないことだ。
浮気心は誰もが持っている。人間はそういう動物なんだ。
行為は常に良識を駆逐すると言うではないか。
長くなったが、僕の独り語りはこれで終わりだ。
>行為は常に良識を駆逐する
「悪貨は良貨を駆逐する」の言い換えだね。当たってる。
そういうムードになるともう止まらない。それで感じてしまえばズルズル行ってしまう。
本気になる前に自制出来たのかな。