だから俺は表面的には嫁を労る良い夫を演じ、内心では常に嫁に対する嫌悪感を持っていた
そんなある日、俺は息抜きに娘と二人で温泉旅行に行ったんだよね
無論、旅行に行ったことは嫁に隠してた。嫁に隠れてコツコツと貯めたヘソクリを使って旅行に行ったんだよね
楽しかった
それで俺たち二人が家に帰ると、嫁と義父と義母が待っていたんだよね
娘に「もしかして嫁に言った?」と聞いても「言うわけないよ」という答えが帰ってきた
聞けば俺の浮気を疑った嫁が興信所に依頼して、そこで発覚したらしい
嫁は「裏切られた」と泣き喚いて、それを義母が介抱する。義父は何故か何も言わない
そんな感じで軽く修羅場になっていた
俺は上手い言い訳を考えたけど、焦燥は視野を狭め、精神的に追い込まれ、吃りながらも必死に身振り手振りを加えて嫁に弁解しようとしていた
だけど、嫁は聞く耳持たずでただ泣き喚くだけだった
それで徐々に嫁は落ち着きを取り戻していき、俺の人格を叩き始めた
最初は「女々しい」だの「気持ち悪い」だのそういう類の軽い罵倒だった
だけど徐々に激しくなり、終いには離婚話にまで飛躍した
そこで、ついに娘が嫁に視線を向けて言った
「そんなにお父さんのことが嫌いならもう別れればいいじゃん。いい加減うざいよ」
だけど流石に親に対するその物言いは看過できないので、俺は娘に「母親に謝りなさい」と促した
だけど、娘は「お父さん、もう離婚したほうがいいよ」とだけ言い残して、自分の部屋に戻った
その日を境に嫁は「娘があんなこと言ったのは全てあんたが悪い」と俺を責め立て、夫婦喧嘩の割合と嫁の外泊の日数が一気に増えた
家族団欒。楽しかった
娘が学校の事を話したり、娘に勉強を教えたり、娘と一緒にゲームしたり、とにかく娘の話に耳を傾けることにした
そんなある時、ベロベロに酔っ払って帰ってきた嫁に離婚届けを突き付けられた
俺は娘が成人するまでは離婚するのは待ってほしいと嫁に頭を下げた
いくら娘のため言うたかて浮気性の嫁相手にそりゃないやろ
だから待ってほしいと言ったんだけど、どうやら嫁の中では「俺が嫁を好きすぎるあまら別れたくない」という解釈になったようで、嫁は優越感に浸っていた
その日以来、少しでも嫁に反抗したりすると離婚届けをチラつかせ、脅してくるようになった
病院に運ばれたけど、点滴だけ打たれてその日で退院。そして、その日に娘が泣きながら俺に言ってきた
「お願い、お父さん。お母さんともう離婚してよ。また倒れるよ」
多分、父親の情けない姿に見てられなくなったんだろうね
それに今思い返してみると娘に離婚を進められる親って本当にクズだな
それでも娘には何不自由させたくないと思っていた俺は、娘の話を適当に聞き流していた
離婚時の娘の年齢は17歳。
俺は娘の意見を尊重させたかったから最後の話し合いの時に娘に「どっちに付いて行くか」を選ばせ、そのときに「お父さん」と即答してくれたことに感極まったよ
嫁は何故か最後まで娘の親権が欲しがっていて裁判にまですると言っていたのだが、今だに裁判所からの通知が来ない
それで何で俺を選んだのかを聞いたら「私を育ててくれたのはお父さんだから」と言ってくれた
嬉しかった
あまり合わせたくはないでしょ
来るって教えてくれたなら会わせたいんじゃないのかね
やっぱりそうだよな。やべぇ、緊張するわ
スーツとかで出迎えたほうがいい?
頑張れお父さん
思わず恐縮するような優しい父親の器を見せてやれ
娘大事にしてやれ
ドカッと構えた方がいいよ
威嚇はしないでね