号泣されたのち実家に帰られてしまった事がある俺としては、
ホント滑舌って大事。まじ大事。
その話,過去スレで披露してた?
どうやって解決したの?
引越しの荷造りを開始した日に、
押し入れの奥の忘れ去られた小物入れの中から
嫁がずっと「無くした!」と騒いでいたリングが見つかった。
付き合って半年くらいの頃に、何となく買った安物のペアリング。
結婚してから家事・育児と、指輪なんて邪魔モノで、
日ごろは結婚指輪すら付けていなかったくせに、
そのリングが見当たらなくなった時は、それはもう大騒ぎだった。
そこで俺は、何かプレゼントしようと溜めていたヘソクリで、
そのリングと同じデザインのリングを作ってもらうことにした。
素材はプラチナ。内側にダイヤが配置されいるデザイン。
完成したリング受けとった夜は、引越しを明後日に控えた日で、
連日連夜の準備で俺も嫁もクタクタ。
そんな中、嫁を「今日は外食しよう」と外に連れ出した。
近所の馴染みの居酒屋で食事を取りながら、タイミングを見計らうも、
店選びの段階で間違っていた事に気づいたのは、
「大信州」を3合飲んだあとで、今日は見送りかなと思っていた。
やっぱね、毎日言うことが大事だと思うんですよ
川沿いの遊歩道に連れて行かれた。
初夏の心地いい風に吹かれて、酔いもうっすら醒め始めた頃に
嫁が「ここ歩くのも、もう最後かなー」なんて言い始めて、
(今、絶好のチャンスじゃね?)と思い、嫁をベンチに座らせた。
ポケットをまさぐり、まずはシルバーのリングを見せる。
「これ、どうぞ」と右手の薬指に嵌めてあげた。
嫁はその指輪を愛おしそうに見つめながら「あー!あったんだー!」と喜んだ。
「学生時代は、左手にするの恥ずかしくて、いつも右手だったねーw」
と懐古に耽る嫁の横顔はとても奇麗だった。
俺は嫁の左手を取って「ちょっと目つぶってて」と
もうひとつのリングを取り出して、今度は嫁の左手の薬指に嵌めた。
嫁はそれが指輪だとすぐに気づいて、目を開けた。
「これ……」薬指を月明かりにかざして、指輪を見つめる。
「あのな……結婚してくれてありがとう」
嫁の目を見て続けた。
「普段は言わないけど、その、なんだ……愛してたよ」
その瞬間に嫁は目をカッと見開き、「は?なんで過去形?」
と若干低めの声で聞いて来た。一気にあたりの空気が冷えた気がした。
俺としては「愛してるよ」と言ったつもりだったから、
そりゃあキョトンとしていたに違いない。
嫁はハッ!と何かに気づいた顔をして「だからこの指輪!?」
「え?」「もう愛してないから、ペアリングはお前が持ってけって?!」
「いや、ちがっ」俺が否定の言葉を言い終わらないうちに、嫁は猛ダッシュ。
俺も追いかけようとしたが、あまりの事態に混乱してて、すぐに行動に移せなかった。
酔いと緊張と予想外の展開で、何が起こったのかが理解できないまま、
とぼとぼと家に向かって歩いていたら、見慣れた車がすごい勢いで走り去って行った。
ダイニングテーブルにはあの2つのリングが残されていた。
すぐに携帯に連絡したが出てもらえず、携帯にメールを送るも、
すぐにダエモンから返信が来てしまう状態で朝を迎えた。
朝イチに引越し業者へ「とりあえず延期で」と伝え、嫁からの連絡を待った。
そして昼頃、うちの両親が部屋に来て、靴を脱ぐなりはり倒された。
いつもなら「殴ったね!」と返す自信があるが、
昨晩から続く悪夢の中で、俺はもういっそ殺してくれと思っていた。
「お前!何したんだ!」と父親に怒鳴られた。
(いい大人が怒鳴られてるよw)と妙に冷静だった。
続けて向けられた怒号に、俺は現実に引き戻された。
「離婚したい理由はなんだ!」
「……え?」「今朝、向こうのお母さんから電話があった。お前が離婚したいって」
「ちょ!違うって!」「なにがだ!冗談じゃすまないんだぞ!!」
沸騰し続ける父親を宥め、昨晩の一部始終を話した。
そうするとあれだけ激高していた父親も「???」となっていた。
大人ふたりで「意味がわからないな」となって、
とりあえずリングを持って「向こうに行こう」と車に乗り込んだ。
居間に通されて正座して待った。そして、すぐに嫁が来た。
目は真っ赤で、泣きはらしたあとがあった。
俺はとりあえず「なんか、ごめん」と謝ったが、
顔を上げた先にいたのは鬼の形相の嫁だった。
嫁はわなわなと震え、俺に手帳を投げつけた。母子手帳だった。
「え?妊娠してんの?」今思えば、俺は獅子の尾をぐりぐり踏んでいた。
「離婚するだから、あなたには関係ない」嫁はぴしゃりと言い切った。
「離婚?……離婚って、誰が?」「は?なに言ってんの?!」が溜め息まじりに言った。
「あなたが離婚したいんでしょう?もう愛してないって言ったじゃない!」
しばらく沈黙ののち、俺はようやく一言だけ絞り出した。
「いや、言ってないよ」「じゃあ!ペアリングはなに!?」
俺はリングをひとつずつテーブルに置いた。
嫁のシルバーのリング。俺のシルバーのリング。そして嫁のプラチナのリング。
3つ目のリングを置いた時、嫁は加藤茶ばりの二度見をしたのを憶えてる。
それから、この3つ目のリングを渡して事情を説明し、
昨晩は大事な台詞をかんだらしい事を謝り、離婚する気はないと改めて伝えた。
嫁はようやく冷静になって、それから顔をぐしゃぐしゃにして泣いた。
しゃくり上げながら、子供のように大声を上げて泣いた。
俺もなんか泣いた。父親の方を見たら、父親もなんか泣いてた。
誤解が解け、二人で部屋に戻り、
段ボールの積み重なった部屋で手を繋ぎながら眠った。
俺の右手を力強く掴んでいる嫁の左手の薬指には
結婚指輪とあのリングが嵌められていた。
教訓:滑舌は大事だよ
全仏が泣いた
ほとけ泣かすな
そうゆうの大事だよ
っていうか…
テーブルに指輪があって良かったよな
投げ棄てられてたらどうなったことやら
おれもよく発音悪いとか言われるし気をつけよう。