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:1@\(^o^)/ 2017/01/03(火) 20:58:28.28 ID:LZSY7jKs.net M君の部屋へ遊びに行くと、レンタル屋さんの袋があるのを発見した。
借りるより買う派の彼にしては珍しい。
何かオススメでも借りてきてくれたのかな?
「あ、それはちょっと」
袋に手を伸ばすと、私より先にM君が袋を押さえた。
「おやおや~?ひょっとして、肌色率の高い映画ですか~?」
中身は洋画のDVDだった。
実験的な演出が面白そうだったし、M君もまだ見てないとのことなので
一緒に見ようと言ってみたけど、彼はあまり乗り気じゃなかった。
「いーじゃん。たまには二人で落ち込もうぜいw」
と、押し切って見始めたんだけど。
M君の言ったとおり、ものすごく暗くて救いがない映画だった。
あらすじをかいつまむと、
ある村に逃げてきた正体不明の女を、村人たちがかくまう。
女は恩を感じ、村人たちのお手伝いをしながら、村にとけ込んでゆく。
でも、女がマフィアに追われているとわかってから
村人は女をかくまう代償をつり上げていき
やがて女は、男たちに体を弄ばれるまでに追い込まれる。
だけど、女を追っているマフィアとは、じつは彼女の父親だった。
父親に救い出された女は、迷ったすえに村人を全滅にしてしまう…
という話。
M君が無言で立ち上がってトイレに行った。
………………………。
………………………?
……………………あいつ、吐いてる!?
「どどどどど、どーしたの?ひょっとして、お昼に当たった!?」
その日の昼食は私が作ったので、ちょっと焦った。
「ごめん、違う…酔った…」
「あ、映像酔い?」
お酒は飲んでなかったし、前に映像酔いするって言ってたから、そっちかと思った。
でも、酔うような映像、どっかにあったっけ???
「映像じゃなくて………ストーリーがダメだった…」
「えっ、そんな………なにを繊細なことを!」
「俺が一番びっくりしてるよ…」
正解!
帰ろうか?と聞くと、まだいてほしい、と言われた。
そんなことを言うのも、珍しいことだった。
しかたないので、M君が回復するまで、なにが彼にダメージを与えたのかを考えていた。
暴力シーンはあったけど、そんな過激だったわけじゃない。
第一、M君は結構グロ耐性はあるほうだから、あれくらいで吐くわけないし…
私が悶々としているうちに復活したM君は
「口直しに他のものでも見るかー」と言いだした。
「え、ちょっと待って。
あの映画の、どこがそんなにダメだったの??」
「ん?別にダメだったわけじゃないよ。ちょっと疲れてたのかな。
さてどうしようか、これ返して、何か借りてこようか」
………ちょっと疲れてると、吐くのかおまえは。
またいつもの誤魔化しが始まったようだった。
全然違う話をし始めた彼に、置いてきぼりにされた気分になる。
何か理由があるのなら、教えてほしいな」
「何もないよ。びっくりさせてごめん。
でも、本当に大丈夫だから」
「………おまえが大丈夫でも、私が大丈夫じゃねーんだよバカヤロー」
「なんだかやけに食いつくね…カッコ悪いから、早く忘れてもらいたいんですが」
「M君は、なんだかやけに誤魔化すね。
それって、私には話せないってことなの?」
「うーん…別に、わざわざ話して聞かせるようなことじゃないんだよ」
「………いまM君、うぜえって思ってるでしょ」
「なんだそりゃ。思ってないよ」
「だけど、うざくしたくもなるんだよ」
「いや聞けよ。うざいなんて思ってませんって」
「だってM君はいつも、私にはなんにも話してくれないんだもん」
「……え」
だけど、こんなになんでもかんでも話してもらえないと
なんだか私はM君にとって、取るに足らない存在なんじゃ?
みたいな気がしてきちゃうんだよ」
「…そっか。
俺、自分のこと話すの、あんまり得意じゃないからな…
そんな気持ちにさせてるとは思わなかった、ごめん」
「ううん。
話してもらっても、私に何ができるわけじゃないから
エラそうなことは言えないんだけどさ」
「そんなことはないよ」
「まっ、ちょっとそんなわけで、鬱屈しちゃってただけだから
特にゲロった理由が聞きたいわけでもないのさw」
「………別に、話したくないってわけじゃないんだ。
ただ、どう話せばいいのかがわからなくてさ…」
「そうやって話さないでいるうちに、きっと本当に話せなくなっちゃうんだよ。
そしてある日、僕は自分が思っていることの半分しか
語ることのできない人間になっていることを発見した。やれやれ。」
「黙れ村上春樹。
わかった、この際だからちゃんと話すよ。
………俺、あの主人公の女のことを、昔の自分に重ねて見てたんだ」
あ、大事な話が始まる、と思った。
「うん?……疎遠になってるって聞いたよ」
突然始まった独白に、知らないふりをする後ろめたさがチクチクと。
「疎遠っていうか、ほぼ絶縁だね。
昔から家族とは全然相性が合わなくて
大人になってから、もう無理だと思って家を出たんだけどさ」
あ、そこはずいぶん豪快にはしょるんですね。
「やっぱり一応子どものころは、親に気に入られたくてさ。
それで、いろいろやってはみたんだよ。
そのころの自分が、村人に取り入るために必死に尽くすあの女と重なったんだ」
私にはあの主人公、そんなふうには見えなかったけどなあ。
「だからたぶん感情移入しすぎたんだろうな。
ラスト、女が村人を全滅させるシーンで、やめろ!って思ってさ。
そんなことしたら帰れなくなるだろ!って…
まだそんな気持ちが自分の中に残ってたってのが、ちょっとね。
自分でもびっくりするくらいショックだった」
自分から家族を見限ったつもりでいたのに、
まだ帰りたがってる自分を見つけちゃった、ってことか。
Sさんが言ってたとおりだ。
M君は無意識に、まだ親に認められたがってる。
自分から絶縁はしても、気持ちはまだ絶つことができていないんだ。
そしてそれは彼にとって、吐くほど拒絶したい気持ちだったってことだ。
「ごめん、喪子は家族と仲がいいから、こういう話は不愉快だろ?
この歳で家族がどうのって…カッコ悪いの通り越して、みっともないよなw」
「そんなことないよ、話してくれてありがとう。
でも…つらかったんだね、おうちのこと」
「まあ、全部俺が悪いんだけどね。
俺の反発であの人たちの家庭壊しちゃったんだから。
俺がいなければ、もっと平和で幸せな家だったんだよ」
ああ、本当だ。
O君が言ってたとおり、本当に全部自分が悪いってことになってるんだなあ…
その言葉は、まるでテンプレのようにスラスラと出てきた。
たぶん、自分の中でずっと繰り返しているんだろう。
いまさら帰りたがっても、もう手遅れなんだよ」
自分に言い聞かせているような言葉が、なんだか虚しかった。
いまさらって。手遅れって。
初めから、大人の都合で帰る場所を奪われてしまったんじゃないか。
「だから、こんな気持ちはなかったことにするしかないからさ。
………うん、やっぱり話せてすっきりしたかな。
聞いてくれてありがとう」
……………違うな。
せっかくM君が封印bオていた無意識bェはっきりと出bトきたのに
ここで、そんな結論で、終わりにさせちゃいけない。
そんなだったら、私、何のためにO君ちに行ったのかわからなくなる。
でも私は、Sさんみたいに上手く説明はできないし、O君みたいにビシッとも言えない。
「………あのさ、私いま、M君をハグしてあげようと思ってるんだけどさ」
「うん?」
「私がこれからハグするのは、今のM君じゃなくて、子どものころのM君だからね?」
「………はい?」
「は?え?なに?なんで突然?」
「あ~あ、こんなに痩せちゃって、まあ…」
「おい」
「………お父さんやお母さんに気に入られたくて、頑張ったんだねえ」
「ああ、そういうプレイなんだw」
「でもどうにもならなくて、辛かったねえ…」
「え、俺はばぶーとか言ってればいいのか?w」
「さっき、帰る場所がなくなるって思ったのは、そうやって頑張ってきたM君だよね?」
「いやちょっと…あのー喪子さん……?」
「今のまんまじゃ、辛いよねえ。諦めらんないよねえ」
「………………」
「その上、大人の自分にまでなかったことにされちゃったら、もっと報われないよねえ」
「………………はい、おしまい」
「ちょっと大袈裟に話しすぎたかなー。
別に、そんなに寂しい子ども時代だったわけじゃないよw
心配してくれたのは嬉しいけど
今日のことは気にしないで、もう忘れてよw」
そうか。
彼はいつもこうやって、自分の子ども時代をなかったことにしてきたのか。
涙ぐむでも怒るでもなく、いつものにこやかな顔のままでさ。
だからそれだけなら、私の勘繰りかも、となるだろうけど。
でもさー、映画見て吐くほど心が葛藤するなんて事態は
忘れてしまっていいはずはないよねえ。
メープルシロップの時と、この日と。
私はもう二回も、子ども時代のM君が消される現場に立ち合っている。
それなのに、私はあまりにも無力だった。
「人は人を変えることはできない」という言葉の意味を実感していた。
けれど、M君タイマーが発動される気配はちっともなくて
周りからは呆れ気味に「夫婦漫才か」と言われるような
バカップル的な楽しい付き合いを相変わらず続けていた。
M君とは、モラハラを仕掛けられるどころか喧嘩すらしたことがなくて
少なくとも私は、彼と一緒にいることで、不愉快な思いをしたことはなかった。
そんなふうに、私たちはとても仲が良いカップルだった。
だけど言ってしまえば、私たちはただ仲が良いだけのカップルだった。
男女としての行為はもちろんあったし、
私って大事にしてもらえてるなあ…と、キュンとすることもあった。
けれど私たちの関係には、決定的に欠けているものがあった。
M君は感情の中でも、喜怒哀楽の、怒と哀を一切表現しなかった。
イラッとしたり、ウルッとしたりってレベルですら、見たことがなかった。
なので、嬉しいとか楽しいばっかりじゃない部分で
本音でぶつかりあったり、相手の苦悩を受けとめたりするような機会が
私たちの間には全くなかったんだ。
負の感情をさらけ出すことを極端に避けるM君の生き癖は
私たちを「仲良し」止まりで固定し、それ以上の関係になることを拒んでいた。
そのことは知らず知らずのうちに私を焦らせていたのかもしれない。
私は自分の手で、M君タイマーの針を進めてしまうことになった。
私、結婚式って大好きなんですよ。
自分がどうのこうのではなくて、行事として好き。
綺麗な服着て美味しいもの食べて
みんなが幸せそうにしてる、あの晴れやかさがいいのね。
その日のお式も、とても温かい雰囲気のもので
数日後にM君と会ったとき、私はそのことを話した。
すっごくいいお式だった、私、結婚式大好き!
みたいに。
無神経だったかな、とは思う。
M君は、ちょっと困ったような顔をした。
「……喪子は、結婚したいの?」
「えっ!?
あっ、別にそういう意味で言ったわけじゃないから!」
いつもなら「ふうん、そっか」と引き下がるはずのM君が、この日は違った。
私、馬鹿だよねえ。
そう問われて、ドギマギしてたんだから。
「そりゃ、…興味はあるよ」
「俺、結婚願望ないんだよね」
間髪入れずに返された。
はあ…、左様でござるか。
「まあ私も、どうしてもってわけじゃないからな~」
「でも、したいと思ってるんでしょ?」
「うん、いつかはしてみたいね」
「ふうん、そっか」
やっとM君の「そっか」が出た、と思ったら。
「じゃあ、別れようか」
…………へっ!?
「だって結婚したいと思ってるのなら、結婚願望ない俺と付き合っててもしかたないでしょ」
「べつにM君とどうとかってつもりで言ったわけじゃないよ!?」
「俺とどうとか思ってないのなら、余計俺と付き合っててもしかたないよね」
なにその「はい論破」!?
正論なのに、全然納得できないよ!
M君に結婚願望ないからって、それが別れる理由にはならないよ!?」
「あのさ、こういうのって、需要と供給なんじゃないかな」
今度は経済用語ですか!?
「結婚願望のある人同士が付き合うのが、効率いいんじゃない?」
「私、効率いいか悪いかで人と付き合ってないもん!」
「だけどいずれは結婚したいのなら、結婚願望のない俺なんかとは別れて
他の男と付き合ったほうが喪子にとってはいいんじゃない?」
「結婚だけが付き合う理由じゃないよ!
そんなの、付き合った結果で結婚するかどうかじゃん!」
「だから、結婚願望のない俺じゃ、その結果がはじめから見えてるでしょ」
ぐはっ!
そうくるのか…
私が結婚したいと思ったら、そのとき考えればいいことで…」
「いずれしなくちゃならないなら、今してもいいんじゃないかな。
俺、自分のわがままに喪子を付き合わせることはできない」
「なによそれ………M君の言ってること、なんかおかしいよ」
「どこが?」
「だってさ…
私だってもういい歳だし、結婚話が出るのは自然じゃない。
でもM君は、自分に結婚願望ないことなんて、始めからわかってたでしょ?
なのに、どうして最初の時じゃなく、今なの?
しかもそれが私のためだって言うの?
全然意味わかんないよ、そんなの。
ひょっとして、これはあれ?
一年経つと別れたくなっちゃうっていうやつ?」
わかってもらえるかな?
それまでも無表情ではあったんだけど、なんていうか、
無表情って表情まで消えた感じだった。
正直言って、怖かった。
私、いまM君の地雷踏み抜いたんだってわかった。
「そうだね、最初に言っておいたよね、俺はこういうことするって。
でも、それでもいいって言ったのは、喪子だよね?」
ん?どこかで聞いたな、このセリフ。
…………あー。
M君、それは言ったら駄目だよ。
それを言ったら、おしまいになっちゃうよ…
それ以外、なんにも思いつかなかった。
「そうだよ、私あのとき言ったもんね、これは私の選択だって。
だからM君は、なんにも悪くないもんね!」
こういうのも売り言葉に買い言葉って言うのかな。
私はとにかくその場から離れたくてしかたなかった。
初めて見るM君の冷たい態度が怖かったし、悲しかったし
それに最初の話からすれば、いま彼は、私を憎悪してるんだから。
……………どうして私が憎悪されなくちゃならないのかなあ……?
その瞬間、私の涙腺は信じられないほど大爆発した。
「なに!?どうしたの!」
「ぎゃーす!ぎゃーす!」
「なにがあったの!?どうしたの!?」
「ぎゃーす!ぎゃーす!」
「………あーあーまったく…
そんな子どものときみたいな顔して泣いてー」
何十年かぶりで母に抱きしめられた。
「うんうん、付き合ってれば色々あるよねえ」
「でも、もうだめだー!おわりだー!!!」
「うんうん、人の心は難しいよねえ。
でもお母さんは知ってるよ、喪子はとっても頑張ってたよ。
M君と付き合ってから、喪子はうんときれいになったよ」
三十女が、母親にしがみついて泣いた。
もうグロ注意って感じ。ほんとごめんなさい。
しかも一部親バカ発言も書いた。ほんとごめんなさい。
でも、母親って本当に偉大だよね。
そうされてると、たいしたこと言われたわけでもないのに落ち着いちゃうんだ。
さすがお母さん、私を産んだ人。
そしてM君は、この安心感を知らずに生きてきたんだなあ…。
私は二人に謝った。
せっかくあんなにアドバイスもらったのに、なにもできませんでした。ごめんなさい…
「そんなことがあったんですかー。
でもそれ、喪子さんは何にも悪くないですよねえ」
「そ、そうでしょうか…」
「喪子さん、あんなに気をつけてたのにMさんに乗せられちゃいましたね。
すごい、感心しちゃう。あざやかだなあ」
「そんなところに感心しないでくださいよお。
私はこれまでの彼女と違って、いろんなこと知ってたはずなのに…
一年のジンクス、破れなかったなあ…」
O君の声が、心なしか沈んでいる。
「だって、別れるしかないもん…」
「でも喧嘩して仲直りするって、男女の付き合いの基本じゃないか」
「だけど、普通の喧嘩じゃないんだよ?
私、いまM君から憎悪されてるんだから…」
「今回、あいつは自覚的に変わろうとしてたわけだし
いまごろ、やっちまった!ってなってるんじゃないかね?」
「でも、別れることで彼の不安は解消されるんでしょ?
だったら私、M君のために別れるよ……」
Sさんが、強い口調になった。
「別れるのなら、Mさんのためじゃなくて、自分のためになさい!」
「ふお!?」
「Mさんは、いつものMさんのセオリーどおりに動いています。
でも喪子さんが、それにあわせなきゃならない決まりなんてありません。
別れるなら別れるで、喪子さん自身が納得できる理由で別れればいいんです。
納得できない消化不良のまま別れてしまうと、その消化不良を解消しようとして
他の人と同じような恋愛を繰り返すことになっちゃいますよ?」
「だ、だめんずうぉーかー…」
「そういうことです。
喪子さんが、あんな顔だけの屁理屈男、もういいやってのならいいんですけど」
うわあ…Sさんにかかるとひどい言われようだな、M君。
悲しいし悔しいし、何より納得いかない…。
どうして私が憎悪されなきゃならないの?
別れるなら別れるで、こんな一方的な形じゃなくて
ちゃんと話し合って、二人で決めたいんです」
「だったら、その気持ちをMさんにぶつけてみたら?」
「でも…………怖いんです。
私、憎悪されちゃってるわけだし…
あんな冷たいM君には、もう会いたくないんです…」
「あー、それ…。
普段穏やかな人が急に機嫌悪くなったら
誰だってビビって、自分が悪いんだって思っちゃいますよねー」
「はい…」
「そうやって自分を悪者にしておけば
相手がどんなに理不尽でも、立ち向かわなくて済みますもんねー」
「あああああ………はい…」
「………あ~。」
「親は悪くない。自分が悪い。そういうことにしておきたいんです。
だって、親が悪いと気づいてしまうことは
親が自分を愛していないと気づいてしまうことになるから」
グサッときた。
ああ…。
言い換えれば、私がM君が悪いと気づいてしまうことは
M君が私を愛していないと気づいてしまうことになるのか…。
察してくれたのか、Sさんはちょっと優しい声になった。
「喪子さんに変わりたいと言ったMさんの気持ちは、嘘じゃないでしょう。
だけど、今回彼は、変わらないことを選んだ。
ただそれだけの話なんです。
だったら喪子さんだって、どうするかは自分で選んでいい。
Mさん基準で行動する必要はどこにもないですよ」
そうだ。
私はいつも、自分がM君に合わせるべきなんだと、どこかで思ってた。
だってM君は不幸な生い立ちなんだから。
だから私が我慢しなくちゃって、ずっと思ってた。
でもそれって、M君を見下してることにならないか………?
私はM君が可哀想だから好きになったんじゃない。
彼にはいいとこがいっぱいあって、私はそこを好きになったんだ。
その気持ちこそが私の原動力で、一番最初は生い立ちなんて関係なかったはず。
言いたいことは言っちゃわなきゃ気が済まないはずなのに
いつの間にか、私は自分の気持ちをどこかに置き去りにして、自分を誤魔化していたんだ。
M君のやり方に、いつの間にか倣っていた。
よし、戻ろう。
こんなの私じゃないや。
本来の私に戻ろう。
初めのころの目線の高さで、もう一度M君に向き合おう。
もう逃げないで全力でM君にぶつかろう。
もしこれで最後になっても、思い残すことのないように。
どこで会うかは結構悩んだ。
Sさんからさりげなく「できれば人の多い所がいいですよ」と忠告されていた。
それだけしか言われなかったけど、どういう意味かはわかった。
だからM君の部屋じゃだめだ。
かと言って、ファミレスやカフェでしたい話の内容じゃないし。
でも初の私の部屋で、別れ話するんじゃ私的にヘビーすぎる…
悩んだすえ、カラオケボックスを利用することにした。
個室だけど、外に出れば人はたくさんいる。
当日、M君を奥にして、私は入り口に近い方の席に座った。
そんなことを考えなくちゃならないのは悲しかったけど
でもつまり、そういうことなのだと痛感させられた。
まあ結果的には杞憂に終わったんだけど。
ああ、この人はこんなに弱い人だったんだなあ。
自分のしたことで、こんなにダメージ受けてしまうなんて。
相変わらず無表情のM君に、私から切り出した。
「このあいだはごめんね!
カッとして、言いたいことばっかり言っちゃった。
だけど、今日も言いたいこと全部言いたくて呼んだんだ。
ムカつかせたらごめん。でも、言う。
私、こないだのM君の言葉が本心だとは思えないんだ」
「どうしてそう思うの?」
M君は私のほうを見ない。テーブルだけを見つめていた。
ものすごいしゃべりにくくて、気持ちが萎えてくる。
これはいかーん!と思って、私は彼の手を見つめてしゃべることにした。
指だけが、叱られてる子どもみたいにそわそわ動いてたからね。
私にはあのときのM君が嘘をついてたとは思えないんだよ。
私、私を理由にして別れようとする、こないだのM君よりも
自分自身を理由にして、付き合いたいって言ってくれたM君のほうが信じられるんだ」
「言ったね、そんなこと。
でも、どっちの俺も俺だよ?」
「わかってるよ。だから困るんじゃないか。
私、べつにM君と別れたくなくてこんなこと言ってるわけじゃないんだよ。
今日でおしまいになる覚悟はちゃんとできてる。
だけどその前に、私はM君の本当の気持ちをちゃんと知りたいんだ」
「俺の気持ちは、こないだ言ったよね?」
「私のために別れるってやつ?
私、あんなのじゃ全然納得できないよ。
私が知りたいのはもっと単純なことなんだよ。
M君が、いま、私を好きなのか嫌いなのか。それだけ。
あれから散々考えたけど、私はやっぱりM君のこと大好きだよ」
いまさらですが。
私はそれまで、一度もM君から好きだと言われたことがありませんでした。
それに気づいたときはキツかったですわー。
本当に、ずーっと私の片思いだったんだなあ、と。
「うん、ショックだった。いっぱい泣いたさ」
「だったら、そんなやつとは別れたほうがいいだろ?」
「そんなねー、論破するようなこと言ったってねー、
私がM君を好きだって気持ちは、M君には変えられないよ?」
「だけど別れてもいいと思ってるんだろ?」
「そうだね。
私が付き合いたいのは、私のことを好きなM君だから。
M君が私のこと嫌いって言うのなら、しかたないよ、ここですっぱり別れよう。
だから、私はM君の気持ちを聞きたいんだよ。
私のこと好きなのか、嫌いなのか」
そのまま、M君は黙り込んだ。
私も黙ってM君の言葉を待った。
隣の部屋から、やけに上手な「冬のリヴィエラ」が聞こえてきた。
くそったれーと思った。
「………俺のわがままに、喪子を付き合わせるわけにはいかないから」
やっと出たM君の言葉はそれだった。
また、聞こえがいいだけのただの正論。
中身のない、空っぽな言葉だった。
「だけど俺のせいで、喪子の時間を奪ってしまうのは…俺には責任がとれない」
「私の人生の責任は、私がとります」
「だけどそれで、喪子の出会いのチャンスを潰してしまったら…」
「勝手な想像で勝手に私の将来潰さないでよ、ムカつくなー!」
M君はまた黙り込んだ。
相変わらずうつむいてたけど、口をパクパクさせてた。
なにか言おうとして言えないでいるみたいだった。
なんか酸欠の金魚みたい。
まるでそうしないと生きていけないみたいに口をパクパクさせて
M君は私に反論しようとしている。
なんだか、それを見ていたら、急に思ってもなかった言葉が出てきた。
もういい、十分だよ!M君はこれまで、本当によくやったよ!」
事前に考えておいて、言おうと思ってたことはまだまだあった。
でもこれを言ったら「言い尽くしたなー」と思えた。
私が我慢するとか、諦めるんじゃくてさ。
固まったように動かず、しゃべることもできないでいる彼を見ているうちに
これはもう、M君の変えようのない生き方なんだなあって、いきなり納得できた。
だったらそんな彼の人生に、皮肉でもなんでもなく、
せめて「天晴れ」と言ってあげたくなったんだ。
「…これで私の言いたいことはおしまいです。あとはM君次第だよ」
「…………ごめん、別れよう」
それがM君の答えだった。
「ごめん」
「えー、最後がごめんはやだなー。なんか他のこと言ってよw」
「…………ごめん」
あのとき変わりたいと私に言ったM君は、他でもない、自分に負けてしまった。
何よりも彼自身が、それを嫌というほど自覚している。
M君は、うつむいてると言うよりうなだれていた。
その姿にじわっと涙が出てきて、それを隠して荷物をまとめた。
マンガや映画だったらここで終わりなのにさー!
そこから二人で廊下歩いて行かなきゃならないんだよねー。
そのあとは、受付でお会計もしなくちゃならないのよ、現実は。
しかもカウンターで、よくあるあの儀式がはじまっちゃってさ。
「俺が」
「呼び出したんだから、私が」
「いいから」
「せめて割り勘で」
「ほんとにいいから」
「一緒にケーキ食べられなかったお詫び。ずっと気になってたから」
ケーキ?
私、今日ケーキ食べるなんて言ってないよね???
………………あーーーー。
涙腺が緩んで、私は小走りで店の外に出た。
他の食べ物はあんまりでも、ケーキだけには身を乗り出した。
だからよく、二人でケーキ買ったり作ったりして食べてたんだ。
でも、そうだ。
いちばん最初のケーキだけは、一緒に食べられなかったんだっけ…
なんでそんなこと、いま言うんだよう。
ずっと気にしてたなんて、馬鹿だなあ。
…でも、M君らしいや。
泣き顔は見られたくなかったんだ。
M君がどんな顔してたかはわからない。
視界が歪んでたからね。
バイバイ、M君。
終わったー、私の恋。
そうすることで気持ちに整理をつけたかった。
湿っぽいのはいやなので、「これは空元気だよ!」とか言いながら。
だけど、やっぱりSさんのときだけは、少し泣いてしまった。
「そのうちご飯食べにきてくださいね」
とだけSさんは言ってくれた。
でも積極的に行く気にはなれなかった。
だってSさんのダンナはM君の親友だから。
M君の気配のあるところには、しばらく近づきたくなかった。
私は落ち込んだ気持ちを引きずるでもなく、わりと普通にすごしていた。
最後に言いたいこと言えたせいか、後悔や未練はほとんどなかった。
そんなある日、部屋で優雅にスルメをしゃぶっていたら、携帯が鳴りだした。
んー?名前が表示されてないなあ
知らない人からの電話には出ませーん
なんかしつこいねー、頑張れー
…………………あはん!?
「もっ、もしもし!」
「もしもし、あのー、Mですが」
「どうしたの!?元気だった!?私は元気だよ!どうしたの!?元気!?私は元気!」
軽くパニクってましたすいません。
「そっか、ならよかった」
久々に聞けたM君の「そっか」が嬉しかった。
「大丈夫だよー」
スルメ食ってただけですから。
「えーと……ごめん、出てもらえないと思ってたんで、あせってるな」
独り言みたいにM君が言った。
「大丈夫だよー、落ち着くまで待つから」
「ごめん。えーと…あー、いまなにしてた?」
「それを聞くか!?」
「あ、ごめん」
なんか「ごめん」ばっかだなー。
あなたと別れてからはキレイでいようとしてたのに
どうして私、今日に限ってサンダル履き!?ってやつ」
「ああ、あったね」
「スルメ食ってました」
「スルメwwww」
あー、笑ったあ~。
スルメ、グッショブ。
「それで?突然どうしたの?」
「あのー………じつは伝えたいことがあって」
「えー、なに?」
「うん………それで電話したんだけど」
「えー、なになに?」
「ええと………じつは…さ…」
M君は電話の向こうで深呼吸してるみたいだった。
それを聞いてたら、私もドキドキしはじめた。
「うん」
「俺さ、俺………えー…あのー………ね」
「うん?」
「あれなんだよ、ええと……そのー……俺さ」
「うん」
「えーーーーー」
「うーーーー?」
「…………………ああ…やっぱだめだ話せない…」
「話したくないなら無理しないでいいじゃんw」
「話したくないわけじゃない。わざわざ電話したんだし…
ただ、頭ん中真っ白になっちゃって…なにも言葉が出てこない」
「どうぞ」
「たぶんいまM君は、私になにかを話しておかなきゃ!ってなってて、
それで緊張しちゃってるんでしょ?
でも私、たぶんM君が思ってる以上に、M君のこといろいろ知ってると思う。
今さらだけど謝っとくね。黙っててごめんなさい」
「ん?どういうこと?」
「ずっと内緒にしてたけど、付き合ってたころね、私O君にM君のこと相談してたんだ」
「Oに?俺の?なにを?」
「一番は…M君のおうちのこと」
受話器の向こうが、一瞬だけ無音になった。
「M君が、ひょっとしたら子どものころ虐待受けてたんじゃないかな?と感じたから」
「あー……………なんだよ、それ…」
どういう意味なのか、絞り出すようにM君は言った。
「Oはなんだって?」
「養子のこととか、M君が家族と疎遠になった経緯とか、話してくれた」
「うん、そこらへんはあいつには話してあるから。
そうじゃなくて、その、さっき喪子が言ったやつとか、そっち」
「ん?虐待のこと………??
わからないけど、そうじゃないかと思ってるって」
「俺がそういうの受けてたって?」
「うん、たぶんって」
「俺、それはないから」
このあとも「それ」とか「そんなこと」とか抽象的に言ってたんだけど
すんごいわかりにくいので、一応ちゃんと「虐待」って言葉で書いときます。
「そう…そうなんだ」
「そんなふうに見えた?」
「そんなふうって言うか…
なんか私、M君に対していろんな違和感があってさ。
それで総合的に考えて、ひょっとしたらって思っただけ。
違ってたのならごめん、変な勘繰りだったね」
「あの、俺いま、カウンセリング受けてるんだよ」
「えっ………!」
いきなりのカミングアウトに度肝をぬかれる私。
「さっき言いたかったのはそれ。ありがとう、言いやすくなった」
「ありがとう」とはほど遠い、強張った口調でM君は言った。
「んん…………?
じゃあ、なんでカウンセリング受けようと思ったの?
てか、なんのカウンセリング受けてるの?」
「ワーカホリックの」
ワーカホリックとは仕事依存症のこと。
表面的には「仕事を頑張ってる人」っていうプラスイメージがあるし
アルコールやギャンブルの依存症とは、ちょっと性質が違うので
本人も自覚しづらいし、周りからもわかりにくいやつ。
たしかに、以前のM君の働き方はそんな感じだった。
M君、そこは自覚できたんだ…。
どうしてワーカホリックになったかだ、と言われた。
たぶん、子どものころのことが影響してるんだろうって。
だけどさ、よくわからないんだよね。昔のことだし」
「記憶が曖昧になっちゃってるんだ?」
「うん。虐待された覚えもないから、別に問題ないと思ったんだ。
でも、”覚えがない”と”覚えてない”では、全然意味が違うって言われてさ。
俺はちょっと忘れすぎらしくて…」
「忘れすぎって?何年のとき何組だったかとか?」
「あのー、そういうのじゃなくて………」
「じゃなくて?」
誰と友だちでどんなことがあって…ていうのを、何も覚えてない」
「え?………遠足でどこ行った、とかは?」
「いや、そもそも、自分が小1だったことが思い出せないと言ったほうが早いかな。
小1のだけじゃなくて、すっぽり記憶が抜けてるところが、ちょこまかあってさ」
「自分でおかしいなって思わなかったの?」
「単に俺が記憶力悪いだけだと思ってた。
昔のことを忘れるのは当たり前のことだから」
確かにM君、「俺、忘れっぽいから」ってよく言ってた。
解離性健忘という症状なんだそうだけど、このときの私はそんな言葉は知りませんでした。
「M君………はっきり言って、それは当たり前な忘れ方じゃないよ…」
「うん…」
「しかも、それを当たり前だと思っちゃってることが、なんて言うか……
ごめん、私からすると、ものすごいヘンだ……」
「そっか…」
「え、何に?」
「私からするとものすごいヘンなことでも
M君は、それが当たり前な世界に住んでたんだね。
だったら、私がM君に違和感があるなんて、それこそ当たり前だったんだ…
だって私たち、住んでる世界が、見てる世界が、そもそも全然違うんだもん。
私、M君と付き合うってことは、M君と世界が同じじゃなきゃいけないんだと思ってた。
だけどそうじゃないから、もう付き合っていくことはできないんだって……
でも、それ違ったわ!
人それぞれ、世界なんて違ってて当たり前だよね!
だって、M君はM君、私は私!それぞれがそれぞれに生きてるんだもん!
私、大切なことに気づけた気がする!ありがとうM君!
ねえ、よければ私ともう一度付き合ってください!!」
「はっ?えっ?」
「だめだよ、当たり前でしょ」
「また即答かい。なんでだめなの?」
「なんでって、そりゃ…俺たち、一度別れてるんだよ?
しかも原因のほとんどが俺でさ。
俺、こんな人間なんだぞ?だめに決まってるだろ」
「こんな人間って、どんな人間さ?」
「最悪の人間だろ、喪子や他の人のことも散々傷つけて…
カウンセリングなんか受けてるし、まともじゃないし……」
「M君!そろそろいい加減にしてもらおうか!」
「……はい?」
あのことで一番私を傷つけたのは、私自身だったからね。
確かに、M君がきっかけでいっぱい泣いたさ。
だけどそれは、自分でも気づいてなかった私の存在を
M君が気づかせてくれたからなんだよ。
正直それって、M君よりもずっと強烈で、どデカイ存在だったんだよね。
M君が自己卑下するのは勝手だよ。それは好きにしていいさ。
だけど、M君の中に”俺が傷つけた女一覧”みたいにして私が残るのは、絶対にイヤだ!!
私が聞きたいのは、そういうのじゃないんだよ。
こうだからダメとかなんとか、そんな言い訳、私にはどーでもいいの。
M君が本当はどうしたいのか、私はそれが聞きたいだけなの!
なんで今!なんのために!君は私に電話してきてるんだ!
この後におよんで理屈で取り繕って、カッコつけてんじゃねーよカッコ悪い!
だけど!私はそんなカッコ悪いM君のことも大好きなんだよっ!!!」
だけどこのときの私には確信があったんだ。
M君が言いたいのは、絶対にそんなことじゃない!
あのカラオケボックスのときだってそうだし、きっとそれだけじゃなくて
私たちがすごしてきた毎日に、彼が言わないままにしてしまった沢山の言葉があるんだ。
そんなM君がどういうわけか、わざわざ電話までかけてきた。
その勇気は、絶対に私がすくい上げて、受け止めなくちゃならない。
またもや黙り込んでしまったM君に、私は尋ねた。
どうして私にカウンセリング受けてるって伝えたいと思ったの?」
「謝りたかったから」
「なにを?どうして?」
「色々迷惑かけたし、ちゃんと報告しておいたほうがいいかなって…………………
ごめん違う。声聞きたかっただけ」
最後の一言は、早口でボソっと、吐き捨てるようでした。
だけどそれ聞いた瞬間、私は「うあああ!」みたいな声あげて泣きだしてしまった。
ほんと、それはそれはものすごく突然の涙腺大爆発で
自分でもわけわからないまま、携帯握りしめてわんわん泣いた。
うろたえたM君の「ごめん」攻撃。
本当によく謝る人だ。
「………聞きたかった~~~」
「え?え?なに?」
「私もM君の声、聞きたかった~~~」
「ああ、そっか………いままでごめんな」
いやあ~、文章にすると異様にこっぱずかしいね!
まあ、心の声なんて言っちゃうと、なんだかクサすぎちゃうけど。
でもこのとき、たったこれだけの会話だったのに
ちゃんとそれ以上の気持ちが伝わった、という満ち足りた感覚があった。
たぶん、私たちがお互いに本音をぶつけた初めての瞬間だったんだと思う。
言葉は少なくても、いまだに心に残っている思い出深い会話だ。
「あ~、声聞けたから、今度はM君の顔が見たくなった~。
ねえ、これからそっち行ってもいい?」
「それはだめ」
「…なんでまた即答なんだよー。
まさか、いま君んちの前なんだ、とか?」
「え?………あー、気が利きませんで」
「じゃあ、今の全部ドッキリ?」
「…だとしたら、仕掛けられたのは俺だろ」
「だったらなんでよ?」
「話の展開が急すぎるんだよ…
どの面下げて会えばいいのか、わからない」
………なんだよ!そんなことかよ!!
「そんなの、M君の面ならなんでもいいよ!」
道すがら、顔合わせたら一発目に何て言おう?と悩んで
やっぱり普通に、久しぶり~とかにしよう!と思ってたのに。
アパートに着いて、出迎えてくれたM君の顔見た瞬間、思わず言ってしまった。
「……痩せた?」
「貧相ですいませんね…だからまだ会いたくなかったんだよ…」
もともと瘦せ型のM君が、一層ゲッソリとやつれていた。
「はい、照れる照れる」
とギュッとハグしてくれた。
やったー、M君だー!
ちょっと骨当たるけどー!
なんて思ってたら、いきなりM君が「ぶふっ」と噴いた。
「………いま、笑った?」
「いえ、笑ってません」
「いま笑ったよね?なんで笑った?」
「いや…本当にスルメ食ってたんだな、と思って…」
なんで私たちには、こうも色気ってもんがないのかね…。
最終的に、私はM君がかかってるカウンセラーさんのお世話になることにした。
共依存の問題は、そのまんまあるわけだし。
カウンセリング受けることには、全く抵抗がなかったわけじゃあないんだけども
なんだろうなあ、仕事しながら健康診断受ける、みたいなもんでさ。
まあ、私たちを見守ってくれる誰かがいたっていーんじゃないの?
と、私は軽く考えた。
理由は、彼はカウンセリングを受けても、楽になったわけではなかったから。
むしろカウンセリングによって、
それまで目を背けてきたものにも向き合わなければならなくなって
ものすごいストレスに晒される羽目になっていた。
それが彼の激ヤセの理由。
それってカウンセリング受け始めた人にはよくあることらしいけど
M君は実にM君らしく、そこをこじらせて劇症化させていて
自分と付き合うために、私にこんな苦しい思いをさせてはいけない、と思ったそうだ。
どういうわけか彼は、誰もが自分と同じようになるわけじゃない、とは気づいてなかった。
一回一回のカウンセリングで、泣いたり吠えたり笑ったりして終了。
つまり、次回に持ち越してしまうような問題が、私にはなかったのね。
カウンセリングのあとはすっきりケロリンパ~としている私に対して
そのころの彼は、はっきり言って、ちょっとヤバイ人と化していた。
見た目は夏場のキタキツネみたいに、なんだろ、全体的にパサパサしてた。
あと、思考がそのまま口から出てくるみたいに、独り言が止まらなかった。
会話が途中から支離滅裂になることもときどきあったし
夜は眠れない、眠ればうなされる、食欲に関しては言わずもがな。
そんな七転八倒状態で、それでも本人は頑張るつもりでいたら
「この状態のままカウンセリングを続けても無駄」とカウンセラーに言われてしまい
あのとき目の前に崖があったら、絶望のあまり飛び下りてたと後に本人は語ったw
実際はそこからがカウンセリングの本番だったそうだ。
彼の「カウンセリングを受けたい」という気持ちは、
いつの間にか「カウンセリングを受けなければ」という強迫観念にすり替わっていた。
そんなでは、どんなにカウンセリングを重ねてもよい結果にはならないわけで
まずはその意識をひっくり返すとこからだったらしい。
そのころ、あまりにも様子がおかしいM君に不安になって
カウンセラーさんに相談したら、「いまの彼は内部分裂中だから」と言われた。
親に忠誠を誓って、変わるまいとするM君。
その両者の戦いが、あの七転八倒状態を生み出していたわけだけど
どちらの自分になるかを選べるのは、ご本人様ただ一人。
周りの人にできるのは、例えカウンセラーであっても、ただ見守るのみ。
M君は、あのころを乗り切れたのは私のお陰だと言ってくれるけど
そこまでにたどり着けるかどうかは、やっぱり本人次第なわけだし
正直なとこ、私だってカウンセラーのアドバイスがなければ
あのころのM君とは付き合えてなかったと思う。
「ここは問題解決の場ではありません。問題に向き合う自分を見つめる場です」
と言われた。
私はそれを「M君との恋愛相談は受け付けません」と捉えた。
たしかに、カウンセリング中の主人公は私。
M君は私の人生の一登場人物でしかない。
カウンセリング受けるきっかけがきっかけなので
ネタフリとしてどうしてもM君の登場頻度は高くなる。
だけど、M君について話し合うわけじゃない。
M君をきっかけに私の気持ちがどう動いたかとか、そんなのが中心。
だけど、カウンセラーってプロだよねえ。
当たり前なんだろうけど、M君の具体的な情報はピクリとも漏らさないんだ。
ただ、私の疑問を解くためにしてくれたお話が
とても印象的だったので、最後にまとめて書いておきます。
彼の両親は彼を放置していたようでいて、そんな彼をよく知っている。
だからこそ、それを逆手にとって、親への忠誠心を育てあげた。
そしてその二つがあったから、彼は自分で自分をより強力に束縛してしまった。
彼が日常生活で無気力なのは、自分を束縛することで力を使い果たしてたから。
普通ならリラックスするようなときでも、彼は自分を縛ることに全精力を注いでいる。
だから無気力なようでいて、本当はものすごいエネルギッシュな人だと言える。
束縛が減っていけば、そこに集中させていた力を他の部分へ回せる。
そのパワーは、普通に生活していれば使う必要がないものなので
誰もが持っているもの、というわけではない。
だからカウンセリングが進むうちに、思いもよらない才能が出てくる人もいる。
彼自身、彼の親、彼の生い立ち、彼がすごしてきた時間の全てが彼に力を与えてきた。
そんなふうに、彼の人生には無駄なものなんて何一つない。
…とのこと。
M君のような生きづらさを抱える人も多いでしょうし
そんな人との付き合いに悩む私のような人もきっといるでしょう。
もしそんな人がこれを読んでくれていたら
そんな考え方もあるんだな、と諦めないでほしいです。
…と、口で言うのはとても簡単。
実際の道のりが険しいことは、M君の様子からわかります。
私は彼から、黙って見守ることの難しさと大切さを教えられました。
私たちのような関係に嫌悪をもつ人も、中にはいるかもしれません。
だけど私は、私を人間的に成長させてくれたM君に、結構感謝しているし
彼の精神力の底知れぬ強さは、素直にかっこいいと思ってます。
まー最初のほうで、優男とか散々言っちゃったけどさw
長々とお付き合いいただきありがとうございました。
これにておしまいです。
なんか最後説教くさい…
今がその状態で継続中なのですか?
数年経っているので、かなり落ち着いてますね
でもおそらくは、ちょっとずつ良くなりながら
一生ついて回るものなんじゃないかなーと思う
そうなんですね
ビップラがアド晒しの出会い板に成り下がった中でこんなのが読めて楽しかったです
昔のビップラのつもりで来てみたらずいぶん雰囲気変わってたので
こういうスレ立てちゃだめかな…とちょっとためらったw
どうもありがとう、あなたも幸せでありますように
今は幸せ?
どうもありがとう!
幸せというか、楽しいよ
少なくとも私はw
個人的にいろいろ考えさせられた
書いてくれてありがとね!
こちらこそありがとう!
なんか最後エラそーになってしまった…ごめんなさい
それは彼に聞いてみないとわからないなあ
幸せだといいな、と思うけど
あなたは幸せそうだけど
付き合ってる相手が幸せかどうか分からないってそれでいいのかな
うーん、「いま幸せ?」なんて聞いたことないしなあ
彼の幸せは彼が決めるもの
もしその幸せに私が関われるなら嬉しいな、と思う
彼に聞いてみたら、幸せだと返ってきた
よくわからなくなってしまったので、幸せって何なのさと聞いてみたら
「不幸でいなくてもいいこと」と
俺のはハードル低いから、哲学する気なら参考にならないよ
と言われてしまった
私、幸せってどういうことなのか、これまで考えたことなかったんだ
自分が幸せかどうかなんて考えたことなかった
だから>>244の問いに、じつはすごく戸惑った
ここでいろんな人から、幸せにねと言われて
嬉しいなあと思ってるだけだ
幸せって何なのか考えなくても済んだのが、幸せなのかも
哲学するのはきちんと哲学できる人に任せよう
今幸せだけど向き合い方も人それぞれ色々だね
完走おつおつでした
お陰様で完走できた、ありがとう!
記憶抜けてるって、自分ではわりと気づきにくいみたいですね
ほんと、いろんな形の人生があるんだなあと思います
こちらこそ、こんなの読んでくれてお疲れ様~
読んでくれてありがとう!
しゅごい
うん
しゅごい
その記憶力がすげーよ
>>254
そうなの一言一句間違いないのしゅごいでしょ~
どうもありがとう
みんなに幸せ祈ってもらえてなんか嬉しいなあ
あなたもどうぞお幸せに
>>257
結局なんなんだろうね、結論はないな
結婚はたぶんしないと思う
バレたか!
創作してないと言えばウソになる部分は、正直ある…
散々言われてるけど、会話とかね
似てる人は結構いるんじゃないかなー
あなたがそうだと言うわけじゃないけど
M君のような生い立ちの人は、テンプレみたいに似たような行動をとるらしいよ
それはたぶん、書いてるときの私が自分に酔ってたからです…
なんか他人事に見えて、ちょっと新鮮w
長い長いと思ってたけど、結構スレ残っちゃったな
すぐ落ちちゃうと思ってたら、ここはスレ落ちるのに時間がかかるのね
書き込んでくれたみなさん、どうもありがとう
おやすみなさい
要点だけかけよカス
要点だけ読み取れよカス
>>270
要点だけ書いてたらどこかのAC本の劣化版みたいになっちゃったので
セリフ増やしまくった結果がこれなんですよ
セリフ少ない方が読みづらいって言われると思ってたので、ちょっと意外
グイグイ来すぎて疲れる
でも彼とは相性良さそうだ
普段から、自分はウザいんじゃないかって思ってるので
キャラづけするとき、ウザさを強調してしまったのだと都合よく思うことにしたw
仮に文のままだとしても良いと思うよ
喪だった原因はそこだとは思うが、相性の問題であって悪いってことじゃないし
ありがとう、いい人だ…
「好きでーす!」ドーン!みたいな
情緒もなんもない感じだったからなあ
自分の女の部分を演出するのが苦手というか
でも、M君とは、それで最初うまく噛み合ったわけだから
それが相性というものなんでしょうか?
そうじゃないかな
読んでて、この二人は相性良いなーと思ったよ
グイグイいく女じゃないと、彼とは別れたっきりだったと思う
彼にとって他の人とは違うインパクトがあり、自分を良い方に向ける予感のする人だったんだと思う
あ、他の人とは違ったとは彼からも言われた
相手から申し込まれて付きあったのも、
相手から申し込まれて二度付きあったのも初めてだ、とw
でもそれ、彼が電話してこなけりゃ、なかったかもなんだよね
それが相性のなせる技だったのかな
なんか不思議…
彼が電話したくなる存在だったんだよ
本当の自分に触れようとした女だからね
カウンセリングなんか行ったら思い出すし報告したくもなるだろう
なんか過大評価しすぎてない?嬉しいけどw
本当の彼に触れようなんて
大それたことは思っちゃなかったけど
なんだーこいつ??みたいな好奇心はあったなー
レスのタイミングかみ合わなくてごめんね
過大評価というか1の人格が特別優れているとは思っていないよ
身近にいても友達になりたいとは思わないし
でも彼には合ってると思うだけだ
良くも悪くも二人とも個性が強烈だから、バランスの取れた普通の人は合わんだろ
おおう…ちょっと思い上がってみました…
でもやっぱ、合うと言ってもらえるのは嬉しいな
ありがとう
いいやつっぽくおキレイにまとめたい気持ちと、
いやいや、こんなじゃないよね私!?って気持ちが葛藤するね
結婚はどっちでもいい
M君と、ということなら、してもしなくても同じ気がする
何より、M君が結婚に強い抵抗があるので
そこを無理に押してまでやりたいものでもないなあ
二度めだけじゃなく、一度めだって彼が電話してこなけりゃ
なかったかもしれない付き合いなんだ
すごいね
スレ立てたら、なんか客観視できるし
いろいろレスもらえて、改めていろいろ考えさせられる
まだまだ気づいてないこと、いっぱいあるんだなあ
スレタイに喪女とか入れてるんだから話さないのは無しな
そんなルールあんの??
まあいいや、騙されたふりして書いとくね
私が緊張のあまり
笑っちゃいけないと思えば思うほど些細なことがおかしい病になってしまい
二人ともすっぽんぽんって言葉が頭に浮かんだ瞬間、耐えられなかった
M君すっごい悲しんでたよ
ダンサーインザダークの監督だけど、両作共に救いがないし人間の汚さ全開だよ
私の人生自体救いとかあんまりないし(全く無いとは言ってない)
これ以上書くとスレ独占の危険あるから落ちる
>>296
私はトリアー監督、そんなに駄目ではないんだ
まあ落ち込んでるときには絶対見ないけどねw
何作か見てるけど、すごい話作るなーって引き込まれる
ちなみに、M君がこの世で一番嫌いな人は、トリアー監督
あと、なに書いてもいいよ、もう一応目的果たしてるスレだし
でも独占はちょっと困るかも
私ももうちょっと自分語りしたいw
捉え方がずいぶん違うね
あの監督作品のストーリーはすごく普通だと思ってるよ
結果が現実的で驚きがない
演出は嫌いじゃない
ドッグヴィルも映像は良かった
私、あんまり解釈とかできないんだ
漠然と、すげーって見ちゃってる
監督の、人ってものの捉え方が、私では思いもよらないからかも
ドッグヴィル、映像はかっこよかった!
全然わからないよ!
前にM君は、トリアー作品は電車だと力説してた
止まる駅が決まってて、あとは乗客放り出してくだけって
これたぶん、あなたと同じ意見だよね
なるほど、たしかに個性的な人は出てこないもんね
私、ほんとに解釈とか苦手でさー
語られても、へえ~そうなんだ~くらいしか言えなくてさ
話し相手になれないのよね、勝手に語られるけどw
でも、そんなふうに考えるんだなあと、感心はしてるんだ
じつは、一昨年あたりから
主にM君の環境が少しずつ変わってきてて
去年の九月、とくに大きな変化があったので
ちょっとここで一区切り、みたいな意味もあってスレ立てたんだ
その変化を呼んでるのは、他ならぬ本人だし
前とは比べものにならないくらいに行動力もある
ここへきて、いろんなことが実を結びはじめてるのかも
だとすれば、私たちの関係にも変化はあると思う
どんな変化になるかはわかんないけど
私は、私たちの関係は一生モノだと思ってるわけじゃないんだ
二人が、それぞれ何かに納得したり、決別したりできたときに
「よし、じゃあ別れようか」ってこともあり得ると思ってる
だから今現在が一番大事
過去も未来も大事だけど、今がとても大事と思える
こういう感覚はこれまでなかったので、なんか新鮮
嬉しいけど、それかなり言いすぎだよw
とにかく長くなってしまったので
せめて読みづらくないようにしなくちゃとは思ったけど
文章うまい人なら、もっとキレイに簡潔にまとめられただろうなあ
最後はもう、どこ消せばいいかもわからなくって、開き直ったw
自己満足で書いときたい内容の区別がついてないのが
読み返してて、自分でもよくわかった
読んでくれてる人、本当に感謝だよ
え…
なんかきちんとしてるのね
叩くのはちゃんと読んでからという、その姿勢が
でも叩かれたくないよー
だけどわいはいっちがどうなろうと全く持ってどうでも良い
なんかイケメンと付き合おうが金持ちになろうが全く興味がない
だから指輪物語の一番最初、ホビット庄の話しを読まされている感満載で約20スレで読むことを辞めた
やだ…
あなたのほうがよっぽど文章力あるだわよ…
ホビット庄ってのがすごいよくわかって凹むww
いっちは煽りや過剰な馴れ合いを廃してちゃんと評するなら女性らしい細やかな描写を心がけておるがそれがいっちになんの興味のないわいにとっては冗長やなーとしか感じない状況になっている
どんな話しか知らんが結論を最初にババーンと持ってきてつらつらそれまでの経緯を書いたりしてみてわ?
わかった、あなた文章力っていうか、説明がわかりやすいんだ!
自分も色々考えさせられました
自分と向き合う作業は必要ですね
肯定的なレスももらえたし、そうじゃないレスも冷静な指摘してくれてて
ちょっと結構かなり意外
想像はしてたけど、覚悟はしてなかったからさー
なんなの、優しいのね、ここの人たち
なんてなこと書くと、調子に乗るなって叩かれそうだけどw
>>334
さっそくありがとよ!
いいからはよ寝ろw
私は丈夫なのでもうちょっと起きているのだ
食べることに執着ないクセして、どーいうわけか
料理作れないのがコンプレックスだった彼は
最近、私に弟子入りして自炊するようになった
だけど、食べ物への執着心がないからなのか
買ってくる食材が、自分の食べたいものじゃなくて
見切り品のシオシオな野菜とか、そんなんばっかでさ
もっと美味しいもの、買ったり食べたりしていいのにね
食べ物関係、なんか根深い
意表を突かれる食材が冷蔵庫にあるのでおもしろい
半分腐ったモロヘイヤは勘弁してほしかったけど
んー
やっぱり、幸せってよりも、楽しいんだよなあ…
過去を振り返ると、私は幸せ者だなって思えるけど
今どう?と聞かれると、やっぱわかんないや
一緒にいて楽しい相手なんてなかなか見つからないよ
でも私、一緒にいて楽しくない人と一緒にいること、あんまないやw
それこそが幸せなことだな!
これが共依存なのかー思い当たるところがあるw
あとなぜかM君が玉山鉄二と書かれているのに
脳内映像で博多大吉に変換されてしまうw
どうもありがとう!
とっても無責任なこと言うと、
共依存って言葉は使ってるけど、ど素人の私の書いたものなので
信用しちゃ駄目よ、真に受けないで
あれ?と思ったら、プロが書いたものを読んでね
それにしても、博多大吉w
彼も目が印象的だよねー
もう自由に想像してw
うわー、嬉しい、ありがとう
よい一年にします!
あなたもよい年になりますように