秋になりそろそろ進路がどうのこうのと言い出す頃だった。
父ちゃんの体が悪くなり父ちゃん入院しちゃった
父ちゃんは元から体が強いほうじゃなかった。
当たり前のように進学校へ行く菜穂にこう言った
僕「俺、高校行くの辞めとくわ」
菜穂「何言ってるの!?」
僕「父ちゃんが入院したから母ちゃんが大変になるから働く」
菜穂「ダメだよそんなの!!投げやりになってるだけでしょ!!」
生まれて初めて菜穂に真剣に怒られた。
菜穂はめちゃくちゃ泣いてた
「私がちゃんと勉強教えるから、お父さんが元気に退院した時にはちゃんとみんなみたいに笑って高校行ってる幸せなあなたでいてあげて。それが家族の為なんだよ!!」って
こんなに怒ってんのにとても菜穂が優しく感じて僕も泣いた
僕の泣き虫はあまり治ってなかったみたい
それから菜穂は毎日毎日勉強の猛特訓みたいに僕に勉強教えてくれました
菜穂も僕も志望校合格。ありがとう。でも僕は勉強が嫌いなんです
そんなに嫌いな事させる菜穂なんてロクなもんじゃない
卒業式。菜穂は相変わらず泣いていた。
相変わらず卒業生代表でピアノ担当だった。
また、すぐ泣くとからかいたかったけど今回はみんなバラバラになるからいいか。
僕はと言うと自分で制服のボタンを引きちぎりゴミ箱に捨て、自作自演の「モテちゃってボタン完売しました。まいったなぁゴッコ」をしてた
するとまさかの菜穂に「ボタンちょうだい」と言われた
僕「遅かったね、僕モテちゃってさぁボタン売り切れだよ」
菜穂「うそつき」って笑ってた
菜穂「あっ!腕のボタンなら売り切れじゃないね。腕のボタンでいいからちょうだい」
まぁいい、腕のボタンを引きちぎってあげた
菜穂「ねぇ写真撮ろうよ」
まーた人の思い出の写真に入ろうとする。まぁいいや。カシャッ
ボタンを引きちぎらせる菜穂なんてロクなまんじゃない
進学校へ行った菜穂。普通の高校へ行った僕。別々の学校になった。
チビだった僕は中学でずいぶん身長がのび175cmになってた
そんな僕には高校に入ってすぐに彼女ができました。
黒髪だけどヤンキーさんでした。
ヤンキーさんは茶髪だとわかりやすいけど黒髪でヤンキーさんだもんなぁ。
この人がヤンキーさんとは気づかなかった
家の近くの自販機に行く時、二人で手をつないでたら前から菜穂が歩いてきた
「うわっ!!ヤベッ」あわてて手を離した。
時すでに遅し、菜穂にはしっかり見られてて「プイッ」って顔をそむけられた。
あとから彼女とケンカになった
彼女「なんで手をふりほどくの!?あれ誰?」
僕「いや、ご近所さんいや友達、友達じゃないか、あ、え、あ」
手をふりほどく理由はうまく答えられなかった
ケンカの原因になる菜穂なんてロクなもんじゃない
毎週土曜日に泊まりにきて一緒に寝るけど相手体重が俺の二倍あるから邪魔
その彼女はやっぱりヤンキーさんでした
付き合う友達が悪くなり彼女は学校辞めて生活も荒れてたようです
あれこれややこしい付き合いも増えたみたいで半年経つ頃には新しい彼氏ができてフラれちゃいました。
ボクシングやってる先輩だってさ
何故かその先輩に呼び出されて、僕が彼女と付き合ってたからって言う理由で稲妻のような強烈ボディブローをくらった。ボクシングなんて大嫌いだ
フラれてしょんぼりしてたら家の前で菜穂に出会った
菜穂「あれれー?あの可愛い彼女さん最近見ませんね?」(可愛くはない)
うちの妹と仲がいい菜穂は全ての情報が行き届いてるんだどうせ。
僕「あ、諸事情がございましてフラれちゃいました(笑)」
菜穂「そうなの?落ち込んでんの?」
僕「いや、落ち込んでませんよ(笑)枕を涙でぬらす日々が続いてるだけですよ」
菜穂「あはは、ヘコんでんじゃん。なんなら私が付き合ってあげようか?」
こいつ何を言っているの?哀れみ…?
僕「いえ、僕は一生、彼女はいらないのでいいですよ。またボディブローくらいたくないので」
菜穂「へぇ、痛かったね。じゃぁご飯作ってあげようか?」
僕「いらない」
菜穂「…そぅ」
僕「あ、あの、明日のお弁当作ってください」
菜穂「うん、いいよ」
次の日の朝、菜穂に渡された弁当はのりがドキンちゃんで恥ずかしかったけど嬉しかった
高校生男子の弁当のノリをドキンちゃんにする女にロクなヤツはいない
それはバレンタインデーの日
家に帰ったら菜穂がいた。うちの母ちゃんと妹と遊んでたらしい。
菜穂はうちの家族でも人気者で、
母「菜穂ちゃんが子供だったらよかった」とか
妹「菜穂ちゃんみたいなお姉ちゃんが欲しかった」という言葉がよく飛び交ってる
頼むから僕んちで僕より人気者にならないでほしい
僕にはチョコレートを持ってくれたらしい。
菜穂が帰ってから食べたけどよくできたチョコレートでした。
砕いたコーンフレークみたいなのが入っててガリガリしておいしかった、コーンフレークかは知らないがうまけりゃ何フレークでも構いやしない。
キレイな紙みたいな物をイカソーメンみたいに切って鳥の巣みたいにクッションにしてチョコレートを置いていた
この紙みたいなのも何本か食べたけど、これは本当に紙だった
幼稚園の時に続きまた食べれない物を食わされた
この時、実は紙の下に一通の手紙が入ってたらしいが気付かずに捨てた
手紙が入ってたなんて聞いたのはずっとずっとずっと後の話になります
気付かずにごめんなさい…
と謝らないといけない入れ方するようなヤツにロクなヤツはいない
この頃になるとようやく自分の携帯を持ち菜穂とよくメールした。
ある事、ない事、馬鹿な事。
内容なんてどうでもよかった
ただメールがしたかったから毎日のように、2件隣の家に向けて送信してた
何をそんなにメールする事があるのだろうと言う程メールをしてた
1度あまりにメールが遅いからわざわざ2件隣に行って
「何してんの?メール遅いよ!」って催促に出掛けたらお風呂上がりの菜穂がパジャマで「ごめんね、お風呂入ってた。メールすぐ返すね」って。
なんかお風呂上がりの菜穂にドキッとしたのをよく覚えてる
1月の僕の誕生日には呼び出された「いつも寒そうなマフラーしてるから買ってきた」って当時流行ってた長いマフラーくれた
今見ると毛布みたいだけど当時はカッコよくて自慢のマフラーだった
よく「巻き方がめちゃくちゃすぎるからちゃんと巻いて」と菜穂に指摘を受けました
お返しは仏壇に供えてた塩ようかんを持っていったが微妙な顔をされた。
ご先祖様にあげる物をあげて喜ばないとか
どうしようもなくロクでもないと思う
父ちゃんがタヒにました。
突然でもなかった。
もうみんながそれぞれに、そろそろって覚悟ができてたんだ。
学校から帰って、家でゆっくりしてたら病院に駆けつけた妹から「父ちゃんタヒんだよ、病院にいるから…」って連絡が入ったけど僕は「行かない」って言った。
父ちゃんがタヒんだのはわかったけど、どうしても受け入れたくなかったから自分の部屋にいた。
誰にも悲しい顔なんてしたくなかったんだ。
父ちゃんが無言の帰宅をした時、菜穂の家族も家に来た
鍵を掛けてる二階の俺の部屋からも菜穂も菜穂の両親も泣いてたのがわかった
俺の親父がタヒんでそんなに悲しんでくれんだな。優しい人達だ
ありがとう
ただその時はそう言えるほど大人じゃなかった
ロクでもない気持ちでいっぱいだった。
そうやって悲しい時には悲しい表情ができる素直な人達とは違い、当時の僕は部屋で一人「親父のバカバカ、クソ親父」ってつぶやきふてくされていた
母ちゃんが部屋の前に来て「今から近くの公民館で葬式だからスーツに着替えておいで」
僕「いやだ!俺は行かないよ」って意地を張った
母ちゃん「そう…今はそれでいいよ、だけどいつか必ず父ちゃんに手を合わせてあげて」
いつも怒ってる母ちゃんがこうして優しかったから涙が止まらなくなった
何も言い返さなかった。
みんながバタバタと家から出て行く中、一人だけ戻ってくる足音があった
すぐ誰だかわかった。菜穂だ。
菜穂は僕の部屋の前に立ち泣きながらこう言った
菜穂「ねぇ聞いてる?あなたのお父さんは一人しかいないんだよ?情けない長男だね!そんな一人しかいない大切なお父さんのお葬式にいかないでどうするの?
色々と考えた事があるんでしょうけど、今はそんな事全部我慢して行ってあげなよ」って
菜穂は泣いてたけど僕なんかもっと泣いていた
ロクでもない状況だ
だから、菜穂には泣いてるってバレないように精一杯明るい声で「あ…あーわかってるよ、今、行こうと思ってたんだよ、すぐに行くから先に行っといてぇ」って言った。
さぁ泣いたってバレないように、顔洗って行かないと
菜穂なんて…菜穂なんて…
人んちに勝手にあがって来るし、そして母ちゃんより俺の事わかってるし、優しいしいい子だし
ほんとロクでもないヤツだ。
葬式場に行く事にはなったが喪服はしめっぽくて着るのが嫌だった
ジーパンにシャツに帽子深かぶりで行った。
何もかも受け入れ難くて今考えるととても恥ずかしい。
葬式場につくと目一杯明るい声で「ちわーすっ!!遅れてすみませーん」って泣いてたのがバレないように明るく言った
「親父なんかドライアイス詰められてシューアイスみたいだね」とか言って明るさを装った
こんなにもふざけてると菜穂の父ちゃんにぶん殴られるかと思ったけど、この日はこんな僕に何も言わないでいてくれた。
菜穂が優しいのは両親ゆずりなんだな。
菜穂はずっとずっと僕の隣にいてくれた。
こんな優しい菜穂なんてロクなもんじゃない
しかし、そうやって明るく装うのもすぐに間がもたなくなった
たまらず、退席して一人で裏の公園に行きで泣いていた
「バカ親父!バカ親父!バカ親父!また体良くして店やるって約束したじゃないか!
嘘つき!嘘つき!病院で一人、一生懸命料理のレシピ書いてたクセに全部無駄になっただろ!嘘つき!嘘つき!嘘つき!バカ親父!」って泣いていた。
すると菜穂が来た。
僕は泣いてるのが恥ずかしくて逃げようとした
じゃぁ「待って」そういって菜穂が駆け寄って来てくれた。
菜穂は何も言わなかった。ただただ泣きながら僕の服の袖をギュって掴んでいてくれた
俺「親父、もっと生きるって約束したのに嘘つきなんだ!嘘つきなんだ!」ってすごい泣いた
菜穂「…うん、うん、悲しいね、悲しいね」菜穂もすごく泣いた
菜穂「でもね…こうして2人で泣いてたらお父さんに笑われちゃうんだよ
だから、負けちゃダメなんだよ。お父さんいなくてもね、立派になるんだよ
負けちゃダメなんだよ」って言ってくれた。
その言葉はすごくひねくれていた僕の心に真っ直ぐに響いた
菜穂は同級生。
いつも菜穂ばかりがしっかりしてちゃいけない。僕だって…
涙を拭いて、僕は「わかった、俺父ちゃんがタヒんだ事にも、父ちゃんにも負けない。だから勉強して大学行く、だから勉強教えて欲しい」と言った。
菜穂「うん、えらいえらい初めて自分から勉強頑張るって言えたね、頑張ろうね」って頭よしよしされた。
同級生をよしよしするヤツなんてロクなヤツじゃない
父ちゃんは1日家で寝て、次の日には灰になりました。
父ちゃんがいなくなって1番悲しいのも1番大変なのも母ちゃんだ
もう僕がいつまでもスネていられない。
次の日僕はちゃんと喪服を着て火葬場に行った
一通り行事が終わったあと、みんなに集まってもらった。
こんなダメな長男だけどちゃんと挨拶がしたくて。
「皆様、今日は父ちゃんの為に集まって頂いてありがとうございました。
父ちゃんは若くしてなくなってしまい。大変な人生でしたが
生前、これだけ多くの人達に囲まれて幸せだったと思います
それも、皆様一人一人のおかげだったと思います。ありがとうございました」って
菜穂の父ちゃんは挨拶を聞いて泣いてくれた
「こんな立派な息子になってお父さん喜んでるよ」って。
昨日あんな態度だった僕なのにこんな優しい言葉かけられて嬉しかった
菜穂は少しだけニコニコして小さく小さく僕だけにわかるようにパチパチパチと指先だけで拍手してくれた。
葬式の挨拶で拍手は間違ってない?菜穂。
礼儀作法を間違えるヤツなんてロクでもない
本当に大好きだ菜穂
それは夏休みが始まって間もない7月の頃だった。
菜穂から電話がかかって来た
僕「なに??」
菜穂「なに?じゃないんですけど?え?なに?ってなんですか?」
僕「え?なに?ってなんですかってなんですか?」
菜穂「なに?ってなんですか?ってなんですかってなんですか?」
僕「いや、何ってなん…(略)」
菜穂「なに?じゃないよ、勉強!!一緒に勉強するよ」
僕「えー勉強?やだ!!」
菜穂「やだじゃないの!!約束したじゃない!!もぅ…いいから」
と言って勝手に電話をブチ切りしたかと思えば次は勝手に家に来た
僕の部屋のドアの向こうに立つ菜穂に僕は「え!?なに?」と言った
菜穂「今から学校の教科書とノート全部まとめてうちに来て今日から勉強だよ」
僕「だからやだって」
菜穂「やだじゃないよ、そんな事言ってると勝手に部屋に入るよ?」
僕「やだやだやだ、それはもっとやだ」
菜穂「じゃぁ言う通りにして」
僕「かぁちゃぁぁぁん!!人さらいが来ましたよぉぉ!たすけてくださぁぁぁぁい」
すかさず菜穂が
菜穂「おばさぁぁん大切な息子さんお借りしますねぇぇ!!」
母ちゃん「ハイハイどうぞどうぞ、別に返さなくていいので持っていって下さい」
しぶしぶ用意を始める。
人の母ちゃんまで味方につけるなんてロクでもない
言われた通り学校の教科書とノートを全部持って菜穂の部屋に。
俺の狭い部屋とは違い広い菜穂の部屋は快適空間でとても落ち着いた
そんな中、菜穂は教科書とノートをチェックしていた。
ノートを持って来たはいいがノートなんて落書きしか書いてなかった
菜穂「ねぇ?なんなのこれ、落書きしか書いてないんだけど?」
僕「うん、そうだよ、俺は適当にアドリブでなんとかなっちゃうからノート取らなくていいんだ」
菜穂「もぅ、大学受験なんて適当じゃ無理だよ?大学行くって約束したよね?」
僕「はい」
菜穂に新しいノートを買わされる。
こうして毎日毎日毎日毎日毎日朝から晩まで勉強の夏休みが始まった
夏休みは勉強しなくていいから夏休みって言うのに
勉強ばっかりって…夏休みの意味がわかってない菜穂はロクでもないヤツだ