その日は取引先を何件も朝からあちこち廻っていた
途中、会社に帰ったりもしたけれど
出先で預かった荷物を置きに立ち寄る程度ですぐまた出掛ける忙しさで、小切手を受け取った時はもう夕方だった
夕飯もロクに食べられず、やっと最後の取引先を出た時にはもう午後十時を過ぎてたな
大荷物を抱えながら地下鉄に乗って漸くほっと一息ついた
コレで今日はもう会社に荷物持っていけばおしまい
腹減ったなぁなんてぼーっとして、会社近くの駅のホームに降りた時
やっと気付いたんだよ、携帯が震えてた事
電車の音が五月蠅いのと疲れてすっかり気が抜けてたのと、大荷物で鞄の底に電話を押し込んでいたので全く分からなかった
「もしかして取引先で何かトラブルがあったか!?」
先方のミスで「悪いけどもう一度来て欲しい」なんてのはしょっちゅうなので、この時もそう考えて疑わなかった
「取り敢えずこの荷物会社に置いてからにしようかな」なんて考えながら電話を受けたんだ
そしたら「やっと出た○○ッ、さっきA社(最後に行った取引先)さんから連絡があったんだ!」
「あ、すいませ(げ、やっぱ戻るのかよ〜)」
キレッキレな先輩の怒鳴り声に些かげんなりした途端
「B社さんの小切手拾ったって! お前、鞄にちゃんと入れてなかったのかっ!!」
「えっ、えっえっ?」
頭が真っ白ってのはあの事だよ
反射的に鞄の中掻き回したら、確かに夕方受け取った薄い茶封筒がない
捜せば捜すほど指先冷たくなって上手く動かなくなったのは忘れられない
「あちらで預かって頂いてるから、速く貰って来いっ」
先輩の声に慌てて対岸のホームに行くための階段へ走った
A社に向かう電車で考えてみたら、あの時A社を辞した後
俺はA社の玄関先で一度、多くなった荷物を整理しようとガサゴソやっていて、封筒はその時に落ちたんだな
それを偶然、A社の社員さんが帰る前の玄関先の掃除をした時に見つけてくれたそうだ
落としてから三十分は経っていたし、もしその間に全く関係ない人間に拾われてたらアウトだった
A社は俺に荷物を預ければその日の業務は終了だったから
要は俺に小切手渡すまで待っててくれてる訳で
一千万落として全然気が付かなかった自分も信じられないし
本当に世界が引っ繰り返ったみたいな気持ちで
あの時の事は本当に、今思い出しても肝が冷える
長文スマソ
でも始末書は書いたんだろ
先方で小切手受け取った時は「本当は直接携帯に連絡してあげたかったんだけれど、番号知らなかったから御免ね」なんて言われてこっちは感謝しかなかった
それでも会社では滅茶苦茶怒られるなと思いながら戻ったら、確かに「しっかりしろ」って叱られはしたけれど無闇に怒鳴られたりもしなかった
後で聞いた話では、夜も十一時近くなってたし小切手は無事だったし、何より帰って来た時の俺の顔があんまりビビり過ぎてもう真っ白だったからそれ以上強くは言わなかったって
以来、荷物の整理は屋外では絶対やらない
入社して二年目、そろそろ仕事に慣れたと思った矢先だった
あんなの二度と勘弁