オレ「小ミソノちゃん・・・帰ろう」
余計なことを言うと拗れると思ったオレは極めてシンプルに言った。
感情的になった女性に理詰めで話をして勝てたためしがなかったからだ。
しばらくの沈黙の後・・・
小ミソノ「・・・わかった・・・でも・・・ちゃんと帰るから・・・キスして欲しい・・・」
弱々しく涙ながらに絞り出すような声だったが、オレはもう迷うことはなかった。
目を閉じた彼女のおでこに軽くキスをした。
あまりにもダメージが大きすぎて、限界を突き抜けてしまったのだ。
もし、アレがなければ彼女を黙って抱きしめていたかもしれない。
帰りの電車の中では、彼女はオレに寄りかかって、ずっと眠っていた。
ただ、オレは時折彼女の頬を伝うモノを黙って拭いてやらなければならなかったが・・・
フラフラと戻る娘を無言で迎えると、オレに深々と礼をして玄関の中へ消えていった。
次の土曜日も、その次の土曜日も、ミソノの姿も小ミソノの姿もなかった。
オレは末っ子の待ち時間を独り、いつもの喫茶店で過ごした。
また夜に続きを書きますんで、すいません。
この展開で
今日は、少し早く帰って来れました。
どなたか、おられます?
聞いてやってください。
テーマパークの一件から3週間が過ぎた土曜日のこと。
今日もミソノは居ないんだろうかとか考えながら末っ子を教室に連れて行った。
思えば、もう3月も近い。そうなれば俺はもうここに来る理由がなくなるのだ。
オレ(あれは何だったんだろう・・・)
オレ(選択肢は正しかったのか? いや、間違いではないだろう)
オレ(というか、もし泊まっていたら・・・)
オレ(いやいや、四十前の大人が女子高校生に魅了されて外道とかありえんしw)
オレ(でも正直、可愛かったよなぁ・・・)
などと小ミソノが飛び込んできたシーンを反芻しながら教室に向かう。
ミソノ「こんにちは、オレくん、末っ子ちゃん」
オレ「こんにちは、久しぶりだね」
ミソノ「なんかシフトがズレちゃって。ふふっ」来たっ!悩殺ポーズだw
オレ「休憩は何時から?」若干、動揺するも普通を装いながら言う
ミソノ「ちょうど今からよ」
オレ「じゃ、行こうか」
ミソノ「はい」
というわけで、久しぶりに“土曜の会”成立である。
オレとしては、テーマパークの一件は是非とも避けたい話題だったのであるが・・・
って、オイオイ、いきなりこの話題かよ
オレ「あぁ、気にしないで下さい。彼女、ちょっと周りの雰囲気に飲まれちゃっただけでしょうし」
オレ「カップルがいっぱいでしたからね、ハハハ」努めて明るく振舞う
ミソノ「・・・それが、そうでもないんです・・・」
オレ「えっ?」
って、オイオイ、いきなりこの話題かよ
オレ「あぁ、気にしないで下さい。彼女、ちょっと周りの雰囲気に飲まれちゃっただけでしょうし」
オレ「カップルがいっぱいでしたからね、ハハハ」努めて明るく振舞う
ミソノ「・・・それが、そうでもないんです・・・」
オレ「えっ?」
・当初、小ミソノは母ミソノとオレをくっつけようとしていた
・キーとなる日には“例のカチューシャ”をしてオレを過去に引き戻そうと企んでいた
・そのためにミソノの卒業アルバムを見て、なんと同じ髪型に変えていた
・カチューシャについては、母ミソノが大事にしていたのでピンときたらしい
・その後、母ミソノにその気がないことを知ったが、オレとは離れたくなかった
・そこで自分がオレと、くっつこうとした
そして
ということだ。
オレは自分を責めた。
いたいけな女子高校生の傷心を癒すどころか逆に深くエグっていたのだ
その必死な気持ちに何となく気づいていながら・・・
何もできないくせに・・・
いい人を装って・・・
結局は自分が過去の感傷、つまり・・・
姿形の似た小ミソノを使って、高二の自分の再現ドラマを楽しんでいただけだったのだ。
・・・オレは自分の最低さに吐き気がした・・・
ミソノ「・・・」
オレはこの後、どうすればいいのか分からなかった。
たぶんミソノも同じ思いだったのであろう。
オレ「・・・オレ達って、もう会わない方がいいのかな・・・」
ミソノ「そうかもね・・・」
ミソノ「・・・でも、最後にひとつだけ私のお願いを聞いてくれる?」
なんとなく、怖かったのであるが・・・
オレ「いいよ。なんでも言ってよ」
と、カッコつけて言ってみた。
というか、この母子に許してもらえるなら、本当に何でもしようと思ったのも事実である。
オレ「えっ?!」
ミソノ「変な意味じゃないの。あの家は悲し過ぎるから・・・」
ミソノ「最後に楽しい思い出で終わりたいの」
オレ「どういうこと?」
ミソノ「家を手放すことにしたの。二人で暮らすには広すぎるから」
確かに立派な一戸建てだった。庭が荒れた雰囲気だったのは男手がないからだろう。
それに、あちこちにご主人の思い出が詰まってるんだろうし。
ミソノ「小ミソノと二人だと泣いちゃって辛い思い出になりそうで・・・」
オレ「そういうことなら喜んで。なんなら仮装でもしちゃいますよw」
ミソノ「それ、いいかもっ! ふふっ」
というわけで、鍋パーティ@ミソノ邸が決まった。
ただでさえ引越し前夜というのは感傷的になるものだが、ミソノ母子にとっては
万感の思いがあっただろう。
暗い雰囲気を打ち消すように、努めて明るく振舞っていたように見えた。
小ミソノ「うわっ、まるっとカニが入ってるしっ!こんなの初めてじゃん!w」
ミソノ「めっ!本当のことを言ってはいけませんっ! ふふっ」
オレ「おっ、豪勢だなぁ~」
ミソノ「では、召し上がれ」
オレたち三人は、きゃっきゃっ言いながら鍋を囲んだ。
ミソノもオレもアルコールが入ったせいで、テンションが上がって楽しかった。
食後はトランプをしたり、カラオケもどきで楽しんだり、大いに盛り上がった。
オレは、この家最後の夜をミソノの願い通り楽しいものにできて満足だった。
そして・・・
ミソノとオレは二人きりで居間のコタツに入りお茶をすすっていた。
ミソノ「なんだか不思議な気分・・・」
オレ「そうだな」
ミソノ「あの人には悪いけど、ずっと前からオレくんと一緒に居たみたい」
オレ「そんなこと言うもんじゃないよ」
ミソノ「そうね・・・あの人のおかげで小ミソノが居るんだし・・・」
ミソノ「今の私にとっては、小ミソノだけが生きがい・・・グスッ」
オレ「そうだよ。大事にしてあげなきゃ」
オレ「困ったことがあったら何でも言ってよ。できる限りのことはするから」
ミソノ「オレくんって優しいのね・・・」
・・・テレビが既に梱包されていたせいもあり、居間は音もなく静かであった・・・
向かい側にいたミソノが、躊躇いながら小声で呟くように言った。
オレ「・・・」
オレの返事を待たずにミソノが左横に座る。
そういえば、付き合ってる頃はいつも左側にいたっけ・・・
彼女に絡めとられた左腕の自由が利かない・・・
ここでオレの脳内では、再び緊急安全保障理事会が招集された。
しかし、相手は同い年、かつ分別のある大人、しかも元カノということで
前回よりは危機レベルが相当低く設定されたしまったようであるw
そして、今回提案された選択肢は・・・
こうなると、もう止まらない。
どちらからともなく近づいて、唇を重ねた。
オレは20年前に果たせなかった思いを込めて燃え上がった。全身が熱くなる。
そしてオレは彼女を寝室までいわゆる“お姫様だっこ”で連れて行く。
その瞬間、彼女の何かが弾けた感じがして瞳が突然潤みだす。
彼女が急に積極的になりオレの首に腕を絡めて強く引き寄せる。
オレは彼女の反応に若干驚きながらも、さらに気合いを入れたのだが・・・
涙に濡れた瞳は確かにオレを見つめているのだが、オレを見ているわけではない。
オレは、戸惑った。
確かに彼女はオレの腕の中にいる。
いや逆だ、彼女がオレに抱きついているのだが
心はどこか違うところにあったのだ。
彼女は号泣し始めた。
激しい嗚咽を漏らしながらオレに激しくしがみついたまま
オレの知らない男性の名を何度も何度も叫んだのだ。
それが、この寝室の主であろうことは想像に難くない・・・
なんか胸が痛い
・
・
オレは、ただ呆然と彼女を見つめていた。
別に腹が立ったわけではない。悲しかったわけでもない。
惜しかったなんて、とんでもない。
うまく言葉にできないが、愛する人を失った女性の辛い心の中を
素手で触ってしまったような切ない、やるせない気分だったのだ。
やがて彼女の腕から力が抜けてオレからするするっと外れた。
いや、10代の頃ならこんな状況でもマグロ状態の女を抱けたかもしれない。
でも、もうすぐ40だもんな。
亡くなった人の名を叫んで号泣する女性を、どうにかするなんて悪趣味なことはできんわな。
オレは、ただ彼女に寄り添い、ずっとその髪を撫でるしかなかったのだ。
いくらなんでも娘が家の中にいるのにここまでなるもんかな・・・
きっと分かっていたんだよ、お互いに。
引越しのトラックがやって来て、オレは普通にそれを手伝ったわけだが
作業員に『ご主人』と呼ばれた時には、かなり慌てた。
なぜなら、傍にいたミソノがピクッと反応したような気がしたからだ。
ミソノはエプロン姿で忙しそうにしていた。昨夜のことは何も言わない。
小ミソノは、相変わらずオレに纏わりついていたが、それは無邪気な仔犬のようであり
以前の小悪魔的な雰囲気を感じることはなかった。
おそらく、母ミソノが亡き父を呼ぶ悲しい叫び声は彼女にも聞こえていただろうから。
ミソノ「オレくん、色々とありがとうね。ふふっ」
小ミソノ「オレさん、落ち着いたらまた連絡するねっ!」
オレ「おおぅ! じゃまた」
ミソノ、小ミソノ「じゃね~!!」
何事もなかったかのような明るい笑顔を残してミソノと小ミソノは
引越しのトラックに同乗していった。どうやら、最寄駅までは乗せてもらえるらしい。
オレは、それに乗ることはなく二人とトラックを見送りながら
そういえば、引越し先って聞いてないのな・・・と考えていた。
そして土曜日・・・ミソノは受付に居なかった。
なんとなく覚悟はしていたが、きちんと別れを告げたかった。
正直に言うと未練がなかったわけではない。
でも、それは是が非でも食ってやろうとか、そういう感じではなく
なんだか母子が心配だったような、本当に何かできることはないのだろうかとか・・・
いや、理屈では分かってるんだ。オレには何もできないことくらい・・・
でも、ホントに何もできなかったんだよねぇ・・・
結局、最後の夜も悲しい思い出をつくっちまっただけだし。
・・・『お掛けになった電話番号は現在使われておりません』
小ミソノの番号も、同じであった。
受付の女性に「ミソノさんは、どうされたんですか?」と聞いてみた。
女性「ミソノさん? 私、今週入ったばかりなので古い人のことは分からないんです」
オレ「そうですか・・・」
20年前の半年間と、ついさっきまでの半年間が頭の中で絡み合っている・・・
高二のミソノと現在の小ミソノの姿が被ってしまい、現在と過去、夢と現実が混乱している。
つい先日まで、向かいの席に美しい母子が微笑みながら座っていたのが現実のことだったのか
どうかすら定かでなくなってきた。
ひょっとしたら、オレは毎週この時間にココで、うたた寝をして夢を見ていただけなのかもしれない
そんなことを考えていると・・・
男性「オレさんですよね? これミソノさんから預かってます。彼女は昨日辞めたんですよ」
男性「彼女、急に転居が決まったようで、オレさんによろしくお伝え下さいとのことでした」
と言うと1枚のCDを差し出した。
男性「ちゃんとお渡しできてよかったです。末っ子ちゃんは来週で終わりでしたよね?」
オレ「そうでしたね。来週で卒業でしたね。ありがとうございました」
その言葉を聞くと、男性は教室に戻っていった。
オレの手にあるのは、何の変哲もない普通の音楽CDであったが・・・
オレは「ハッ」とした。
急いで開けると・・・そこには、見覚えのある文字・・・
「あなたとの関係は、友達以上だけど恋人ではない」
「例えると家族みたい」
「なくてはならないけど、特別な存在ではない」
「例えると空気みたい」
という内容が書かれてあり、最後に
「ありがとう」
で締めくくられていた。
——-完——–
だが切ないな…
ひとつ質問。
引越し前夜のは外泊だよね?
嫁さんにはなんてったの?
>>142
それは、シンプルに「出張」ですw
>>143
そうですね。“あの時”旧館3階に行ってたら彼女の人生変わってましたかね?
そう思うと、ちょっと辛いかもです。
>>144
なんでも、めったにない号数らしいですw
最近はそうでもないみたいですけど。
あと、ヨメとのエピローグありますけど、入り用ですか?
エピローグ
予定のない休日の午後、俺は嫁と二人でボーっとテレビを観ていた・・・
嫁「・・・アンタ、最近変じゃない?」
俺「なにが?」(動揺を悟られないように、あくまでも自然体を装う)
嫁「こないだまで妙にイキイキしてたかと思えば、最近は溜め息ばかり吐いてるし」
嫁「それに・・・なんか・・・激しいし///・・・」モジモジ
俺「おまっ、ひっ、昼間っから何を言・・・」
言いかけた言葉を待たずに嫁が俺の胸に飛び込んできた。
嫁「何があったか知らないけど、誰にも渡さないんだからっ!」
俺の胸に顔を埋めた嫁が言う。もしかして泣いているのか??
俺「・・・うん」急に嫁が愛おしく感じて、ぎゅっーと抱きしめる
嫁「もふっ・・ぅん・・・」
艶っぽい声を出したかと思うと、頭を俺の胸にグリグリしながら
俺の顔の辺りまでズリ上がってくると
嫁「ねぇ! 今度、家族でテーマパークに行かない?」 満面の笑みであったw
どうやら、何もかもお見通しのようであるw
ちなみに、その夜のメニューはカニすきであった。
女の勘は恐ろしいw
以上です。
かっこええな
良作認定ヾ(o゚ω゚o)ノ゙
この時期になるとモヤモヤしてたのが、ちょっと晴れたかもです。
では、おやすみなさい。
家族大事にしてやってくれ
良い話ありがとー
おやすみー