母は何も言わずに私の服のボタンを留めていたが私はもう眠くて眠くてぐずり始めた。
すると廊下にいた父が「もういい」と言って、私はまたパジャマに着替えさせられて寝た。
母は私のボタンを留めながら小声で「昨日みたいに泣きなさい、早く」というのだが
私はボーッとしてただボタンを留めていく母の指を見ていた。
すると今度は3歳の弟が眠いとぐずりだした。またもや父が「もういい」と言い、その日も就寝した。
次の日、母は私と弟を車に乗せ母の実家に向かった。
後ろを見ると父が大きく手を振っていたので弟と
「いってきまーす。お土産買ってくるねー」父に大きく手を振り返した。
その後家には帰らず、両親の離婚が成立し、父とは二度と会うことはなかった。
成人してから母に当時のことを聞くと、夜中に起こされた時、実は一家心中一歩手前だった。
仕事が行き詰まっていた父がみんなで死のうと母に包丁を突きつけて母は逆らうこともできず
途方に暮れながら私を起こしたらしい。
「あんときアンタが泣いてくれてどれだけ助かったか。それなのに次の日のアンタはボーッとして
泣いてくれないし」
ちなみに母子で父の元を逃げた日、父の手には出刃包丁が握られていたそうな。
「あれはのどかに手を振ってたんじゃないわよ。私たちを刺そうと振り回していたのよ。
何でアンタ達ニコニコ手を降っているのかと思ったわよ」
当時の子供の目には包丁は認識していなかったよ。
しかし子供が泣くだけで心中一端は思いとどまるあたり父もまだ迷っていたんだろうかとふと思う。
ジワジワ来るね。
ホラー小説みたいな脱出劇。
親父はその後どうしたんだろ。
この辺の認識の違いが怖い・・
あの時素直に着替えていたら、心中場所を探しに死のドライブに出る予定だったとのことで
2日めの母が必死に私に泣けと言ったのも当然かと。
弟が泣いてくれなかったらかなりヤバい状況でした。
あと逃げた時、母が言うには父は包丁振り回しながらしばらく車を追いかけてきていたと
言うのですが、私の記憶にはそんな父の姿は全くなく、ただ手を振っている姿だけなのです。
そんな強烈な姿見たら忘れることはないと思うのですが、不思議です。
また母になんで1日めのことがあってすぐ逃げなかったのか聞くと、心中なんて一時の
気の迷いですむ。家族4人で頑張っていけると思っていたとのことですが、2日続いた上に
3日めは昼日中に父が包丁持ち出してきたので、もうだめだと逃げる決意をしたそうです。
父のことはタブー扱いでどうしているのかはわかりません。もうそれでいいと思っています。
お目汚しすみませんでした。名無しに戻ります。