俺の高校は進学校だったせいか、下らないイジメなんかは無かった
その代わり内向的だったり内気な子は構われもせず一人で居ることが多かった
俺のクラスにも一人そんな女子がいて、本ばっかり読んでるからより孤立してた
イベントでも常に控えめ、目立つことを極力避けてたようなその女子が修学旅行で豹変した
場所は沖縄
班別でインストラクターについてまわり、海辺の生き物を観察しふれあう
ウニやヒトデ、カニやなまこ、いろんな生き物がいた
インストラクターが触ってもいいというが、女子をはじめ男子まで「えぇ・・・」とドン引き
そんな中、体操服を極力上まで引き上げた文学少女が躊躇なく海に入り、片っ端から鷲掴みつつくとかそんな予備動作なしに、いきなりがっつりガシッと!
「これナマコですか!?私初めて触りました!骨無いんですよね、生きたタコとかイカより軟体ですね!まるであれみたい、海綿体!」
文学少女の手には両手に収まりきらない大きさのワームっぽい茶色のナマコ
「皆さわる?プニプニだよ、柔らかいよ、かわいいよ?」
近づいてくる文学少女に女子は本気の絶叫を上げて逃げ惑う
男子、海綿体発言に少し親近感を持つものの見た目のグロテスクさに戸惑う
「あれ、なんかプパ(ROの敵キャラ)みたいだったのにビローンって伸びてきた」
ナマコは懸命に無邪気な少女の手から逃れようと3倍ほどの長さにまで伸びて懸命に動いていた
・・・伸びるとさらにキモい
「伸びると弾力なくなってくる。なんか伸び切ってのびしろ無いような感触。水に戻すとまた丸くなるのかな?」
ナマコを海水に戻し、縮まっていく体を観察
さらに口と思しき部分で砂を動かし何かを食べてるのを観察
それを詳しく実況してくれたがそれ以前のことが衝撃的すぎて頭に入ってこなかった
その後もありとあらゆるものを鷲掴みして俺達の前に運んでくる
俺たちはレポートを仕上げるために彼女の持ってくる海の生き物たちを撮影するのだが、キモくてあまり近づけない
結果、俺達の班は文学少女が変な生き物を持った写真集が出来上がった
ヒトデは中央部に胃があるので触るとヌルヌルする
足一本千切れても千切れた足は一応生きてるが、多分小さすぎて再生はできなくてそのうち死ぬ
とか何か色々文学少女が実践交えて見せてくれたけど、足一本千切れて落ちてるヒトデも平気で触ってる姿は俺達には刺激が強すぎた
やっと生物観察が終わり、海での自由時間がやってきた
やっと開放されたと思っていたら、女子の集団から叫び声がした
びっくりしてそちらの海に近づくと、両手に何か長方形の、複数の出っ張りを持つ黒い塊を持つ文学少女
「海の底の岩にひっついてたの!これ硬いのにナマコなんだって!」
海中メガネをつけて文学少女の足元を覗いてみると、三メートルほどの深さでよく見えない
この深さをす潜りしてナマコをとってきたらしい
両手にナマコを持ってるのに、両足でスイスイと器用に浮いていた
女子から捨てろ捨てろと散々言われ、仕方なさそうに海にお返ししていた
その後文学少女は足の付かない深さの海を一人です潜りしながら堪能
疲れないのか聞いたら体を水面にぷっかりと浮かせ「こうやったら休めるよ?」と親切に教えてくれた
俺は背泳ぎはできないんだが・・・
皆海遊時間に皆すっかり水着焼けしてたが、文学少女はずっと潜ってたのでそれほど焼けなかったらしく、ビキニのあとがない!と騒がれていた
翌日からは海ではなく、シーサー作り体験とかあったが、その頃には文学少女はいつも通り戻っていた
でも修学旅行から文学少女は皆から一目置かれるようになり、周りがよく話しかけるようになって、いつの間にやら女子みんなと話てる姿も見られるようになった
伸ばしっぱなしの髪も女子たちが結ってたりして、その年の文化祭では「オチョウ夫人」とかいう派手な見た目にされていた
修学旅行の時も文化祭のときも文学少女は全力で楽しんでて、青春してたなーと今すんごい羨ましい
今になってナマコの触り心地が気になって仕方ない
本の知識がリアルになって嬉しいのが伝わってきた
こういう青春の一頁な話、好きなので書いてくれてありがとう
こういうのって学生時代ならではって気がする
なまこに感激してたりしたら
さぞかし美形なんだろうなー。
何故か蝶々夫人を思い浮かべてたよ
海洋学科のある大学にでも進んで院まで極めたか
自分も、理科好きな文系だったんだ