それが成功したとて……という話。
S夫婦には息子が2人いて、長男は親はそうじゃないのになぜか長男教に感染していて
「俺は長男だ跡取りだ敬え!ひいきしろ!」と威張っていた。
子供のたわごとならまだしも、大人になってまで言って回ってるから、あきれられていた。
頭の出来は今一つで、大学を出ても就職先がなく
もしかしてSさんの会社に入れてもらうつもりだったかもしれないけど
Sさんはコネで遠くの会社に放り込んだ。
その土地で結婚したけど、嫁さんがまた
「跡取りの長男だからお金があると思って結婚した」と公言する猛者。
次男は明るくて人当たりがよく(長男と比べるからかもだけど)
勉強がすごくできて、東京の地名のついた大学に進み、公費留学でアメリカの大学院へ行き、
帰国して東京の有名企業に招かれた。
嫁さんはお金持ちのお嬢様で頭が良くて優しい。
SさんはS奥さんが他界して気落ちして、会社はたたんだ。
数年後Sさんも逝って、相続となった。
長男夫婦は「財産はすべて跡取りの長男のもの!」と主張して
ギャンギャンわめきちらして暴れるので
次男夫婦は生命の危険さえ感じて、相続放棄する代わりに
今後は互いに一切かかわらないと取り決めた。
家はきれいな邸宅に建て直したけど訪ねる人もなく
庭の手入れとかも全然してなくて、新しいのになんかすさんでいる。
それに長男嫁さんは隣家に
「お宅の家の庭で蚊が発生してうちへ飛んでくるから、庭の植物を全部始末しろ」
とか言って来るキチ?
長男は遠くの会社はどうしたのか、一日家にいるらしい。
ところで、次男夫婦はいつの間にか自力で起業して、成功していた。
父親のSさんと同じ業界で、全く同じ仕事ではないが、
例えばSさんが寿司屋の板前だったとしたら、
次男はレストランチェーンのオーナーみたいな感じ。
実はSさんが亡くなる前から次男は期待の若手として有名だった。
だからSさんの葬式の時も、参列した業界の人に
「Sさんも(次男)さんといういい跡取りがいて、思い残すこともなかったろうね」
「(次男)さんはさすがSさんの跡取りだからいい仕事をしている」
と言われていた。
今や、業界で次男を知らない人はない。
長男は、業界に知り合いは一人もいない。
隣家の人は、長男夫婦が怒鳴りあう声を何度か聞いている。
登場人物が増えてややこしいので、長男一家をA家、次男一家をB家とする。
先日、一族の中で不幸があって、葬式があった。
どこで聞きつけたのか、お通夜に、A家の次女(20代)が現れた。
A家の子供は長女と次女の2人。
A家とはB家だけでなく親戚全員が縁を切っているので、何をのこのことと怒る人もいたが、
A次女のいでたちも相応だし香典も持ってきたし、追い返さなかった。
通夜振舞いには誘わなかったが、しっかり居座った。
そして言うには「今度、私が結婚してA家を継ぐことになったので、よろしくお願いします」
はい?
親族の一人「跡を継ぐって…(A長女)ちゃんは?」
A次女「あの人、大学から(飛行機の距離の)遠いところへ行って、そっちで就職して、
全然帰って来ないし連絡もめったにないから」(結婚はしてないらしい)
親族一同(A長女、逃げたんだな…)
A次女「だから私がS本家の跡取りですから」
今さら故Sさんに本家も分家もない。元々そんな名のある一族ではない。
Sさんが有名だったのも本人の努力によるものだ。
なんで最新の教育を受けた若い娘が、こんな空っぽなことにこだわっているんだろう。
A次女は誇らしげにB家を見やったが、B家は他の親族としゃべっていてそっちを見なかった。
B家の子供は息子が1人。これまたB夫妻によく似た出来のいい子で、有名大学の大学院にいる。
たぶんA次女はB息子に宣戦布告に来たんだろうけど、もはやB家はA家を相手にしていない。
A次女は結婚式の招待状を親族に送りまくったが、なにせ絶縁されているので、
ほとんどの家から「仕事の都合がつかなくて」などとお断りされたらしい。
情け深く(好奇心旺盛な)とあるご夫妻のみが出席したが(B家でもうちでもない)、
「A家は(他の親族が出席しないから)怒ってたよ~(笑)」だそうだ。
そんなことはどうでもいいが、遠い空の下にいるA長女には幸せになってほしい。