数年前、不況で俺の勤める会社がヤバくなり、リストラされた。
すぐに再就職できると思っていたが、なかなか見つからず、仕方なく親戚が支配人をやっているファミレスに三ヶ月ほどバイトすることになった。
その時、たくさんの家族連れやカップルを見てきたが、子供の世話ってどの家族連れも母親がするもんなんだな。
暖かい食事を持っていっても、嫁さんは子供に食べさせたりして、暖かかった皿はどんどん冷めていく。
逆に旦那は、子供が何をしようが嫁さんの飯が冷めようがお構いなしに自分の分を平らげていく。
旦那が食べ終わると、子供の世話をする人もいれば、そのまま新聞なんかを読み出す人もいる。
どっちにせよ、暖かい食事を食べる嫁さんというのは、結構少ない。
もし、俺に子供が生まれて、外で食事する時は、俺も面倒みてやろう。
嫁さんに暖かい食事を食べさせてやろう。
そう思った。
それからしばらくして、俺は前より給料は安いものの、それなりに待遇の良い会社へ再就職した。
そして子供にも恵まれた。
ファミレスに食べにいった時、子供の世話をする嫁さんとその皿を見てふと思い出した。
「あぁ。俺、あの時の旦那と同じことしてるな」と。
「俺が面倒みるから、お前、先に食えよ」そういうと嫁さんは驚いた顔をした。
家にいても滅多に子供の面倒をみることもないから。
嫁さんは「悪いから・・・」といったが「いいから。ほら」と嫁の手から娘用のスプーンを取り、娘に食べさせた。
嫁は小さく「ありがとう」と言い、暖かい食事を食べ始めた。
嫁はいつもより早口で食事をし、俺と交替した。
俺の手からスプーンを受け取る時、「ありがとう・・・本当にありがとうね」と何故か涙ぐんでいた。
俺の皿には冷めた料理がのっていたが、それでも美味く感じた。
ええ話や…
人の死なない話っつーのはいいもんだ。
俺も子供できたら、面倒みるよ。
嫁さんに暖かい飯食わせてやる。
おいらも子育て中で、暖かい御飯なんかここ1年くらい食べた事が無かった。
ましてやキチンと食事したかなんて覚えていない。
この間の長期連休の時に、主人の実家に帰ったんですよ。
主人のお母さんが「子育て中は暖かい御飯なんて食べる時間が無いでしょ?(孫を)見ていてあげるからゆっくり食べなさい。」
さすが子育てのベテラン!よく解っていらっしゃいます。
お言葉に甘えて食べました。
御飯が冷えて硬くなっていないのは久しぶりでした。
なにより人のいる食卓で御飯を食べるのが嬉しかった。
「御飯ってこんなにあったかいんだ・・・」
お母さんのの優しさと、有り難さが心に染みて、いつも以上に美味しかったのを思い出しました。
おいらももし、息子が生まれてお嫁さんを連れてきたら同じ事をしてあげたいな。