いつものようにパソコンを開くと、あるはずのない着信履歴がそこにあった。
吉木さんだった。
俺はすぐさま電話をかけ直した。
吉木さんの着信履歴を見た瞬間、すべてが吹っ飛んだような感覚が包まれた。
彼女の声がまた聞きたいって思ってしまったんだ。
結局彼女は電話に出ず、次の日にようやく連絡が来た。
なんでも、最近すこし塞ぎこんでて、拠り所がほしかったらしい
そこで俺たちはまた、仲直りしてしまったんだ。
俺にはそのとき菜緒ちゃんがいる。あっちにも、本山がいる。
だけど、俺は毎日のように菜緒ちゃんではなく、吉木さんに電話を掛けるようになった。
吉木さんの声が聞きたい。
吉木さんとかかわりたい
吉木さんと、仲良くなりたい。
2人とも、お互いの恋人には内緒で、毎晩電話を繰り返した。
夏休みになり、ついに俺たちは遊ぶ約束まで取り付けてしまう。
菜緒ちゃんにはすごく申し訳ない罪悪感でいっぱいだったが、吉木さんは友達だと、自分にしつこく言い聞かせた。
ちなみに俺んちで遊ぶことになった。
2人で俺の部屋で密着して青鬼をやってた。
俺らはどっちもゲーマーでさ。
菜緒とゃんとは普段こんな遊びはしないなあなんて思いながらゲームしてた。
青鬼が出てくる度に悲鳴をあげる吉木さんが本当に本当にかわいくて、
ずっととなりにいれたらいいのにななんて邪な考えが頭をちらついた。
何事もなくゲームしたりお茶したりして、家を出た後、帰り道にあのときの公園によることになった。
吉木「なつかしいですねここ。いつぶりだろう」
俺「1年の終わりの三月だから…ちょうど一年半だ!」
吉木「もうそんなになるんですねぇ」
吉木さんと、あのときと同じベンチに座って、他愛のないはなしをした。
吉木「あのさ、私、本山くんと別れたんです」
俺「は!?」
俺「そ、そうなんだ…」
またしても期待で胸がふわっと浮いた。
吉木「それでね、また松岡くんに告白しようと思うんです」
俺「」
何を考えてるのかホントにわからない
この女は本当にわからない
吉木さんの言い分はこうだった
本山くんと付き合ってるときも、松岡くんのことがわすれられなくて、ついこのあいだ、それをちゃんと本山くんに打ち明けて、きっぱりわかれたそうだった。
俺「また捨てられるかもしれないのに?」
吉木「うん」
俺「またずたぼろにされるまで散々されてポイかもだよ?」
吉木「でも、好きなの。自分でも頭おかしいって思うけど、好きなんです。」
吉木「都合のいい女でもいいからそばにいたいっておもっちゃうんです」
もう松岡の何がいいのかとか、そんなベクトルの話じゃなく、この子も俺と同じだ。
依存してるんだ。
そう思った。俺がふとした拍子に吉木さんのことを思い出すように
彼女もまた、松岡が心の奥底にいるんだと。
その話を聞いて、俺は一年の頃持っていた、プラトニックな感情がよみがえってきた。
あの頃の悔しさが、せつなさが、歯がゆさ再びこみあげてきた。
吉木「もう・・・いこっか」
そういって彼女はベンチを立ちあがり、
俺はおもいきり彼女の背中に抱きついた。
その間俺はずっと、好き、好きなんだよ、彼女の耳に連呼していた。
吉木「ちょっ、ちょっちょちょ。あwfdj」」
俺「なんで、松岡なんだよ!どうしていっつもいつもいつもあいつなんだよ!」
吉木「駄目ですよ俺君には菜緒ちゃんが」
俺「なんで俺じゃだめなんだよ!!!」
ちゃんとやり遂げたいんです」
吉木「もう決めたから・・・」
彼女の頭をなでると、彼女は今まで見たことのないくらい切なくてやりきれない表情を浮かべた
そのあと、雨が降ってきて、二人でびしょぬれになりながら、駅まで帰った。
二人とも傘を持ってたのに、吉木さんが「私、今は雨にあたりたい気分です」といってたので
傘は差さなかった。
彼女が告白するのは8月4日だと聞いた
俺はその日、ものすごい罪悪感に駆られ、吉木さんに
「菜緒ちゃんと別れます」とメールを送ってから、
菜緒ちゃんに別れを切り出した。
吉木さんのことは言わずに、お互いこれから受験だからという
当たり障りのない理由で別れた。
結局のところ2日前に告白して振られたそうだった。
ここで松岡がオッケー出さなかったことだけが
俺にとって唯一の救いだった。
明日同じスレ立てますきっと
本当に遅くなってすまない
まだ書きため途中だが、もうすぐ終わりそうなので、
ゆっくり投下してく
俺は意を決して、吉木さんに電話した。
しかし吉木さんは電話には出てくれず、仕方なくメールで告白することになった。
返事はこうだった
吉木「今までいっぱい迷惑かけてつらい思いさせてばかりで本当にごめんね。
でも、私が俺くんと付き合うことは、たぶんないと思う」
ああ、そっか、俺が松岡に勝てないんじゃなくて、最初っから俺は土俵に立ててはいいなかったのだと。
勝負になんてなっていなかった、彼女の恋人候補圏内にハナっから入っていなかったのだと。
吉木さんは俺だから付き合えないんだと。
俺みたいなキモヲタがなに勘違いしてあんな高嶺の花に手を出そうとしていたんだろうか。
さすがにここまで言われて、忘れられないほうがおかしい。
今度こそ、吉木さんとは縁を切った。俺からすっぱりと。
菜緒ちゃんはまだ俺のことが好きだったみたいで、
俺も菜緒ちゃんが一番の心のよりどころとなりつつあった。
9月を終えたころには、俺たちはまた恋人関係へと戻っていた。
お互い部活も終わっていたので、ふつうの高校生のように一緒に下校したり、休日にはデートしたり
するようになった。
やがてキス以上のことも多少するような関係になり始めた。古い言い方だけど、ABCでいったらBまで。
菜緒ちゃんは、本気で俺のことを愛してくれていたと思う。
菜緒ちゃんのことは確かに好きだった。本当にいい子で、こんないい彼女が持てて幸せだって何度も思った。
だけど、やっぱり俺は違ったのかもしれない。
心の中のどこかで、ずっとずっと吉木さんの影を追ってて、
学校で吉木さんとすれ違いざまに目が合うと、「ああ、もう気軽に話しかけられないんだな」
なんてズキズキ心が痛んだ。
吉木さんは俺の中で大きくなりすぎていたんだ。
俺はというと10月にAOで受験が終わっていたので、彼女に会えずさみしい想いをつのらせていた。
きっかけは本当に些細なことだった
自分でもバカだなって思う。
ある日、夢を見たんだ。
10年後だか20年後だかわからないけど、俺にも吉木さんにも奥さんと旦那さんがいて。
二人は喫茶店かどこかで再開するんだけど、
吉木さんの姿はやつれててものすごく変わり果てていて、ズタボロだった。
そんで、お互い「今、しあわせ?」って聞きあうんだ。
吉木さんは、死んだ目を無理やり引きつらせて笑顔を作りながら
「とってもしあわせ」って答えるんだ。
たかが夢だろって思うかもしれないけど、その夢をみた翌日
俺はずっと考え続けた。絶対俺は吉木さんに手が届くことはない。
だけど、どうしようもなくもどかしかった。
なんでもいいから、卒業までに、もう一度彼女に想いを告げようと思った。
たとえその時、菜緒ちゃんが俺の彼女だったとしても。