ともかく、自己紹介のときだった。
その子は背がとても低くて黒髪のショートカットがよく似合う女の子だった。
顔は吉木りさと石原さとみを足して二で割ったような感じで、だけどとにかく小さくて細くて華奢だった。
ちなみに、半端なく可愛い。
名前は吉木さんにしとく
自己紹介の内容は、「みなさんの迷惑にならないよう頑張りますので3年間よろしくお願いします」
みたいなこと言ってたかな。
あと、中学ではソフトテニスやってたって言ってた。
だなぁーなんてそんとき思った。
彼女の目はすごくまっすぐで、その自己紹介ひとつに対しての一生懸命さがなんとなく伝わってきた。
たかが自己紹介なのにな。
で、なんでだかはわからないけど、この子は俺の知らないことをいっぱい知ってる、俺にないものをいっぱい
持ってるなって直感したんだ
ホントにばかみたいな話だけどなw
純粋にただ素直に、彼女のことがもっとよく知りたいって思った。
あの頃の俺はこれからの高校生活になんの不安も抱いていない、ただのガキだった。
高校生活が本格的にスタートしての、最初の一週間やそこらなんてのは、どこも一緒だろう
自分の今後のクラス内での立ち位置が左右される大事な時期だからね
早くクラスに溶け込まんとみんな躍起になってて、俺も彼女とは関わる暇なんてなかった。
ようやくクラスになじんできた4月の中盤頃だったかな
ある日、俺らの男子グループの中で、昼休みにあるゲームが行われることになった。
指スマで負けた奴が、クラスの中の気になる女子のメアドを聞くという罰ゲームのような遊びだ。
指スマってのはあれね、「いっせーのwwwいちwww」とかやるやつね
高校時代そういうことやったことある奴いるよね
なかったわけだが、お約束通り俺はその指スマで無残に負けた。
つまり、罰ゲームを受けることになってしまった。
放課後までに、気になる女子のメアドをゲットする。
俺は、気になる女子といえば、吉木さんしかいないわけで。
だけど一度も話したこともない女子にいきなりメアド聞くなんてそんなリア充じみたことは到底出来る気がし
なかった。
休み時間とか、彼女に声をかけようともくろむも、いかんせん
彼女はものすごい集中した表情で机に向かって予習?のようなことをしていて
とても話しかけづらかった。
しかも吉木さんはなにがすごいって、授業が終わった途端、机の上の消しカスをすべてゴミ箱に毎時間捨てに
行って、そのあとすぐに自分の席について予習を始める超絶優等生だった。
消しカスをゴミ箱に捨てに行く生徒とか見たことねーよってびっくりしてた。
先に結果を書けよバカ
チラ裏だから
さすがにそのころには俺の決心も固まり、あとは彼女と二人きりになれればって感じだった。
吉木さんがかばんを持って席を立ったので、俺も後に続いた。
俺たちは、下駄箱で、二人きりになった。
俺氏心臓バクバク。でも行くなら今しかない
意を決して俺は吉木さんに声をかけた
俺「あの、吉木さん・・・?」
吉木「は、はい?」
俺「あー、えっと吉木さんってテニス部入らないの?」
吉木「えと・・・硬式テニス部に入ろうと思ってます・・・」
俺「そうなんだ!俺は軟式かな。」(俺氏小学校の頃からテニスやってる)
吉木「そうなんですか」
俺「あ、あのさ、吉木さん。もしよかったら、メアド交換しない?」
吉木「えっ?・・・あ、いいですよ」
俺「マジ!?ありがとう!」
今思い出すと、明らかに脈絡がなさすぎる。不審者レベルだろww
彼女は俺に話しかけられた時は少し戸惑ってた様に見えたけど、メアド交換する時に笑顔で「ありがとうござ
います、じゃあ後でメールしますね」
って言ってくれて、それがなんだか嬉しかったし、ちょっぴり恥ずかしかった。
そんなこんなで俺は吉木さんのメアドを手に入れてしまった。
たぶん全部の始まりはここだったなって今になってみると思う。
俺はウキウキしながらその日部活に向かった。
あの頃はまだガラケーが主流でさ。俺も吉木さんもガラケーだったもんだから、ものすごい長文のメールを
毎日毎日何度もやり取りした。
ライン世代の今の高校生は分からないだろうなあ
あのメールの着信を待つドキドキ感とか、彼女から来たメールを開いたとき、ズラッと可愛らしい絵文字付き
でつづられた長文が目に飛び込んでくる嬉しさとか。
メール内容は、ホントにくだらない些細なことでさ。
その日あったことだとか、課題の内容についてだとか、お互いの中学時代の恋話とか、そんなこと。
聞けば、吉木さんは生まれて初めて用のないメールをしたらしい。
高校に入って一番最初にメアド聞いてくれた男子が自分だということが俺は嬉しかった。
罰ゲームも受けてみるもんだな。
な人だったんだ
でも、それと同じくらい「ありがとう」もたくさん言っていた。
俺は彼女のメールや会話が大好きだった。本当にいっぱいの優しい気持ちが言葉の一つ一つに含まれているみたいでこっちもとても優しい気持ちになった
天使みたいな子だなって、思った。
彼女とメールするのは、一晩で100件を超すことなんかザラにあったし、
彼女のメールは一回が最低でも5行以上と、長文だった。
俺は学校でも彼女とよく話せるようになっていたし、俺は彼女の事が好きになり始めた。
文化祭の出し物の役割を決める話し合いがあって、
俺は犯人探しみたいな出し物の係挙手をした。他の人も何人か手を挙げた。
吉木さんもそれに手を挙げていた。
しかし定員が一人だけオーバーしていて、じゃんけんで負けた一人が抜けるってなった。
まあ当たり前だよな。
そこでも俺の悪運だか幸運だかはしらない補正がかかって、じゃんけんで、俺と吉木さんは二人とも負け、
どちらかが抜けなくてはならない状況になってしまった。
正直吉木さんと同じ出し物に出れるかも知れないってウキウキしてた半面、どちらかが抜けなくてはいけなく
なるこの状況に落胆した。
まあでも俺はそこまでその出し物に出たかったわけではなかったので、吉木さんにゆずることにした。
吉木「え?そんなのだめです、私友達に合わせてこれ選んだだけなので、俺くんが出てください!!」
俺「いやwwホントに俺は大丈夫だから。それに他にもやりたいなって思ってたやつあったし」
吉木「そんなこと言わないでください!その他の出し物も出れなかったらどうするんですか!?」
俺「あ~、そんときは文化祭無職かな?ww」
吉木「そんなの本当にダメですよ!私が辞めればいい話しですから!」
お互いの譲り合いになかなか終止符が打たれず、でもここまで女子に言われて俺も引き下がることはできず、
結果的に俺が抜けることになった。
譲り合いにフィーバーしすぎて、吉木さんは「私のせいで・・・」と半分涙目になったり
して、クラスの連中から変な目で見られてしまった。
なんでも、その出し物に出る女の子グループからあぶれちゃうと、他にはまだなかいい女子がいなかったらし
い。
彼女と同じ出し物の準備ができないのは残念だったけど、
彼女が望んだ出し物に出れて本当によかったと思う。
文化祭前の学校の雰囲気っていいよな。
暗くなるまでどの教室にも明かりがついて、生徒たちみんながひたむきに創作活動に取り組んでて。
俺はクラスの装飾係になったので、割と早く仕事も片付き、家に帰ろうと準備していた。
でもその時教室を見ると一人で黙々と出し物の看板を作ってる吉木さんの姿があった。
お世辞にも一人で終わりそうというレベルの進度には見えなかったし、それでもがんばる彼女の姿が
すごくけなげで印象的だったんだ。
吉木「え・・・?あ、大丈夫ですよ?迷惑かけちゃいますし・・・」
俺「いやそれあきらかに一人じゃ大変そうだし、手伝うよ。」
半ば強引だったが、俺は彼女の向かい側に座って、看板製作を手伝った。
俺「ピンクはここでいいんだよね?」
吉木「はい、そうです。赤、使いますか?」
俺「お、ありがと」
吉木「あの・・・」
俺「ん?」
ま「俺くん、手伝ってくれて本当にありがとうです。あの時も出し物譲ってもらっちゃったりして・・・
俺くんにはいつも迷惑かけてばかりです。本当、ごめんね?」
俺「いいっていいって。俺も暇だしさww」
ありがとうですって言いまわしがなんだか面白くて吹き出してしまったのを今でも覚えてる。
なぜだかいつも敬語だったんだ、彼女は。
リスっぽい)の4人だった。
俺はクラスメートのリア充と、吉木さんは、リス子(第一印象がリスっぽい)と帰ろうとしていた。
そんとき、俺の隣にいたリア充が、こういった
リア充「なあ、この後4人でマックでも寄ってかねー?」
俺「!?」(リア充まじグッド!!お前マジサイコーだわ)
リス子「いいねえ!!いくいく!吉木っちょもいくっしょ?」
吉木「あのぅ・・・私なんかがご一緒して迷惑にならないでしょうか・・・?」
リス子「ちょwww吉木っちょオドオドしすぎwww」
吉木「す、すいません・・・」
俺「大丈夫だよ!せっかくだからいこ!」
吉木「はい!」
多少文化祭テンション効果もあったのだろう。
こうしてリア充のおかげで、俺ら四人は駅近くのマックに寄ることになった。
ごく自然に吉木さんと帰れるわけだ。
こういうことが平然と言えるからリア充はリアルが充実してるんだな。
リア充はなぜだか道中、ずっとリス子の隣にいて、リス子としゃべっていた。
そのおかげで俺はずっと吉木さんの隣に入れた。ポジションってホント大事だよね。
今思えばこの時はもうリア充は知ってたんだな、俺が吉木さんのこと気になってるって。
マックでは、そのときポテトがどのサイズ選んでも150円っていうやつがやってて
ジュースとポテトのLを頼み、4人でポテトをトレーにだして食べた。
「こうしてクラスメートと帰り道に寄り道して帰るの、私夢だったんです」
と目を輝かせながら言っていた。
吉木さんは、世間知らずで、どこか抜けていて、いつもビクビクしていて、
だけど、どんなことでもひたむきで、一生懸命で、頭ん中花畑でも咲いてるんじゃねーのかってくらい、天使
のように優しい子だった。
だって、本当に撫でたくなるようなサイズなんだもん。
どういう脈絡で撫でたかは覚えてない。
一瞬ビクッ!ってして、頬を赤らめながら上目づかいにほほ笑んでくれた。
吉木「頭撫でられるの私・・・好きです」
俺「吉木さんはちっちゃいからねw よくいろんな人が撫でてくれるでしょ」
吉木「ちっちゃくないです!!!俺くんなんかしりません」
俺「ごめんてごめんてwww」
その帰り道で彼女とたくさんの話をした。
進路の事や、将来の夢。気になってる人とかいるの?とか聞いたらいるって言ってた。
もしそれが俺だったらなぁって何度考えたことか。
二人で並んで帰った駅までの道は本当に早く感じられた。
吉木さんの衣装はとても可愛らしくて、すごく似合ってて、思わず見惚れてしまった。
後夜祭のバンド演奏を見てる時、図らずも隣には吉木さんが居て、
バンド演奏のときってすごく密着するじゃん
ギュウギュウ詰めになりながらものすごい二人ともすごく距離が近くて。
彼女の顔の近さに俺はバンドどころじゃなかった
バンド演奏見て興奮気味にピョンピョン小さな体を跳ねさせている彼女の横顔は、
言葉にできないくらいキラキラしてて、愛しかった。
「ああ・・・俺はこの子のことが好きなんだな」ってはっきり感じた。
本能的に、この子が欲しいって思った。
俺のこの想いをを彼女に伝えたい、そう思うようになった。
文化祭が終わってからも、吉木さんとのメールのやり取りは続き、そろそろ告白しようかな?
なんて淡い期待を持ち始めた、そんな7月のある日のことだった。
俺「いや、別に狙ってるとかそんなんじゃないって」
クラスの連中からしたら明らかに俺と吉木さんは仲が良すぎたし、そう思われてて当然だった。
しかし、それを誰かにバラスのは嫌だった。
誰にも言わないからなんて言葉ほど当てにならないものはない。
俺「へぇ・・・」
メリットという言葉にちょっとした期待を持ってしまった俺を誰が殴ってほしい。
吉木さんが俺のことを好きとかそういう類の話かなって思っても仕方なくないか
この場合、メリットなんて単語使われたら誰だって反応しちゃうと思うんだ。
リア充「で、どうなんだよwww正直なところは・・・?」
俺「好き・・・かな」
リア充「だよなwwwやっぱりwwww」
リア充が俺の肩にポンと手を置いた、俺はこの瞬間を絶対に忘れることはない。
リア充「お前、吉木ちゃん諦めろwwwww」
俺「は?」
リア充「吉木ちゃん、松岡と付き合い始めたwwww」
誰も見てなかったら落としてくれといて構わない
遅くて悪い
吉木さんが、松岡と?なぜ?聞いてねーぞ。
松岡ってのは、クラスメートの一人ね。俺も多少仲良かった。
俺「いや、冗談だろ?」
リア充「や、ガチ」
俺「松岡にちょっと聞いてくる」
リア充「待て俺も行くわ」
俺は廊下にいた松岡のもとへ向かった。
正直、何が何だかわからなかった。第一、松岡と彼女がクラスでしゃべっているところを俺は見たことが無い
そんなの信じられなかったんだ
松「どうした?俺」
俺「お前、吉木さんと付き合ってるのか・・・?」
松「そうだけど?ww何で知ってるしwww」
俺「それは・・・」
リア充「俺が教えてやったんだよwwwwwwwwwwwこいつ真菜ちゃんに気があるみたいだからさwwwwwきちんと教えてやったwwwwwww」
俺「おい、おまっそれは」
松「まwwwwじwwwかwwwww ごめんな、俺wwwwwww」
二人に本気で殺意が湧いた
同時に、言い表しようのない悔しさが込み上げてきた。
ただとにかく信じられなかったし、信じたくなかった。
俺はその場から逃げ出し、次の授業を無欠しトイレで泣いていた
その日は早退し、午後中家にこもった。
悪い冗談なのではないかと、夢なんじゃないかと何度も思った。
せめて最後の確認と、俺は震える手で、吉木さんにメールを打った。
俺「吉木さんて・・・松岡と付き合いはじめたの?」
吉木「そうですよ~ どうして知ってるんですか??」
俺はケータイを投げた。
そして家のトイレで吐いた。
俺は彼女と連絡をあまりとらないようになった
学校でも、よくおはようとか話しかけられたりしたけど、
あまり長く関わらないようにしてた。
彼女とかかわってしまうとどうしてもむなしくなるから。はっきりとした恋愛感情を持ってしまった
自分は、彼女のことをまっすぐに見ることはできなかった。
よく休み時間に彼女と松岡はクラスの連中に弄られた。カップル的なノリでね
リア充「おいwwww松岡wwww吉木ちゃんとキスしろよwwwwwww」
みんな「キースwwwwwwwキースwwwwwww」
俺はそのキスコールや松岡たちへの煽りが耳を塞ぎたいくらい辛かった
彼女たちの話題がクラス内で揚がるたびに胸がズキズキと痛んだ。
彼女は何があってもそのキスは拒んだ
それだけが本当に救いだった
俺はクラスのやつらが嫌いになった。
彼女は本当に優しい人なんだ
松岡がクラスのいじめられっ子のチョイ池沼をいじめてる時とか
彼女はそれを必死に止めてた
彼女は誰に対しても平等で、分け隔てなく接していた
本当に優しい心の持ち主でいい子だったんだよ
それがまた、苦しかった
夏休みに一緒に数人でカラオケに誘われたこともあったけど断った
いけばよかったと思う。松岡もいなかったし
彼女への思いはそれでも募るばかりで
別れて欲しいとか、そういうことを思って彼女を見てしまう自分がすごく嫌になった
どうしようもないくらい、彼女のことが好きになっていたんだ。
なんだかんだ時期は飛ぶけど
年も明け、もうすぐクラス替えという時期に差し掛かった。
俺は、他校の友人とカラオケに行ったかえりに駅に行った
そこで、吉木さんとバッタリ遭遇した
ちなみにトイレ前
吉木「俺くん・・・」
俺「どうしたの?こんなとこで?一人?」
吉木「そうですよ、遊びに行ってた帰りなんです。俺君は?」
俺「まあ、俺もそんなとこ」
吉木「そうなんですか」
俺「うん!じゃ、またね!」
吉木「えっ・・・あ・・・バイバイ」
吉木さんはホームに降りて行った