正直言うとこの時になっても、おれはまだみぃちゃんのことが少し気になっていたが、ふらふらしている自分の気持ちを確かめるためにも、今日が大事なんだ、と自分を鼓舞していた。
紅葉も終わり、街が騒がしくなるちょっと手前、11月の事だった。
日に日に寒さは増していき、人が恋しくなる季節だった。
優「待った?」
俺「いや、待ってないよ。」
などというありきたりな、しかし贅沢なやり取りの後、
とりあえずちょっと歩こうか、なんて言いながら、街を二人で散歩した。
俺「あの飛行機雲ってどのぐらいの速さで消えていくんだろう」
優「計算したらわかるかなw」
なんてどうでもいい会話をして、ちょっとオシャレなカフェで休憩した後、駅に二人で向かった。
デート中にもう完全に俺の心は優ちゃんに奪われていた。
みぃちゃん?ナニソレオイシイノ?
俺「手・・・・つながない?」
優「うん、いいよ」
この子の良いところは、こういうとき変に勘ぐったりせず、素直に反応できるところだ。
そういって手をつないで駅まで向かった。
いわゆる恋人つなぎだった。
ここから「お茶ぐらいさそうよね?」みたいな世間一般の男女関係みたいなのは、面倒だ。
俺は早速Dに会いに行き、
俺「やってやったぜ、これ行けるんじゃね?」
と話した。
Dはミスチルの弾き語りに夢中だったが、俺は続けた。
俺「これ脈あると思うんだよね。みぃちゃんと別れた方がいいかな」
D「まぁ二股はよくないよね。そうすべきだな。」
俺はみぃちゃんにやっぱり別れたいとメールで伝えた。
みぃちゃんは、そっか、と短く返事をしただけだった。
-みぃちゃん編・終了-
-優ちゃん編・始動-
今回は張り切ってボーリングから始まるデートプランを考えていた。
その日は俺たちの学校の創立記念日で休み。
町はいつも通り騒がしかったのに、俺たちはそのいつもの喧騒とは別の、ちょっとのんびりした雰囲気で落ち合った。
ボーリング場に向かうまでに話しながら優ちゃんが言った一言に俺はこの恋の成功を確信する。
優ちゃん「周りから見たら私たち、学校サボってデートしてるみたいだね」
近くから見る優ちゃんは、寒さに目をしぱしぱさせて、長めのマフラーを一生懸命顔に当てている。
他の女子とは違う、化粧をしていないのに真っ白な頬が、寒さで赤く染まっていた。
優「うーん、寒いねぇ」
ここで俺の無駄に積極的な部分がまた表出する。
俺「そのマフラー、一緒に巻かない?」
優「えっ・・・。」
こういう正直にびっくりしちゃうところがまたカワイイ。
優「恥ずかしいな。・・・うん。でもいいよ・・・」
そう言って、俺にマフラーを巻いてくれる優ちゃん。
お互いの気持ちは分かっている。
あとは言うだけだった。
ここで思い出されたのはNMBの悲劇だった。
早合点して暴走したら、失敗することだってある。
いやでもこの雰囲気はさすがに行けるだろ。
でも振られたらもうおしまいだぜ?
思考が錯綜する。
そうして10分間悶々とした後、なぜか俺の口から出たセリフは、
俺「キスしたらさ、付き合ってることになるのかな」
だった。
一見、一般論を語っているように見えつつ、着実にコトを進めている。
うん、まあキモイけど。
優「うん、やっぱり普通はそうじゃないかな?」
その時、ちょっと目線をそらした優ちゃんを見て、俺は「行ける」と思った。
俺の目に「チェックマーク」をつけていた時の獰猛さが帰ってきた。
俺は「じゃあさ・・・キスしない?」
うん
いいよ」
ドラマだったら、このまま無言で二人の顔が近づいて・・・
となるところだが
俺「えぇと、じゃあ・・・あー・・・どういう風にしようかな、どこに座る?」
こんな状況でも細部に拘ろうとする俺。
チュッ
優ちゃんからのファーストキスだった。
優「だっていつまでたってもしないんだもん」
なんということでしょう。
この子は俺よりも何枚も上手だった。
俺「・・・えぇと、じゃあ俺達ってもう付き合ってんのかな」
優「キスしたら付き合うんでしょ。だからそうじゃない?」
俺「え、俺の事好きなの?」
優ちゃん「うん・・・
・・・好きだよ////」
て、照れやがった。
かわいい。
そして
街はクリスマスに向けて動き出した。
まったりと「恋人」としての日々を過ごすようになった。
二人とも初めて付き合ったということもあり(俺も実質初めて)、なんとなく距離を確認しながらの安全運転のような恋だったと思う。
俺なんかでも、女の子と手をつないだり、キスしたりできるんだ、ということがうれしくてたまらなかった。
俺と優ちゃんは、とても仲が良かったが、時々些細なことで喧嘩もした。
多分二人の距離が近すぎたんだと思う。
感情を押さえつける理性も、気持ちを落ち着かせる経験も、当時の俺にはなかったが、ふたりで一生懸命努力して、その喧嘩さえも、愛に変えていくことができていたと思う。
Dが親の都合で一人暮らしを始めたのだ。
この家が俺の家からも、ともちんの家からも絶妙な距離にあったので、よく俺と優ちゃんとDとともちんで集まったりしていた。
4人でダブルデートにネズミーランドに行ったりもした。
しかしそれ以上に、俺がDの家に入り浸るようになり、よりえげつない作戦会議がおこなわれるようになった
この作戦会議が深夜にまで及んで、テンションがおかしくなり、Dとふざけて、彼女への思いを歌にしてみたりした。
さすがに誰にも披露したことはないがw
今から思えば超絶リア充に聞こえるが、当時は普通だと思ってた。
特別を意識したことなんてなかった。
そんな風に、幸せな時間をかみしめる暇もなく、もう二度と来ないかもしれない時を携えて、時間は流れて行った。
青春が終わりに近づいてることも俺たちは知らずに、春が目の前にあった。
一人でいることは少なくなり、「8人組」といることが増えた。
もちろん一番一緒にいたのはDと優ちゃんだったが、Dたちとダブルデートなんかしてるうちに、俺はともちんとも仲良くなった。
優ちゃんとDは、よくモーニング娘。の話で盛り上がっていた。
俺とともちんは、Jリーグの話を良くしていた。
俺「え、ともちん川崎フロンターレ好きなの?」
ともちん「うん!テレビだけだけどよく見るよ!応援してる!」
俺「へえ、意外なチームが好きなんだね。誰が好きなの?」
ともちん「中村憲剛」
俺「^^;」
Dがいなければ、仲良くなろうとも思わなかっただろうが、
ともちん「あたしたち、意外に相性ぴったりだね!」
とかふざけ合うぐらいになっていた。
更にいえば、当時俺がどう思っていたかも、あまり思い出せない。
でも少なくとも、今冷静に思うと、俺は「ともちんが好き」という気持ちが芽生え始めていた。
別に優ちゃんが好きじゃなくなったわけじゃない。
その「好き」もカイワレ大根程度のちっちゃい芽だった。
優ちゃんのことは、それはそれは大好きだった。
だから、正確に言えば二人がそれぞれ「好き」だったのだと思う。
しかも、ともちんはDの彼女。
しかも、4人は仲良しだ。
色々な思いを抱えながら、でもそんな罪悪感を触媒に俺の気持ちは加速度を付けてともちんに近づいていった。
高校生活も終わりを迎え、桜の散る中、卒業式。
卒業式は、どこにでもある、ありふれたものだった。
D「ううぇーいwwwww」
こいつのテンションは相変わらずふっきれてた。
特に、何の感慨もなく、俺は高校を卒業した。
が、波乱はこの後にあった。