前記事⇨女の子「いつも一緒にいるのに、どうして私をみないの?」俺「へ?」→急激な展開にwww【5/7】
夏コミは青春って感じがして、ほんとうに楽しい。
あくまで個人的感覚だが、
若さと情熱で溢れている。
俺は友人のスペースで、
そに子と友人と一緒に、本を売った。
前回同様、マッタリとだが本ははけてくれた。
すると、予期せぬ人が訪ねてきたのだ。
石田「よ、頑張ってるねー」
友人「おっすー」
俺「あーおつかれー」
正直、ドキッとしてしまった。
純粋に、来てくれたことを嬉しく感じた。
この時、そに子はどんな風に思っていたんだろうか。
コミケ終わった後
石田さん含めて俺たち4人でメシを食べに行った。
俺は、その最中も石田さんに
受験関連のことを聞き続けた。
石田さんに少し惹かれていたのか、
「美術の先生のなるんだ」
ってことばかり考えていたのか。
両方だったと思う。
そに子はどう思っていたのだろうか。
石田さんから連絡がくるようになった。
俺はそれが悪い気はしなかった。
もちろん、そに子への好意は全然生きていたし、
石田さんとの関わりは
自分でもよく分からない感情だった。
でも9月に入ると、
そんな寝ぼけたことを言ってられない
大きな壁にぶち当たる。
元々俺の家は片親だった。
母と、社会人の兄。
稼ぎ手も二人いたので、
経済的に困ったことはなかったが。
兄に一度帰ってくるように言われた。
母は入院したらしい。
「これからどうなるんだ?」
「母さんは、どうなるんだ?」
混乱した。とりあえず実家に帰ることにした。
手術は上手くいった。
しかしリウマチを発症した。
リウマチとは、手足がかたまって、
時期に動かなくなる病だ。
それに進行の早いものだったらしい。
兄「母さんはなんとか大丈夫だったけど、分かってるよな?」
俺「うん…もう働けないし、段々世話も必要になる、ね…」
兄「お前大学辞めるとか言ってたけど」
兄「今まで俺たち散々母さんに迷惑かけてきたんだから」
俺「……」
兄「諦めろ。母さん生きているウチに自立して、立派なとこ見せるんだぞ」
この時俺は号泣していた。
どうしてこんなことになってしまったんだろう?
自分が世界で一番不幸なんじゃないか、って思うくらいだった。
夢を追いたい、
でも今から大学に一から行き直したら…
母が生きてるうちに、
立派な社会人になりたい…
母にはどれだけ迷惑をかけたか。
幼い頃から、
俺たち兄弟をずっと育ててくれた。
いつか恩返しをする。
そして、俺は人一倍人の死に敏感になってた。
板尾を失った時のことを思い出して、
どうしようもなくなった。
諦める。そして真面目に就活して、絵は趣味にする…
そう、決心した。
兄と協力して車を出したり、
病院に行ったりしていた。
地元にいると大学の友だちと会えなくて辛かった。
もう授業も始まっていた。
でも、俺はこの「諦める」と決心した時、
まず最初に石田さんにメールした。
泣きながら。
特に深い意味はなかったと思う。
今まで散々学芸受験の相談にのってもらったし、
諦めるなら、はやくそのフシを
石田さんに伝えるべきだと思った。
もちろんそに子とは電話とかたくさんしていたし。
俺は石田さんに細かい経緯とかも伝えた。
今思えば、石田さんには
そんなに込み入った事情まで
言うべきじゃなかったって反省してる。
でもこういう時って、
本当に誰かに話したくなるんだよな。
俺辛い、辛いんだよ〜って。
八割くらいきたと思います。
今日中に終わることを目標にします。ごめん、長くて。
それから数日経った日の夜、石田さんから、
「〇〇駅に来て」とだけのメールが来た。
その駅は俺の実家の最寄りだった。
駅に行くと、
石田さんが笑ってベンチに座っていた。
田舎の駅だから、平日夜でも人はまばらだった。
明らかに嘘だった。
こんな時期に、大学生が帰郷なんかするか?
まあ本当に何かあったのかもしれないが。
俺「そうなんだ」
石田「直接話したかった…元気かなって。無理してるんじゃないかって」
石田さんはきまり悪そうに笑った。
なんて言ったらいいか分からなかった。
上手く話せなくて
何時間くらいそこに座っていたんだろう。
結末を楽しみにしてる
石田さんは真っ直ぐな人だったんだろう。
一瞬美保を想起したが、
それは考え過ぎだった。
石田「華丸くんはさ…そに子ちゃんが大事だよね。」
俺「誰よりも大事だと思うよ。」
石田「わたしはさ…ダメかな、ダメかもね…」
俺「……」
嫌な予感はした。
告られたらリア充とか言われそうだが、
この時の精神状態で、
誰かを振るというのは、きつかった。
なにしろ石田さんとの関係性は失いたくなかった。
アッサリ終わるには惜しい話だ
嬉しいことである。とても嬉しい。
でも、今言わないで欲しかった。
もっと別に仲良くやっていく方法もあったはずだ。
俺「ありがとう…でも…俺は…」
石田さんは強かった。
表情一つ変えなかった。
覚悟もしていたのかな。
石田さんは笑って、
石田「じゃあさ、儀式しようよ!」
と言い出した。
俺「儀式…?」
もなんやかんや言って実はまだけっこう長いから、
今日中には終わらないかもw
良かったら…付き合ってください!」
俺「ありがとう、ごめんなさい…」
石田「ふられちゃった」
石田さんはニシシとばかりに苦笑いした。
正直、その時俺は気持ちが持って行かれるんじゃないかと思った。
石田「恋人がいる人に告白するなんて、あたし卑怯だー」
石田「そに子ちゃんはいい子だもんね、あたしもがんばる」
何も言えなかった。
石田さんはそう言って改札をくぐっていった。
最後まで何も言わなかった気がする。
遠くで手を振られて、
ただ振り返すしかなかった。
あまりに叙情的な景色だったから、
ハッキリと覚えている。
自分でもなんだこの状況?ってなった。
心にぽかんと穴が開いたみたいだった。
ちょっと晩飯を食べてきます。
なので30分ほど時間あけて、
また再開しますね〜
待ってるよ〜
正直、こんなにたくさんの人に自分の話を
見てもらえるなんて思ってもいなかったです。
ここまで続けるのは大変でしたが、
みんなの応援のお陰です。
あと少しになってきましたが、
最後まで付き合って頂けたら嬉しいです。
ゆっくりでも見てるよ
ゆっくりでいいから投下してってくれ
を見ているかのようだった。
まるで、中学生に戻ったかのような、
そんな青臭い自分を感じた。
家に戻ると兄が玄関にいた。
兄「女か。」
昔から兄は鋭かった。
母の病院に行かない夜は
何があってもいいように
一緒に家にいて、
二人で格ゲーをやっているのが普通だったからだ。
遅い時間に帰ってきたから不審に思ったんだろう。
兄「地元の友達にでも会ってきたのか」
俺「ま…そんなとこ…」
思えば、小さい頃はよく母と病院にきたものだ。
この眼科もそうだった。
俺は診察の時先生に言った。
俺「実は母が…」
先生「そんなことがあったのか…華丸君が小さい時から知ってたからなあ
辛いけど、今はそばにいてあげて」
先生は初老のじいちゃんだ。
これが田舎の地元のいいところだ。
地元に戻れば、家族みたいな人がたくさんいる。
俺は元気をだそうと思った。
半年に一回の受診でしか会わないのに、
こうやって心配してくれるんだ。
石田さんだって、
心配だったんだろう…
母のことで鬱屈としていた俺は
元気をだそうと思った。
じきに、母は退院した。
癌の方は一旦おk、ということになったようだった。
これからは自宅で、
クスリで再発防止の抗がん治療をするようだった。
しかしリウマチがあったので、
しばらく自宅で療養することになった。
あまり大学を休み続けるわけにもいかなかったので、
俺は実家から戻ることにした。
大学、絵、何もかもが久しぶりに思えた。
そに子がすごく心配してくれた。
なんだかほっとした。
だんだんと、日常をとりもどしていく気がした。
できる限り、実家のことを思い出さないようにしていた。
逃げていたのだろう。
向き合うのが辛かった。
どうしたらいいか分からなかった。
夢…就活…
この頃絵を描くのがすごくつまらなくなった。
なんで描いているんだろう?
分からなくなった。
板尾がいたらなんて言ってくれたろう。
なんでアイツはあんなに
絵を描くのが好きだったんだろう。
俺は分かって気になっていたが、
分かっていなかったんだ。
板尾がいなくなって、
俺は板尾の代わりに夢を追うような、
そんな気持ちで居たのかもしれない。
異性不信を克服するため、
また恋ができるように、
落ち込んでいた俺を板尾が
変えるために絵を薦めた。
今ではすっかり異性不信もなくなったし、
そに子がいた。
絵を描く意味が分からなかった。
絵を描く必要があるのか。
そう考えだした。
そに子「冬のコミケの当落、もうすぐだね〜」
コミケ…?
俺は夏にそに子と一緒に
冬コミの申し込みをしたのだった。
と言っても、そに子が張り切っていたので、
全部そに子に任せていたのだが。
俺「コミケ…ね。一人で本出すってのでも…いいんじゃない?」
そに子「…え?」
俺「いや…絵を描ける気がしないし、本出せないわ、絶対」
俺「もう、描かないかもね…わかんね」
そに子「そんなん嫌だよ…そんな華丸さん嫌だ」
俺「なにが?」
そに子「なんで…絵楽しいって言ってよ、一緒に楽しく絵描こうよ」
俺「うるさいなあ、お前に何が分かるんだよ」
そに子「なんで?急に?絵描くでしょ?描かないなんて言わないでよ!」
俺「描かないもんは描かないんだよ、大体こんなもんなあ…!」
珍しく、大喧嘩だったと思う。
そに子「どうしちゃったの…嫌だよ、こんなの嫌だ…」
俺「俺だって分からないんだよ、
なんで絵を描くのか。
絵を描いて夢を追う、
それが全てだったんだよ。
それがなくなった今意味なんて…」
そに子「絵を描くことに意味なんているの?
楽しくて描いてたんでしょ?」
俺「板尾がいた時は楽しく描いてたよ…
わかんねえんだよ俺も…
アイツがいないと、描く意味ないんだよ…
夢を追ってれば俺の中で
板尾がい続ける気がしてたんだよ…」
そに子「そんなの全部言い訳にしか聞こえないよ!
そもそも、板尾さんの夢は
板尾さんだけの夢じゃないの!?」
そに子は珍しく感情むき出しだった。
そに子「逃げないでよ!現実から!
受け止めてよ…夢を諦めたって、
華丸さんが絵を描き続ければ
板尾さんは生き続けるでしょ!?
板尾さんが華丸さんに
絵を教えてくれたんでしょ!?
そこで描くのやめてどうするの……?」
そに子「それに、私は華丸さんの絵が好きだもん…
わたしだけじゃないよ、
きっと、今まで本を買ってくれた人も、
PIXIVを見てくれる人も…
そういう人たち、
みんな寂しい想いするんだよ…」
最早聞き取れないくらいに泣いていた。
俺「……」
俺はあっけに取られて、
何も言えないでいた。
俺は、俺は……
そに子「絵を描くのは…好きでしょ?」
俺「……好きに決まってるだろ」
絵を描くのは好きだ。
だから今までずっと描いてきた。
下手なりに、もがきながら、
見てくれる人たちがいたし、
ひたすら描きたいものを描いてきた。
思えば、絵を通してどれだけの人に出会い、
どれだけの人に支えられたのか。
板尾もそう、そに子もそう、
遠藤や石田さんだってそうだったろう…。
コミケで俺の本を買ってくれた
一人一人の顔も覚えてる。
あの日、完売した俺たちに拍手をしてくれた
隣のスペースの人たちのことも…
気づけば俺もボロボロだった。
俺「…描いて…みるわ…」
そに子「わたしより可愛い女の子、描いてよ」
俺「…それはどうかな…w」
泣きながら笑っていた。よく分からなかった。
全力でぶつかることにした。
と言っても、
普段通りに描くだけだったのだが。
普段通りのページ数で、
普段通りの絵で、
普段通りのイラスト本。
一緒に一冊作ろうと思っていたが
俺はこの一件で怒られたので
そに子「どっちが早く完売するか勝負する!」
と言われて結果個人本を描くことになった。
頑張りつつも普段通り。
それが楽しかった。
絵を描くのが、楽しかった。
「理想の女の子を紙におとしこめよ」
やっぱりそれが楽しかった。
そに子には悪いが。
吹っ切れてからは、
絵を描くのが楽しくて仕方なかったなあ。
本当に楽しかった。
でも俺にはもう時間がなかった。
みなさんよかったらお付き合いください…
そして、晴れて冬コミの日がやってきた。
俺もそに子も、
もうワクワクが止まらなかった。
もう、存分に楽しんでやろう、そう思ってた。
そに子「ひえ〜…相変わらずすごい人…」
俺「毎回サークル入場だと、なんか申し訳なくなるな…w」
ビッグサイトのやぐら橋前には、
相変わらず信じられない数の人がいた。
そに子も俺も、
相変わらず自分の本を見ると、
興奮が止まらなかった。
知り合い、憧れの作家さんに挨拶に行って、
前回のコミケの話とかしたり。
見本誌提出するのにテンパったりw
始まる前のワクワク感、ってのは
言葉にできないものだ。
ぱちぱちぱち…!
そに子「ああ、始まった…」
そに子は相変わらず顔真っ赤だった。
俺「たまんないよな…この瞬間」
そに子はオンデマンドフルカラーで30部、
俺もオンデマンドフルカラーで50くらい。
決して冒険をした部数ではなかった。
「新刊一部、ください」
この言葉を聞くたびにこう、
体が熱くなるのを感じた。
「ありがとうございます!!」
絵を見てくれる人に
実際に向き合って本を渡す喜び。
この日そに子も俺もそれを肌で感じた。
去年の冬コミくらいの感動が、あった。
「描いてて良かった…」
そんなことを感じていた。
そに子も俺も、午後に本は完売した。
そに子「ど、どうしよう〜」
そに子は案の定半泣きだった。
俺「頑張ってよかったね。」
これは去年の冬に板尾が言っていたことだ。
そう、頑張って良かった。
絵を描いててよかった。
笑ってはいたが俺も泣きそうだった。
これからもずっと、絵を描くぞ…
ただ、俺にはもう時間がなかった。