私が勤める会社は従業員30人くらいで、さほど大きいというわけでもありません。
それでも、会社トップの人たちはそれなりに従業員の働きやすい環境を整えてくれていて、
よほどの急ぎの案件がなければ定時で帰れるし、土日・祝日はほぼ100%休めます。
近所にある同業他社が大雨で被災したので、
復旧作業が終わるまであちらの業務の一部を引き受けることになったのです。
従業員それぞれの仕事内容にもよりますが、残業に追われる人も出てきました。
ついには休日出勤もすることになりました。
土曜日・日曜日・祝日、どの日も全従業員の半分程度が出勤するという具合で、
毎日誰かが会社にいる状態が1か月ほど続きました。
この勤務体制に不満を持つのがAという従業員で、休日出勤の指示に従おうとしません。
「だって、せっかくの週末だもん。わざわざ出勤したくない。
観光地に出かけて、いい男を見つけるのが週末の習慣。ミャハ。」
いい男云々の話は、Aの入社以来、休憩や帰り支度のときにさんざん聞かされて
飽きた話題ですが、まさか仕事を断る言い訳に使うとは。
(親戚の法事や歯医者の予約をキャンセルしてまで出勤する人もいるんだぞ。)
会社トップの人たちもAのもとに来て、
「特別扱いするわけにいかない。」
「あっちの会社(=被災した同業他社)の人はもっと大変な思いをしている。」
と説得したものの、結局、割り当てられた4回の休日出勤にAは一度も来ませんでした。
(つづく)
やがて、繁忙期という大波が収まり、通常の体制に戻りました。
ある日、全従業員が集まった朝礼で、社長の話がありました。
「皆さん、この1か月の間、会社の忙しくなった時期に休日出勤という形で協力して下さり、
ありがとうございました。そのお礼として、全員いっぺんにというわけにはいきませんが、
休日出勤してくれた日数分だけ交代交代で平日に休めるようにしておきたいと思います。」
朝礼が終わって部署に戻ると、テーブルにカレンダーが広げられていました。
よく見るとそれぞれの日付に数人ずつ、従業員の名前が書かれていました。
やがて、上司の説明が始まりました。
「休日出勤おつかれさま。とりあえず、臨時に出てくれた日数分だけ、平日の休みを
各従業員に割り当てておいた。日にちを変えたいという希望があれば早めに言ってくれ。」
早速、Aが自分の名前を探しました。
「私の、私の、……あれ、ないよ。」
上司が答えました。
「そりゃそうだよ。ないよ。だって、Aは休日出勤に一度も来なかったじゃないか。」
Aが不満を漏らしました。
「えー、平日の観光地はすいていて行きやすいじゃん。いい男を見つけるチャンスが減っちゃう。」
この場でまさか、いい男云々の話を持ち込むかよ。これにはさすがに周囲もドン引き。
Aの4回の無断欠勤に対して訓告などの処分は多分なかったでしょうが、それでも、
サボった分はあとでちゃんと自分に返ってくるという、昔からよくある教訓そのままの展開でした。
【余談】
1年後、従業員のB(♀)からゴールインの報告が来ました。
話によると、あのときにもらえた平日の休みに観光地へ出かけたらいい男と出会ったとのこと。
それを聞いてAはくやしがっていました。
「私もちゃんと休日出勤していれば……。 。・゚・(ノД`)・゚・。」
おわり。