都内の片隅に住んでる
特に無趣味でただひたすら働いてきた
最初は辛かったが慣れればそうでもなく
特に面白くもつまらなくもなく、続けてきた
毎日毎日、特に刺激もなくて淡々とこなすような日々を送ってたな
コミュ障ってわけでもないが
大学時代あまり友達もいなかったもんで休日はたいてい一人
孤男板なんかをチェックしつつ昼は写真撮りに行ったり
夜は一人で酒を飲むのが唯一の楽しみだったよ
ちょうど今くらいの桜が散りだした時期に
俺は多摩川に写真を撮りに行ったんだよ
休日でいい感じの陽気の多摩川
案の定人は多くて、大学生がバレーしてたりカップルがたくさんいたり
俺もいい気分で写真撮ってたけど、なんとなく落ち着かなかったな
なんとなくぼーっと立って待ってたら、一人の爺さんに話しかけられた
「写真が好きなのかい?」
ハンチ/ング帽をかぶった小柄な爺さんだった
笑うと線になるような優しい目で、すごく人のよさそうなオーラを出してた
爺さん「この辺は景色がいいからね」
そんな感じで談笑してた
すごく暖かい感じがして、もう亡くなった田舎のじいちゃんのこと思い出した
爺さんと10分くらいその場で話したかな
初対面だったのにとても意気投合してた
爺さんとはその場で日本酒の話とかで盛り上がった
俺が地方出身で色んな地酒飲んできたって言ったら凄い喜んだ
そんなこんなで話してるうちに、向こうから若い男女が寄ってきた
爺さんとはリラックスして話せていたが、若い人が来て俺は少し身構えた
爺さん「私の娘夫婦だよ」
と爺さんはニコニコして紹介した
俺「こんにちは」
思い切り愛想よく挨拶した
普段から一人でばかりいたから、こういう当たり前の幸せの中で生きてる人たちと
関わること自体なんだか不思議だった
初対面だったのにとても馴れ馴れしく話しかけてくる爺さんと娘夫婦で、
でも全然嫌な感じはしなかった
その日、俺は爺さんの色んな話に付き合ったが
大学時代に少しだけやったことのある囲碁の話でとても盛り上がった
なんでも爺さんも含めその娘夫婦も囲碁をするらしい
今時、珍しい家庭だなと思ったよ
どうせ見てる人いないと思うがw
周りにスイーツしか居ないから、
絶滅したと思ってた
いるんだねー、いわゆる撫子って
読んでますから
家族みんなで囲碁が好きで、よく碁会所に行くという話を聞いた
俺はそれがとても興味深くてその碁会所について色々と聞かせてもらった
大学時代はあまりに周りにやってる人がいなくて辞めていたから、
同じものを好きな人たちが集まる空間に興味があったんだ
特に連絡先を聞くわけでもない
たまたま出会って懇意になっただけだったし
ただ、よく行くという碁会所の場所だけは聞いておいた。
すごくワクワクしたなあの日は
家についたら久々に昔の詰碁の本とか出してきて
夢中になれるものが見つかるんじゃないか、ってワクワクがあった
人生初の碁会所。
緊張するしどんな人がいるか分からなくてドキドキしたなw
雑居ビルの2階にある碁会所でさ
様子を伺うように中に入ったよ
昔の50円ゲーセンの店長みたいな感じの席主に1000円払ってさ
「初めて?棋力はどのくらい?」
とか聞かれた
ほとんど初心者に近いし凄く焦ったよ
「ちょっと今日は見る感じで…」
みたいなこと言ってけっこうな広さのある店内を見回した
もっと杀殳伐とした雰囲気かと思ったらみんな楽しそうに打ってるんだよな
店内を見てると、驚いたことにあの爺さんがいた
俺は近くでそっと見てた
盤面を見た感じでは爺さんはなかなか上手い感じだった
少なくとも俺よりは遥かに上
対局中に話しかけるのも悪いし、とりあえず一局終わるまで待つことにした
ヒカルの碁が流行ったのも最早遠い昔のことだしな…
自分がいることにやや場違いな印象を感じた
ぼーっとしていると爺さんの対局が一段落したようなので、話しかけることにした
俺「あの…こんにちは、この前はどうも…」
爺さん「君はこの前の」
突然の若者の訪問に爺さんは凄い喜んでいるようだった
爺さんはニコニコして嬉しそうに話してくれた
俺もなんだかワクワクして、
「じゃあ一局打ちますか」っていう流れになった
棋力は、俺はアマ3級あるかないかくらいだった
爺さんはアマ3段くらいの強い人で、
とりあえず最初は2子置かせてもらって打った
すごい緊張したな
そのあとは石を3つくらい置いてほぼ指導碁のような状態でリラックスして打ったな
純粋に楽しかったよ
久々に打ったし、面白かった
その日俺と爺さんは友達になったんだと思う
歳の差なんて関係ないかもな、って生まれて初めて思った
彼女いませんって言ったらなんかおちょくられた
「私が若い頃は悪いことたくさんして女を騙したもんだ」
とか言ってバカ笑いしてた
あと煙草の銘柄も一緒のやつ吸ってて、至る所で話が噛み合った
すごい不思議な気持ちになった
田舎のじいちゃんもばあちゃんも親父ももう居ない俺は
懐かしい気持ちで胸がいっぱいになった
気持ちわかるわ〜♪
俺「どっかこの辺で飲んできましょうよ」
爺さん「それなら私の家に来るといい」
どっか立ち飲み居酒屋にでも入ってマッタリ飲もうかと思ったら、
家に誘われた
なんでも娘と奥さんが美味しい夕飯を用意してるから帰りたいのだとか
流石に家にお呼ばれするのは申し訳ない、と思ったが
「遠慮はするもんじゃない」と言ってきかないので行くことにしたw
近くもないが、案外遠くもないことに驚いた
電車に乗ってる間もひたすら談笑してた
ここまで話が合うとは思わなかった。
会社にたくさん上司はいるが、気に入られたためしがない
>>1が何十年後かに、偶然知り合った囲碁好きの若者に良くしてやってくれたら
最高のエンディングじゃないか
社畜の朝は早い
さて、続き書きますね
とても綺麗な二階建ての一戸建て。
俺は案内されるがままについていった
行くと、娘夫妻に出迎えられた
爺さんの奥さんもいたが初対面だったので、なんだか恥ずかしい空気になったぜw
4人暮らしのようで
今時こんな形態の家族もいるんだなあって思った
爺さんの奥さんに
「これはこれは若々しいお客さんね」
って笑われながら言われたのを覚えてるぜ
旦那さんと爺さんと俺の男衆はリビングでテレビを見てくつろいでた
これがまた旦那さんもいい人で3人で談笑してた
旦那さんとは異様に音楽の趣味があってそこで大いに盛り上がる
それに爺さんは笑って相槌をうってた
とりあえず台所横のテーブルに3人で座って
酒を飲み交わすことに
俺と旦那さんはビールだったと思うんだけど
爺さんはオサレで蜂蜜ハイボールなんかを飲んでいた気がする
見たこともない大きなトロのブロック?を爺さんがその場で切り分けて
俺に振る舞ってくれた
ほんと美味しくてビックリした
本当に楽しくて美味かった
話も盛り上がって面白いし、酒はすすむすすむ
5年ぶりくらいにこんな美味い酒飲んだなあって思った
いい感じに酒を交わしていると爺さんの奥さんが
「今晩は中華なんですよ」
と言って麻婆豆腐やらエビチリを運んできてくれた
目の前に並ぶ家庭的な料理の数々
多分俺小学生みたいに目を輝かせてたと思う