小学1、2年の頃、学校帰りに知らない家の庭で初めてアネモネを見た
中心から黒、白、そして赤青紫と変化する色のコントラスト
そして丸みのあるかたちが何とも言えず愛らしくて、子ども心に「なんてかわいいお花だろう…!」ととても感動した
当時、クズだった父と離婚した母親は借金を返しながら私と姉を育てるために馬車馬のように働いていた
そのせいか性格もよく言えばサバサバ、悪く言えばそっけなく男っぽい雰囲気で、多忙のため構ってくれることも少なく、間違っても「優しいお母さん」という感じではなかった
でも私はその時どうしてもアネモネを見た時の感動を伝えたくて「今までで一番きれいな花を見つけた」とつたない言葉で母に訴えた
夜勤明けで疲れていただろうに、母は熱心に私の話を聞き、私が語った特徴から「たぶんアネモネっていう花じゃないかな」と教えてくれた
そして「一緒にもう一度見に行ってみよう」と私を連れて外に出た
暖かな日差しの下を、母と手をつないでゆっくりと通学路を戻った
「これ!これ!」と花を指さすと「やっぱりアネモネだよ。あんたはこういう花が好きなんだね」と母が笑った
2人で花を眺めていると家の人が出てきて、母が「娘が今までで一番きれいな花だと言うので見せていただいていました」と話すと、喜んでアネモネを数本分けてくれた
それを手に持ってまたゆっくり歩いて家に帰った
いつもの通学路が、母と歩くだけで特別に感じられた
私が感動した気持ちを母がしっかり受け止めてくれたこと
その感動を共有しようとしてくれたことが嬉しくてたまらなかった
それから何十年もたって母は悠々自適の生活になり、今日は山野草を見に行く、今日はどこどこの植木市に出かけると忙しい
そして暑い日も寒い日も嬉々としてガーデニングに精を出している
実は昔から花が大好きだったらしい
きれいなものやかわいいものなんて少しも興味がないような顔をしていつもひたすら働いてばかりいたから全然気づかなかった
本当に他愛ない思い出だけどアネモネを見に行った日のこと覚えているだろうか
聞いてみたいけど忘れてたらちょっと寂しい
素敵な話を読むことができて心温まりました。
お母様に聞いてみたら、案外覚えてるかもしれないし、忘れててもきっとそれはお母様にとっては自然なことで、話したことで優しい思い出の共有ができていいだろうなぁって思う