けれどその日は来た。
自分のクラスの催しなんかどうでも良かった。
夏の告白のことばかり考えていた。
本番の時間が近付いていた。
そんな時、夏が私を訪ねてきた。
「やばい、めっちゃ緊張する」
夏は私の前で武者震いしていた。
珍しく、顔から笑みが消えていたんだ。
「どうしても告るん?」
最後のあがきで、そう訊ねた私。
夏の返事は意外なものだった。
「やっぱ、やめようかな」
いざ夏にそう言われると、
「それでいいのか」と自分に問いかける自分がいた。
目の前で自信なさげに俯く夏に、
私は「うん、やめときなよ」と言ってしまうのか。
雪の心変わりが怖いから?
そんなの夏にも雪にも失礼だ。
何というか、自分はズルイと思った。
だから言ったんだ。
「いやいや、もうエントリーしてんだから、言ってこいよw」
「でも」とグズつく夏に、「長い片思いに決着つけてこい!!」って、
自分の耳が痛いことを言い放った。
単純な夏は「そうやな!」って力強く立ち上がって。
「じゃ行ってくるわ!」って
「あんがとー(ありがとう)」って言って、走って行ってしまった。
その後ろ姿を見ながら、爽快感と絶望感が、ごちゃ混ぜになった。
全身がカタカタと震えてしまった。
ぬるんぬるんかいてゆく
学祭のメインイベントということもあって、
ギャラリーは会場いっぱいに溢れていた。
メインステージで叫ばれるのかと思いきや、
三階の校舎の窓から叫ぶシナリオになっていた。
その三階の校舎を見上げて、
今頃夏はスタンバってるのかと思うと、不思議と吹っ切れてきた。
「夏、がんばれ」そう思っていた。
夏に告白されとも知らず、隣でワクワクしている雪に、
「ちゃんと聞いてあげてね」と声をかけた。
事情を知っているであろうハルも、雪を見ながら頷いていた。
その中には夏と同じように告白する生徒もいた。
告白された生徒はメインステージに上がって答えを出すんだけど、
なんとOKされて会場が沸いた。
これには、夏もきっと勇気づけられたんじゃないかなって思った。
そして夏の名前が発表された。
窓から、夏が顔を出した。
ガッチガチに緊張してるのが下からでも解って、三人で顔を見合わせて笑った。
私は雪の肩に手を回した。
雪はキョトンとしたけれど、すぐに笑顔で夏を見つめた。
いつまでも叫ばない夏に、会場が少しざわついた。
私達は、がんばれがんばれと、夏に向けて呟いた。
ようやく、夏が口を開いた。
「雪ーーーーーーーー!!!!」
雪が小さく「えっ」と声を上げた。
私はより力を込めて雪の肩を握った。
さぁ、くるぞ。
ん?
「アキーーーーーーーーー!!!!」
あれ??
「俺ら永久に不滅なりィィィィィィィイアアアアアアアアアッーーーー!!!!」
私達三人はポカンとしていた。
司会者が「会場に今の方々いらっしゃいますか?」と訊ねてきたけど、
まだまだ私はポカン続行中だった。
すると、いつもは大人しい雪が
「いぇーーーーーーーーーい!!!!」って声上げた。
そしたらハルも「おおおおおおおおおお!!!」って叫んでて、
意外な二人の大声に我に返って、笑ってしまった。
私の笑い声で、会場からチラホラ笑い声聞こえて、
「あ、以上です」って言う夏の声で一斉に拍手が湧き起こった。
夏は最後だけヘラヘラしながら手を振って、引っ込んでいった。
雪は興奮した様子で
「びっくりした!!びっくりした!!」と繰り返していて、
ハルと私は顔を見合わせて少し笑った。
夏の雄叫びはBEST3にも入らなかったw
それにも私たち三人は笑いあった。
私は一人、夏を探した。
すぐに見つかったけどw
夏の教室でクラスメートに囲まれてケラケラ笑ってた。
私に気付いた夏は、ばつが悪そうに笑った。
磨り硝子から差し込むオレンジ色が、後ろから夏を照らしていた。
日が落ちるの早くなったな、とぼんやり思いながら、
「なんで言うのやめたん?」
早速直球を投げたw
夏はヘラヘラ笑って、黙り込んで、頭を抱えた。
「土壇場でビビった…」
蚊の泣くような声でそう呟いた夏の肩が震え始めた。
「告れんかった…」「情けねぇ」って嗚咽混じりに呟く夏。
ビックリしたけど、夏の足の間にポツポツ落ちていく涙の滴を見てたら、
何故かこっちも視界が滲んだ。
「泣くほどのことでもないでしょ!振られたら泣け!」って
肩ポンポンしながら返した。
「うん」って頷きながら、「でも告るのこえぇー」って、
夏は少し泣き止んで言った。
「解る…」としか言えなかった。
「え、解る?」って聞かれて、意味もなく頭はたいたw
夏に笑顔が戻ったから、
「でも、嬉しかったよ、俺ら永久に不滅なりってヤツ」
そう伝えられた。
「スベッてたけどw」って付け加えると、アアアアアア…って呻いてたw
雪が「ありがとー」って言いながら夏に駆け寄ってた。
夏はまたばつが悪そうに笑ってたけど、どこか嬉しそうだった。
でも多分一番喜んでたのは雪だ。
雪はこういう、友情を感じられる言動に滅法弱いから。
ハルはヌボーっとしながらも笑ってた。
そんな高2の学祭だった。
変わらない関係に、ついに痺れを切らした人間がいた。
意外にも雪だった。
「頑張ってメールしても絶対返事返してくれるし、
何度か二人で帰ったこともあるし、賭けてみる…
私ハル君に告白する。」
覚悟を決めた雪の行動は早かった。
次の日の放課後にはハルを空き教室に呼び出して、告白した。
私は教室でドキドキしながら待つしかなかった。
その時、雪の言葉をずっと思い返してた。
「勘違いやったら言ってくれて構わんのやけど、夏君って、私のこと好き?」
突然の振りに私は言葉に詰まってしまって、雪はそれで全てを察したようだった。
「やっぱりそうか」と呟く雪に、
「バレバレよね、あいつ…」としか言えない私。
「だいぶ気付かない振りしてたんだけど、やっぱりかぁ」
雪はいつから気付いてたんだろう。
「でも、私、ちゃんと断るからね」
雪が私と目をそらしながら言った。
動揺してしまった私は「なんで私に言うん?」と強い口調で雪に訊ねた。
私は、夏が好きだということを、雪に伝えてなかった。
何故か、言えなかったんだ。
自分では上手く隠せているつもりだった。
「四人の関係を壊さないためだよ」だった。
そして雪の言葉は「ハル君に告白する」に続いたんだ。
そんな事をぐるぐると考えていると、夏が教室に入ってきた。
「なぁ、もしかしてさぁ…」って言いながら。
もしかして、の続きはなんとなく予想が付いていたから、
「そうだよ」って答えた。
夏は大きく息を吐きながら、空いてる席に座った。
夏が苦しそうな声で呟いた。
そうはなってほしくないと願っていた私には重い一言だった。
「なんでよ」って強い口調で聞いたけど、
夏は言葉を濁らせるだけだった。
それから二人で雪を待った。
会話は特になかった。
スレタイでいくと
夏→雪→ハル→アキ→夏
だな
でもなんで冬じゃなくて雪なんだろう?
色白だからかねえ
というか季節順にしてみるとカオスになってわろた
書いてゆく
私は何となくこの後の流れを予想していた。
もし夏の言うとおり雪がふられしまったら。
夏は、雪を精一杯慰めるだろう。
もしかしたらその時告白するかもしれない。
でも雪は「断る」と言ってくれた。
ほだされないと、約束してくれた。
だから夏もふられる。
雪の言うように、このまま四人の関係が壊れないなんて、有り得るのだろうか。
言いようのない不安な気持ちに襲われた。
雪が「あれ、夏君もいたんだ」とぎこちなく笑った。
まだ教室にクラスメートが数人いたから、
私は雪を引っ張って、カーテンの中に連れ込んだ。
入った途端、雪の両目からぼろぼろと涙がこぼれた。
そして「ダメだったぁ」と呟いたんだ。
「なんで?」と聞いてしまった私に、
「好きな人がいるんやって」と嗚咽混じりに答える雪。
「誰か聞いた?」と続けると、首を横に振って一層泣き出してしまった。
雪を抱きしめて撫でてあげることしかできなかった。
「ふられるだろうなーって、思ってたんよ」
そうなん?て聞く私に、力無く雪は笑った。
カーテンから出ると、夏が何とも言えない顔でこっちを見てた。
そして「雪ちゃん、帰ろう」って言った。
私なんて夏の眼中に入っていないようだった。
その証拠に夏は言った。
「アキはハルに付いてやって」
夏は、雪と二人きりになりたいから、こんなこと言うんだ。
そう思った。
けれど雪は一人で教室から出て行った。
私の顔を見ずに。
その後を夏が走って追いかけてった。
私に「ハル頼んだ」と言い残して。
なんだか打ちのめされた気分で、ふらふらしながらハルの教室へ向かった。
今の私のメンタルでハルをフォローできっこないのに、と思いながら。
でもハルはもう教室にはいなかった。
ホッとした。
そして一人でふらふらと帰った。