中学卒業して進学もせず働きもせず、地元のやつらとつるんでは悪いことばっかりしてた。
16の夏強盗と傷害で少刑に入った。
出所後、生き方を変えようと決意したけど、人間関係がうまくいかず職場を転々として挫折。
何してたかとかは端折る。御想像におまかせするわ。
相手は24歳のキャバ嬢。
嫁と子供ができても、俺は全然変われなかった。いや変わらなかった。
そのままツレん家行って時間潰し。夜になったらまたクラブって感じだった。
嫁と子供が住んでるアパートには、週に一回帰るかどうかって感じだ。
どうでもよかった。何もかも。俺の人生ド底辺だしもうやりたい放題だった。
呆れ果ててたんだろう。嫁からの連絡はなくなった。
たまに家に帰れば喧嘩。
「ちゃんと仕事してよ。生活費だけでもいいから入れて。」
「うるせー。キャバクラで働いてた時の貯金があんだろーが。指図すんな。」
正直めんどくさかった。
工場部品の営業なんだけど、全然契約がとれなくっていつも上司にどやされてた。
まあ正論なんだけどな。
ある日、会社の係長の財布がなくなったんだ。
疑われたのが俺だ。いや、完全に犯人扱い。まあフラグがたってるよな。
いつも俺を目の敵にしていた上司が、因縁つけてきた。
俺「いや、やってねーっすよ」
上司「おまえ以外に誰がやるんだよ。バカか?」
書類で頭を叩かれた。
すると女子社員が来て、
「係長の財布見つかったそうです。
お昼に定食屋さんに忘れてきたみたいで」
俺は上司を睨みつけた。
上司「何だその目は?反抗的だな?だから中卒は駄目なんだよ。脳味噌入ってないんだろ?」
ついに我慢出来ずに上司をぶん殴ってしまった。
会社からは事件にはしないがクビだと言われた。あたりまえだが。
俺が悪いんじゃない。世の中が悪いんだって自分に言い聞かせて。
な?クズだろ俺。結局給料が入らないから嫁にバレた。
そうだよな。
まあ随分昔だし、社会経験の少ない俺はそんなことすら考えつかなかったよw
続き
で元に戻るけど、嫁と顔を合わせば喧嘩ばかりで、イライラする。
自分の居場所なんてなかった。家に帰る意味なんかあんの?そう思ってた。
そんな時、息子の寝顔を見ると癒されてたんだ。
それと同時に、自分が惨めになるんだ。最悪最低の父親だって。
とうとう俺は家に帰らなくなった。俺は本当にクズなんだ。
親を早くから亡くしたせいか。唯一肉親の息子のことだけは気になっていた。
そんなある日、知らない番号から電話がかかってきた。
俺「はい?どちらさん?」
「○○保育園の佐々木と申します。ハルちゃんの担任の。」
言ってなかったけど、ハルは俺の息子の名前だ。
俺「え?保育園?」
佐々木「はいそうです」
知らなかった。ハルが保育園に行ってたなんて。
佐々木「あのー、ハルちゃんのお父さんで間違いありませんよね?」
俺「あー…はい。で何で俺に連絡してくんの?」
佐々木「いつもお母さんがお迎えに来られるんですが、今日はまだ来られないんです。」
佐々木「延長の場合は事前に連絡をもらうようになってまして。
本日はお母さんからまだ連絡はありません。
園も8時には閉めますので、どうかお父さん迎えにきて頂けますか?」
嫁には何度も連絡したらしい。
で繋がらないから、緊急連絡先の俺に連絡があったわけだ。
なんて無責任で親の自覚がねーなんて思われても仕方がない。
読んでて不快な気分になった方は許してくれ。そして続けさせてもらう。
門の前には電話をくれた佐々木先生と、息子のハルが手を繋いで立っていた。
佐々木「ハルちゃんのお父さんですか?」
俺「あっ…はい、そうです」
佐々木「初めましてw佐々木と申します。ハルちゃん泣かずにお利口に待ってましたよーw」
ニコッと微笑む佐々木先生をチラ見し、久しぶりに会う息子の顔を覗きこんだ。
佐々木「帰ったら沢山誉めてあげて下さいねwほらハルちゃんパパだよw」
ハル「‥‥」
佐々木「きっといつもお母さんが迎えに来てるから恥ずかしがってるんですよw」
と言いハルの手を俺に預けた。
俺「あの、いや。」
佐々木「そうですか?
お母さんの職場に連絡したら4時で帰ったって言ってたんで、きっとお家にいますよw」
俺「はー。。。あの、迎えにくるの遅くなってすみませんでした。」
佐々木「いいえw 良かったねハルちゃん、パパ迎えにきてくれてw バイバーイ」
そう言って先生は園内に戻った。
ハルを見ると、まだポカーンと口を開けたままだ。
溜め息をつき、頭をボリボリかいた。
俺「なーハル?帰るか?」
ハルは何も言わなかった。
いきなり知らない人が来たんだ。無理もない話。
何しろ半年ぶりの再会なんだからな。分かるはずもない。
俺はハルの手を引っ張り、嫁のアパートまで行った。
久しぶりの帰宅。
綺麗に片付いた部屋にはサリナ(嫁)の姿はなかった。
俺「何?」
ハルは俺の元に戻って手を引っ張った。
冷蔵庫まで連れてくると、パックのジュースに俺の手を誘導する。
俺「喉乾いた?」
ハル「ちめたいー。ちめたいーの」
と言って俺の手を引っ張る。
俺はパックのジュースをコップに注いで、ハルに渡した。
ハルは一気にジュースを飲み干すと、また俺の手を冷蔵庫の中に誘導した。
俺「何?今ジュース飲んだろ?」
ハル「ビャアアアンー。うえーんっ」
急に大声で泣き出す。
泣き続けるハル。うるさいので抱きかかえてヨシヨシしてみる。
とりあえず泣き止まさないと近所迷惑だ。
俺「ほらほら。どうした?泣くなよー」
ハル「ウギャーー」
いっそう声のボリュームが上がる。駄目だわこれわ。
怒鳴る俺にビックリしたのか、急に泣き止んだ。少し震えている。
なんだか悪い事した気分だ。
少し震えながら、冷蔵庫を指差した。
ハル「ヒクッ、、ヒクッ、、マンマー、、ヒクッ」
どうやらお腹が減っているようだ。
すこし喋れるから1才半とかか、、、。
もちろん料理なんてしたことないし、作れるはずもない。
あれこれ荒らしまくって、ようやく食器棚の中にカップラーメンを見つけた。
カップラーメンに湯を注いでハルの前に出した。
少しはしゃいで飛び跳ねるハル。やっぱり腹が減ってたようだ。
俺「さー食え。」
そう言うとハルはまた俺の手を掴んで、箸をを掴ませた。
どうやら食わせろってことなんだろう。
そう言ってラーメンをハルの口もとに持っていった。
ハル「ぎゃあああー」
泣き出すハル。熱かったみたいだ。仕方なくふーふーして食わしてあげた。
ハル「んまー。んまー。」
人の苦労も知らず、無邪気に喜ぶハル。
俺「母ちゃん帰ってくるまでの辛抱か。。。」
独り言を言いながら、携帯でサリナに電話をした。
ずっと電源を切っているようだ。
まあ俺が良く言えたもんだって話しだけど。
ハル「マンマー。マンマー。」
食べ終えたのにまただ。
俺「はあ?今食ったろ?ふざけんな」
また泣き出した。
仕方がないとりあえずなだめるか。俺は抱きかかえて身体を揺らした。
どれくらい時間がたったろう。ようやくハルは目を閉じて、深い眠りについた。
そう思いながら、冷蔵庫からビールを取り出し、一気に飲み干した。
俺「ぷはーっ、うんめー」
一息ついて家を見渡した。出ていって半年になる。
あの時のまま何も変わらない部屋。
布団でスヤスヤ眠るハルの寝顔を見つめた。少し成長した。
顔も前より大人になった。サリナに良く似てる。
そう言えばハルの声初めて聞いたな。会話は出来ないけどな。
半年前は、って言っても殆ど家に帰ってないけど、泣いてる声しか聞いたことなかったな。
とりあえず父親何て俺には無理だと思った。
すぐにサリナは帰ってくるだろうし、帰ってきたらまた出ていけばいい。
いっそのこと離婚しとくかなんて考えてた。
ハルが俺のお腹に跨がり笑顔で冷蔵庫を指差した。
ハル「ちめたい。ちめたい」
俺「ん?」
ハル「ジューチュ。ジューチュ」
冷蔵庫からカルピスを出してハルに飲ませた。
時計を見ると11時。うわっ昼じゃん。
携帯を見ると着歴が3件に留守歴が一件。どれも昨日かかってきた保育園からだ。
サリナに電話したが、やはり電源を切っている。
俺「はい?」
佐々木「○○保育園の佐々木です。あのーお母さんは?」
俺「あの、、、」
少し考えた。帰ってきてないなんて言えるはずもなく。
俺「あの。突然なんですが、実家に帰省しました。母親が入院したらしくて」
とりあえず嘘をつく俺。
じゃあお父さんもハルちゃんも一緒に実家に?」
俺「いや、あの、妻だけ帰りました。」
佐々木「そうなんですねw ハルちゃんは今日はお休みですか?」
俺「いや、あの。。。」
俺「すいません」
佐々木「いいえw 出来れば休むにしろ、遅刻にしろ前もって連絡下さいねw」
俺「はい。」
結局保育園に連れてきたのだ。
佐々木「お迎えは5時なので、ちゃんと迎えに来て下さいw」
そう言って保育園を後にした。
ふざけんな。冗談じゃない俺が迎えに行くわけねーだろ。
何が何でもサリナを見つけ出してやる。
そう考えながら、まずはサリナの職場に連絡した。
地元のスーパーでレジのパートをしていると保育園で聞いた。
店長「いや今日はお休みで朝電話がありましたよ。」
俺「次いつ来ます?」
店長「さー。当分休むって連絡あったからねー。」
そう言われ知り合い何人かにも連絡を入れてみた。
結局誰もサリナの近況すら知らなかった。後はサリナの実家しかない。
でも、ここだけは連絡したくなかった。だけど背に腹は変えられない。
仕方なく電話した。
俺「連絡つかなくって困ってて」
サリナ母「えー?あんた甲斐性なしだからよ。出てって当然。
ハルちゃんは?ハルちゃんはどうしてるの?ハルちゃんはサリナと一緒なの?」
サリナの母親は当然のごとく俺を良く思っていない。
どうやら知らないようだ。何か話しているようだが、途中で電話を切った。
しかし何て薄情なやつだ。息子を捨てて消えるなんて。
俺がそんなこと言えたもんじゃないことは重々承知だが。
結局ハルは俺が迎えに行った。
またアパートに帰り。スーパーで買ったオムライスを食わせ寝かせた。
子育てって大変だなって、たかが1日2日で思ったんだ。
世の中の主婦をすごく尊敬するよ。
全然会話も出来ない息子。これからどうすればいいのだろう。
いきなり取り残され、いきなり父親になる。本当に大丈夫なんだろうか?
ハルの寝顔を見た。寝る前に少し泣いていたから、涙の後が頬に残っている。
サリナがどんな気持ちで出ていったのか、その時の俺は知る由もなかった。
そっとハルの体に布団を掛ける。ハルが生まれてすぐ、ハルは集中治療室に入った。
ミルクを飲まず、血便が出たからだ。その弱々しい小さな体を見つめ。
石ころのような、小さな手を握り
俺「俺が守ってやるからな」
寝ているハルの手を優しく握り、そう誓ったのを思い出した。
ハルの寝顔があまりにも可愛いく思えた。
こいつには今俺しかいないんだ。俺が守ってあげないと。
出来ないかもしれない。いや出来ないじゃない。やるしかないんだ。父親を。
俺にも父親がいた。自慢できるような父親じゃなかったけど。でも俺を育ててくれたんだよな。
今でもそんな父親の背中を覚えている。
その日から、俺とハルの二人三脚の生活が始まった。
ちなみにリアル中卒だ。
書きため分はまた後で投下します。
続き待ってるよ
読んでるから
続きです。
朝の日差しで目を覚ますと、横ではハルがぐっすり眠っている。
とりあえず父親になると決めた。
まずは保育園に行って佐々木先生に、サリナが出ていったことを話そう。
それから仕事を探さないと。
俺一人なら食っていけるけど、今はハルを育てなきゃいけないんだ。
サリナがいつ戻ってくるのか?もう戻ってこないかもしれない。
誰かをあてにすることなんでできないんだ。
佐々木「これから大変でしょうけど、私たち園も出来る限りハルちゃんの力になります。」
と言われ少し安心した。
その足で職安に行くことにした。
正直難しいですよ。今不景気ですしね。職歴も殆どないですし、学歴も中学卒業じゃね。
資格もないと言うことですし…
それに子供を一人で育ててる訳でしょ?会社の負担になりかねませんよ。」
俺「お願いします。どんな仕事でもするんで。」
正直仕事をしないとやばい。
手持ちも殆どなく、明日にもハルを食わせられなくなるかもしれないからだ。
とりあえず携帯やら、求人のフリーペーパーでバイトを探してみる。
アパートから近目の場所に手あたり次第電話をした。
あっさり面接を4件こぎつけた。楽勝じゃん。でもそう簡単ではなかった。
某有名フランチャイズレストランに面接に来た。
俺「いや、とりあえず金がほしくて。」
この時の俺は、本当に社会人としてのスキルが皆無だったんだよ。
店長「履歴書君が書いたの?」
俺「そうですけど…」
店長「漢字間違ってるし、字下手だね?w
それに君、職歴が空欄だけど仕事したことないの?」
店長「ハハw ちょっとうちじゃ難しいかなw」
こんな感じで断られた。
まあこう言われる方がまだましだ。
何も質問されず、後日連絡すると言われて追い返される事の方が多かった。
ハルとの生活だけど、ハルは泣いてばかりだった。
会話が出来ないから、ハルとの意思疎通が出来ない。だからイライラが募る。
俺は怒鳴ってばっかりだ。ほとほと疲れた。
仕事も見つからない。お金ももう残っていない。頭を抱えるしかなかった。
どうすればいいんだ。これからちゃんとやっていけるのか。
そんな不安に追い討ちをかけるように嵐はやってくる。
またチャイムが鳴る。ドンドンッドンドンッ。激しく玄関を叩いている。
その音にハルが反応して目を覚ました。
ハル「あーーんっ」
うるせーなっと思いながら、泣くハルを抱きかかえて玄関を開けた。
ぽっちゃりしたキツい目をしたおばちゃんが、ズカズカと家の中に入ってきた。
俺「朝っぱらから何なんすか?」
大家「何度も電話したのにでないからよ。わざわざこっちが来てやったわよ。
奥さんはいないの?」
鼻息を荒くし、強い口調で話す大家さん。
大家さんが言うには、3ヵ月家賃を滞納しているらしい。
今月まとめて払えなかったら、出ていくように言ってあったでしょ!」
財布の中身は600円だったのを思い出した。
俺「いや、すんません。俺知らなかって。
何とかするんで一週間待ってもらえませんか?」
ただでさえもう1ヶ月待ってやってんだ。もう特別はなしだからね。」
俺「いや、行くあてなんてないんですよ。一週間。いや3日でいいんで待って下さいよ。」
泣き叫ぶハルを抱えながら、必死に交渉した。
だけど交渉虚しく、解約にサインさせられ追い出されるはめになった。
ハルの着替えを入れたリュックに、サリナとハルの写真。
後は全て家賃滞納分にあてると言うことで置いていくことに。
悲惨だ。父親になると決めたのにこんな事になるなんて。
あー笑ってやってほしい。まさかのホームレス状態。家なき親子だ。
救いようのないとはこのことだ。
見てくれてる人どうも。
俺「今日もハルをよろしくお願いします」
覇気のない声でお願いした。重い足取りで園を出ようとした。
振り返ると佐々木先生が園内を掃除していた。
俺「はぁ…まあ」
佐々木「今日は元気ないですね?お母さんとはまだ連絡とれませんか?」
俺「はい…」
まあ元気はいつもないんだが。
やっぱこう言う仕事してる人って、異変とかすぐ気付くんだな。
元気ない姿って子供はすぐ気付くから。
特にこれからが成長期です。お父さんの背中はちゃんと子供は見てますよ。
何か悩み事があるなら相談して下さいw お父さんの悩みはハルちゃんの悩みですよ。」
俺「はい…」
先生には家を追い出されたことを相談するか悩んだ。
だけど他人にこんな話しされるなんてあまりにも気の毒だ。
俺「はあー」
ため息しか出てこない。
仕事を探すのに困難しているのに、住むところまで探さなきゃならない。絶望的だ。
時間だけが刻一刻と過ぎていく。
直ぐにハルの迎えの時間はやってきた。
そうだ、クラブでナンパした女の家に泊めてもらおう。
1日くらい大丈夫だろ。そんな軽い気持ちで向かってはみたものの。
女「はあ?無理無理。あんた子持ちなの?最低。」
俺「頼むよ。1日でいいからさ」
女「いやよ」
「誰か来たのかー?」
部屋の中から男の声がした。
女「分かったでしょ?さっさとどっか行ってよ」
そんな感じで追い返されたんだ。
数人のツレにも電話したけどなんなく断られる。
辺りはもう真っ暗だ。路頭に迷う俺とハル。世間が妙に冷たく感じた。
ハルも疲れたのか。両手を俺に向け。
ハル「ダットー。ダットー。」と言う。
俺はハルを抱っこし、大きなリュックを背負った。
ようやく繁華街にある広場の階段に腰を下ろした。
せめて明るい場所の方が、ハルも落ち着けるだろうと思ったからだ。
ただボーっと座っていたんだ。正直今何も考えられない状況。
警備員服を来た初老の男に注意された。
ここに座られては、客が入らないと言うことらしい。
俺「ここはおめーの土地か?」
いつもならつかかって行くとこだが、今そんな元気もない。
俺は黙ってまた歩き出した。
ハルは俺から降りて喜んで走り回っていた。
状況を理解できる年齢じゃないから当然だ。公園に遊びに来たとでも思っているんだろう。
むしろそっちの方がありがたいか。何も考えてない方が。
風呂に入れないので、公園の蛇口で水を借りた。
タオルで体を拭いてあげると、冷たくて気持ちいいのかすごく嬉しそうだ。
目を擦って眠たそうにしてる。
俺はハルを抱っこして、大きな滑り台の下がトンネルみたいになっていたのでそこに入った。
ハルを横向に抱え座り込む。
ハルは俺を見つめ、宇宙人みたいにわけの分からない言葉を話している。
きっと俺に話しかけてるんだろう。
こんな気持ちも、きっとハルと会話が出来ればましだったんだろうか?
俺は一人なんだと痛感する。
そう思いながらハルの言葉に耳を傾けていた。
え?聞き違いか?
ハル「パッパ」
今度は俺を指差して言った。
俺「パパ?今パパって言ったか?うんパパ。」
急に何かが込み上げてきた。
ハル「パッパーw」
俺「うんうん。パパ。パパだよw」
俺のことを初めてパパって言ってくれたんだ。
ハルをギュッと強く抱きしめた。
苦しそうにしていたけど、そんなのお構いなしだ。
俺の瞳からは溢れんばかりに涙がこぼれた。
俺は大泣きしながらハルに謝った。
こんな情けない父親で。
こんなひもじい想いをさせてることに、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
いつぶりだろうか。いや、こんなに泣いたのは初めてかもしれない。
こんな気持ちになったのわ。俺は一人じゃなかったんだ。
こんな俺でも父親と思ってくれてるんだな。子供の笑顔ってすごいなって実感させられたよ。
眠れる場所じゃないからとかじゃない。
自分の不甲斐なさと今までの腐った自分を思い返してだ。
佐々木先生の言葉が耳に残っていた。
「ちゃんと子供はお父さんの背中を見てますよ」
そうなんだ。俺もそうだったし。ハルは俺の背中を見て育つんだ。
もっとしかりしないとダメだ。
こうなったのは親のせい、学校のせい、大人のせい。
今だってそうだ。
社会や世の中のせい、嫁のせい、いつだってそうなんだ。
自分の否を認めず誰かれ構わず他人に責任を押し付けてきた。
全て自分の責任なのにな。自分がこうしてしまったんだ。
きっとサリナもそんな俺に愛想が尽きたんだな。
羨ましい。
クズでも「頑張った」から父親になれたんだよ
見てくれてる人結構いてくれてるんだな。頑張って書きます。
続き
外で朝をむかえたその日、俺はハルを連れて隣町まで2時間かけて歩いていた。
保育園には前もって連絡を入れ休ませた。
唯一の頼りがそこにあったからだ。
死んだ親父の姉貴に会いにいったんだ。俺の叔母にあたる人。
小さい頃の記憶だけが頼りだった。親父に2、3回連れてこられたことがある。
リフォームして新しく建て替えられていたけど、表札を見てここで間違いないと思った。
チャイムを鳴らすと、四十歳過ぎのおばさんが出てきた。
おばさん「はい、どちらさまですか?」
俺「あの…、カズエおばさん(親父の姉貴)はいてますか?俺っていいます。」
おばさん「えー、あっ、母さーん」
どうやらカズエおばさんの娘のようだ。
おばさんは俺とハルの全身を舐めるように見、家の中に向かって叫んだ。
おばさん「ごめんなさいね。俺さんってどちらの俺さん。母とはどういった関係?」
無理もない不審者に見られてるんだろう。
「はいはい。どうしたの?お客さん?」
ガリガリのおばあちゃんが中から出てきた。この人がカズエおばさんなのか?
正直顔まで覚えていないから分からない。でもきっとこの人で間違いないだろう。
カズエ「俺さん?」
カズエおばさんは俺をジッと見つめた。
カズエ「もしかして、俺父の息子の俺ちゃん?」
長い月日が経っていたが、どうやら俺のことを覚えてくれていたらしい。
俺「はい。。」
目を潤ませながら俺に近づいてきた。
大きくなったねと言われ再会を喜んでくれた。
ハルは広い家が初めてだったので、すごく挙動不審だったのを覚えている。
カズエおばさんは俺が赤ちゃんの頃、よくオムツを変えてあげたと言っていた。
子供の頃の俺や親父の話しを嬉しそうに語ってくれた。
本題はここからだ、今どうしても寝泊まりするところが欲しかった。
ハルをずっと外で寝かすなんて出来ない。
迷惑は重々承知だけど
仕事と住む場所が決まるまでどうにか居候さしてもらえないかと頼んだ。
勿論今日までの経緯を話してだ。
目を真っ赤にし、俺の話しを納得した上で優しく応えてくれた。
少しホッとした。膝の上に座らせていたハルは、どうやらオネムのようだ。
コクリとコクリと眠りに入ろうとしている。
続き
おばさん「ちょっとお母さんいい?」
リビングの扉を少し開けて手招きする娘。
それに気づいてカズエおばさんがリビングから出ていった。
俺は出されたお茶を一気に飲み干した。
うちには受験を控えた娘がいるんですよ。」
隣の部屋から会話がまる聞こえだ。
カズエおばさん「せっかく頼って来てくれたんだよ。」
おばさん「駄目に決まってるでしょ。どこの誰かも分からないのに。」
カズエおばさん「他人じゃないの。ヒロシ(息子さん)には私からちゃんと話しておくから。」
おばさん「私には他人です。私は反対ですから。」
俺は眠っているハルを抱きかかえ、黙っておばさんの家を後にした。
そりゃそうだよな。無理もない。
いきなり見ず知らずの人間がきて泊めてくれなんて。
他人にそんな優しくする義理なんてないよ。
それに俺のせいで、カズエおばさんに迷惑をかけるわけにはいかないしな。
何故か悲しい気持ちや辛い気持ちにならなかった。
だってさ、久しぶりに会ってハルを見て、あんなにも喜んでくれたんだ。
それだけで十分じゃないか?
夕焼け空が真っ赤に染まる。
ハルをおぶった自分の影お見ながら、二時間かけてきた元の道をゆっくり帰った。
途中コンビニでおにぎりを一個買って、それをハルに食べさせた。
ハルも大分疲れていたみたいだ。すぐに眠ってしまった。
財布の中身を見て憂鬱になる。本当の無一文だ。
下を向き目を閉じて、明日からどうするかを考えた。
とりあえず日雇いで働ければ、温かいお風呂にも入れてやれる。
お腹一杯ご飯だって食べさせてやれるんだ。そんなことを考えながらウトウトしていた。
「俺くん?俺くんだね?」
急に目の前が眩しくなる。懐中電灯で照らされているんだ。
そこには眼鏡をかけた、中年のおじさんが立っていた。
こんな所で寝たら駄目だ。小さい子供がいるんだから。とりあえずうちにおいで」
すぐにカズエおばさんの息子のヒロシおじさんだと分かった。
おじさん「いいからおいで。母さんも心配して待ってるんだよ」
俺「すんません。迷惑かけます…」
俺とハルを車に乗せてくれ、家まで連れて行ってくれた。
途中車の中で、妻のことは気にするな。娘が受験前で気がったっているんだ。
とわざわざ気を使ってくれた。
カズエおばさん「追い返したりしてごめんね。本当にごめんね。」
と泣きながら謝るおばさんに、申し訳ないことをしたと思った。
ヨシノおばさん(カズエおばさんの娘)に「お世話になります」とだけ言ったけど
シカトされた。
心良く思っていないのは分かっていたことだ。
新しい布団が気持ち良かったんだろう。すぐにハルは眠ってしまった。
ヒロシおじさんが、また明日ゆっくり話そうと言って二階の寝室に上がっていった。
俺が眠りにつこうとすると、カズエおばさんにリビングに来るように言われた。
テーブルに、大きなおにぎり2つとお味噌汁が置いてあった。
俺は黙って座りそれを口にした。急に胸が締め付けられる。
俺「うまい…」
カズエおばさん「良かったw」
口いっぱいに詰め込んで。
俺「おばふぁん…エグッあじがと(ありがとう)エグッ…」
カズエおばさんの優しさがすごく辛かった。
こんな俺なんかにここまでしてくれて、すごく感謝したんだ。
人の優しさに感謝したのは初めてかもしれない。
だからかもしれないけど、今まで食べたおにぎりで一番うまかったと思う。
今でも、忘れることはない。
俺って結構泣き虫なんだなw
そう思った。
カズエおばさんは、黙ったまま笑顔で俺が食べているのを見てた。
見てくれてる人申し訳ない。
支援
今から休憩中に書いた分は投下します。
後、いろんな意見や指摘ありがとう。
他にも細かい疑問とかあるだろうけど、結構端折るし忘れてることもあります。
これから書いて行くこともあるからスルーしててくれると助かる。
ちなみにこの時はオムツはまだ取れてないんだ。
保育園では貸し出しの紙オムツ使ってたし、常備布オムツだったからループ使用してた。
生まれてすぐはしょっちゅう変えてたからうまいもんだったよ。
次の日朝早く起きて、ヨシノさんに何か手伝いすることがあれば何でもすると言った。
が、空気のように無視された。俺は玄関前やら家の中を勝手に掃除した。
居候の身だし、何もしないわけにもいかないしな。
保育園に連絡して、理由は言わずに当分休むとだけ伝えた。
ハルはカズエおばさんが見てくれると言うので、頼んで家を出た。
現場作業の面接があったからだ。
おばさんは落ち着くまでは家にいていいと言ったけど、そう言うわけにもいかない。
早く住む家を探す必要があったけど、まずは仕事が優先だと考えたんだ。
建設会社の社長が、履歴書をサッと目だけ通して机に置いた。
俺「あ…はい」
社長「いいよ。うちで働いてみな」
俺「えっ、大丈夫なんすか?俺職歴も学歴もないっすよ」
どうせ無理だと思っていたのに、あっさり雇ってくれた。
住所不定で職歴のない俺をだ。ちょっと拍子抜けする俺。
俺「あ、あ、ありがとうございます。頑張ります」
社長「おう。いつから働ける?なんなら今から働くか?」
俺「是非。お願いします。」
この社長、本当に優しかった。人当たりもいいし。
めちゃくちゃ嬉しかった。久しぶりの労働で少し不安もあったけど。
でも頑張ろうって思ったんだ。
作業員みんなが集められ、簡単な紹介で作業が始まる。
重機で解体した廃材を指定の位置に置き仕分ける。それを運んでトラックに積むと言う作業だ。
肉体労働は始めてで、つってもまともに働くのも久しぶりなんだけどとにかくきつかった。
体中汗でびっしょり、廃材を持つ腕が痺れる。それでも一生懸命作業した。
今まで働いていた職場とは全然雰囲気が違い驚いた。
みんな楽しそうに仕事してんだよな。
現場監督「おい新人!休憩するぞー。」
そう言ってミネラルウォーターを渡された。
キンキンに冷えてる。喉を潤わす為一気にそれを飲み干した。
めちゃくちゃうまかった。体中に染み渡るのが分かる。
ちょっと前まで汗を流して働くことなんて考えられなかった俺。
こんなに水がうまいと感じたことなんてあっただろうか?
「兄ちゃん今日からやろ?」
初老のおじさんが関西弁で話しかけてきた。
おじさん「兄ちゃん若いのにw 何でこんな仕事しようと思ったん?さてはわけありやな?w」
ぶっきらぼうな人だ。
俺「まー、はい。」
俺も昔は社長だった。だけど倒産して借金かかえて、妻と子供に逃げられたと。
山下「それでもこうやって何とか生きてけてんねんw
オレももうすぐ60やけど、人生やり直しは聞くw
兄ちゃん若いねんからなおさらや。どんなわけありでも頑張りやw
生きてたらそのうちいいことあるからなw」
笑いながら話している山下さんに何故か好感を持てた。