前記事⇨俺「おがーぢゃーん」幼馴染「もう泣かないで!私がおかあさんになってあげる!」→そんな幼馴染と同窓会で再会したのだが…【1/3】
ユキ「ハァハァハァ……どうして……黙って行っちゃうの……?」
オレ「……」
駆け落ち事件以来、オレは彼女との一切のコンタクトを禁止されてた。
だから進学で街を出ることになったこともオレからは伝えてない。
無言で黙々と積み込み作業を進めるオレをみて彼女も無言で手伝ってくれた。
というくらい少ない荷物。だから作業なんてあっという間。
ユキ「……もう行くの?」
オレ「ああ……」
ユキ「……じゃあ……これ……」
中を見ると見慣れた包み……彼女の手作り弁当……これまでは当然のように受け取って
何も考えずに食べてたけど、それも今回で最後だと思うと涙が出そうになった。
彼女はというと目に涙をいっぱいに浮かべながら必死で笑顔を作っていて
その表情は言葉では言い表せないくらい切なかった……
オレ「いつも、ありがとう……」
ユキ「いつでもいいから……お弁当箱……」
彼女も同じ気持ちだったのか「いつでも」と答えてくれた。
いよいよお別れ。
もう二度と会うことはないだろうと思いながらエンジンキーを捻る。
二人の気持ちがわかるのか車は咳き込むばかりで始動しない……何度も試すけど動く
気配がない……いっそこのまま……とか考え始めたら彼女が窓越しにオレの首に
抱きついてきた……
ブルルルーン……エンジン始動……
彼女の言葉の後半はエンジン音に掻き消された……
聞こえなかったけど内容は想像がつく。直接この耳で聞かなくてよかったと思った。
もし聞いてしまったら自分を抑えられなくなっていたと思うから。
ゆっくりと動き始めた車のサイドミラーを覗くと泣き崩れて地面に座り込む
彼女の姿が映っていた……そしてそれがどんどん小さくなっていく……
号泣状態で叫びながらハンドルを握るオレ……
「ウォォォォーーーー!!!」
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なぜかと言うと……眠っているハズなのに実際に泣き叫んでしまうから……
あの時、どうして彼女を連れ去らなかったんだろう……そればかり考える……
その後の行動はいつも一緒。
ほとんど物のない部屋にポツンと置かれた小さなカラーボックス。
部屋の中で唯一、モノを飾ることができるスペースには例の弁当箱が引越し当初から
ずっと置いてある。オレは心が折れそうになると、その弁当箱を眺めるクセが
ついてしまった。女々しい男だと思う……
そして眠れないまま朝が来て、いつものようにつまらない一日が始まる……
こういうのは一度詰まると後がやりにくい。彼女から電話があると思っていた時にないと
次にこちらから電話しにくい。そして、その次にも電話がなければもうこちらから掛ける
ことは難しい。なんといっても彼女は人妻だから……
内心すごく気になるんだけど、どうしようもない。
ひょっとしたら旦那と和解してうまくいっているのかもしれないし。
「出張でそっちに行くから一緒に飲もう」という内容。
「深夜スタートになるぞ」とだけ返信しておいた。
夜の10時を過ぎたくらいに電話が着信。オレはまだ会社にいた。
コウジ「よお~、カズ! 今から大丈夫かぁ?」能天気な声。もう飲んでるな?
オレ「いいぞ。って、いったいお前は今どこにいるんだよ?」
意外に近くのホテルを予約していることがわかったから、とりあえず田舎者の酔っ払いに
ウロウロされるよりはオレが動いた方がいいと思って既にできあがっているコウジとホテル
近くの居酒屋へ繰り出すことに。
卒業後に1度くらい飲んだことがあったような気がするが気のせいかもしれない。
サラリーマンらしく仕事の愚痴から始まりそのうち話題は……
コウジ「その後、彼女と連絡は取ってるのか?」
オレ 「誰のことを言ってる?」
コウジ「決まってるだろ? ユキちゃんだよ」
オレ 「ああ……まあな……」
コウジ「……そうか……実はな……俺、彼女に告白したことがあるんだわ……」
オレ 「はぁ!?」
>>83 がんばります。
酔った勢いなのか突然のカミングアウトに驚いたわ。
コイツとは中学以来ずっとつるんできたのに全く知らなかった。
コウジによると彼女がオレの身の回りの世話をし始めた中二の頃に告白したらしい。
そこで告白しなければ彼女はすぐにでもオレと付き合うことになると思ったからだとか……
実際は、そこから2年以上掛かったんだけどな……
季節は夏、場所は放課後の体育館裏だとか……
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コウジ「……ユキちゃん……呼び出したりしてごめん……」
ユキ「いいよ。何か用事? カズくんがどうとか…って聞いたけど?」
コウジ「……ごめん……そうじゃなくって……」
ユキ「?」
ユキ「??」
コウジ「ユキちゃんがカズを好きなことは、わかってるけど……ダメかな……」
ユキ「……ごめんなさい……」
コウジ「……やっぱりダメか……いいんだ、これでスッキリしたから……
これからは俺も応援するからなっ!」
ユキ「……応援してくれるんだ……ありがとう……だったら……
ひとつお願いがあるの……言いにくいんだけど……今日のことはカズくんには
内緒にして欲しい……彼がこのことを知ったら……たぶん……一生、私とは
付き合ってくれないと思うから……ごめんなさい……」
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オレ「で、いったいお前はオレに何が言いたいんだ?」
コウジ「だから、その頃から彼女はお前に惚れていたというわけだ」
オレ「そうかい。そりゃありがたいね……って、今さらそれを聞いてオレにどうしろと?
間男になって、たんまり慰謝料を払えってか?」
コウジ「そうは言ってないが……」
オレ「だったら黙ってろ。というかお前こそ彼女にまだ未練があるんじゃねーのか?」
コウジ「……」
恋心まで聞かされちゃかなわん。
そういえば、コイツは進学を口実に逃げたオレとは違って卒業後も地元に残って
いたわけで……そして同窓会とかなんだかんだで彼女を支えてたんだよな……
オレ 「……コウジよ……お前が彼女を助けてやれ……オレにはムリだわ……」
コウジ「……」
オレ 「お前、オレよりも成績が良かったのに地元の大学に行って地元の会社に勤めたんだろ?
それって、そういうことじゃないのか? 彼女を見守るためじゃないのか?」
コウジ「……」
オレ 「オレは……逃げたんだよ……だから今さら……」
コウジ「……悪い……帰るわ……」
20代でこんなに孤独だったら、40代、50代、いや60歳になって会社にもいられなく
なったらどうなるんだ? 本当に世界中で自分のことを少しでも考えてくれる人が一人も
いなくなるのか?? とか思うと本格的に欝になってきた……
ディスプレイはユキと表示している。
めちゃめちゃ久しぶりだけど、できるだけ普通に話すことにした。
オレ「もしもし? どうした?」
ユキ「カズくん……今、何してる?」
オレ「なんにもしてない」
ユキ「よかった……あのね……へへへ、来ちゃった」
オレ「へ? 来ちゃったって、まさかこっちに?」
ユキ「……へへへ……」
文字にするとラブ/ラブに見えるけど、実際は涙声だった。
なんだか切羽詰ってる感じがして、ちょっと心配。
オレ「じゃあ、すぐに準備するから、どこかで待ち合わせしよう」
ユキ「……いい、私がそっちに行くから……カズくんのところに行きたい……」
オレ「そ、そうなんだ……別に構わないけど……汚いよ」
ユキ「わかってる」
>>96,97 ありがとう。
そんなわけで彼女が家にやってくる。ターミナルから乗り継いで30分もあれば余裕で最寄駅に
着いてしまう。さすがに駅までは迎えに行かないといけないから、オレに残された時間は
残り15分。
妙なフィギュアや抱き枕なんて趣味はないから隠さないと人格が崩壊するようなブツはない。
元々モノが少ない部屋だから片付けに手間はかからない。エ/ロ系資産はないことはないけど
探さなければ見つからないだろう。プライオリティは、まず身支度。次にゴミの始末、そして換気。
あちらこちらに埃が積もっているのは……見なかったことにしよう。
笑いながらピョンピョン跳ねて手を振る姿が懐かしい。
さっきの心配は気のせいか? なんて思いながら付き合っていた頃もこんな風だったっけとか
回想シーンが頭をよぎる。
彼女が仕事で言いそうな台詞を言ってみた。
ユキ「お辞儀の角度が甘いわね」
プロの厳しい指摘だ。
オレ「久しぶりに自転車の後ろに乗ってみる?」
ユキ「あの頃に比べると、ちょっとだけ重くなってるけど大丈夫かな?」
オレ「どんなに重くても平気だよ。家までずっと下りだからね」
ユキ「もうっ!」
毎朝晩に通勤で通る道だけど、彼女が後ろに座ると風景が違って見える。
高校の通学路を走っているような気がする。あの頃も部活が終わると彼女が校門で
待っていて同じように二人乗りで坂を下って帰ったんだよな。
そう言うとオレの腰辺りの余った肉をつまむ。
オレ「くすぐったいってば。そりゃ、18才の頃の引き締まった肉体と比べたら
劣化は否定できないさ。でも、オレなんてまだマシな方だと思うけどね。
なんなら後で全部披露するぞ」
ユキ「もうぅ、バカっ!///」
そう言いながら背中にぎゅーっと、へばりつく彼女。おっけーのサインなのか?
途中でコンビニへ寄って適当に買い物をしてから自宅に到着。
コンビニのバイトがジロジロとオレを見てた。コイツ、オレが晩飯の弁当を買う深夜に
いつもレジにいる奴だ。ざまあみろ、オレだって女連れのことくらいあるのだ。
6畳相当のワンルーム、というか本物の和室6畳。ボロ。
まともなキッチ/ンというか台所はないけど料理なんてしないから不自由はない。
食事はオール外食 or コンビニ。それで運動しないから太ってくるというか腹周りだけ
肉がついてくるわけだ。
オレ「ようこそ、我が家へ」
玄関のドアを開けて彼女を迎え入れる。にわかに片付けた感いっぱいの部屋。
ユキ「へぇー、一応きれいに片付いて……というか殺風景な部屋ね……」
オレ「寝るだけだからな。飾ったって仕方ないしさ」
彼女は懐かしい写真を何枚か持ってきてた。二人が付き合っていた頃のもの。
いつ撮ったのか覚えていないものも混じっている。
二人で照れながら笑っている写真は他に撮影者がいたハズ。
私がお願いしたんだ。カズくんとのツーショット写真が欲しいって。
まだ付き合う前だったけど覚えてない?」
コウジの名前がでてきて、それまでのフワフワした気分が一気に硬直する。
こんなことしてていいのか……? オレ……
ユキ「そう……今年で何回目だったかな……今年こそは、カズくんが来るかなって
言いながら毎年企画してたけど。何度か実家にも電話したみたいよ……」
オレ「……そっか……」
ユキ「誤解しないで、吉田くんは私のこと……私とカズくんのことを応援して
くれてるだけで……私のことなんて、なんとも思ってないから……
だから今日だって吉田くんが行って来いって言ったから……」
彼女のことが今でも好きなんだ……自分の気持ちを隠して……素直じゃない奴め。
オレは、あの朝にキッパリと諦めたんだ。そんなオレが今さら彼女をどうこうしよう
なんて都合のいいこと考えちゃいけない。
ユキ「えっ? どうしたの? 突然……私、何か気に障ること言った?
もしそうなら謝るから……謝るから、そんなこと言わないで欲しい……」
みるみる彼女の顔が曇っていく。というかもう泣き始めてる。
でも泣かれても困る。男の友情とはそういうものだ。悪友の20年越し?にもなる
恋心を踏み台にして、その女とイチャイチャなんてできんのだ。
わけもわからずオロオロと泣く彼女を追い立てるように家を出る。
そして無言のままで引きずるように駅まで連れて行くと目的地までの切符を買って渡す。
オレ「じゃ、コウジによろしく言ってくれ。あいつにはオレから後で電話しておく」
ユキ「あっ……違う、違うの――」
彼女の返事を最後まで聞かずに来た道を逃げるように引き返すオレ。
雨でもないのに顔がグチャグチャに濡/れている。目からも鼻からも水が出ているせいだ。
ハッピーエンドを期待して明日読むわ…
自宅に帰ってコウジに連絡しようと思ったけど気持ちが昂ぶっていてまともに
話ができそうにない。シャワーでも浴びて落ち着こう……
熱いシャワーを浴びると気分も少しは落ち着いたような気がした。
さて、電話しようと携帯を手に取ると尋常じゃない着信履歴が残っている。
1、2、3、4、5、6……シャワーの間の僅か数分に10本を超える着歴。
しかも、相手は全部コウジだし。
と思っているところに、また着信。コウジだ。
オレ「はいよ。なんだよバカみたいに何回も――」
コウジ「ばかやろー!!! てめーぶっ殺すぞ!!!」
オレ「んだぁー? てめー! 喧嘩売ってるのかぁ?
上等だ、買ってやろーじゃねーか! あぁ?」
コウジ「お、お前は……ゆ、ユキちゃんになんてことを……」
オレ 「……うっ……そのことなら今お前に電話しようと思ってたところだ……
その……なんだ……彼女を幸せにしてやれ。オレよりお前がお似合いだ」
コウジ「カズよ……だからお前はバカなんだ……なんで彼女の気持ちが分からねーかな……
いつだってそうだ、勝手に一人で決めて勝手に動いちまう……
彼女に聞けよ。オレに相談しろよ。少しは人の気持ちを考えろよ……」
オレ 「……うるさいっ! オレはオレなりに考えた結果だっ!
お前は、ずっと彼女を傍で支えてきた。オレは卒業してから彼女のことなんか
すっかり忘れていた。そういうことだ」
少しウソをついた。本当は忘れたことなんてなかったから……
オレ 「“待っていた”なんて言うなよ。彼女は結婚したんだからな」
コウジ「……てめぇ……彼女が結婚後どんな気持ちだったのか聞いてないのか?」
オレ 「聞いてないね。というか聞きたくもないね」
コウジ「……まず最初に言っておくぞ。彼女は旦那と正式に別れた。先月の話しだ。
それからな……」
というか聞くのが辛かったから……彼女の結婚後数年にも渡る内容をそれだけ詳細に
説明できるお前はスゴイよ。どれだけ長い時間、彼女と一緒にいたかがわかるってもんだ。
いつの頃からか彼女の大切な人はコウジに変わったんだ。お互い気づいてないだけで……
奴がいたから彼女はこれまで耐えることができたハズだ。そして決心もできたんだ。
だから今、彼女に必要なのはオレなんかじゃない……オレはただのきっかけ……
オレか? 違うだろ? お前だよな。そういうことなんだよ」
コウジ「……カズ……お前はそれでいいのか?」
オレ 「ああ……言ったろ? オレはあの時に彼女をキッパリと諦めたんだよ」