前記事⇨【前編】同級生「ねぇ〜俺くんって付き合ってる人いる?」俺(罰ゲームか?)→当時イジメられてた俺は…
何があったのか詳しくは知らないが、大喧嘩してK本がフラれた形だったようだ。
N子情報によれば、「思ってたのと違った」ってことらしい。
ちょっと疑問に思って直接聞いてみたら、
Y美「へ?なんであたしがそんな事に首突っ込まなきゃいけないのよ」
・・・え?俺とN子の事には首突っ込みまくってるのに?
ともあれ、このことでK本とT崎の関係が気まずくなってしまったので、これ以降、6人で集まってどこかへ行くという事はなくなった。
今回はN子から手作りのトリュフチョコを貰った。
普通の大きさで、すごく美味しかった。
いや、去年のも味は良かったんだけどwww
さらに今回はなんと、Y美からも手作りチョコを貰った。
全く同じトリュフだった。
おそらく一緒に作ったんだろう。
いや、下手をすると全部N子が・・・
何にせよ目的は明らかだと思ったので、ホワイトデーには去年と同じタルトを二人に送った。
Y美にはマンゴー増量でwww
俺とY田は大学への進学を希望、K本は初級地方公務員を目指すらしい。
N子とT崎は、そもそも今の学科が5年制だから今年は受験はない。
Y美は、「短大くらいには行っとこうかなー」と、至って気楽なもんだったwww
N子との会話でも、当然その話題は出てくる。
N子「大学って、どこに行くの?」
俺「まだそこまで具体的には考えてないけど、◯◯大あたりに入れたらいいな」
N子「◯◯大かぁ。遠くなっちゃうね」
俺「まだ、どうなるか分からないけどな」
そうは言うものの田舎なので、実家から通える距離には4年制大学なんて一つもない。
最短でも電車で2時間はかかる距離だ。
進学するとなれば、遠距離になるのは避けられない。
俺「大丈夫、そんな遠くの大学には行かないよ。その気になれば週末には会いに帰って来れるだろ」
N子「うん・・・ありがと」
それでも不安そうな声。
俺は何とかしてN子を元気付けようとしたが、巧くはいかなかった。
お互いに意地を張ってしまって仲直りできないときには、Y美に諭されて謝り、例の公園で会って話す。
そんなことが月に2、3回はあった。
N子が遠距離恋愛に不安を抱いているのはよく分かってるし、俺だってできればN子の近くにいたい。
K本のように地元で就職することも考えてはみたが、N子とのことを含めて将来を考えると、仕事のためにも大卒の肩書きはやはり必要だと思う。
それに、両親も俺の進学を期待してくれている。
そう考えて、改めて進路を大学への進学に決め、それでもN子との関係のことも考慮に入れて、志望校は県内と隣県に絞ることにした。
これなら、実家までの距離は最長でも3時間以内だ。
N子も賛成してくれるだろう。
俺「県内か、隣県の大学を目指すことに決めた。会いたくなったらすぐ帰って来れるから、大丈夫だよ」
N子「うん。・・・でもやっぱり、遠いよ。寂しいよ」
またか。
ちょっとくらい我慢して、俺の受験を応援してくれよ。
俺は、良かれと思ってした決断にケチをつけられた気がして、ちょっと不機嫌になる。
俺「仕方ないだろ。これでもN子のために一番近いところを選んだんだから、もうちょっと喜んでくれてもいいじゃん」
N子「・・・・・・ごめん」
また気まずくなった。
暗い声で「もしもし」と言ったあと、無言。
痺れを切らした俺は「どうした?何か用?」と尋ねる。
N子「用がないと、電話しちゃダメなの?」
俺「そんなこと言ってないよ」
双方、不機嫌な声。
またケンカに発展しそうな感じ。
N子は大きく息を吐いて、
N子「もう・・・別れよう」
聞いたとたん、血の気が引いていく感じがした。
これまで何度もケンカはしてきたけど、どちらからもこの一言が出たことはなかった。
「なんで」と聞くが、声も掠れてまともに出ない。
N子「最近、ケンカばっかりしてるし、いちくんは遠くに行っちゃうし、気持ちは分からないし、このままじゃ、嫌いになっちゃいそうだから」
嫌いになりそう、ってことはまだ嫌いじゃないんだろ?
なのに、なんで別れなきゃいけないんだ?
N子「私も、いちくんが大好きだよ。だから、嫌いになって別れたくないの。でもこのままじゃ、いつかそうなっちゃうから」
この辺はもう涙声だったが、言ってることがよく分からない。
お互いに好きなら、別れる必要なんてないじゃん。
俺「待ってくれよ、俺はN子と別れたくないよ。嫌だよ、何でだよ」
でも俺が何を言ってもN子の決意を変えることはできず、
N子「ごめんね、いちくん、・・・じゃあね。受験頑張って」
そう告げて通話が切れた。
しばらく呆然としてた俺だが、我に帰って電話をかけ直す。
しかし、出てくれない。
その後、何度やっても電話が繋がることはなかった。泣いた。
当然筒抜けだよなwww
Y美「なにやってんだよ1。このまま本当に別れちゃうつもりか?」
俺「そんなこと言ったって、N子の方がそういうつもりなんだからしょうがないだろ」
Y美は溜め息をついて、
Y美「そうじゃなくて!1はどう思ってるんだって話だよ」
俺「どう思うって・・・そりゃ別れたくなんかないよ」
Y美「N子に1の気持ちは伝えたのか?」
俺「好きだから別れたくない、とは言った。でも・・・」
ここでY美はちょっと笑って、「ニブイなぁ」と言って、
Y美「N子は、1が大学に行って遠距離になるのが嫌なんだよ?寂しいんだよ。1の側にいたいんだよ。お前はどうなんだ?」
俺「そりゃ俺だって嫌だよ。N子の近くにいたいよ。だけど」
Y美「それをN子に伝えたのか、って言ってんの!」
Y美曰く、N子は、遠距離になることについて度々自分の気持ちを伝えてきたのに、俺の方は寂しいとも何とも言わなかったので、会えなくて辛いと思ってるのは自分だけなんじゃないか?
ひょっとしたら、自分が相手(俺)のことを一方的に好きなだけなんじゃないのか、と思い詰めてしまったらしい。
Y美「N子はね、今みたいに毎日会えなくなることについて、1にも自分と同じ
ように寂しいって言って欲しかったんだよ」
俺「俺も、寂しいとは思ってるよ」
Y美「思ってるだけじゃ、ダメなの。ちゃんと、言葉で言わなきゃ伝わらないの。分かる?」
俺「・・・分かった。俺が悪かったよ」
Y美「だからあたしに謝ったって意味ないし。今日は駅じゃ会わない方がいいよ。
今晩、例の公園ででもゆっくり話しなよ。あたしからも連絡しといたげるから」
俺「うん・・・いっつも悪いな」
Y美「気にすんな。別にあんたの為にしてるんじゃないからw」
はい。
N子の為ですよね。分かりますwww
謝って、N子も泣いて謝って、そして俺たちは無事仲直りした。
N子「大学、行っちゃっても時々は会える?」
俺「連休には絶対帰ってくる。週末も。3時間待ってくれたら、この公園にだっていつでも来るよ」
N子「うん、ありがとう。私、ちょっとくらい会えなくても我慢する。がんばるよ」
俺「俺もだ。一緒に頑張ろう」
まぁ、大学に行ってからの心配の前に、まずは大学に行けるかどうかの心配をしなきゃ
いけないんだけどねwwwwww
結局第一志望には不合格、第二志望の隣県の大学に何とか引っ掛かり、ここへ進学することに決めた。
実家から大学までは、JRと私鉄を乗り継いで約2時間半。
合格の報告をすると、N子は素直におめでとう、と言って喜んでくれた。
ちなみにY美は県内の女子短大へ。
しかし一人暮らしは反対されて、電車で1時間かけて通学することになったらしい。
「これじゃあ進学した意味がない」って言ってた。
なんのために進学したんだよ?www
特にトラブルもなく、連休には俺が実家に帰って二人で会う。
そんな生活が続いて、大学2年の3月、N子は無事国家試験に合格し、4月から就職。
Y美も地元の企業に就職した。
大学3年の春。
俺だけ気楽な学生のままで、何か申し訳ない気分だった。
それと同時に、N子に置いて行かれてしまう不安とか、焦りみたいなものも感じていた。
さらに年が変わり、そろそろ就職を考え始める時期になる。
それまでは、ただ漠然と大企業に就職したいと思っていた。
でも、全国規模の大企業なら当然転勤がある。
N子との距離がまた遠くなってしまう。
俺は、社会人になったN子が急速に”大人”になってゆくのを感じていて、これ以上遠くに離れてしまうと、もう今までのようにN子を繋ぎ止めてはいられないんじゃないかと不安だった。
そんなのは嫌だ。N子の傍にいたい。
悩んだ末、俺はできるだけ地元の近くに就職先を探すことに決めて、N子にそう伝えた。
N子「こっちに戻ってきてくれるの?よかったぁ。いちくんがまた遠くに行っちゃったら
どうしようかって、心配してたんだ」
嬉しそうだった。でもその理由を聞かれた時、生活のリズムがどうとか地元への貢献とか、まるでESに書くようなことを答えてしまった。
なんでこういうとき素直に「N子の近くにいたいんだよ」って言えないんだ俺は。
希望職種で限定すると、会社の数は決して多くない。
でも幸い、人気のある大企業とは違って履歴書だけで落とされるようなことはなかったので、5月頃は面接のために何度も何度も実家に帰っていた。
6月、第一希望の会社から内定を貰い、ここに決める。
実家からは車で1時間ほどの距離。
それほど近くはないけど、近ければどこでもいいってわけにも行かないので仕方ない。
N子に報告すると、内定のお祝い、と言ってネクタイをくれた。
さあ、あとは卒業するだけだ。
N子からの電話で、Y美の入院を知った。一ヶ月後に手術の予定。
病名は、胃ガンだった。
その週末に実家へ帰り、昼過ぎ頃に入院先の病院へ見舞いに行く。
Y美は少し痩せたようだったが、その他は何も変わりないように見えた。
病室にはN子と、Y美の親父さんがいた。挨拶すると、
Y父「ああ1くん、久し振りだな。学校忙しいんじゃないの?わざわざ来てもらって悪いね」
Y美「あたしの見舞いじゃなくて、N子に会いに来たんだよ。彼氏だもんね」
N子「ちょっ、Y美!」
Y父「へぇ、N子ちゃんの。そうかぁ、みんな大人になったもんだなぁ、ウチの子以外は」
Y美「うるさいなぁw」
それからY美の父親は、ウチには母親がいないから、男親の自分には頼みにくい事もあるだろうし、N子に来てもらってとても助かっている、だけど彼氏もいるのに、毎日遅くまで居てもらって申し訳ない。
というようなことを話して、Y美にウザがられて、何か用事を片付けるために部屋を出ていった。
俺「なんか、思ってたよりずっと元気そうで、安心したよ」
Y美「来月の手術で、胃はほとんど取っちゃわなきゃいけないみたいだけどね。まぁ、しょうがないね」
そのあと3人でしばらく喋って、手術当日には必ず来るよと約束して、病室をあとにした。
N子はもうしばらく残ると言って、また二人で何やら話しはじめていた。
ガンだなんて聞いたから、どんな酷いことになっているかと心配したけれど、とりあえず
元気そうだったし、手術で治るような口ぶりだったので安心して、俺は次の日もN子と一緒にY美を見舞ってから家に帰った。
昼前から始まる予定の手術に合わせ、Y美の病室には続々と人が訪れてくる。
ピーク時には15人くらい居たかもしれない。
俺もその中の一人だ。時間が近付き、看護師がY美を車椅子で手術室へ連れていく。
「行ってくるよ」Y美は強張った笑顔で小さく手を振り、俺たちもたぶん同じような表情で見送った。
手術の予定時間は、早くて3時間、長引く場合はどれだけかかるか分からないらしい。
Y父は、手術が終わったら連絡するから一旦帰るようにとN子に言ったが断り、俺とこのまま病室で連絡を待つことにした。
途中で一度飲み物を買いにいったきり、俺たちは他に誰もいない二人部屋の病室で、ただ待ち続けた。
会話がなかったわけじゃないけど、時間は途方もなく長く感じられた。
最短の予定時間である3時間を少し過ぎ、ここにいて本当に誰か連絡してきてくれるのか?
と不安になりだした頃、看護師が来て、手術の終了を伝えてくれた。
胃の摘出は無事完了、Y美はICUに移され、目が覚めるのは翌朝、いまご家族が医師から説明を受けているので、詳しいことはそちらから聞いてください。そんな内容だった。
疲れきった様子だった。
Y父「ああ、やっぱりまだ居てくれてたんだ。待たせてすまなかったね」
Y父の話。
大元の病巣である胃の摘出は問題なく終わったが、事前の検査にかからなかった転移があちこちに発見された。
それら全てを切除していくことは物理的にも、Y美の体力的にも不可能で、手付かずのまま縫合。
今後は体力の回復を待って、抗がん剤での治療を行うことになった。
俺は目の前が急に暗くなったような感覚に襲われ、パイプ椅子にへたりこんだ。
N子は、固い表情で、でもしっかりY父の顔を見て、Y美の病状についていくつか質問をしていた。
馴染みのない言葉が多かったし、うまく頭が働いてなかったので、内容は覚えていない。
俺は、翌日Y美と顔をあわせたとき何を言えばいいか分からなくて、てか正直Y美と会うのが怖くて、その日のうちに自分の家へ逃げ帰った。
翌週、「Y美のお見舞いに来てあげて」とN子から電話。
俺「行きたいけど・・・何話していいのか・・・」
N子「大丈夫。最初はだいぶショック受けてたけど、今はもう落ち着いてきてるから。Y美もいちくんに会いたがってるし。ね?」
俺「うん・・・わかった、週末にそっちに帰るよ」
俺はまったく、なんてヘタレだ。
Y美「体力戻さなきゃいけないんだけどさ。ご飯食べるとすぐお腹痛くなるんで、あんまり食べられなくて」
点滴を指差し、今はこれが主食、とか言って笑ってた。
12月に入って、Y美が退院したとN子から連絡があった。
抗がん剤での治療も始まったらしい。
正月には帰るから、その時会えるな。
12月末、帰郷してすぐ、N子を誘ってY美の家へ行った。
事前に電話して、遅くなったけど退院祝いに何か欲しいものがあるかと聞くと、「肉。肉たべたい」と言うので、ちょっと奮発して黒毛和牛のステーキ肉を2枚買って行った。
ホントに食えるのか?
俺「久しぶり。ほら、リクエストの品、買ってきたよ」
Y美「ホントに買ってきてくれたの?悪いね。では遠慮なくwww」
俺「でも、こんな脂っこいの食べて大丈夫?」
Y美「量を食べられないから、逆に高カロリーの方がいいんだってさ」
煮物みたいな体に優しそうな料理がいいのかと思ってたけど、そう言うもんなのか。
正月には、N子、Y美、T崎と俺とで初詣に行った。
Y美の体調を考えて、一番近くの小さな神社に。
N子とY美は貸し切り状態の拝殿の前で、とても長い願い事をしていた。
すでに事後だ。その週末に見舞いに行くと、
Y美「せっかく少しは食べられるようになってきたのに、またここからやり直しだよ」
また点滴を指差しながら、そう言って笑ってた。
3月中旬。大学の卒業式に出席し、入社手続きに必要な書類を揃えてから、引っ越し。
実家までの距離は、半分以下に縮まった。
N子はほとんど毎日、仕事帰りにY美の病室へ通っているらしい。
そこで面会時間ギリギリの7時半まで過ごす。
俺も週末には必ずY美の見舞いに行くことにした。
Y美は会うたび痩せていっているように思えたが、病状や入院生活を苦にしてふさぎこんだりする様子はなく、それが俺にとってはせめてもの救いだった。
そうでなければ、見舞いに行くのが憂鬱になっていたに違いないから。
4月。
俺の仕事が始まる。引っ越したばかりで慣れない土地での生活と研修でそれなりに忙しかったが、やはり週末には必ず面会に訪れた。
また、そこに行かなければN子にも会えない、という事情もあった。
この半年ほど、Y美の病室以外では、片手で数えられる程度の回数しかN子に会ってない。
ちなみに、社会人になってすぐ車を購入した。
中古の軽だけど。家から病院までの往復は、これで断然楽になった。
「もしもし、いちくん・・・」最初から涙声。嫌な予感。
俺「どうした?大丈夫?」
N子「うん、ゴメン。私は大丈夫。・・・あのね、Y美、病棟を移ることになったよ。緩和ケア。・・・もってあと3ヶ月だって」
ポツリポツリと、感情を圧し殺すようにそう言った。
あと3ヶ月、何が?と一瞬思って、
そのまた一瞬後に、意味を理解した。そんな馬鹿な。
つい数日前にも見舞いに行った。
元気そう、とは言わないまでも、Y美の様子はそんなに酷いものじゃなかった。
N子にそう告げると、
N子「Y美ね、いちくんが来る週末にはいつも、強い痛み止めを貰ってたの。でも、
普段はそうじゃなくて・・・」
途切れる声 、そして嗚咽。
俺はN子を慰めるどころか、ショックのあまり声もでない。
だが、そんな俺に、N子はさらに追い打ちをかけてくる。
N子「Y美ね、いちくんのこと、好きみたい。私なんかより、ずっとずっと前から、好きだったみたい」
・・・え?
ちょっと待って。
そんな超展開、頭がついて行けない
N子「Y美に酷いことしちゃったよぉ。いちくん、私、どうしたらいい?」
N子は、まるで子供のように泣き始めた。
俺は混乱しながらも、必死で何か慰めの言葉をかけ続けた。
しばらく泣いて、ようやく少し落ち着いたところで、もう一撃
N子「もう、しばらく会うのやめよう?」
俺「え?なんで・・・」
N子「だって私、Y美にもいちくんにも申し訳なくて。私さえいなかったら、Y美はいちくんと一緒になれたかも知れないのに・・・」
この考え方にはちょっと腹が立った。
Y美に悪いから俺とは会わないのか?
俺の気持ちより、Y美との関係の方が優先なのか?
そんな心情だったから、次の言葉にはちょっとトゲがあったかも知れない。
俺「俺がもしY美と付き合ったとしても、どうせすぐ別れてたと思うよ。だからそんな気にすんなって。N子と俺みたいには続かないよ」
N子「私といちくんだって、Y美がいなかったらとっくに別れてたよ」
確かにそれは事実だ。
俺にも分かってる。
俺たちにとって、Y美がどれほど重要な存在だったのかも分かってる。
それが分かってて、反論できなくなって、悔し紛れに出た台詞は、
俺「そんなにY美が大事なのか?俺よりも?もういいよ、勝手にしろよ」
再び泣きはじめたN子。
俺が何も言えずにいると、泣き声が少し遠ざかり、通話が切れた。
その後すぐN子に電話をかけ直すが、出ない。
続けて何度もコールしてみるが、やはり出ない。
メールもしてみたが、返信はない。ヤバイ。
N子が泣いている。そう思うと胸が苦しくなって、じっとしていられない。
時間は9時前。
今から直接会いに行くか?
俺『会って話がしたい。今から1時間後、▲▲公園で会おう』
そうメールを送って、出発の準備をする。
車に乗り込んで、いざ出掛けようとするとメールの着信音。
N子『ごめんなさい。行けません』
脱力。
ちょっと愛車に八つ当たり。
もうこのままN子の家まで行っちまうか、とも一瞬思ったが、それはさすがに迷惑かと思い直し、もう一度メール。
俺『それじゃあ、週末に●●病院で』
送信してから、しまった、と思う。
そこには当然ながらY美もいる。
俺、どんな顔してY美に会えばいいんだよ。
たぶん、まともにY美の顔見れないよ orz
その後はもう、N子からの返信はなかった。
5月下旬の平日の夜、N子から電話の着信が来た。
慌てて繋ぐ。
電話の向こうからは、今にも泣き出しそうなN子の声で、「Y美が・・・」
前夜、容態が急変したらしい。
医師は手を尽くしてくれたが、午前中に帰らぬ人となった。
Y美とY美の父親、双方の意向で延命処置は行われなかった。
それだけ何とか告げて、あとは泣き声が勝って言葉にならない。
ただ、何度も「ごめんね」と言っていることだけは解読できた。
俺はただ呆然とするだけだった。
あと3ヶ月と告げられたあの日からまだ、1ヶ月も経っていないのに。
そしてふと我にかえると、まだN子が泣いていることに気付く。
今度こそ何とかしないと。
俺「今から行く。1時間後、▲▲公園。今日は絶対来いよ!それじゃな!」
それだけ言うと、返事を待たず一方的に通話を切り、手近にあった服を着て部屋を飛び出す。
夜の田舎道は空いている。N子には1時間後、と言ったが、40分でいつもの公園に到着。
すると公園の前、道端に、N子の車が停まっていた。
ドアを開けて「久しぶり」と声をかけ、乗り込んだ。N子は涙目で前を向いたまま、こくん、とひとつ頷いた。
俺「この前はごめんな。俺・・・」
N子「私の方こそ、ごめん。電話もメールも・・・私、いちくんの気持ち全然考えてあげられてなくて、甘えちゃって、勝手なこと言って。怒ってるよね?」
俺は、ううん、と大きく首を横に振って、
俺「あのときは確かに、N子の気持ちが分からなくて腹立ててた。でも、今は少し分かったような気がしてる。だから、もう怒ってない」
俺は、N子にもY美にも会えないでいる間、ずっと後悔してた。
N子と口論になったあの時、「俺の気持ちも知らないで勝手なことを」って思ってたのは事実だ。
でも、知らなくて当然なんだ。
だいたい、俺はN子に本当の自分の気持ちを伝えた事がどれだけあるってんだ?
俺「たぶん俺、Y美に嫉妬してたんだ。N子が俺よりもY美を信頼して、大事にしてるなんて思っちゃって。だけどそれは当たり前だ。俺が素直に自分の気持ちを伝えて来なかったからだ」
俺「彼女に本音を言うなんて、カッコ悪いことだと思ってた。N子に俺の情けないところを
知られたくなかった。だけど、今更だけど、ちゃんと言わなきゃいけなかったんだ」
今までは、それが必要な時にはY美が伝えてくれてた。
思えば8年間も頼りっ放しだったんだ。
Y美の気持ちも知らずに。酷い話だよな。
俺「俺さ、N子のことが大好きだ。ここしばらく、N子と話もできなくて凄く寂しかったし、もうこのままずっと会えないんじゃないかと思うと不安だったし、N子が俺のいないところ泣いてると思うと辛くて堪らなかった」
俺「俺はもう二度とN子と離れたくない。こんな寂しくて辛いのはもうイヤだ。N子にずっと一緒にいて欲しい。どんな時でも一緒にいたいんだ」
ここまで話して、ずっと俯いて黙ったままのN子が気になって、見る。
N子「私だって、いちくんとずっと一緒にいたいよ。だけど、今はまだ・・・その・・・」
困ったような表情。
あ、もしかして俺、プロポーズしたみたいに思われちゃってる?
パニクってしどろもどろになった挙げ句に、開き直って覚悟を決めた。
どうせ、Uターン就職でこっちに戻ってくるって決めたときから、いずれそうするつもりだったんだ。
それが今で何が悪い!
俺「よりによって今日言うべきことじゃないのは分かってる。でも、もうここまで言っちゃったんだから、今更誤魔化したってしょうがない。N子、俺と結婚してほしい。返事は今じゃなくていい。N子がこの事を考えられるようになるまで、いつまででも待つから」
N子はようやく顔を上げ、俺の方を向いて、ほとんど1ヶ月ぶりの笑顔を見せてくれた。
N子「ホントに私なんかでいいの?」
俺「N子がいい。N子でなきゃダメだ」
そりゃもう即答。N子はまたちょっと涙目になって
N子「ありがとう。嬉しい。でもちょっとだけ待ってて。気持ちが落ち着いたら、ちゃんと返事するから」
俺「うん、待ってるよ」
俺の肩にもたれかかってきたN子。
肩に腕を回そうとすると、
N子「あ、忘れてた。手紙」
そう言って、鞄から一通の封筒を大事そうに取り出す。プーさんの柄の可愛い封筒だ。
N子「お通夜に行ったとき、Y美のお父さんから預かってたの。Y美から、いちくんへ」
俺に?と言いながら受け取って、開けようとすると、
N子「ここじゃダメ。いちくんへの手紙なんだし、帰ってからいちくんだけで読んであげて。私にも、私宛の手紙がちゃんとあるから」
俺「そうか、分かった」
もう時間もかなり遅くなってたし、翌日の葬儀の時間と場所とを聞いて、その日は帰ることにした。
通夜にはまだ間に合ったかも知れないけど、Tシャツにジャージ下という格好では失礼にも程があるので諦めた。
宛名も何も書かれていない封筒の中に、A4サイズの便箋が5枚。
やはりプーさん柄だ。
Y美の書く文字は初めて見るような気がする。
意外に、というかY美には似つかわしくない気がする、丸っこくて小さくて、可愛い字だった。
「いちくんへ」
それが、手紙の書き出し。不意を突かれたようで、ドキッとした。
「この手紙の中でだけは、1くんのことをいちくんと呼びます。N子には内緒だよ。」
「私はいちくんのことが好きでした。こんなこといきなり言われても困るだろうけど、本当なんです。」
小学校の頃から、1のことが気になっていた。
それが恋愛感情だと気がついたのは、1とN子が付き合いだしてからだった。
N子より早く1に気持ちを伝えなかったことを何度も悔やんだけど、N子は大切な友達だし、N子と一緒にいるときの1はとても幸せそうだったので、このことは一生秘密にしておこうと決めた。
ところが、今回の入院で私の気持ちをN子に気付かれてしまったらしく、そのことでN子と1が気まずくなっているみたいなので、最後のお節介として、この手紙を遺すことにした。
私からもN子を説得しておくから、もしもまだケンカしてるなら、絶対に仲直りするように。
前にも言ったと思うけど、気持ちは言葉にしなければ伝わらないので、想いは隠さず全部N子に話すこと。
私はもう、それを手伝ってあげられないんだから。
中学のとき、N子と一緒にイジメっ子と対決して親友になれたこと。
高校のとき、1がキレイだって言ってくれたこと。
この二つが、これまでの私の人生での最高の思い出。
1の思い出に残る私が、あの頃の姿でありますように。
これからもいつまでも1たち二人のことを見守って、世話を焼いていたかったけど、その願いは叶わなくなってしまったようなので、これからは私の分まで1がN子のことを見守ってあげて。
そしてこの先もしも、N子を悲しませたり、手放したりするようなことがあったら許さない、二人で幸せになって。
そう結ばれていた。
読んでいるつもりでも内容が頭に入ってこず、何度も何度も同じ部分を読み返したりしていて、全部読み終わったときには結構な時間が経っていた。
そしてそのとき、本当にY美はいなくなってしまったんだと実感した。
Y美の気持ちを考えると胸が苦しくなって、じっとしていることができなくて、明け方まで立ったり座ったり部屋を歩き回ったりして過ごした。
空が白み始めた頃にようやく少し寝ることができて、いつもの時間に起きてから会社に連絡を入れ、ひどい寝不足のまま葬儀会場へ向かった。
受付を済ませ、Y美の父親にぎこちない挨拶をして会場に入ると、T崎、Y田、K本、その他にも見知った顔が大勢いた。
もちろんN子も。
式は粛々と進み、Y美と最後の別れも済ませ、出棺となった。
火葬は近親者だけが参列するものかと思っていたが、Y美の父親がわざわざ来て「もしよければ最後まで見送ってやって下さい」と誘ってくれたので、俺とN子、T崎、その他数名の友人が参列することになった。
奥さんと一人娘、二人ともに病気で先立たれてしまったY美の父親だが、ここまで涙ひとつ見せることなく、俺はこれが本当の大人の男ってものかと感心していた。
だが、Y美を入れた棺が火葬の釜に入って行く際、ついに堪えきれなくなったのか、会場の隅でひとり涙を拭っていた。
それを見て俺も泣いてしまった。
てか俺の方がもっと泣いていた。
N子が隣に来て、俺の手を握ってくれた。
N子「私、いちくんの今の部屋にまだ行ったことない。行ってもいい?」
と言ってきたので、一旦N子の家に帰り、俺の車で送っていくことにした。
家で着替えを済ませたN子を乗せて、俺のアパートへ。
駐車場に車を停め、N子を案内して部屋に入る。
俺が礼服を脱いでハンガーに架けていると、突然N子が後ろから抱きついてきて、堰を切ったように泣き始めた。
泣きながら、「Y美がいなくなっちゃった」と何度も言っていた。
俺は、うん、とだけ答え、N子に向き合って体を抱き締め、一緒に泣いた。
N子「いちくんはいなくならないよね?一緒にいてくれるよね?」
俺「大丈夫、ずっとN子と一緒にいるよ」
N子「ホントに?ずっとだよ。どこにも行かないでよ?」
俺「大丈夫だって。約束するよ」
N子「うん、ありがとう」
久しぶりにキスした。この日は結局夕方まで抱き合って、時々泣いて過ごした。
その日から俺とN子は、また週末を一緒に過ごすようになった。
ドライブしたり、食事や買い物に行ったり、俺の部屋でDVDを観たり。
行為はしなかった。
N子はまだそんな気分じゃないだろうと思ったから。
金曜日の夜、N子から「明日、蛍を見に行こう」と電話がきた。
蛍って、もう今からじゃ遅いんじゃないの?確か6月下旬くらいがピークだったはず。
そう告げたが、「でも行きたい」と譲らない。まあいいか、と思って了承。
次の日、土曜日。日が暮れるのを待つ間に早めの夕食を二人で済ませ、高校の頃に皆で行った、地元ではそこそこ有名な蛍狩りスポットへ向かう。
その川原に着いたが、駐車場には他に停まっている車はなく、もちろん人気もない。そして暗い。
俺「やっぱりもう時期じゃないな。諦めてどっか行く?」
N子「せっかく来たんだから、ちょっとだけ歩いてみようよ。もしかしたらまだ少しはいるかも知れないよ」
俺「そう?じゃ行ってみようか。暗いから気をつけて」
川原の遊歩道をゆっくり歩きながら、草藪の中に蛍の姿を探す。
N子はなんだか必死になって辺りを見回している。
まるで子供みたいだ。
でも、結局蛍は見つからず、そろそろ戻ろうか、と俺が言うと、
N子「あ、いた!あそこ」
俺「え?ああ、ホントだ。よく見つけたなぁ」
季節外れの蛍が一匹だけ、丈の高い草に見え隠れしながらふわふわ飛んでいる。
応えてくれる仲間はたぶんもういなくて、その光は寂しそうで、頼りなくて、それでも精一杯光ってた。
N子「ふつつかものですが、どうか宜しくお願いします」
俺「え・・・」
N子「この前の返事。お待たせしました」
そう言って頭を下げた。
俺「うん、ありがとう。こっちこそよろしく」
言ってから、ちょっと思いついて、
俺「ホントに俺なんかでいいの?」
N子「いちくんがいい!いちくんじゃなきゃダメ!」
即答だった。二人で笑った。
車までの帰り道で、ちょっと興奮気味のN子が、
N子「蛍、いたら言おうって決めてたんだ。いてよかったー」
俺「もし今日、蛍がいなかったら?」
N子「さぁ?来年だったかもね」
ホントかよwwwww
それじゃ、ひょっとするとあの季節外れの蛍はY美だったのかもな、と思ったけど、それは言葉にはせずにおいた。
その夜、ほぼ半年ぶりに行為できました。よかったwww
これが実は先週のことです。
俺、これまでY美に散々迷惑かけて、世話になって、知らずに酷いこともしてきたのに、お礼も、謝罪も、一度もまともにできませんでした。
だから、それを今からここに書きます。
あと数レスで終わりますので、よければ最後までお付き合いください。
君が手紙で僕のことをまーくん、って呼んでくれたように、今ここでだけ、僕も君のことをゆうちゃん、って呼ぶことにします。
昔、よく一緒に駆け回って遊んでた頃みたいに。
ゆうちゃんの気持ちを知ったときは、本当に驚いたよ。
だってそんな素振りは全然なかったと思うし。
きっと僕がニブイんでしょうね。
高校の頃は、彼女とのことで君にもいっぱい怒られましたから。
ごめんなさい。
この一週間ほど、ゆうちゃんとの思い出を振り返っていました。
いちばん印象に残っているのは、小学校の頃。
一緒に遊んだ楽しい日々と、君の笑顔です。
本当に、天使みたいだったよ。
君はいつでも、あの素敵な笑顔で僕に接してくれたね。
他の友達が変わってしまった時にも、君は変わらずにいてくれた。
僕はそのことでどれほど救われていたか。
今までずっと君には言えませんでしたが、あの頃、ゆうちゃんは僕の心の拠り所でした。
僕は小学校の頃からずっと、ゆうちゃんに、いっぱい助けて貰っていました。
ゆうちゃんは、僕の人生を変えてくれました。
そしてまた、僕の大切なひとも、ゆうちゃんが救ってくれました。
彼女と僕とを巡り合わせてくれたのも、やっぱり君です。
彼女はその事で自分を責めていたけど、僕は感謝してるよ。ものすごく。
いつだって、僕なんかより君の方がずっとずっと辛い思いをしていたはずなのに、最後の最後まで、僕たちのことを気にかけていてくれたよね。
もし君がいなかったら、僕たち二人は、今頃はもっとひねくれた人間になっていたことでしょう。
僕は、君に何かを返せていたでしょうか。
いつもいつも、君から貰ってばかりだったような気がするよ。
残念ながらもう、今から君にお返しをすることはできなくなってしまいました。
だからそのかわりに、君が僕に託してくれた大切なひとを、この先一生守り続けてゆくことを君に約束します。
ゆうちゃん、今までほんとうにありがとう。
いつか僕たちがそちらに行く日まで、ゆっくり休んでいてください。
結婚おめでとうと、言わせてください
ありがとうございます。
でも俺はまだ社会人一年目の若造ですし、恥ずかしながら貯金もほとんどありませんので、結婚はもうちょっと先のことになると思います。
N子のお母さんにもまだ挨拶してませんし。
こんなに早く一人の女性を大切に想い、
結婚したいと思えたんだと思いますよ
>>1さんこれからも頑張って
結婚おめでと
>>99
ありがとうございます
以上で終わりです。
最初はY美の墓前で、ってことも考えたんですが、歌の歌詞じゃないけどそこにY美がいるとは思えないし、逆にもしY美がいるのなら、そこには他の人も大勢いるわけじゃないですか。そんなところで言うのはなんか気まずいし。
それで、その場の勢いでスレ立てようって思っちゃって、書き溜めて、でも実際始めてみると、俺こんなことしてていいのかなって、ちょっと不安にもなりましたwww
でもY美の俺への気持ちを知ってるのは俺とN子だけですから、リアルの友人には絶対話せないですし。
そんなわけで、駄文長文垂れ流しすみませんでした。
乙でした
末長く幸せになってくれ
ありがとうございます。
途中、誰もいなくて不安だったので、大学時代の話はだいぶ端折ってしまいました。
不自然に思われた方には申し訳ないです。
それでは、名無しに戻ります。
お休みなさい。
そうでした。いるよ、と言ってもらえて、心強かったです。
ありがとうございました。
ID変わっちゃったけど
その端折った大学時代の話はしないの?
基本、惚気話オンリーになりますので、今から書くのもどうかとwww
これも端折ってしまった部分ですね。
Y田は東京の大学にいき、そのまま現地で就職、現在まで彼女なしだそうです。
K本は初級公務員試験に合格して、地元の市職員。
やはりけっこうモテてるようです。
俺も改めて彼女を大切にしたいと思えた
ありがとう
振られたけど、返事が聞けてよかったと思う。
勇気をくれてありがとう。
多くは語らん
幸せになってくれ、それが最大の恩返しだ