けど、やはり真奈美の体調とかについては極力触れないようにした。
「元気だよ。最近は**が大変なんだよねー!」とか
「今、幼なじみの家で酒飲んでるんだー」とか
真奈美の返信も普通だった。
「いいねー!」とか「飲みすぎ注意だよ」とか。
なんか一気に病気の前の日々にフラッシュバックした気がした。
真奈美からのメールは死ぬほど嬉しかった。
食べた美味しいスィーツの写メを送ってきたり、
俺からは街で見つけたハマーのリムジンの写メを送ったり。
本当に普通の友達とのメールだった。
そして何もないまま6月になった。
俺も真奈美の近況を詳しくは聞いていなかったし、遊びに誘っていいかも分からなかったから。
そんな矢先、真奈美から花火大会の誘いが来た。
「明日ヒマ?花火大会行こうよ!」と。
俺や真奈美がよく遊んだ街では、小規模ながら6月に花火大会があった。
俺は心の中でガッツポーズをした!
「行く!一緒にいこう!」と返事をした。
その日は6月にしては寒く、朝からザンザン降りの雨だった。
待ち合わせ場所は、いつもの繁華街の駅前の交番。
そこに真奈美はいた。
本当に久しぶりだった。
相変わらず真奈美はキレイで、俺はこんな子と花火を2人で見れるかと思うと心が躍った。
病気だったという面影は微塵も感じさせなかった。
前に痩せてた時よりも少しまた肉つきがあり、健康そうだった。
俺を見つけ、俺の大好きな笑顔で近づいてきた。
俺も「久しぶりだね!」と笑顔で返した。
間違いない、紛れも無くあの真奈美の笑顔だった。
待ち合わせは昼の2時だったので、まだ大会まで時間があった。
喫茶店でお茶をし、ショッピング街をぶらぶらした後、一足早く花火会場近くの公園に足を運んだ。
雨は止み、街はちょっと夏の香りがした気がした。
2人で白いベンチに腰掛けた。
雨止んでよかったねー。とか
んで俺はこのタイミングで真奈美の近況を聞きだすことにした。
「てかホントに久しぶりだよなー。俺、結構病気の事、心配してたんだぜ!
でもなんか元気そうでなにより!」と仕掛けた。
「ありがとう。色々あったけど、元気になったよ!」と言った。
俺は嬉しかった。何よりその言葉が。
今まで信じてきて良かったって思った。
そして色々思い出話をした。
「結構俺、真奈美のことずーっと心配してたんだぜ」と伝えたり、
真奈美も
「いやー手術大変だったよー。」と笑顔で返してくれた。
いつか話した結婚のネタもちょっとバカにされて笑い話となった。
「あの時の1は若かったよね」と。
話は止まらず、気づいたら花火大会が始まっていた。
小規模の大会。かつ雨上がりということで人もそこまでいなく、地味な感じだった。
俺も花火を見つめながら「隣で空を見つめる真奈美は今、何を考えているのかな?」とか思っていた。
花火が終わり、別れる時間となった。
「今日はありがとう。花火はキレイだったし、なにより元気な真奈美が見れて俺ホント嬉しかったよ。」
と言った。
真奈美も笑顔で「うん。こちらこそありがとう。また遊ぼうね」と言った。
俺たちは別々の電車に乗って別れた。
そして1日、2日経つと自分の気持ちを自問自答するようになっていた。
と言っても答えはひとつ。
1年以上時間は経っていたけど、やはり俺は真奈美が大好きだった。
真奈美と会えない間に実際はいろんな女とも知り合いになったけど
俺の心にはやはり真奈美しかいなかった。
とにかく好きだ。それだけだった。
俺は真奈美に次あったとき、もう一度告白しようと決意した。
付き合わなかった。
真奈美から必ず連絡が来ると信じていたし、もし真奈美が病気で苦しんでいるのに俺だけが良い思いするのは
自分の中で許せなかったから。
また真奈美と連絡が取れなくなってしまった。
俺はまた真奈美を信じるだけの日々に戻ってしまった。
今回は理由が分からなかった。
やっぱり彼氏が新しくできたのか
俺を嫌いになったのか
はたまた病気が再発したのか。。
一切連絡が取れなくなった。
けど返信はなかった。
そしてクリスマスになった。
思い出すのは真奈美の事だけだ。
メールをしたけど、やはり返ってこなかった。
もちろんお正月も。
翌年の12月のクリスマス前の夜だった。
何と真奈美から着信が入っていた。
(俺は携帯をポケットに入れていて気づかなかった。)
俺は家に到着する寸前でその事に気づき、すぐに折り返した。
そこに出たのは真奈美ではなかった。
真奈美のお兄さんだった。
俺は混乱していた。何でお兄さんがでるんだ?
からかわれているのか?と
しかしそうでは無かった。
俺はそこで初めて知らされた。
真奈美が亡くなっていたと。
けどどこか冷静な自分がいた。
真奈美のお兄さんは俺に落ち着いて聞くようにと促した。
俺はただ、「はい」としか答えられなかった。
「実は1年前の12月に真奈美は死んだんだ。
死因は悪性の脳腫瘍だった。」
お兄さんは続けた。
「1君には『私が死んでも1年間は1には伝えないで欲しい』と真奈美からずっと言われていたんだ。
俺は真奈美が亡くなってすぐに知らせたかったけど、生前真奈美はそれだけを頑なに拒んでいた。」
と言った。
俺は、「真奈美との約束を破らないでくれたんですね。ありがとうございます。」と言った。
お兄さんは「ちょうど一回忌が終わって落ち着いたところだ」と言ってた。
ご実家にもお邪魔し、お線香をあげた。
そこで空白の1年についてお兄さんから教えてもらっていた。
お兄さんの話だと、かなり無理して花火大会に行っていたとの事。
既にその頃は余命数ヶ月とかのレベルだったらしい。
真奈美はお兄さんとそこまで仲が良くなかったが、俺の話だけはしていてくれたみたいだ。
「花火大会後はずーっと入院だったんだ。でも自分がボロボロになっていく姿を、1君だけには見せたくなかったみたい。」
と言っていた。
「私が病気や怪我でボロボロになっちゃっても、1は私と付き合える?」
と真奈美に聞かれていたことを唐突に思い出した。
当然その頃は「当たり前だろ、俺真奈美大好きだもん!」といって笑っていたが、
当時からその予感が真奈美にはあったのかな。
いろんな真奈美との話や思い出が、お兄さんが一言一言しゃべる度に走馬灯のように蘇った。
俺が若手ながら社会人で頑張っているところに、真奈美起因で俺の気持ちを動揺させたくなかった
というのが一番だったらしい。
お兄さんは入院中にも、俺への連絡を真奈美に勧めたが、真奈美はただひたすらそれだけはと拒んだ。
それは真奈美の俺に対する気持ちの表れだと言った。
「最高の状態で幕を閉じたかったんだよ真奈美は」と。