誕生日の直後、真奈美の検査がある事を知っていたので、
応援の意もこめて、真奈美にネックレスをプレゼントした。
激しい秋雨がふる日だった。
雨の日は頭痛がひどいらしく、ちょっと辛そうだったが、真奈美は本当に喜んでいた。
俺はその日に無理をさせてしまったことを少し後悔した。
その日も帰りにメールをくれた。
「プレゼントありがとう。大切にするね」と。
真奈美と遊んだ日の帰り道は今も必ずメールをくれる。
いつも帰り道の国道のオービスあたりで真奈美からメールが届く。
付き合う前も、付き合ってた頃も、今もそれは変わらなかった。
真奈美は俺の彼女じゃなかったけれど、俺は毎日幸せだった。
数年前だ
真奈美の誕生日の1週間後に検査があった。
結果は「1ヵ月後に再検査」だった。
検査の後、真奈美がちょっと不安になっている気がした。
そんなある日、真奈美と食事しているときに突然こんなことを言われた。
「結婚を考えている」と。
真奈美は続けて言った。
「別に今、結婚を考えている彼氏とかがいるわけじゃない。
けど正直、今の自分がどうすればいいのかわからない。
本当はあたしの脳が普通じゃないの、何となく自分でわかるの。
けど親にもこれ以上迷惑かけられないし、このまま働きたくてもアルバイトしかできないのは辛い。
そうしたらもう、私を支えてくれている人と結婚しかないのかなって。
今度、前の職場の人に紹介してもらう予定なんだ」と。
「そういうもんじゃないだろ!
それって、好きでもない男と結婚するかもって話だろ?
そんなの幸せになれるはず無いじゃん!
好きな人と結婚したほうが幸せに決まってるだろ!」
と言った。
けど真奈美の答えは
「1には分からないよ・・・恋愛と結婚は別物だよ。」と言った。
俺は返す言葉が無かった。
感情には出さなかったけど、言葉の節々で感じた。
俺はしばらく経ってからこれしかないと思って
「そんな事言うんだったら、俺と結婚しろよ。」
と真奈美に言った。
真奈美は衝撃だったみたいで、目を見開いて俺を見つめた。
「確かに学生だ。けど本音を言えば俺は今すぐ結婚してもいいと思ってる。
実際に結婚が物理的に無理でも、そのくらいの気持ちはあるんだ。
けど俺たちは今は付き合っているわけじゃない。」
真奈美は黙って頷いた
でも今、真奈美はそれを求めてないでしょ?」と
真奈美は何も言わなかった。
「今は無理かもしれない。気持ちが定まらないのも理解できないわけじゃない。
でも俺は真奈美のそばにやっぱりいたい。
俺は今、真奈美と付き合えなくてもいいから、まずはこの現状を二人で乗り越えよう。
その時に付き合うとか結婚とかを考えて欲しい。
もちろん俺なのか俺じゃないのかはその時の真奈美が決めることだけど」と言った。
真奈美は泣いていた。
「1は学生。私のこともいいけど、まずはちゃんと大学卒業してよね」と泣き笑いながら言った。
俺も「当たり前だよ!主席で卒業してやるよ!」と言った。
付き合うとか結婚とかの話はそれからしなかった。
帰り道、またいつものオービス付近でメールが来た。
「ありがとうね。嬉しかったよ。」と
長時間の検査で出てきた疑いは「脳ヘルニア」というものだった。
生まれつき血管が脆く、この状態になるまで殆どの人が気づかないらしい。
その報告をしてくれたのはちょうどある湖へドライブしにいってたときの事だった。
12月に入ってから検査入院すると伝えられた。
いつもは日帰り検査だったから、検査入院となったことがびっくりだった。
「前言ってたとおり、髪の毛全部剃っちゃうかも。
そうしたらもう1とは会えないね。」と言っていた。
「大丈夫、大丈夫だよ」としか言えなかった。
湖付近の空気はとても澄んでいて、気持ちが良かった。
そして真奈美を家まで送って帰り、いつものオービス付近でやっぱりメールが来た。
けど親にもこれ以上迷惑かけられないし、このまま働きたくてもアルバイトしかできないのは辛い。
そうしたらもう、私を支えてくれている人と結婚しかないのかなって。
その考えがよくわからん。
検査入院、頑張ってくるね。退院したらまた遊ぼう」
と言う内容だった。
俺も「辛くなったらいつでも俺に言えよ。
頑張らなくていいんだから。
真奈美が頑張ることが辛かったらいつでも俺に言ってくれ。
その時は変わりに俺が頑張るから」と伝えた。
自暴自棄だったから。
あと彼女は事情があって親と不仲で、手術とか検査とか極力親に負担をかけたくないっていうのをしきりと言ってた。
とにかく彼女の親を「ないもの」と思いたかったらしい。
夜にまた来る。
ちょっとずつ続きいきます。
検査入院の日になった。
12月6日だった。
当初、検査は1〜2泊で終わると聞いていた。
しかし、連絡が来なかった。
2日、3日と待った。その後さらに1週間、2週間と待った
ぱったりと連絡は来なくなった。
そして俺にとって大切な日が来た。
クリスマスだ。
また真奈美からサプライズでメールが来るんじゃないかって。
でもやはり23日には何も起きなかった。
翌24〜25日は大学での参加自由の補講に出席していた。
俺の大学は20日過ぎには冬休みに入る。
だから24、25日の2日間の補講の日は、キャンパスに殆ど人がいなく、
とても寂しかった。
唯一、俺の事情を知る大学の友人がたまたま別の補講に出ていた。
補講の後に1杯だけ缶コーヒーを飲んで別れた。
これから彼女に会いに行くそうだ。
羨ましかった。
1年前とは全く逆のクリスマス。
1年前が最高すぎたため、楽しくないどころか、辛かった。
でもその頃に俺が唯一思っていたことって、
「真奈美の体が無事でありますように」だった。
きっと真奈美は今も辛い思いしてるんだ。
俺だけ楽しむわけには行かない!
そう自分に言い聞かせた。
そして25日の夜、メールが来た。
真奈美からだった。
文は当時のまま。
「久しぶり。元気にしてるかな?
私は手術が終わった後、体調が悪い日々が続いています。
まぁとりあえずメリークリスマス!風邪引かないようにね。」
だった。
検査入院→即手術という流れだったらしい。
俺は嬉しかった。
体調が悪いにしても真奈美が無事なこと。そして俺に連絡をくれたことが。
「ありがとう!メリークリスマス。
とりあえず成功したみたいで良かった。
まずは体調優先。寒いし暖かくしてな。」
と返した。
聞きたいことは沢山あったが、細かいことは聞かなかった。
何となく聞いちゃいけない気がして。
俺は体調を懸念して、とりあえずメールが来たことを喜んだ。
そして年が明けた。
お正月になった。
お正月といえばあけおめメール。
たまにしか連絡を取らない人でも、この時ばかりは連絡が取れる、年に1度の日。
みんなもそうじゃないかな。
俺は真っ先に真奈美にメールをした。
内容は無難な、返事をくれてもくれなくてもいいような感じ。
「あけましておめでとう。今年も宜しく。体調よくなったらまたドライブ行こうな」的な
でも真奈美からの返事は来なかった。
俺は心配だった。
病気の事を詳しく聞かなかったから、真奈美がどういう状況か分からなかった。
ただ、真奈美を追い込みたくなかったから、メールの頻度は多くても月1回ペースで
しかもどうでもいい内容のものだけを送った。
最近こんなことがあった とか
ようやく暖かくなってきたね とか
でも真奈美からは一切返事が来なかった。半年以上来なかった。
最初は「手術で髪の毛を剃ったから会いたくないんだろう」とか思っていたんだけど
時間が経つと、「また再発したのかな?」とか、「もしや彼氏でもできたのかな?」とか
信じることしか出来ないのに、悪循環だった。
俺はただひたすら真奈美からの連絡を待った。
付き合ってる時も別れた後もTELは殆どしなかった。
1年はゆうに越していた。
気づけば季節は5月になっていた。
もう気持ち的には諦めていた頃、真奈美からメールが来た。
「久しぶり!元気?」という、いたって普通の内容。
1年以上も待っていたのが信じられないくらい普通のメールだった。
おまえ…
なんて純なやつだ…