実際そのころまで嫁は俺のことを○○兄ちゃんって呼んでた。
嫁の身体に変化が訪れ、急激に子供から大人の女性の身体に変わって行く過程の中で。
ちょうどそのころに俺の母親が死んだ、癌だった。
あっという間にやせ細って行って、そもまま逝っちまった。
俺の母親が逝ったことによって、いよいよ俺と嫁の関係は疎遠になって行った。
たまに道で会ってもお互いによそよそしい挨拶を交わす程度。
俺が高校3年の春に嫁の父親が倒れた、急性骨髄性白血病。
俺と親父が見舞いに行くと、嫁と母親が付き添っていた。
親同士が話していたので俺は病室の外に出ていた。
嫁もしばらくすると出て来た、本当に久しぶりの俺と嫁は二人だけの時間が流れた。
突然嫁の表情が崩れ、俺に取りすがって泣いた。
「お兄ちゃん、お父さんが死んじゃうよ…」
嗚咽が病室に漏れないように必死で我慢しながら、ひとしきり泣いていた。
俺と嫁はその後再び連絡を取り合う様になった。
俺は不安そうな嫁を支えたい一心で。
付き合って欲しいって。
高校2年の嫁は最初キョトンとしていたが、すぐに笑顔になって「うんいいよ、お兄ちゃん」
って言ってくれた。
まるで俺と交代するようにして、嫁の父親はその後すぐに亡くなった。
嫁の家は決して豊かとは言えない環境だったから、十分な治療が出来たのかどうかはわからないが。
通夜の前日に俺は自宅に戻り、嫁と母親の手伝いをした。
蒼白な表情で、無口な嫁を一生懸命に気遣いながら。
質素な葬儀が終わり、人気のなくなった会館でやっと解放された嫁は泣いた。
俺に必死で抱きつきながら。
思えば俺はその時に決心したような気がする。
嫁の父親に代わって、一生嫁を守ろうと。
その後しばらくして嫁と母親は、家を売り二駅離れた場所にあるちっぽけなアパートに引っ越した。
もっとも東京は家賃が高いし、生活費もかかるからバイト三昧の生活だった。
嫁と俺が初めて結ばれたのは、嫁が大学に入学した年の初夏、ちょうど今ぐらいの時期。
俺はものすごく緊張した、子供のころに嫁にしたエッチな悪戯の罪悪感が蘇ってきて。
わけもわからなかった嫁が突然泣き出して、驚いた謝った記憶とかが。
その年の晩秋に嫁と俺は一緒に暮らし始めた、俺の部屋に嫁が引っ越してくる形で。
俺はなんとか嫁に普通の大学生活を送らせてやりたかった、勉強させてやりたかった。
どうせ俺の学校なんて、恐ろしいほど無名の馬鹿大だから問題無かったし。
もう必死でバイトしたさ、俺の学費や家賃は親父が払ってくれてたけど、嫁の学費も稼がないといけなかったから。
洋服だって買ってやりたかったし、オシャレもさせてやりたかった。
今思えば一番楽しい時間だったかも知れない。
貧乏だったけど、こいつが傍にいてくれたらなんにもいらないって心から思ってた。
そのためには英語は最低条件で、ネイティブ級の能力が必要になる。
結局俺は大学4年の春に退学した。
無意味に1年過ごして卒業したところで、たかがゴミみたいな大学だから。
嫁を留学させるために切実に金が必要だったこともあって。
もちろん嫁は反対したし、必死で止めようとした。
だけど俺は押し切ってそのまま、またまた屁みたいな会社に就職した（今の会社）。
給料だけじゃ足りないから、バイトも始めた。
忙しい毎日だったなー今思えば、ただ俺と嫁の二人の夢のためだったからさ。
嫁はね、掃除は潔癖レベルで出来るんだけど、料理が苦手で。
俺が疲れて帰って来ると、作ってくれるのは有難いんだけど、まずいんだよねｗ
まあそれも今となっては懐かしい思い出だけどさ。
苦労ばっかりの生活だったけど楽しかったよ。
そしていよいよ嫁の就活が始まる時期にスーツ買ってやったんだ。
貧乏だったからさ、ブランド品とかは無理だったけど、それでも１０万近くするわりと高めの。
こんな高いのいらないって必死で言う嫁に言ったな。
「一流の商社の面接受けるんだろ？ちゃんとした格好して行けよ」
嫁は大泣きしてた、可愛かったよ、自分自身が幸せな気持ちになれたな。
嬉しかった、俺も嫁も、本当に嬉しかった。
嫁が就職して２年目の春に俺と嫁は正式に籍を入れた。
もちろん盛大な式とかはやらなかったけど、嫁の直属の上司とかは呼んで。
思えばその当時が俺にとって幸せの絶頂ったかもしれない。
仕事に忙殺されていく嫁、だんだんと変化していく夫婦関係。
苦しい時間が延々と続いて、必死で信じたいのに信じられない心。
会話が減って行き、共通の時間は無くなって行き。
必死で掴もうとしても両手の間からすり抜けていく嫁の心。
認められない自分自身、でも認めるしかない現実。
昨夜嫁が親父に必死に訴えた話。
自分が俺を裏切ったことも全て自分の口で語りながら。
ちょっと無理っぽい感じ。
地獄の始まり。
殺伐としていく夫婦関係、無関心な嫁。
狂いそうな自分。
愛情ゆえに決壊する感情。
変化していく俺。
やがて一線を越え、憎しみが増幅していく。
知ってしまった真実、変化していく俺。
壊れていく自分自身。
破壊願望。
心が乗っ取られる瞬間。
娘と二人で生きてきたけど、いい人と巡り合えて来春再婚する。
今はつらいが、幸せになって欲しい。
嫁はお前の親父に何を語ったんだ？
それを聞かなきゃ眠れないだろ
間男のために地獄少女を何とかして、だろ
地獄少女が後悔する事だろｗ
それがよもや、嫁の中学の同級生とは…
これはツライわ
今こんな女に友達っているの？もう間男と再婚するしかないよね
こんな女OKって言ってくれる男はいない
こう言うパターンって大概嫁の立場が上になると不倫に走るよな
ほんと糞みたいな嫁だな
間男よりむしろ嫁を地獄に道連れしろよ
散々利用して裏切った代償は最悪な人生で償って貰わないとな
自分より頭の悪い男、知的に尊敬できない人間と付き合い続けるのはきつかったんだろう。
金と義理と恩に雁字搦めになっていたんじゃなかろうか。
お兄ちゃんのことが大好きだった、子供のころから。
自分が悲しい時、辛い時、いつも一緒にいてくれて、幸せだった。
でも自分は誰かに守られるだけの人生なんて望んで無かった、子供のころから。
勉強して頑張って、初めて自分の足で世界を見た。
自分が世の中に出来ること、自分がしたいことが見えて来た。
だんだんとお兄ちゃんの束縛が苦痛になってきた。
自由に自分で歩きたい、死ぬまでお兄ちゃんのかごの中にはいられない。
どんどん苦痛になってきた、どうしたら解放されるのかそればっかり考えてた。
そんな自分が無かったけど、もう限界だった。
自由になりたかった、解放して欲しかった。
そんな時に偶然に中学の時に自分のことが好きだった男と出会った。
つまらない男、でもきっかけにしようと思ってしまった。
簡単なことだった、でもやっぱり泣けた。
どうしてもちゃんと話が出来なかったことが悲しいし、悔しい。
でも子供のころからの関係で、絶対に言えなかった。
終わりにするためのきっかけでしかなかった。
こんな形になって自分で自分が嫌になる。
同級生のことなんてどうでもいいけど、このままではお兄ちゃんがダメになる。
それは悲しすぎるからやめさせてほしい。
自分はお兄ちゃんにふさわしく無い、こんな女だから。
早く忘れて幸せになって欲しい。
自分はどんな償いでもするつもり。
散々支えて尽くして、結果売れたら、
犬のように棄てられて、地獄は嫁を地獄に送ってもいいんでないか？
そりゃあ夜叉にもなるわな
ああ、夜叉は女か
間の人生を潰した後でな
