会社は引き止めてくれたんだけど、「以前のような働き方は、もう無理」と兄は判断。
その後、兄は半年ほど「早寝早起き」「毎日、1万歩歩いて図書館通い」して、起業。
会社は「テレワーク(遠隔勤務)」主体。
兄のように、かってはバリバリ働いていたが、病気などで一線を退いた人が自宅PCとネット回線で会社とつながり、在宅で仕事をする。
わかりやすく言えば、ネットを使った「PC内職斡旋会社」「ネット外注請負会社」みたいなもの。
兄が商社時代に扱っていた商材と培った人脈で、それなりに軌道に乗った。
登録してもらっている人たちも、かっては大手で働いていた優秀な人なのだが、
病気の後遺症、子育て、介護などで、通勤や長時間労働、残業ができないだけで、労働効率はかなり良い。
兄嫁さんもその会社で働き、私も働かせてもらっている。
すごく儲かっているわけではないが、経費を抑えられる分だけ、待遇は良くしてる。
夕方のニュースの内部障害者特集みたいなもので、今はこういう会社もありますよーって感じで、正味5分くらい。
私達は事前取材に何時間も取られたり、収録は半日だったのに、結構あっけなかったな、って感じ。
ところが、この取材の反響が私達が考えていたよりも凄かった。
お役所や特殊法人みたいなところから話を聞きたいとか、兄には講演依頼まできた。
そして、求職者の応募も一気に増えた。
うちのテレワークのシステムというのは、ネット上にバーチャル・オフィスがあって、
PCに向かっている(作業している)時は「在席」表示されるようになっていて、
進行中の作業を、リアルタイムでホストからチェックできたり、なにかあれば文字チャットでパパッと打ち合わせたり、
プロジェクトごとに文字チャット会議やボイスチャットしたりもする。
だから、顔が見えない分、要領がわかる実務経験が必要なのだが…… 困った求職者が増えた。
隣町といっても、自転車で10分の距離だから、私も兄夫婦も一面識もない。
ある日、突然、我が家の二世帯住宅へやってきた。(しかも兄側の世帯=会社ではなく、うちの方)
インタフォン越しにいきなり「○○町のAだけど、御宅の会社に優秀な人材を紹介したくって」と。
カメラで確認すると、見るからに口喧しそうなオバサンだったので、ドアは開けず
「うちはネットでの求人しかしてないんですよ」と答えると、
兄家の子供と、我が家の子供が遊んでる声が聞こえたらしく、
「あらー! 子供まで預かってくれるのね、これは好都合だわ。まずは開けてよ」
兄に内線で「ちょっと変な人が来た」と伝えると、子供は私宅に置いて、Aさんを兄宅へと案内せよ、と。
私が兄宅へと案内すると、Aさんが一方的に喋る喋る!
「うちにパソコンやネットの『達人』がいる。御宅の会社で絶対に必要な優秀な人材」
「その人は、御宅と同じ仕事をやろうと前々から考えていた。だから、経営陣として迎えるべき」
「その人の奥さんには子供がいるから、こちらで預かってくれるなら、二人も貴重な人材が手に入るわよ」
「パソコン教えてくれるなら、私も働いてあげるわ」
・当社の募集はネット応募が基本。その後、ネット面接であること。
・専門職なので職歴も重視すること。
・経営陣は全て揃ってるので、現在は募集していないこと。
・子育てしながらでも働けるから、保育施設はないこと。
・ご本人からの応募でなければ、一切応じられないこと。
…を説明。
ここまでで30分を超えていたのだが、とにかくAさんが粘ること粘ること。
3回「お引き取りください」といっても、「でもでも」と一方的に話し続けるので、
兄が「こちらのお話を聞いてくれない方のご紹介ですと、絶対にうちでは働けないことになりますが?」と脅してやっと帰ってくれた。
その後、計3回、Aさんは襲来。
3回ともインタフォン対応で「ご本人のネット応募以外は応じません」と拒絶。
兄夫婦さんが夕飯の材料を買いに商店街へ行ったら遭遇。
「先日の件、考えてくれた? 御宅にとっても、絶対に損はない話なのよ」とペチャクチャ。
兄嫁さんが近所の商店街へ一人で行った時も「社長さんによろしくね~」とまるで知人のような声のかけ方をしてくる。
兄嫁「もう、あの商店街へ行けない。社長夫人とか、そんな大層なものじゃないのに、近所の人にジロジロ見られて恥ずかしい」
うちの旦那「そういうキチガイって、攻撃には強いけど、防御は弱いんだよね」
兄「それだ!」
商店街のお米屋さんにAさんのことを聞いたら、住んでいるあたりをすぐに教えてくれて
「Aさん、オカシイから関わらない方がいいよ。パン屋と魚屋と惣菜屋は出入り禁止にしてるくらいだから。
あと、もう1軒、出禁になれば、商店街全店出禁にするって話もあるくらいだから」
とりあえず、うちの旦那の代休日に、兄と共にA宅へ突撃した。
旦那の予想通り、キチガイは防御に弱いらしく、Aさんは「なんなんですか、いきなり! 警察呼びますよ!」。
兄「優秀な人材だと何度も仰るんで、出張面接に参りました。で、その優秀な方はどこに?」
玄関先でわーわー騒いでいると、二階から汚いトレーナー姿の「優秀な方」が降臨。
(旦那曰く「カンニング竹山をチビにして、色白の全身浮腫んだ感じ」)
優秀「なんなんすかぁ?」
兄「こちらのAさんに、そちら様が優秀だからと紹介されまして」
優秀「ああ、あの件ね。給料いくら?」
兄「ちゃんと面接いたしたいので、近くの喫茶店までご足労いただければ、と」
・○々○アニメーション学院CGデザイナー科卒業の36歳
・職歴は、コンビニバイトのみ。
・エロゲーのことなら任せておけ! 最高のシナリオや設定を提供できる
・ネットでエロゲWiKi編集やってるから、ネットのことなら詳しい
兄が真面目に「うちの商材のこと。やってもらうであろう業務のこと」を5分ほど説明したら、
「拒否! そういうのは興味が一切ないんで。悪いねぇー」
優秀サンご本人から拒否していただけたw
ついでに、世間話の体裁で「ところで、ご結婚してらして、お子様も居るとか?」と話を振ると、
優秀「はあ? あー、それ多分、妹のことだよ。去年、離婚して子連れで帰ってきたんだ。
あのビッチはPCとかネットわかんねーよ。ケータイとスマホしかやんねーもん。
今、パチンコ行ってるんじゃねーの? 保育園の時間はパチタイムだから。呼ぶ?」
兄「いやいやいやいや、結構です。お時間をいただきありがとうございました」
で、喫茶店の外に出ると、Aさんが顔を真赤にして立っていたそうな……
「うちの息子を笑いにきたんだろう! ふざけるな! こちらから願い下げだよ!」
兄「いえいえ、こちらが断られてしまいましたよ。娘さんも大変優秀なようで。お母様も鼻が高いですねえ」
Aさんがナニか言おうとしたら、
優秀「ババア! 俺の客人に変なこと言うんじゃねぇよ!」と、Aさんに蹴り……
優秀「いやー、すみませんね、うちのババアが。よく叱っておきますんで。じゃ、また」
兄と旦那は、背中越しにガス!ドス!という殴打音と「許してー」というAさんの絶叫……
商店街で2回ほど見かけましたが、こちらを見るとそそくさと逃げるようになりましたが……
なんか、モヤモヤとするイヤーな結末なので、こちらに投下しました。
うーわ、そんなの実際にいるのかー
痛すぎるw
心から乙でした