頬にペシペシ叩かれる感覚で目が覚めた。
なぎさ:「おーい、なんで俺が寝てんの~?」
俺:「んんんー」
なぎさ:「もしもーし、俺さーん」
俺:「・・・おー、起きたの?」
なぎさ:「いや、俺の方ががっつり寝てたよ?」
俺:「・・・おー、すまん」
なぎさは優しく笑いながら俺の頭をポンポンしてきた。
なぎさ:「ごめんね。疲れちゃうよね」
なぎさ:「いっぱい頑張ってくれてありがとう」
なぎさ:「ううん。 私の為にここまでやってくれる人は俺以外にいないよ」
ふふっと笑ったなぎさに
あー、やっぱり可愛いなぁと思った。
俺:「なぁ、キスしていい?」
なぎさ:「・・・へっ!?」
俺:「ダメっすか?」
なぎさ:「なんで、改まるのよ!」
布団を寄せてもぞもぞしているなぎさ。
超絶かわうぃぃぃぃぃぃぃ!
なぎさ:「んっ! いいよ!」
何か決心をしたように目を開く。
と思ったら胸ぐら掴まれて思いっきり引っ張られる。
で、思いっきりキス。
なんか、俺の思ってたのと違った。
なぎさ:「だって、恥ずかしいんだもん」
顔をマジで真っ赤にして布団をバサバサ振り回して暴れる。
なんやかんや、なぎさは元気そうだった。
俺:「お前さぁ、好きな人いるの?」
なぎさ:「いるよ」
即答された。
俺:「好きです」
なぎさ:「私もです」
なんか物語みたいにはならなかったけどそれでも伝えられたことが嬉しかった。
それでも、付き合ってくださいとは言わずに俺は保健室から出て行った。
授業に戻り、それから、放課後。
好きだって伝えたことにふわふわしながら帰宅した。
夢みたいに思って、なんかよくわからないテンションになっていた。
変熊:「さて、それでは終わらしに参りましょう」
俺:「お、おう」
最後の作戦。
変熊:「まずはなぎさちゃんにはこの間同様に教室に行ってください」
なぎさ:「・・・うん」
変熊:「あ、大丈夫ですよー。嫌なことが起こる前に終わらせるんで」
ニコニコ笑いながらなぎさに話しかける。
見てたら安心するような笑顔なのでなぎさも少しは安心しているようだ。
変熊:「俺さん、後半は俺さんに任せます」
俺:「おう」
変熊:「では、終わらせますかー」
かるーいノリでなぎさの教室までやってくる。
中は授業中で、その時もなぎさの担任の授業だった。
それを俺と変熊は廊下の曲がり角から見届ける。
少し経ってから、教室にに近づき中の様子を伺う。
相変わらず、百合香とその他三人はなぎさを見てニヤニヤしていた。
変熊:「相変わらずぶっさいくな笑い方ですねぇ」
百合香達を見ながら変熊がボソッととつぶやく。
相当お気に召さないらしかった。
なぎさの机の上にあった教科書に百合香が手を出そうとした瞬間。
変熊:「行きます」
それと同時に2人で前のドアから突撃した。
バンッ!
変熊が勢いつけすぎて、ものっそい音が廊下に響いた。
クラスは何事かと音のした方向を見ると俺たちが立っている。
変熊:「どーも、ちょいとお邪魔しますよー」
担任は少し怒った様子で俺たちの方へ寄ってくる。
変熊:「授業? これ授業なんすか?」
先生:「はい?」
先生は意味がわからないという風に小首を傾げていた。
変熊:「見てる限り、動物園の飼育小屋にしかみえませんけどねぇ~(笑)」
先生:「変熊君、言っていいことと悪いことの区別ぐらいつかないの?」
変熊君:「あんまりふざけた事ばっかり言うなよ新米」
出た。雰囲気一変。
変熊の周りの空気が凍った。
先生すら、黙ってしまった。
変熊がiPhoneだったかスマホだったか
それにコードをつけたものを、クラスの据え置きのテレビに繋ぎ始める。
なぎさの教科書が真っ黒なことや、百合香達が消しカスを投げている様子などが写っていました。
変熊:「百合香ちゃん、これなんかわかるよねぇ?」
百合香:「はぁ? 知らんしー(笑)」
変熊:「これやから動物園の飼育小屋だって言ってんだよ」
百合香の顔をムスッとした表情に変わる
変熊:「知能の足らん猿が調子乗るなよ」
ドスの効いた声。
聞いてる側は本気で怖い。
変熊:「ええか? お前らこれがどういうことがわかるか?」
百合香:「なに? いじめとか言うつもり?」
余裕ぶっこいている百合香に鼻で笑うと変熊が俺に目配せしてきた。
俺:「いじめじゃねぇよ」
ここからは俺の番だった。
そう言うとケタケタ笑出す。
本当にムカつく女でございました。
俺:「いじめなんてねぇよ。 お前らがやってんのはただの犯罪だからな」
百合香:「なに大げさなことゆってんのー(笑) マジ正義感ぶって笑かすわぁ(笑)」
百合香:「つーか、それ見せただけであんたなに言ってんの? 投げ合ってたのはこいつにぶつけるためじゃなくて、遊んでただけだっての」
俺:「そんな言い訳が通用すると思うなよ? 教科書を塗りつぶしたのも、なぎさの物をとって隠したのもぜんぶお前がやったんだろ」
百合香:「しらなーい(笑) 証拠見せてよ証拠!」
このクラスにあの女の味方をするやつはいない。
完全にボスは自分だと百合香は思っていた。
だからこその、怠慢、豪語、余裕。
そんなものは、変熊の前ではまるで意味はない。
テレビ画面の映像が変わる。
それはなぎさがまだ保健室登校になる前。
教室になぎさがいて、休憩中のなぎさの席だった。
そこになぎさは写っておらず
百合香、紗季、明里、麻衣の姿。
なぎさの机をコンパスで刺したり、教科書に落書きしている真っ最中でした。
変熊:「山猿のボスが従えてるのは、同じ穴のムジナの山猿だけってことですよー」
百合香:「?!」
百合香の表情が凍りつく。
ありえない!とでもいいたげな表情。
変熊の作戦の、概要。
それは、公開処刑だった。
俺:「いじめなんてことは、本来どこにも存在すらしてない。いじめってのは、ただの犯罪だからな」
いじめはただの犯罪。
子供だからまだ考えが追いつかず犯罪だからないう認識のない犯罪。
人のものを取れば窃盗。
人のものを壊せば器物損壊。
人を傷つければ傷害。
それを裏返せばどこのだれもがいじめと言い換える。
ならば、表にかえしてやれば、犯罪なのだ。
俺:「世間一般で言われてるいじめはただの犯罪なんだよ」
百合香:「・・・」
俺:「お前が言ってることは、ただの言い訳。ガキが怒られたくなくて、一生懸命言い訳してるだけなんだよ」
俺:「犯罪をつごうのいいように言い換えてるだけだ!」
クラスじゅうがシンっとなって黙りこくっている。
俺:「いじめるのなんて簡単だ。犯罪者になればいい」
俺:「それを笑ってるやってるお前らはただの犯罪者だってことを自覚しろ!」
変熊がそう投げかけると百合香はもうどうしていいかわからないように固まった。
先生:「ちょっと度が過ぎちゃっただけよね?」
いきなり担任が話し始める。
先生:「犯罪者はないでしょう? それを言われてる傷つくひとがいるのがわからない?」
いかにも正論です。
みたい感じで喋り始める。
それに対し、百合香が「そ、そうよ」みたいに同意する。
ここで、ついに変熊が本気で追い詰める。
変熊:「先生、いや、自己中。お前、自分の発言の意味わかっていってるんやろな?」
先生:「・・・!」
変熊:「わからんのか? お前も共犯じゃ言っとんのや」
変熊:「それは、クラス全員を引っ張って行くのを任されとるってことや」
変熊:「聞けば、なぎさちゃんが保健室登校になって話し合いにも行かんかったらしいな?」
変熊:「なんでや?」
言葉遣いもなにもない。
完全に切れた変熊にはぐぅの音も出ない。
先生:「・・・」
変熊:「答えれんのか? そりゃそうじゃろうよ」
教卓をぶっ叩いて変熊が咆哮する。
変熊:「お前は自分のクラスのめんどくさい部分は全て見て見ぬ振りをして、逃げとるだけじゃもんなぁ!」
変熊:「クラスのうちの一人がいじめられようと、私は関係無い!このクラスは私のクラスだ!楽な方へ逃れて行けばいいって思っとるからやろうが!」
先生が吠えた。
先生:「社会も知らんガキが大人の仕事に口出すんじゃないの!!」
先生:「あんたの安っぽい考えで、人にものわ、いうのはやめなっ!!」
ボロカスに言われ続けてついに先生も切れ始める、
しかし、そこでも流石の変熊。
変熊:「そうじゃ。俺はまだガキじゃ。じゃから、お前には俺じゃなくて、この人にぶちまけてもらうわ」
そう言って、前のドアの方を見る。
俺:「お願いします、康子先生」
前のドアから入ってきたのは康子先生だった。
先生:「!」
康子:「あなたは、教師ではありません」
先生:「はっ?! あんたみたいな教師にそんなこと言われる筋合いないわよ!」
康子:「教師は!!!! あなたのような人では決してありません!!!!」
康子先生が叫ぶ。
この日の言葉は重い。
それは長年の経験、学び、そういったものを本気でやってきている人の言葉だった。
康子:「教師はいついかなる時でも、生徒のことを一番に考え、自分の身を削ってでも生徒の日常を守る仕事です!」
康子:「勉強だけ教えるのも、いじめを見逃すのも、全て教師の仕事ではありません!!!」
静まり返った教室は、康子先生の声がよく響いた。
康子:「教える師匠と書いて教師です!! それはこれからの人生を歩んでいく次の者達に、生きて行くことを教えて行く人間のことです!」
ただ単純にすごいと思った。
この人は、話す時は話し、怒る時は怒る。
全て生徒の一人一人を思ってこその行動をとる。
そういう教師だった。
康子:「自分のクラスのいじめを見て見ぬ振りをするなら、今すぐこの教室から去り、教師をやめなさい!」
康子:「教師っていうのは、新人だからミスしても許される会社や他の職業とは違うの!」
康子:「教壇に立てば、どんな人でも教師として働かなくてはならない。新人でもベテランでも子供達に本気で寄り添って行かなくちゃいけない」
康子:「自分の手に負えないからその問題を無視するなら、あなたは何のために教師になったの! あなたを信頼している子供はどうしたらいいの!」
康子:「教師は辛いし、キツい。お金も特別いいものじゃない。それでも、自分がやりたいと思ったからここに立ったんじゃないんですか?」
康子先生の言葉に黙りこくる担任。
多分、誰でもこと人の言うことに反論できる教師はいないだろう。
康子:「生徒に嫌われるのはきついでしょう。ならば、嫌われないようにクラスの権力者に媚びへつらうくらいなら、やめてしまいなさいっ!」
本当の教師の本当の言葉。
それは、重たいものだった。
子供の時の俺ですら、重たいと感じた。
そこで、百合香達が騒ぎ始める。
百合香:「つーか、誰よっ! 裏切ったの!」
人でも杀殳しそうな目で周りを見つめる。
紗季も明里も麻衣も周りを見渡す。