明日は休みなので、多めに投下したいと思います。
よろしくお付き合いください。
そんなある日、後ろの席の山本コージが担任と、何やら話を
しているのを見かけました。
そしてボクは担任から呼ばれると思いがけない提案を受ける
ことになります。
替わって欲しいと言ってるんだがどうだ?」
ボクは席なんて最前列の教卓前、いわゆる“残念な子”席以外ならどこでも
いいと思ってたんで、即答で「いいですよ」と答えてしまってから気づいた。
彼女と話さなくなってから、もうすぐ1年にもなりそうでした。
以前のよう仲良くなくても、せめて普通に挨拶くらいはできるようになれば
いいかなと考えて、思い切って声をかけてみました。
どうせ反応がないだろうと思って、非常に軽く言ったんですよ。
ところが、想像以上の反応がありましてね。いや、別に大歓迎で感激してくれた
とかじゃないですよ。
彼女は、かなり驚いた様子でした。たぶん、ボクが何か言うとは思って
なかったんでしょう。びくっとしてましたから。
そして、視線を90度横に向けたまま、非常に無愛想ながらもハッキリと
言ったのが、さっきの言葉でした。
それからボクは毎朝席に着く時は、彼女に「おはよう」だけは言うことにしました。
そして、彼女も「おはよう」だけは返してくれることになります。
ボクは、もうそれだけで十分満足だったし、実際にそれ以上はない日が続いたわけです。
そして事件です。
去年は確かソフトボールだったと思いますが、今年はサッカーらしいです。
考えるんですが、残念ながらサッカー部員は各クラス2名までの登録。
残りは、審判をさせられるらしいです。なんという不幸。
出場したいでしょう。せっかくのアピールの場ですからね(笑)
ここで頑張れば、ひょっとすると楽しい青春の夏休みとかに繋がるかもしれません。
昔は女子高生だったママ連の“茶色い声援”を浴びていたんですから。
やっぱりここは、現役女子高生の“黄色い声援”の中でプレーしたいじゃないですか。
審判確定ー! もう、こうなれば第4審として、ずーっと椅子に座っててやる。
絶対に動かんぞ。
明日は仕事だけど…限界まで付き合うぜ!
ありがとうございます。頑張ります。
投下します。
――
という固い決意も虚しく、当日は主審として笛を吹くボクでした……
腹いせに、サッカー部員に対してはファウルもオフサイドも超辛口で判定します。
こんなイベントでもカードを出す気満々ですからね。
胸のあたりを触る審判に呼ばれると反射的にイヤ〜な気分になるんですよ。
ざまーみろ。ニヤニヤと、嫌がらせモード全開でしたが……
その時です。
何か分からない硬いものが、ボクの右顎辺りを直撃します。
ノーガードで強烈な左フックを食らったのと同じ効果で、ボクは一瞬で
意識が飛んでしまいました……
楽しんでいた連中が打ち放った軟球でした。
ライナー性.打球でしたからね、もしこれが硬球なら、顎が砕けてしばらくは
流動食だったでしょう。
打ちどころが悪ければ、戒名をもらっていたかもしれません。
日常から、部活がひしめきあっているグランドなので、サッカーをやってる
横でバットを振り回す奴がいても、おかしくない環境なんですよ。
でもまだボーっとしてるし目を開けると、めまいで気分が悪くなりそうだったし
おまけに顎がジンジンと痺れて、しっかり話すどころではなかったです。
精一杯でした。それでも、意識があるアピールには、十分だったようで隊員は
「怪我は大丈夫ですよー」
「今から病院に向かいますからねー」
落ち着いたというか、どこか呑気な口調で呼びかけ続けてくれました。
隊員が担任か誰かに状況を聞いている様子
無線で本部か病院と連絡している様子
そして……
ボクの手を強く握り締めたままの誰かが、震えて泣いている様子――
柔らかかったですからね。
もし、男がボクの手を握りながら震えて泣いていたら、きっとトラウマに
なっていたと思います。想像しただけで寒いわ。
恐る恐る目を開けると……
そこにいたのはミドリでした。
顔面蒼白でボクの名を呼び続け、誰にも触らせなかったとのこと。
クラスでは、その狼狽ぶりからボクがタヒんだと思った奴もいたらしいです。
そして、救急車には担任を押しのけて自分が乗り込んだようです。
その代わりに顎の痛みが襲ってきて、非常に苦しかったことを覚えてます。
ただ、ミドリが同乗してくれてるのは嬉しかったですね。
でも、痛かったですよ。
――
呻くボクの右手をしっかりと握って、なぜか自分が泣きながら
「大丈夫だから、大丈夫だから」
と、ずっと励ましてくれましたし。
担任が入ってきました。
ミドリはボクの顔を見るなり、みるみる泣き顔になってしまいました。
「ユーサクのバカぁ〜!」
泣き顔の彼女が、ボクに抱きついてきます。
というのはなんだか、こそばゆいものです。相手がカワイイ女性.ら尚更です。
思わずニヤニヤしそうになるんですが、顔の表情を変えようとすると激痛が
走るので、そうもいかないのが苦しいところです。
コミュニケーションは困難を極めます。
せっかく仲直りのチャンスなのに、ひたすら無表情でいなければ
ならないのですから。
磁石と砂鉄を使って絵を描く子供用のおもちゃです。
一度は使ったことがあるでしょう?
半透明の白い板の上に磁石で線を引いて絵を描き、レバーを左右にザーっと
動かすと、それが消えるというアレです。どうやら病院の備品のようでした。
会話文の始めはボクからです。
「心配かけてゴメン、もう大丈夫だよ」
「ホント心配したんだから、バカ」
そこまで書くと、それをボクに突き返します。
話ができないボクは仕方がないとして、なんでミドリまでその道具を
使ったのかは謎です。
書きたかったんですが、なにしろ子供用のおもちゃですから
細かい字は書けませんし、画面も小さい。だから……
きわめてシンプルな謝罪文です。こんなんじゃ許してもらえないかと
思いましたが、それ以外に思いつかなかったんですよ。
この文字を見たときは、涙が出るくらい嬉しかったですよ。
そして、彼女はそのおもちゃをボクに渡すことなく、続けて何かを書き始めました。
静かな部屋に、ペンの音が響きます……
そういえば、いつの間にか担任が消えてます。
それからは、彼女の文字による1年間の心情の吐露が続きます……
本当に怒ってたのは最初だけで、そのうち事情が分かってきたらしい。
ようになってしまっていたとのこと。
何度か声を掛けようとしたけど、無視されるのが怖くてできなかったこと。
そして、そのままの状態で夏休みに突入したと。
後悔とショックで、何日か学校を休んだこと……
ボクはマネージャーさんとの件は、やはりミドリには伝えておこうと思いました。
だから、おもちゃを受け取り、こう書きました。
「彼女には、結局許してもらえなかったよ」
「知ってる……」
ボクはマネージャーさんにフラれたせいで、ミドリと再接近してるとか
思われたくなかったから、どうしても次の言葉が書けません。
「ずっとミドリが好きだったことに、やっと気づいた……」
と書きたかったのに……
「あんた大丈夫なの〜? もう、ほんっとに鈍くさいんだから〜」
愚痴モード全開で近づいてきてから、ミドリの存在に気づきます。
もうね、なんというタイミングの悪さ。わざとなのか?
ありがとうね〜、ほんとコイツはダメよね〜」
母とミドリは知り合いというか、家も近所なのでお互い知ってるんですよ。
というか、帰れよ。頼むからさー
「何コレ? 懐かしいおもちゃじゃないの。ひょっとしてあんたたち
コレで会話してた? へー、それでなんか進展があったわけ?」
場の空気を読まない爆弾発言を、かましてくれます。
ほんっとに帰って欲しいですわ。担任だって空気を読んだのに。
「じ、じゃあ、今日はこれで失礼します!」
バタバタと慌てて病室を出て行きました。
ぜんぜん悪いと思ってない口調で、聞きもしないコトをさらに続けます。
「母さんはね、ミドリちゃんの方が好きだよ。えーっと、ユウコさんだっけ?
あの子はイマイチね、あれは本気じゃないかもよ」
ズバリ核心を突いてきます。
うっ、と言葉に詰まるボク……って、今はしゃべれませんけど。
なんでコイツは、こんなに細かい状況を把握してるんだ?
ボクは不思議に思いましたよ。
ひょっとして、ボクの携帯とパソコンを毎日チェックしてるんじゃないだろうな?
確かに、母にはユウコさんと一緒に居るところを何度か目撃されたことは
ありましたけど。それだけで、この情報量とは……女の勘か?
お見通しかよ
そうなんですよ。母は全体の最期の方で、また登場しますよ。
なかなかイイ奴です。
――
結局ボクは観察入院で1泊だけすると、翌朝には帰宅となりました。
学校には午後から登校となったんですが、意外にみんな冷静でしたね。
仲の良い友達以外からは、特に歓迎されるでもなく、心配されるでも
なかったですから。存在感が薄いと、こんなもんなんでしょう。
「今日もお見舞いに行ってあげようと思ってたのに
退院したんだ〜 ざんね〜ん」
ボクも気の利いた冗談でも言えればよかったんですが、如何せん顎が痛い。
顎が痛くなくても、気の利いた冗談なんて言えたことはないんですけど。
教室では笑い合い、部活の終わる時間が近ければ一緒に帰る日々です。
そしてボクの顎が完治した頃、彼女からメール着信。
メールにはカワイイ絵文字付きで、こう書かれてありました。
そりゃ嬉しかったですよ。叫びたいくらい。
震える手で返信しました。
「よろしくお願いします」
いや、2回目か。でもあれは……やめておこう、胃が痛くなるし。
そういえば、外出用の服がない。前回は、慌てて春服を買いに行きましたが
今回は夏服です。デートは楽しみですけど、いちいち服が面倒だなと。
サッカー用のジャージ系以外では、ヨレヨレのTシャツとボロボロのジーンズ
そして汚れたスニーカーが、ボクの持ってる夏服オールキャスト。
そして、妙なプリントや柄はハズレが怖いので、とりあえず地味な単色、無地
そして普通の形を購入。カモフラージュとか国防色なんて絶対買いませんよ。
超気合が入ってるのが丸わかりで、さすがに恥ずかしいですからね。
とりあえず、これで準備完了です。
子供かってくらい。新聞すら届いていなかったです。
なぜか母は起きてましたよ。怪しいやつめ。尾行するつもりじゃねーだろーな。
というか嬉しいというか、そういう妙な下心? みたいなものがありました。
他力本願的に噂になって既成事実化したら――その先の展開が――
とか思ってたんです。厨二病ですね。高二でしたけど。
ですが、映画の内容は全く覚えてません。
なぜならボクの頭の中は、勢いで買った巨大ポップコーンと、巨大コーラの
コンボを如何にして物語の終了までに、やっつけるかに集中していましたので。
後にしたわけです。
彼女は、映画の感動したシーンを楽しそうに話しているんですけど、ボクは
胸やけが酷くてそれどころではなかったのを覚えてます。
映画の内容は覚えてないのに。
ありがとうございます。楽しんでいただけて何よりです。
――
で、ショッピングモールをウロウロしてると、彼女が小さなアクセサリー
ショップを見つけて、そこに入りたいとか、なったわけです。
カワイイモノがイッパイの店で、お客さんも女子ばかりでしたから非常に
入りづらかったんですが、覚悟を決めて一緒に入ることにしました。
一大決心です。過呼吸になりそうでした。
とりあえず匂いでしょうか(笑)
なんたって女子がいっぱいですし、コスメっていうんですか、そういうモノも
売ってますし……それらの混じった香りにクラクラしたのを強烈に覚えてます。
続けたまえ
ありがとうございます。
――
実はボク、女性.香りにも弱いんですよ。
家族にも親類縁者にも年配の女性.かいないもんで、若い女性.シャンプーとか
化粧品系の匂いがすると、なんだか興奮してしまって(笑)
立派な変タイですね。
ボクはドキドキしかしてませんでしたが。
そのうち、ショーケースに入ったモノを見て立ち止まり
ちょっと、はにかむように言うんです……
彼女が指をさしている先に何があるのか覗くと……うぉっ指輪だ。
その瞬間、アドレナリンが大量に放出されました。
だから体の痛みどころか、財布の痛みも感じません。完全無痛です。
もう全力で貢いじゃいますよ。
たとえ財布が空になって徒歩で帰る八メになってもね。
いや、もう徒歩はイヤだな……
買うことになりました。
いくらだったかな? その場で払えたから、せいぜい数千円じゃなかったかと
思います。バイト代は、こういう時に使ってこそですよ。
と言うと、スッと自分の左手の薬指にそれをはめたんです。
そして一言。
「ありがとう! ずっと大切にするねっ!」
もう鼻血が出そうなくらい、顔が熱くなるのを感じましたです。
その後は、二人で色んな店を廻ったり、いわゆるスイーツを食べたりして
楽しい時間を過ごしました。楽しかったなぁ〜
それがならなかったんですよ。
いい雰囲気まではいくんですが、最後の一歩が踏み出せない。
一言が言えない……
告白した瞬間にそれまでの関係が、いい方向、悪い方向にかかわらず変わるのが
怖いんですよ。
とか思ってしまうわけでして……逃げですね。
それにブランクの一年間が、ボク(彼女も?)を
必要以上に臆病にしてたのかもしれません。
頑張れー
頑張ります! って、今のボクじゃないですね。
――
結局、二人には何の進展もないまま、高校二度目の夏休みへと突入します。
だといいんですけどね。高二でデート2回ですから……容姿は……
――
これで、第三部は終わりです。
書いてて思ったんですが、結構イライラする展開ですよね(笑)
シャキっとせい! と当時の自分に言いたくなりますわ。
実際、この時ボクがシャキっとしなかったせいで、この後
彼女が、とんでもないことになっていくわけです……
気持ちわかる気するわ
あの頃は楽しかったですよね。夢がありましたよ。
悪い奴ではないと思いますよ(笑)
女って言葉にして伝えないと分からないからなー第四部待ってる!