夏休みの間、ボクは部活と塾の夏期講習、そしてバイトで滅茶苦茶忙しかったです。
午前中は部活、昼飯もそこそこに塾へ、そして夜はバイト。
課題も信じられないくらいの量が出されるので、それを片付けるだけでも
毎日日付が変わるくらい机にへばりついてました。もうヘトヘトでした。
忙しいからと自分に言い訳をして、結局一度もメールしなかったです。
我ながら情けないくらいヘタレ。
長いので、途中で落ちるかもですが、頑張ります。
――
そう言えば、ミドリからもメールも電話もなかったです。
彼女も忙しいんだろうなと、思ってたんですがね。
ところが……
もうね、本当に驚きましたよ。顎が外れるくらいポカーンとしたです。
なぜなら彼女の髪が、みごとな金髪に変わっていたから。
制服のシャツのリボンは無くギリギリまで開襟状態、加えて膝上何センチよ?
みたいな超ミニ、そして化粧はケバく、若づくりしたセクシー女優みたいでした。
ボクとは目を合わさない。ボクは何か言おうとするんですが、全く言葉が出ない。
池の鯉のように、ひたすら口をパクパクするばかりです。
彼女は職員室へ連行されていったです。
コイツらには1年前の件も、病院でのことも、映画デートの話もしてあって
休み中に何度も「今日、告れ!」「明日、告れ!」と突かれていましたから。
まず寄ってきたのが、二次ヲタ。
三次には興味がない、と常々豪語している悲しいピザ。
中学の頃からの数少ない友達の一人。去年のマネージャーさんの件も
ちょくちょくと相談していた奴。筋金入りのヲタだがイイ奴だ。
この時点では、全く不明なんです……
ボクのせい……でも、あるようで、ないようで……
――
ゲーム(特にギャルゲー)とパソコン一般に詳しい。
工口ゲーとギャルゲーの違いを語りだしたら止まらない。それって違うのか?
悪いが今後、虹ヲタと呼ばせてもらう。
こいつはメカフェチ。生き物には興味がないと宣言している。
機械モノをこよなく愛する変タイ。
虹ヲタとの部活繋がりで親しくなった奴。成績優秀。イケメン。
よく知らんが名前もついているみたいだ。バカだし……
僻地から通学してるせいで、正式にバイク通学が認められている羨ましい奴。
今後、メカ夫と呼ぶ。
そりゃそうでしょう、人生初の楽しいデート相手であった美少女が
一瞬にして見事な遊び人キャラに変身したわけですから。
所属するパソコン部の部室に集合することにしました。
部室と言っても授業で使うパソコンが並ぶ、ただのPCルームです。
専用の部室じゃありません。
壁紙が工口グロ画像とかは当たり前で、
エラー音が『お兄ちゃん、やめて!』だったり
いつの間にか全端末にチャットソフトがインストールされて、授業が
チャット大会になったこともあった。
二人ともボクに気を使っているのか、非常に言いにくそうに話を進めるけど
要は「男ができたから諦めろ」と言いたいらしい。
もし彼ができたのなら、不機嫌な理由が分からない。
少なくとも夏休み中にできた彼なら、今はラブラブの真っ最中だと思うわけで。
ボクの知ってる彼女は、そんな子だったハズだから。
男三人で話していても埒があかないということで
とりあえずメールしてみようとなったわけです。
……返ってきたのはデーモンでした。またかよ。
……着拒否。こっちもか。
それならと虹ヲタの携帯を借りて掛けてみた
……出ないし。
ということで落ち着きました……(合掌)
ありがとうございます。
――
生徒指導の成果なのか、その後の彼女の髪は金髪から汚い茶髪に変わってました。
ギリギリ通学可能な範囲の色に落ち着かせたんでしょうね。
短期間に染めを繰り返したせいか、なんだかバサバサで纏まりがなく
とても残念な感じ。
それでもボクは勇気を振り絞って、毎朝というか彼女が登校してくれば
たとえそれが昼でも「おはよう」だけは言ってましたよ。
当然、何の反応もないんですが。
彼女が、校内でも面倒なグループと言われる男と次々と付き合っていく
ことになるわけです。これは悲しい。非常に悲しい。
元がカワイイ子ですからね。狙ってた輩は多かったんですよ。
弱っているところを狙うとか許せんですが……
でも分かるぞ
もう泣きそうでしたよ……
――
しかも、どれも長続きせず、次から次へと手当たり次第といった状態……
“食い散らかす”という表現がピッタリなわけでして。
こうなるとクラスだけじゃなく、校内でも有名になり始めて、
皆が彼女のことを「糞遊び人キャラ」とか「サセ子」とか言うようになってましたね。
まあ、実際見た目も行動もその通りだし……
「メンヘラとか怖いじゃん」と校内で彼女を相手にする男はいなくなりました。
当然ながら女子も怖がって近寄らない。
そして彼女は、孤立していくんです……
遊んでるとか、A∨に出演したらしいとか、薬漬けでヤ●ザのオンナになった
なんて話もあるくらいなりました。
彼女を諦めるように言ってくるように、なっていきましたね。
コイツらが彼女の悪評を知りつつも、その内容を言わないでいてくれるのは
こんな状態でも、ボクに気を使ってくれているからでした。
そしてこういうことする子に限って素直じゃないと来たもんだ
そう解せないんです。理屈じゃないみたいですから。
――
そして遂に、彼女は学校にすら来なくなるわけです。
たまに来ているような気配はあっても、クラスには顔を出さないし
授業も出ない。
ところがある時、珍しくクラスに顔を出してボクの後ろに座る彼女の左手に
気づいたんですよ。
しかもあの時のまま、薬指に……
だからボクは……やっぱり彼女には何か辛い事情があるんだ!
とか考えるようになったんです。
「おまえなあ、頭大丈夫か?」 虹ヲタが心配そうに言います。
「悪いことは言わん。やめとけ」 メカ夫が諭すように言います。
「今さらあの遊び人……いや、彼女に近づいてどうするよ?」
虹ヲタはさすがにイラっときたのか、暗黙の禁止用語を
うっかりと言いそうになってました。
もう幻想を捨てて現実を見ろよ」
メカ夫も呆れたように続けます。もう全否定モード。
「でも、見てられねーじゃん。いっつも一人で……
なんかあるんだよきっと。カワイそーじゃん」
ボクも必タヒでした。コイツらには分かって欲しかったんです。
たとえ協力してもらえなくても、コイツらには理解して欲しかったんです。
彼女を……
肩をすぼめながら両手を天に向けて“やれやれ”という仕草を揃って
しながら、生暖かい目でボクを見つめる二人。
とか言いつつ、二人とも真剣に考えてくれることになりました。
やっぱり友達はありがたい。
すると虹ヲタが、何だか怪しげな推理を展開し始めました。
手詰まりのボク達は、今は怪しさ満載の彼の推理に耳を傾けるしかありません。
「フラグ?」 ボクとメカ夫が怪訝そうに繰り返します。
「映画を観に行って、指輪を買わされたところまでは
問題なかったんだよね?」
虹ヲタは構わず持論を展開していきます。
おまえは“Bad Endルート”を辿ったんだよ」
「選択肢……? ないなぁ。彼女に言われた通り、動いただけだし」
ボクは、正確性.自信のない記憶を辿りながら答えます。
コイツ……完全にギャルゲーとして考えてやがる。
でも、今はコイツしか頭を働かせてないから仕方ない。
「そういえば……気のせいかもしれないけど」
ボクは映画の一件よりも、更に古い記憶を辿ります。
「彼女の家の前に、変な色のスクーターが停まってたことがあって……」
「それで」 話を聞く前からこれが原因、と決めて掛かりつつある様子の二人。
「そのスクーターを見た彼女が、急に黙り込んだことがあったんだ」
いかにも柄の悪そうな目立つスクーターが停まっていたんです。
オーナーらしき人影は見えなかったんですが、彼女の顔がみるみる曇り
黙り込んでしまったわけです。
その時は「おや?何だろ?」くらいにしか考えなかったんですけど。
機械モノの記憶については
コイツの右に出る者はないメカ夫が言います。
「そうそう、ラメ入りグリーンみたいな色」
ボクの記憶はいつも曖昧ですが、さすがにカナブン色のスクーターは
しっかりと記憶に残ってました。
だったから覚えてる」
さすがメカ夫だ。ノーマルではないところまで覚えてるらしい。
というか、あのカラーリングで、ドノーマルってことはないわな。
「……それだな」 虹ヲタが満足そうに頷きます。
接点があり、彼女はそれを好ましく思っていなかったんだろうとのこと。
その件は、きっと学校では知られたくないレベルの話ではないかとの推理。
追いかけてくれることになった。なんでも、あれだけ弄ってるならどこかの
ショップに頻繁に通ってるハズだ、という読みでした。
カナブン号は読み通り、簡単に見つかったとのこと。
なんでもオーナーは、○○中学の卒業生で現在は高校を中退して何か
日雇いのような仕事をしているらしいとの情報だった。
面倒な輩が出てきたなぁ〜、というのが正直な感想でした。
彼女と同じ中学出身の同級生から、知り合いの元教師、果ては親同士の
ネットワークにまで食い込んで調査してくれたらしい。
お前、卒業したら探偵事務所でも開設したらどうだ?
そこで分かったことは、噂を含めて次の通り。
次に、父は再婚しており、義母の連れ子の義姉がいること。
そして、義母とは折り合いが悪いらしく、現在は義姉と二人で暮らしていること。
最後に、義姉とは非常に仲が良く、二人で外出しているところをよく目撃されていること。
転校前の中学が同じでした。
ボクは、さすがに彼女の転校前の状況は知らなかったです。
それどころか、お義姉さんと住んでる、なんてことも初めて知りました。
彼女とは4年くらい近くに居たわけですが、そんなことは全く知らなかったですよ。
うぅぅ……
親の再婚
↓
義母と折り合い悪し
↓
娘荒れる
↓
不良グループへ
↓
更正して転校
↓
高校入学
↓
昔の仲間登場
↓
再び荒れ始める ← 今ココ
ここで三人は悩むわけです。
サッカー小僧とピザとメカヲタのトリオでカチコミとか、ありえんわけですよ。
ヘタすりゃ命だって危ない気がするじゃないですか。
張れませんですよ。
いや、ボクだってそこまでの覚悟はないかもです。すいません。
となったわけです。
もし、どんな形であれ、今はカナブンと、よろしくやってるのだとしたら
ボクの出る幕ではありません。まったく余計なお世話でしょうし
馬に蹴られてタヒねるレベルです。
立派な、ダメンズなわけでして……
じゃないですか……すいません。ヘタレで。
とは言うものの、義姉の歳がいったいいくつなのかも知らないし
学生なのか仕事をしてるのかも分からない、そういえば、ボクはミドリの
家の場所は知ってても、電話番号は知らないんです。
時間は彼女が家にいない時間の方がいいかと思って、まず金曜の午後
授業はサボりました。一度目は空振りです。
次は月曜日の午前。二度訪問の訪問です
がんばれー
ありがとうございます。
――
ボク達三人は、制服のシャツをパソツにピッタリと入れて
全ボタンを締めて、ネクタイを首まで上げたサラリーマンスタイルで
彼女の家の玄関前に立つわけです。
「ピンポーン」 緊張の一瞬です。
「はぁ〜い」
インターホン越しに若い女性.声。
小さくガッツポーズです。
この瞬間に「もう戻れないぞ!」と思ったのを覚えてます。
いわゆる「賽は投げられた」状態です。
頑張れー
頑張りますー
――
「こんにちは。○○高校二年○組の山下と申します。
妹さんの件でお話したいことがあります」
事前に何度も練習した言葉を噛まないように、マイクに向かって一気に話します。
ここで怪しまれては先に進むことができません。
玄関に現れたのは、心配そうな表情の女性.した。
ボク達は、さっきインターホンに向かって言ったことと同じ内容のことを
言いました。大事なことなので2回言ったわけではありません。
待っていて欲しいと言うと、家の奥へと消えていきました。
指定されたファミレスで待つこと約30分、先程の女性.現れました。
ボク達三人は直立してから90度の礼でお迎えします。百貨店の店員並だし。
「はじめまして、ミドリの姉の○○です」
普段はダラダラしてる3人ですが、この時はできるだけ好印象を与えようと
いつもの3割増くらいの気合で話します。面接の要領です。
「ミドリさんと同じクラスの山下、虹ヲタ、メカ夫です」
本当に申し訳なさそうに、お詫びをする女性.
そんなに謝られたら困ってしまいます。別に彼女がボク達に
迷惑をかけたわけじゃないですし、今の状況だってボク達、いやボクが
勝手にやってて、残りの二人は渋々つき合ってくれてるだけなんですから。
どうやら、ここから先はボクのターンらしいです。
ボクは相当テンパっていたので、何をどう説明したのか覚えていないです。
自分でもよく分かっていなかったから。
でも、内容は伝わらなかったかもしれないけど、必タヒさは
伝わったんじゃないかと思います。
中学の頃からね。そういえば夏休み前かな、あの子、その頃すごく
楽しそうだったんだけど……」
非常に辛いところから話は始まりました。
そこを突かれると、ちょっと心が痛いです。
事前に打ち合わせたシナリオ通りに進めます。
「彼女に何があったのか、ご存じないですか?」
直球勝負です。
「実は私、来年結婚するんです」
「はい……?」
話の流れが掴めず戸惑い、顔を見合わせる三人。
「私、あの子と二人で住んでるから、あの子一人になっちゃうのよ」
その言葉で事情が分かりました。
そうでした、この姉妹は二人で住んでいたのでした。
ボクは言葉の後半部分を飲み込んだ。
「それを伝えたのが、ちょうど夏休みだったかな。
あの子ショックだったみたいで……それと……」
お義姉さんは、言っていいのかどうか躊躇う様子。
ボクは思い切って言ってみた。この辺が核心になりそうだったので。
「……そう、知ってるんだ……」
お義姉さんは、ポツリポツリと噛み締めるように説明してくれました。
(荒れていたといっても、派手な格好で、似たような子が集まった
グループに居ただけとの説明です)
妹の前に現れたのは、たぶん荒れていた時期の仲間だと思うけど
転校後、昔の仲間とは全く付き合いがなくなっていること。
妹も困っているハズだと。
ボク達三人は、まだ釈然としない表情だった。
今の説明を聞いても、彼女が華麗な変身を遂げた合理的な説明が
つかなかったから。
そして、お義姉さんは続けます。
お父さんの再婚からあんなふうになっちゃったし……
たぶんだけど……あの子、一人になりたくないんだと思う。
だから、誰かに助けて欲しかったんじゃないかと思うの。
夏休みの間もずっと山下さんからの連絡を待ってたみたいだったし」
この言葉を聞いて、三人がビクッと固まります。ボクは頭を抱えます。
期待させて肝心な時に逃げてしまったことになっているようです。
しかも、絶望まで与えてしまった様子。
お義姉さんは慌てて言葉を続けます。
「違う違う、山下さんを責めてるわけじゃないのよ。
私がいけないんだから……今回は、私が居なくなることが凄く不安
なんだと思うの。
そこに、現れて欲しくない昔の仲間が現れたりしたから、あの子は
もうどうしていいのか分からなくなって……」
その時は結果として、お義姉さんが自分を救ってくれたという一種の
成功体験みたいなモノが、彼女の深層心理にあるのかもしれない。
ということは、今回も誰かが彼女の前に現れて彼女を絶望の淵から
救ってあげないといけない。それがボクでいいのか……?
鋭く刺さっている。痛い。
彼らの目は「お前が悪い」という非難の眼差し。
裏切って逃げ回ってた奴が、誰あろうボクなんですから。
でも、言い訳をさせてもらえるなら、ボクはその辺りの事情を全く
知らなかったわけで……
逃げたりなんてしません。たぶん……
沈黙に耐えられなくなった虹ヲタが、口を開きます。
「お義姉さん、大丈夫ですよ。
妹さんのことは“コイツ”に任せてください」
って、えっ? ボク? ですか?
「そうですよ“コイツ”なら絶対に妹さんを元気な姿に
戻せますから。もちろん、ボク達も手伝います」
やっぱり、ボクなんですよね?
不安なような複雑な表情をしてました。
あと一押し、ボクの決意表明があれば、その表情が少しだけ安心側に
振れそうな雰囲気なんですが……
もう友達二人は怒りの目になってます。爪でテーブルをカチカチと
叩き始めています。テーブルの下で足も踏んづけてきました。
もうちょいで頑張れそうです。
――
『いい加減、覚悟を決めろ!』という声が聞こえてきそうな目と
態度だったです。
お義姉さんはというと、期待と不安に満ちた目でボクを見つめてます。
三人の視線に後押しされて、ついにボクはその決意を口にすることに
なります。
余計なお世話かもしれないけど……」
「山下さん……」
お義姉さんの顔が一瞬、輝いたように見えました。
決意表明、所信表明演説、なんでもいいから更に続けます。
だから……彼女にもう一度笑って欲しいから……
精一杯やってみますっ!」
虹ヲタとメカ夫が大きくうなずき、テーブルの下で拍手したように
見えました。
あの子をよろしくお願いしますと、深々と頭を下げて帰っていきました。
言っちゃったよな……こりゃ責任重大だぞ……
他人の人生背負っちゃった感じだし。
ボクと二人の友達は自分達の発言の重さに、かなりビビッてました……
続きは明日ということで、お願いいたします。
それでは、おやすみなさい。
明日も読みます
長時間お付き合いいただき、感謝です。
明日も来るのは、夜になると思います。
まってます
昨日も寝不足で今日も寝不足だ…
癖になりそうw