Dはもちろん歓喜。
喜びのあまり放課後の公園で、突然歌いながら踊り始めた。
まだ付き合えると決まったわけじゃねーだろバカw
一方、俺もあの日以来なんとなくNMBが気になっており、・・・っていうかもう完全に好きになっていた。
つくづく小学生みたいな単純な感情の流れで惚れてしまったと思う。
-NMB編 始動-
作戦会議、といっても俺とDがそれぞれの恋の妄想を、さも客観的な分析かのように語り合う会だ。
場所は俺の部屋だったりしたこともあるが、主にDの家の近くの公園だった。
傍からみたら、それはそれは気持ち悪いものだっただろう。
高校生男子2人が、片思い相手の事情を無視して勝手に喜んだり、勝手に悲しんだりしているのだ。
そんな会話がまた片思いをさらに過熱させていき、紅葉を迎える頃には、俺とDはどっぷり恋に浸かった男子高校生だった。
グループで時間を取って集まろうという話になり、ある土曜日に市の図書館で4人で集まることになった。
もちろんこの前日に綿密な作戦会議が行われていたことは言うまでもない。
少女マンガならここで、ちょっとしたハプニングで二人が急接近☆?な展開だが、本当にグループ作業と勉強だけで終わった。
しかし当時の俺たちにはそれだけでも十分で、後の作戦会議で「あの発言にはこんな意図が隠されているに違いない」だの「5回も目があった」だの、くだらないことで盛り上がっていた。
俺のキモい奇行の話だ。
NMBに惚れてからの俺には、日課があった。
それが『NMBチェックマークブック』だ。
簡単に説明すると、NMBチェックマークブックはカレンダーのついている手帳で、そこには、その日NMBとどういう交流・接触があったかを記していた。
詳細は以下の通り
チェック0個:なにもなし
チェック1個:会話があった
チェック2個:ボディタッチがあった(手と手が触れる、なども含む)
チェック3個:キス
という感じだ。
俺は毎日、このチェック3個を本気で目指していた。
調子のいい日はチェック2個いけていたが、たいていは1個だった。
0個の日は機嫌がわるく、Dに当たることもあった。
それでも俺は毎日、本気でチェックマーク3個を目指していた。
俺達は、毎日公園でチェックマークブックを見ながら「火曜日はチェック0個の日が多い
」とか「ここ3日連続でチェック1個だ」とか「明日は数学の授業があるから、NMBは俺を頼ってくるはずだ。そこでチェック2個を狙う!」とか分析してた。
高校初の冬。
そんな中でも毎日学校に行き、チェックを記入、Dに報告し、明日の作戦を考える。
家に帰ってからもNMBがメッセンジャー(当時の主流)にサインインすれば必ず話しかけ、その内容をまたDと共有し、深夜まで作戦会議をした。
授業中にNMBのことを思った詩をしたため、となりの席のやつに見つかりそうになり、あわてて隠したりしたこともあった。
今思えばちょっとしたデートだったと思う。
何をするでもなく、どうでもいい会話をしながら公園を散歩した。
そのあと俺たちの街にある、大きくはないがシンボルであるタワーを見に行った。
俺はこのタワーが、こんなにきれいにきらめいているのに、初めて気がついた。
この日、NMBは俺を完全にキープにするためにか、とても良い思いをさせてもらった。
チェックマーク3個は達成できなかったが、チェックマーク2個に収まらないぐらい、細かなボディータッチがあり、俺のタワー(ry。
俺のチェックマークブックも2冊目に突入した。
そして最も重要なイベントの一つ
高2の初夏の修学旅行がここで訪れる。
行先は風光明媚な山の麓。
つまりはハイキングだ。
俺とDは「宿は同じで、同室」だが、「日中のアクティビティ」は別々。
Dはともちんと、「アクティビティは一緒」だが、「宿が別」なのを嘆いていた。
しかし、そんな嘆きは俺の耳には入らなかった。
なぜなら俺はNMBと、「宿もアクティビティも一緒」。
完全に浮かれて上の空だったからだ。
「修学旅行用、新チェックマーク基準(全5段階)」なんかを作りながら・・・・
それは日中や宿で、NMBは女子と一緒に行動することが多くなることだ。
まぁ考えれば当然だ、NMBはまだ俺の彼女じゃないんだし、女子と一緒にいるのは当たり前だろう。
俺がこのことに気づいたのは、バスが宿に着く直前。
急遽となりの席のDと、どうやってNMBと二人きりになるか話し合うことにした。
しかし考えつくものは実現可能性の低いものばかり。俺は頭を抱えた。
宿分け表によれば、俺たちの宿には、NMBと特に仲の良い女子(蒼井優にちょっとにてるので、優ちゃんと呼ぶ)が一人一緒だった。
NMBと仲の良い他の女子は、全員別の宿だったため、俺は、こいつさえいなければ、まだなんとかできるチャンスはあるのに・・・と、思い、俺たちの作戦はどう優ちゃんを遠ざけるか、が焦点になっていった。
部屋に入り、荷物を置き、とりあえず集合時間まではしばらくあったが、
D「売店いこうぜwwwwww売店www」
というDについて売店へ向かった。
1階に下りて、ロビーを通り抜けて売店に行く道すがら、ロビーで優ちゃんが荷物を持って立っているのが目に入った。
そこへ先生が奥から走って戻ってきた。
先生「ごめんごめん、やっぱり手違いで、予約が1人分だけ間違っていたみたい。」
優「え、じゃあどうすればいいんですか?」
先生「うーん、おそらく優さんは向こうの宿に行ってもらうことになるかな?」
俺「!!!」
つまり俺とNMBが二人きりになれる可能性が爆上げ。
俺は神と手配を間違った先生に感謝した。
そうして優ちゃんは別の宿に向かった。
勢い余って「新チェックマークシート基準」がとんでもなく過激になったのを覚えている。
NMBもNMBで、俺に優しくしてくれた。
超優しくしてくれた。
正直、俺には刺激が強すぎた。
登山をする日には手をつなぎながら登ったり、頂上では飲み物を奢りあったり、お互いの荷物を持ってあげたりした。
俺は有頂天だった。
周りは既に完全に付き合っていると思っていたらしい。
でも二人の間で、愛の確認作業がまだだったので、正確にはまだ付き合っていない、ということになる。
俺は早く確認作業をして、FIFA公認カップルになりたかった。
俺「決めた、俺明日の夜告るわ」
D「まじか!ついに」
俺「うん、やっぱり俺はNMBが・・・
D「あ!ネコだぁ!!待てええええ」
Dは人の話を聞かない奴だった。
しかし最終的には、Dも太鼓判を押してくれた。子猫を膝に乗せながら。
D「まぁその山登りの話聞く限り大丈夫だろ。ねー?ねこにゃんにゃん!はい!ねこにゃんにゃん!」
と太鼓判を押してくれた。
そして「オペレーション・脱トモダチ」に向けての作戦会議をすぐさま始めた。
夜、どうにか先生たちの監視の目をくぐって、NMBに俺とDの部屋に来てもらう。
しばらく3人で話した後、わざとらしくDに電話が入り(携帯のフェイクコール機能的なやつで)、Dが退出。
二人きりになった時点で告白。
うまくいった場合のため、Dにはその後俺から連絡が来ない場合は部屋に帰ってくるな、と言っておいた。
Dが「まあダメでも押し倒しちゃえよ☆」とか言ったせいで
俺は頭がクラクラして、どうにかなりそうだった。
相変わらずNMBは、俺がまるで彼氏かのように扱う。
それだけでもうふわふわ時間だったが、その雰囲気も手伝って、
俺「夜こっちの部屋来てDと3人で話さない?」
とスムーズに切り出すことができた。
NMB「えーっ、ええけど、先生に見つかったりしたらどうするん?!」
俺「大丈夫だって、あいつら適当だから」
NMB「うーん、まあわかった。じゃあ大丈夫そうやったら後でメールするねっ」
NMBからメールが入る。
NMB【今からそっち行けそう。 部屋何号室やったっけ?】
俺【○○号室。鍵開けとくからそのまま入ってきて】
こんなセリフ、もう一生言うことはないだろうw
NMBを待っている時間は、たかだか数分だったと思うが、とてつもなく長く感じた。
こんな中でもDは、フェイクコールを受けて、外に出ていくリハーサルをしている。
しかもふざけてわざと変な調子で
D「あーそれそれ、電話っだよ~♪どっなたっから~♪」
とか歌いながら。
お前それシクったらぶん殴るからなwwww、つかNMBが来たらどうするんだよ、落ち着けwww、と言おうとしたその時、
ガチャ、と扉があき、ピンクパジャマ姿のNMBが慎重に入ってきた。
超可愛い。
俺はドキドキを隠しながら
俺「おお、来た来た」
NMB「もお~っ!途中○○(先生)に見つかりそうで大変だったんやからね~。ってかD!めっちゃ久しぶりなかんじする」
D「おー、たしかに久しぶりだ。日中会わないからなあ」
NMB「うんうん!で、そっちのグループはどんな感じなん?」
D「俺はともちんいるから、それでおーるおっけえwww」
そして何度かの目配せの後、ようやくDに「電話」がかかってきた。
よしスムーズに退室しろよ・・・、そう思った時
D「あ~それそれ♪でっんわっだよ~♪もっしもし~♪」
Dはさっきの「リハーサル」どおり、おふざけ調で電話をしながら部屋から出ていったのだ。
俺は本気でこいつバカなんじゃねえのか?と思った。
せっかく立てた作戦が、この不自然な退出で台無しになったらどうする!
しかしNMBも、それで何か察したらしく、なんとなくそのままになった。
NMBはベッドに座り、俺は近くの椅子に座っていた。
やはり愛の告白をするのだから、もっと近くに座らなければいけない。
そう考えていたのだが、そこでとんでもない事実に気づいてしまった。
NMBの髪はシャワー上がりでしっとりとまとまっていて、黒髪が輝いている。
普段学校では見ることのないパジャマ姿。
収縮性のあるその布は、意外にぴっちりしていて、NMBの身体のラインが浮き上がる・・・
さらに気付いてしまった。今俺は女の子と部屋に二人きりだということに。
・・・(ゴクリ
エ□い・・・
さらに追い打ちをかけるように、以前深夜にメッセンジャーで話していた会話が脳裏をよぎる
-回想-
俺【今夜は冷いね】
NMB【な!めっちゃ冷える。ウチ寝る時基本パジャマにノーブラやから(笑)】
-回想終-
つまり・・・今日も・・・
チェックマークブック(新)をチェックマークで埋め尽くさなければ!
おもむろに立ち上がり、NMBの隣に座る。
しばらくは他愛もない話でもりあがった
学校の先生の噂話やら、昼間のアクティビティの話などだ。
NMB「Dくん、ドコ行ったんやろw」
俺「さあw知らないw」
NMB「Dって、ようわからんところあるよなあw」
俺「あるあるw」
NMB「・・・」
俺「・・・」
NMBが
俺の肩に
頭を乗せてきた
俺「!!!」
沈黙が部屋に流れる。
外でネコが鳴く声がしたような気がした。