二日目も割と盛況のようだった。
シフトはまた午後。
俺は一日目ほどの緊張はなく、
なんだかゆったりとやれた。
でも部員の女の子と話すのは避けていた。
遠藤「おっす!昨日の子来るといいねww」
「お前はまだそんなことを…」
遠藤「なんか楽しいんだもんwってかずるいww」
受付の俺ら二人と、見てる方一人だけ。
遠藤「お、あの子来たぞ…」
入り口付近で遠藤が囁く。
(うるさいやつだなぁ…)
そに子「こんにちは…」
遠藤「昨日も来てくれましたよね、ありがとう」
そに子「はい、素敵な展示なので…」
遠藤の対応は予想以上に紳士的だった。
笑ったつもりだったけど
声すら出てなかった気もする、
今となっては。
そに子「こんにちは、実は今日何回か来てたんですwやっと会えたw」
遠藤「そこまでして華丸に会いたいのかよーw」
そに子「い、いえ…」
正直、この時既に動悸起きすぎて
氏ぬかと思ってた。
とりあえず展示の中に誘導した。
「お前何いってんだよ…」
遠藤「いいじゃない、もうファンだよ、ファンw」
でもファンって響きは良かった。
そに子「それじゃ…良い展示でした。ありがとうございました…」
「あ、はい…」
遠藤「あ〜ちょっと待ってよ!君高校生?」
そに子「はい…受験生です…」
そに子「でもこの〇〇大学さんの展示
すごくよかったです。
ちょっと大変ですが頑張って
絶対〇〇大学に来ます!」
遠藤「あ、おう、それはありがたい…」
遠藤が、ちょっとひいた。
そに子は顔を真っ赤にしている。
なぜそんなことを言ったのか…
私もああいう絵描きたいです」
「あ…いや…ありがとうございます…」
遠藤「わざわざ二日間来てくれる人なんて、
きっといないよねー」
遠藤「せっかく来たんだし、
連絡先くらい交換したらどうなのよ?」
遠藤のぶっぱが炸裂した。
そに子「いや…でも悪いですよいきなり」
「だよね…」
遠藤が俺の足を踏む。
まあその足踏みが
何を言ってるのかは分かった。
「じゃあ…アドレス交換…しとく?
これも何かの縁だし」
そに子「いいんですか…ありがとうございます…!!」
まさかこんな事になるとは思わなかった。
高2のあの日以来、
初めて新たにできた女友達だった。
そに子「また連絡します!絵のこと教えて下さい!」
そに子は笑って帰った。
遠藤「……」
「いやそれはねーだろ」
遠藤「だってJKだよ?いいなあ、おかしいよ…」
確かにオカシイ。
今自分の身に何が起きてるか
よくわかってなかった。
俺は興奮してたのか、
その日の作品搬出の作業で
貧血で倒れそうになったので
ほとんど力になれなかったw
結果ずっと遠藤と話していた。
と言うか搬出に男が遠藤しかいなかった。
異性不信だった俺が凄く頑張れた、って
本当に前向きになれた。
その後喜んで板尾に報告した。
板尾「やったじゃねえかww
きっとお前にとってその子は
どんな形であれ重要な存在になるよ。
ゆっくり向きあっていきなよ」
「え、でもどうしようwwJKだよwww」
板尾「焦る必要はないよww
それに来年同じ大学になるかもしれないんだろ?w
ゆっくりメールでもしてろよ」
えらく作品製作に根詰めたな
ちょくちょくメールをやりとりする仲になった。
割と定期的にって感じかな?
でも会うことはなかった。
久しく女の子とメールなんてしてなかったけど、
メールだと本当楽しく話せた。
どうやら彼女は本気で
俺のいる大学を目指すことにしたらしい。
俺はといえば、
板尾と一緒にコミケに申し込んで、
本格的に同人を始めることにした。
それが、大学1年の夏だった。
俺はそれから板尾と一緒に
コミケに向けて頑張ることにした。
各自一冊ずつ本を刷ろうってことにした。
板尾は上手いから
個人でイラスト本刷っても多分全然イケる。
でも俺はまだまだ…って感じだった。
板尾は親友だけど
それ以上に憧れや妬みもあった。
板尾くらい上手く描きたい…そう思った。
ページ数決めて、イラストの質上げるほうが良いと思うけど
この頃割と板尾に対して
ただの親友って感情以外も、
絵に関わると
妬みとかの感情も抱いてた。
馬鹿だなぁって今になって思う。
俺は馬鹿だった。
でもちょっと上手くなってきて
初心者の頃と違うから、
色々分かっちゃうんだよね。
それが辛かった。
大学1年の夏〜秋は
毎日泣いて絵を描くこともあった。
板尾に追いつきたいって、
すごい必死だったとおもう。
絵を描くのが辛かったな、この時は。
もう当初の目的とかも忘れてたよ。
過去の俺に言ってやりたいw
この頃は1日何時間くらい描いてたんですか?
絵に関して言えば板尾が全てだった。
板尾がいなきゃ絵に出会えなかったし、
立ち直ることすらなかったかもしれない。
だからこそ壁に感じてしまった。
板尾「そんなに焦らないで、
自分なりの絵を探せばイイよ」
そう言ってアドバイスしてくれた。
でもそれすらも焦れったく感じた。
よく、優等生な兄弟に
劣等感抱く人とかいるだろ?
多分そんな感じだったんだと思う。
必死こいて、板尾がびっくりするような本を描こうと頑張った。
一日10時間は描くようにしてたと思う。
でもその割に全然上手くならないから
焦ってたんだと思う。
割とそに子にメールとか
するようになってたと思う。
元々絵がきっかけで知った子だったし、
絵のことを相談しやすかった。
そして、コミケには落ちていた。
板尾は落選した。
サークル参加はできなくなった。
なので、板尾の大学の友人のスペースに
委託で本を置かせてもらうことにした。
サークルチケットも3枚あるので、
俺と板尾と板尾の友人の3人で
売り子はできそうだった。
なかなかキツかった。
板尾に色々教わりながら、
印刷所のことや原稿の形式とかを覚えた。
ジャンルは創作だった。
これは絵を描き始めた時から決めてた。
オリジナルの女の子を描く。
俺は20ページ、オンデマンドで
フルカラーのイラスト本を刷った。
50部。果たしてはけるのか。
板尾はオフセットで
フルカラーのイラスト本を100部。
お互いはけるか
どうか凄い不安だったと思う。
二人で合同本を出さなかったのか
それが今でも分からない。
自然にそうなってしまって…
この時は二人で個人本を出すことになっていた
そに子は、なんとコミケに来てくれると言った。
実はあれから一度も会っていない。
こっちは絵を描くのに必死だし、
こっちから会おうなんて言わないし…
向こうは向こうで
受験勉強ですごく忙しそうだったからだ。
やっと3分の1終わったくらいです。
すいませんこの話けっこう長いです。
また明日の夕方くらいに再開します。
コミケの直前、12月の終わりくらいに
嫌なことが起こった。
俺はコミケムード、そに子のこと、
完全に浮かれていた。
アイツから連絡があったからだ。
1年半も音信不通だったのに。
メールだった。
ちなみに俺は中3の頃からアドレスを変えていない。
なぜこのタイミングで…?
俺はとにかく嫌な予感がした。
返信を返すべきか、2日くらい迷ったと思う。
行動力って本当に大事だよな
自分も大学3年の同い年だけど最近本当に思う
やってみないと分からない事ってあるからな
よし、寝る
コミケ前だというのに凄く体調を崩した。
メシが食えなくなった。
あの時と同じである。
トラウマって、やっぱすげーんだね。
さらに、知ってる人は知ってると思うんだけど
この年のクリスマスイブに
フジファブリックってバンドのボーカルが亡くなったんだよ。
すっごく好きなバンドだったから
俺はそれも凄いショックで、
クリスマスは家で一人で寝込んでたんだよ。
本当この年のクリスマスは色々と最悪だった。
「元気にしてるよ」
とだけ返しておいた。
返信しないならしないで
角が立ちそうだったからだ。
でもこの選択で
のちのち色々面倒なことが起こるのだが…
俺はこの時初めてそに子に電話してみた。
勇気を出して電話したと思う。
それほど何かにすがりたかった。
書くほどでない内容のことを
話しただけだと思う。
勉強頑張ってる?とか
コミケなんて来て平気?とか。
そに子はひたすら、
「なんとかなるんだよ」
としか言わなかった。
この時のこの一言に
すごく元気づけられたのは今でも覚えてる。
そに子が現れたことによって
ただの「美保不信」に
変えてくれたのかもしれない。
とにかく俺の中でそに子の存在は
どんどん大きくなっていった。
そう、もうこの時点で
だいぶ異性不信はイイ方向に向かっていた。
あの時、美術部に思い切って籍を入れて良かった。
展示会に出て良かった。
トラウマ女に吐き気をもよおして来たが最後まで見るぞー
俺はそに子のお陰で
なんとか点滴を打つまでにならずに済んだ。
病は気からとはまさにその通りだ。
今は板尾もいるし
そに子もいる。なにせ絵だってある。
俺は意気揚々とコミケ当日を迎えた。
自分の本が早く見たい。
苦労して描いた。
どれくらいの人が俺の本を見てくれるかな。
憧れの作家さんに会える。
そに子は本当に来るのかな。
もう、なんていうか楽しみなことしかなかった。
みんな大好き国際展示場である。
俺、板尾、板尾の友人の三人は、
サークル参加。
サークル入場だから
スムーズに入れるのである。
やぐら橋の前には
ものすごい数の人の群れがある。
板尾「うはwwwこれ全部一般参加かwwwすごいなwww」
友人「あっちにはホストっぽい集団もいるよ…あれオタク?」
「色んな人がいるんだね…w」
見た目完全なオタクから
ホストっぽいイケメン集団まで、
なんていうか本当に
色んな人がいた。
なにより人の多さに圧倒された。
俺達のスペース…!!
俺たちは創作ジャンルだったから西だった。
とりあえず机の上にあるビラをどけて、
椅子を下ろして…
スペース作り。
俺も板尾も興奮気味。
板尾「ちょwwwダンボール来てるww俺の本www」
「落ち着けよwwあ、俺のもあるよ!ww」
友人「…w」
板尾の友人は経験者なので、
至って冷静だった。
分かりにくいかもしれないけど
コミケはサークル参加者ってのが
いわゆる本を売る側。
スペースって言って
自分たちの場所が与えられて
そこで本を売る。
一般参加者の人たちは
それを購入しに来る人達のこと。
ちなみに俺と板尾は
このコミケの前の夏コミに二人で一般参加した。
板尾はひたすら創作を、
俺は創作ととらドラとかの同人を漁った。
言葉に出来ない。
これが…これが俺の初めての本…呆然とした。
その後俺は、
コミケが開場する前の準備時間に
ひたすら憧れてる作家さんのところに挨拶へ行った。
絵を描く上で影響になった人は数多い。
そして、スペースに戻って
「おい、板尾」
板尾「お、どした…今ポスタースタンド立てるのに手こずって…ハァハァ」
「いつもあなたの絵見てます、憧れです。これ、僕が描いた本です、良かったら…」
板尾「なにそれwwww」
「」
板尾「はいはい、ありがとう。これ、俺の本。俺だって華丸の絵は好きだよw」
俺たちは何やってんだw
さすがにもう見てる人は減ったよね?
そろそろ、今日の夕方に持ち越しますか…
お疲れ様ー
楽しみに待ってるね
続き楽しみにしてるノシ
また今日の夕方あたりに〜ノシ
続き楽しみにしてます!
是非最後まで付き合ってください。
今回から名前にトリップをつけることにしました。
ではぼちぼち続きを書いていきましょうか。
初コミケってこともあって本当に緊張だった。
スペースの準備が終わると、いよいよコミケ開始である。
「…只今より、コミックマーケットを開催致します」
パチパチパチパチ…!!
場内アナウンスと共にコミケが始まった。
板尾「うおお…始まるんだな…」
「こええ…」
遠くから地鳴りのようなものが聞こえる。
板尾「これが…俗に言う…!開幕ダッシュ…!!」
友人「なんだよそのテンションw」
こういったものを味わえるのも
サークル参加の面白いところであった。
果たして、俺たちの本を買ってくれる
お客さん第一号はどんな人なのか。
ドキドキ…女性がいるわけでもないのにやたら動悸がした。
正直けっこうしんどかったけど、
板尾たちには黙っていたのはいい思い出だ。
板尾は割と自身のサイトでも
宣伝していたことがあり
早々に一発目が売れた。
俺・板尾・友人「ありがとございます!」
人のよさそうなお兄さんが買っていった。
板尾「おお、お…売れたぞ…この手で…直接…売った…」
板尾は感極まっているようだった。
本当に、自分の絵を気に入ってくれた人に
直接向い合って、
直接自分の作品を渡す…
板尾はやっぱり繁盛で、
すぐに二人目が来る。
「板尾さん…ですか?いつもサイト拝見してます…」
俺たちと同年代くらいの、若い男の子だった。
板尾「マジですか…ありがとうございます…!」
その時の板尾の笑顔がとても嬉しそうで、
今でも時々フラッシュバックする。
漫画家目指してるのに
この一年頑張れたって自信持って言えない。
4月にこのスレに出逢いたかった…
>>1が泣きながら絵描いてたと読んで
本当に自分が情けないorz
がんがる!
ありがとう!!
俺も絵描きなのでとても興味深いです。
がんばってください
159みたいな人にこそ
是非見て欲しい話なんだ。
時間が許すなら本当、
最後まで付き合って欲しい。
一緒に頑張ろう。
最後まで付き合ってくれたら嬉しいです。
このまま仮に一部もはけなくてもいいな、なんて思い出したのを
今でもよく記憶してる。
でも、そんなことはなかった。
俺はこの時サイトやPIXIVで
雀の涙ばかりの宣伝をしていた。
それが功を奏したのか。
俺より一回りの歳の離れた男性だった。
客「あなたが華丸さん…ですか。
新刊一部お願いします」
「え、おお…は、ハイありがとうございます…!」
そう言ってその方は去っていった。
記念すべき、初めてのお客さん。
この記憶はもう一生忘れられないだろう。
「ちょちょ…み、見た!?
俺の本!!売れた!売れたよ!!」
板尾「良かったなあ。ほんと、
俺たち頑張ってよかったなあ」
自分の描いた絵を、
誰かが確かに見ていてくれた。
その事実が本当に嬉しくて、感極まった。
この時の体験が、
のちの俺を支える本当に貴重な体験だった。