彼女と酒飲んで終電逃した夜だったよ。
時間つぶしに長々散歩して、通りすがりのバーによって
また散歩して、歩き疲れた頃にホ.テルに入った。
全然知らない街まで来てた。バーは感じ良かったし
ホ.テルもキレイだった。こんなの久しぶりだねって
彼女も本当に楽しそうだった。
一緒に仲良くシャワー浴びて、ベッドに入ってから
名状しがたい違和感に気付いた。
でもその時は、そういうのとは別に怖ろしいほど興奮した。
彼女も俺にしがみついて凄い声出してるし。
異様な違和感に追われて、追い詰められてるみたいだった。
目が覚めた時は、窓からしらしら明けの光が差してて
彼女はもう起きててぼんやりスマホいじってた。
抱き寄せても、キスしても何だかぼうっとしてるんだ。
寝起きで機嫌悪いのかな、こいつにしちゃ珍しいなと
思って放っといたら、そのうちこっちに乗り出して
夕べ変なことがあったって真剣な顔して話し出したんだ。
「夕べは途中から変なことに気が付いたの。
お願いだから頭おかしいって言わないで。
ちゃんと聞いて、すごく怖かったんだから。
でも言いたくても言えなかった。声も出ないし。
とにかく変なことばっかりだったよ。○○君だって
変だったよ。ホントはわかってたんでしょ」
○○君の手は両方ともちゃんと目の前にあるのに
違う場所を他の手が触ってる。
でもその手が見えないの。
掴もうとするとその手が無いの。
それでまた違う場所を別の手に触られてる」
「何か言おうとすると、手が口を塞いでくる。
口の中まで入り込んでくる。
そうやって見えない手が増えていって
体中をたくさんの手が触ってる。
そのうち本当に身動きできなくなって、声も出なくて
大勢の人に体を好きなようにされてるみたいだった」
彼女の話で俺はかなり笑って
このスケベ女!とか、昨日酒飲み過ぎだよとか
変なクスリ飲んだんじゃねーのとか茶化してたんだけど
彼女はすごく真剣にその話を訴えるし
仕舞いには怒り出してしまったので
俺もとうとう夕べの違和感について話した。
俺とお前の二人だけしかいないのに
途中から誰か別の奴がいるような感じがした。
俺が抱いてるのが誰なのかわからない。
間違いなくお前の顔で、お前の体なのに
別の女を抱いてるような感じなんだ」
「その女が次々、別の女になるんだ。
そのうち周りに何人も女がいるような気がしてくる。
俺の背中に抱きついてくる腕
俺の首にからみつく腕
でも俺とお前しかいないんだ。
それなのに俺は、大勢の別の女に押し込んでるんだ」
普段なら冗談でも喧嘩になるような話だろう。
でもその時はそれどころじゃなかった。
まだ部屋の中に誰かいるような気がして
俺たちは二人ともゾッとしたんだ。
もうじっとしていられなかった。すぐ支度して
部屋を出て、ばたばたチェックアウトした。
ホテルの外に出た時はちょっとだけホッとした。
とにかくまだ時間が早いし、ファミレスでも入って
落ち着こうって言って、ホテルの角を曲がってすぐ
二人ともあっと立ちすくんだ。
夕べどうして気付かなかったんだろう。
ホテルの周り一面に広がる、墓、墓、墓・・・
お前のせいで目が覚めた
ありがとう
確かイギリスにもそんなホテルがあったはず
ゾッとしたし面白かった