人付き合いの苦手な私が幼稚園の役員になってしまった。
周りの役員さんたちは美人で華やかな人が多くて、
ブスで頭の悪い私は居心地が悪かった。
それでも何度か集まると、ほかの役員さんと世間話くらいはするようになった。
その中のAママはなんだか不思議な魅力を持った人だった。
要領の悪い私の話を熱心に聴いてくれた。
Aママは聞き上手で、相手の目を見ながら、頷いたり、質問したり
「それはこういうことかな?」と上手にまとめながら聞いてくれた。
表情も小動物のようにクルクル変わって、笑ったり、考え込んだり。
私の話を聞いたAママが笑い転げてるのを見ると嬉しくなった。
自分の話を一生懸命聞いてくれる人に出会えて幸せだった。
私はAママに夢中になった。
面倒なはずの役員会が楽しみで、前の日から何を着て行こうか、
Aママに何の話をしようか、そんなことを考えるようになった。
今考えると、気持ちが悪いけど。
でも、洋服もセンスもお金もない私が思いつくレベルなんて所詮しれてるもの。
いまどきのおしゃれな役員ママ達の中に入ると、
どこのお手伝いさん?状態
そんな私にAママはいつもちょっとしたアドバイスをしてくれた。
そのとおりにすると、いつもと同じ安物の服なのに、別物みたいに見えた。
だんだん周りのママから浮かない最低限のレベルまでたどり着いた。
役員会が終わった後、みんなからお茶に誘われるようになった。
それまでママ友なんていなかったから夢みたいだった。
大切な友達を貶されて、腹が立ったけど、口では夫にかなわないので黙っていた。
休日参観日、しぶる夫を説得して一緒に出かけた。
当時うちの子はひっきりなしにしゃべり続けたり、多動があり「もしかして…」と心配していた。
夫は「お前に似たんだよ」と言うだけで、私の話も聞いてくれない、子供の話相手にもなってくれなかった。
夫に子供の様子を一緒に見てもらいたかった。
ところが教室に入って、私がAママに挨拶をすると夫が「あの人だれ?」と聞いてくる。
「いつも話している役員のAさんだよ」と言うと「へ~」と。
参観と懇談会が終わると、一目散に夫はAママの元へ
「○○の夫です。妻がいつもお世話になっています」
「こちらこそお世話になっています」
「うちの妻は頭も悪いし、気が利かないし、ご迷惑かけてるんじゃないですか?
なにか困ったことがあったら、直接、僕に言ってくださいね」
「そんなことないですよ。私の方こそいつも助けていただいてます」
人前で夫に言われて恥ずかしくて、情けなくて消えたくなった。
Aママのフォローがありがたくて泣きそうだった。
どこに住んでいるのか、子供は何人か、Aママのご主人は何をしている人か。
「なんでそんなことを聞くの?」と言ったら「お前が迷惑かけてるから改めてご挨拶に行く」
と言われてしぶしぶ答えた。答えないと夫に叱られるから。今思うと大バカだった。
Aママのご主人が単身赴任していると聞いたとき、夫がソワソワしだした。
「なぁ、来週、幼稚園の宿泊行事があるだろ?その時にAさんと一緒に3人で食事でもしよう」
と言い出した。
「そんなの突然言ったって迷惑だよ」
「お前のそういうところが気が利かないんだよ。
いつも助けてもらってるんだろ?食事くらいご馳走するのが当たり前なんだよ。
これだからバカはいやなんだ」と言われてまた落ち込んだ。
夫にせかされてAママにメールしたら、
「お気遣いはうれしいけど、三人で食事というのはちょっと…
それに私さんのことをお世話した覚えないよ(笑顔の絵文字)」と返信が来た。
断られるのなんて当たり前だよね、でも夫は私の携帯を奪い取るように見ると、どんどん機嫌が悪くなってきた。
きっとAママに嫌われた。夫にも使えない奴って怒られる。
もう嫌だ消えてなくなりたい。
ビクビクしていたけど、なぜか夫はそれ以上何も言わなかった。
でもそれから一週間後の行事当日の夕方、
夫から「おい、Aさんの家に迎えに行くぞ。早く用意しろ」と言われた。
「え、だって断られ…」
「お前ほんとにバカだな。Aさん遠慮してるんだよ。ったく社交辞令もわかんねーのか」
と言われ車でAママのお宅に向かうことに。
Aママのお宅に着いてチャイムをならすとAママびっくりした顔で出てきた。
「あのね、夫がお礼に食事…」言い終わらないうちに夫が私の前に出てきて
「すみません、どうしてもうちの妻がさんと一緒に食事したいからって言うもので。
妻のわがまま聞いてやってくれませんか?もちろん僕も同席しますから安心してください」
「私そんなこと言ってない!!」と言うと夫が振り返りすごい形相で私を睨んだ。
Aママに嫌われるだけじゃなくて、他の役員にも変なうわさが回るのかな。
もうお茶なんて二度と誘ってもらえないどころか、幼稚園にも居辛くなるだろう。
一生ボッチだ。きっと私に似てしまったわが子もボッチだ。幼稚園やめなきゃいけないのかな。
頭の中でいろんなことがグルグル回っていたら、
「私さんと食事ならいつでもご一緒しますよ。
ただ、私の夫がいない場で、他の方のご主人と食事することは遠慮させていただきます」とママがきっぱりと言った。
「え、私のこと嫌いにならないの?」と思って顔を上げたら、
青ざめた顔をした夫がAママの手を掴んでいた
「離してください。ご自分が何をやっているかわかっているんですか!」
「僕はあなたと食事をしたいだけなのに、どうしてそんなに反抗するんですか」
夫の手を振りほどいたAママの手首に赤く指の跡が残っていた。
Aママは肌が弱くてちょっとした引っかき傷もすぐ跡になるって言ってたっけ
なんてどうでも良いことが頭にうかんでボーっとしていた。
「あぁ、僕の跡がついてるね。Aさんの体にもっとたくさん僕の跡をつけてあげるからね」
とブツブツつぶやいていた
Aママはその場に凍りついたように立ち尽くしていた。
私は頭の中がぐちゃぐちゃになっていた。
きっと夫は私よりAママのことを好きになったんだ。
いや、もともと私のことなんて愛してなかったんだ。きっと子供のことも。
いつも夫にバカにされてた。ブスっていわれて、
洋服や化粧品も必要ないってお金出してくれなかった。
大切にされたことなんてなかった。
…この人モラハラしてるんだ
ジグソーパズルのピースが次々はまっていくように
今までの夫の言動がバーーーッと理解できた。
私はバカじゃない、子供もきっとバカじゃない、
Aママは私のこと一人の人間として見てくれた。
私のことをストレス解消のサンドバッグにしなかった。
Aママを助けなきゃ!
夫の前に立ちふさがった。
「帰ろう、Aママに迷惑だよ。」
「は?誰に言ってんだよ。お前じゃまだからもう帰れよ」
あれだけ外面の良かった夫が、人前で取り繕うことさえしなくなった。
顔を上げて「じゃまなのはあなたも同じだよ」って言ったら
夫に突き飛ばされてその場に倒れた。
眩暈と吐き気が酷くて、そのまま気を失いそうになったけど、必死で起き上がった。
涙と泥でぐちゃぐちゃの私の顔を、夫が汚物を見るような目で見ていた。
「警察を呼びます」とAママの震える声が聞こえた。
そこで記憶が途切れた。気づいたら病院のベッドだった。
幸い転んだときに擦り傷ができたくらいで、たいした怪我をしていなかった。
眩暈と吐き気は精神的なものらしいと説明された。
夫はいなかった。
警察に、事情を聞かれたので正直に説明した。
ちょっと派手な夫婦喧嘩として処理されたけど、結局その後離婚した。
夫は結構固めの職場だったので、DVのうわさだけでも出世に響くらしく、
あっさりと応じてくれたのが意外だったけど。
Aママは私と話すようになって、わりと早い時点から、モラハラ受けてるんじゃないかと思ったみたい。
自分では普通の夫婦の会話だと思っていたけど、
周りで聞いていた人は「DVじゃないの?」ってドン引きしてたみたい。
恥ずかしすぎるorz
Aママはその年の年度末に、ご主人の赴任先に引越しした。
「もともと決まってたのよ」と言われたけれど、私の事があったからなのかもしれない。
Aママにはどれだけ感謝と謝罪の言葉を言っても足りない。
彼女がいたから今、子供と二人で細々だけど、幸せに暮らしている。
Aママがさりげなく夫の言動を日記に書くように勧めてくれたので、離婚の交渉の時に役立ちました。
もうすぐわが子が卒業するので厄落としをかねてカキコ
支援ありがとうございました。
おお、良かったな。お幸せに。
どうなるのかと思ってたんだけど、今が幸せならよかった。