疲れた。でも仕事見つかってよかった。
きついけど作業場の人達は良い人そうだしなんとかやっていけそうだ。
社長から日当を日払いで手渡された。
茶封筒には6000円入っていた。途中から働かせてもらったのにな。
思わず「こんなにいいんすか?」って言ってしまったよ。
帰宅までの道のり、疲れているのにいつもより足取りが軽かった。
真っ暗だった道筋に少し光が差したような気分だ。
ハル「キャハッwあーーーうw」
ハルが大喜びで駆け寄ってきた。
俺は高い高いして、
俺「ただいまw」
て言うと
ハル「たらいまーw」
って満面の笑みで返してきた。
すごく癒されるな。ハルの笑顔で1日の疲れもぶっ飛ぶ。
明日も頑張ろうって気持ちになった。
キョロキョロして俺ちゃんのことずっと探してたんだと思うわ。パパ帰ってきて嬉しいねw」
俺「すいません。迷惑かけました。面接ですぐ働けるか?って言われたんすよ。」
カズエおばさん「そうよかった。仕事決まって本当に良かったねw」
ヒロシおじさんに呼ばれて、一緒にご飯を食べさせてもらった。
俺「あのこれ。」
俺は今日の日当分6000円の茶封筒テーブルに置いた。
俺「本当に少ないっすけど。とりあえず当面の食費や、迷惑かける分。
また少しでもお金が貯まったら渡します。」
本当は酒や煙草、ハルのお菓子なんかを買ってあげたかった。
でも今はっきりしてるのは、この人達に迷惑かけてることだけだ。
ハルちゃんのために使ってあげなさい」
ヒロシおじさん「分かった。これは受け取る。」
そう言ってお金をポケットにしまった。
ヒロシおじさんは、ちゃんと俺の気持ちを汲み取ってくれたんだ。
何よりハルの存在が大きかったと思う。
どんなにきつい現場作業もハルのことを想い出せば頑張れたんだ。
俺自身、自分の変化に気づきはじめてきた。
ハルが成長するように、俺も少しずつ成長しているのかもしれないって。
続き
そんな時だった。その日は大雨で仕事が中止になり、昼過ぎに帰えることになった。
帰宅すると、
ハル「ギャーーッ!」
リビングからハルの泣き声が聞こえる。
あちゃーまた俺のこと探して泣いてんのか?なんて思いながら上がりこんだ。
それと同時に、
「うるさーい。黙れー!」
と大きな怒鳴り声が聞こえた。
リビングを開けると、ハルが泣きながら座りこみ。ヨシノおばさんが目の前に立っていた。
俺「何してんすか?」
俺はヨシノおばさんを睨みつけて、ハルを抱きかかえた。
俺「どうした?何で泣いてる?カズエおばさんは?」
一瞬テンパってハルに質問攻めしてしまった。
ハルは俺にしがみついて、
ハル「パッパー、エグッ。パッパー、ヒック。エーーン」
大泣きしている。
最初は虐待でもされているのかと思ったけど、そうではなかった。
ヨシノおばさんがビリビリに破けた、哀れな姿になった教科書を見せてきた。
俺はハルを立たせて、
「本当か?お前がやったのか?」
強い口調で問いただした。
俺の言葉なんて理解できてるわけないけど、せっかく居候させてもらっているのに
何てことしてくれたんだって思った。
カッとなって怒りのまま俺はハルを叱った。
ハル「あーーっ!ギギギギーっ!いやーーー!」
ハルは泣きながら俺に怒った。
きっと俺が怒っているのを見てテンパったんだろう。
俺「あの、本当にすいません。教科書は弁償しますから。本当すいません」
ヨシノおばさん「当たり前でしょ。それに夜この子の泣き声うるさいのよ。
サキは受験生なの。ちょっとは気をつかいなさいよ。もぅまったく」
ハルかわいそう
カズエおばさんは体の調子が悪いみたいで横になっていたらしい。
カズエおばさん「ちょっとだけ一人で遊んでもらってたの。俺ちゃんごめんなさいねー」
俺「俺の方こそいつもハルを見てもらってすいません。」
ハルは呑気に、買って帰った好物のラムネを食べていた。
ハル「ラムネーw。ラムネーw」
機嫌よくしている姿を見て少しイライラした。
本当は分かってるんだ。この子は何も分からないし知らない。
ただ遊んでいただけなんだよ。きっと。
でも今のこの状況で俺は、お前を叱ることしかできないんだ。
またあんな悪戯をしたらどうしよ?保育園とは違うんだから。
ハルがしたことは全て俺の責任になるんだ。やっぱりすぐにでも家を探すべきか。
そう思いながらハルの寝顔を見つめた。俺はグッタリして眠りについた。
黙って保育園行かせとけば良かったのに
胸糞過ぎて吐きそう
今日のハルはグズっていた。俺の足にしがみついて離れない。
俺「すぐ帰ってくるからな。またラムネ買って帰るから」
ハル「ラムネー?ちょだーい。」
俺はハルに残っていたラムネを渡した。
そう言って泣き出すハルを置いて家を出た。
仕事中ハルのことが心配で仕方なかった。
また悪戯してないかってこともあったけど
何よりハルに怒鳴るヨシノおばさんの姿が頭から離れない。
他人に息子を泣かされるなんていい気はしないよな。
どうやら何もなかったようだ。
少しホッとしながらスーパーで買ってきた惣菜を出して、ハルに食べさせた。
すると、
ヨシノおばさん「ちょっと来てくれる?」
とリビングに来るよう言われた。
ヨシノおばさんがべっとりとシミのついた服を見せてきた。
俺「どうしてくれるって言うのは?」
ヨシノおばさん「これその子がやったのよ。」
俺はハルを見た。
ハルはヨシノおばさんから顔を背け、俺の胸にうずくまっている。
どうやらハルはこの人が嫌いなようだ。俺も嫌いだ。
ヨシノおばさん「見てないわよ。でもその子以外に誰がこんなことするのよ
あんた達がこの家に来てからろくな事がないの。」
俺「……」
もしそれが本当なら言い返す言葉もない。
どうやら今日もカズエおばさんが体調が悪いから、少しの時間一人で遊ばせていたらしい。
その間葡萄ジュースをハルに持たせていたとのこと。
親バカで、ただハルが犯人じゃないと思いたかっただけなのかもしれない。
証拠があるのにだ。
それでも俺はハルが犯人じゃないと言い張った。
エゴかもしれないが、どうしてもハルがそんなことするとは思えなかったんだよ。
結局カズエおばさんが起きてきて、その場は収まった。
明日も早いので。
せっかく見てくれているのに、勝手をどうか許してくれ。
やってくださいと言ってるようなもんだよね
おつかれ
明日必ず来るなら許してやるよ!
読みやすいは
今からシャワーを浴びたら書きます。
続き
こんな時って眠れないもんなんだな。体は仕事で疲れてるんだけどさ。
俺さ小学の時はいじめられてたんだよ。て言っても悪質なやつじゃないんだけどな。
とりあえずクラス全員から嫌われてた。家が貧乏で母ちゃんがいなかったから。
親父が爺ちゃんぐらいの年ってこともあったんだと思う。
校庭のドブで見つかったんだけど、クラスの奴等は俺を非難したんだ。
「お前んち貧乏だからだろ?」「最低ー」
みたいな感じで。
親父は俺に「お前が本当にやったのか?」
って聞いてきた。
俺「してないよ」
俺の目をしっかり見て、
親父「そんなことうちの息子がやるわけない。あんたら教師まで疑うのか?ふざけるな」
っていつも穏やかで温厚な親父が、ムキになって怒りだしたんだ。
本当に自分が生きてて申し訳ないって気持ちになった。子供ながらにな。
帰り道親父が俺の手を引っ張って言ったんだ。
親父「俺!!父ちゃんはお前のこと信じてるからな。
父ちゃんは絶対にお前がやってないって分かってるんだ。あんな恥ずかしい姿見せてごめんな」
でも俺は疑われても仕方なかった。
すぐむかついたら、クラスのやつをぶん殴って泣かしてたし。
クラスで買ってたカメを、勝手に池に逃がしたりしたことがあって
それをクラス全員に責められて暴れたこともあった。
本当に問題児だったんだ。
何で父ちゃんは俺のこと信じるの?本当に俺がやってたらどうすんの?」
親父「父親が息子信じなくてどうする!」
いつも強がってた。悪ガキぶって泣いたら負けだと思っていた俺も、さすがに泣いてしまった。
その言葉で十分救われたんだ。親父は俺の頭をクシャクシャして。
悔しいだろうけど、悪くないなら悪くないって言い続けろ。悪いことしたらちゃんと謝れ。」
昔の記憶がよみがえる。俺は眠るハルの髪をクシャクシャしながら、
父親の俺が息子を信じなくてどうすんだって、独り言を呟いた。
朝がきて、俺はハルをおぶって仕事場に向かった。
ハルを置いて仕事に行くのが不安だったからだ。
社長に事情を説明すると、現場は駄目だから事務に置いていくならいいと言われた。
理解がある人で本当に助かったよ。
昼は会社に戻ってハルとコンビニ弁当を食べた。ハルは嬉しそうに食べてた。
俺もハルのそばにいて安心できた。お利口にしてたみたいだし。
事務員「この子めちゃくちゃ可愛いね。将来イケメンだわw」
息子を誉められて悪い気はしないもんだ。
作業が終了すると、社長がみんなでご飯に行こうと誘ってくれたので
その言葉に甘えることにした。
ハルは人が多いせいか少しグズっていた。
社長に酒をすすめられたけど、ハルもいるので断った。
帰宅したのは少し遅い時間になった。
ハルは俺の背中でぐっすり眠っている。ハルを起こさないよう、静かに家に入る。
ヒロシおじさん「俺くんちょっといいかな?」
戸を少し開けヒロシおじさんが顔を出した。少し険しい表情に、何かあるなと感じた。
何か言い出しにくそうにしていたので、
俺「あの…昨日はすいません。奥さんの服汚れちゃったみたいで。」
俺から話しをふった。
ヒロシおじさん「いや…いいんだよ。そんなこと気にしなくても」
相変わらず気まずい雰囲気だ。
ヒロシおじさん「これなんだけど…」
俺に見やすいように、そばに近づける。
自立支援相談?サッと目を通した。
すぐ家を探して出ていきますんで。」
思い出したくない過去が脳裏をよぎる。
ヒロシおじさん「いや、そんなつもりで言っているんじゃないよ。本当に心配なんだ。」
見え見えだ。早く出ていけ、面倒はごめんだと顔に書いてある。
部屋に戻って先程のパンフレットをもう一度見た。少し手が震えている。
俺にはトラウマがあった。
入院した親父と俺に残されたのは借金だけだ。
勿論家賃が払えず今にも追い出されそうな勢い。
毎日借金取りが家に来ていたのは言うまでもない。
そしてとうとう奴等が来た。
児童相談所の職員だ。俺はすぐ養護施設に入れられた。
親父が迎えに来るまでの1年間すごく辛かったのを覚えている。当時6歳だった。
育てていく自信なんてなかったからな。
でも今は違うんだ。父親になるって決意した。
何があってもこいつを守るって決めた。それはもう揺るがないものになってる。
短い時間だけど、ハルと過ごして沢山何かをもらった。何かを感じた。
今ハルは、俺にとって掛け替えのない宝物なんだ。どんなことがあっても手放さない。
どんなことがあっても。。。
俺はパンフレットを丸めてゴミ箱に捨てた。
お金は少しはできたけど十分とは言えない。とりあえず働かなきゃな。
作業中何度も携帯が鳴った。気になったので不在着信を確認。
カズエおばさんからだ。
俺はすぐに電話をかけ直した。
「あの… 私サキです」
電話に出たのはヒロシおじさんの娘のサキだ。
俺「どうしたんすか?」
サキとは家で顔合わすだけで話したことはなかった。
サキ「おばあちゃん昨日入院したんですけど…」
昨日は遅く帰ったし、ヒロシおじさんから何も言われてないので知らなかった。
サキ「おばあちゃんが俺さんに会いたいって。今から病院にこれますか?」
俺はハルを連れ病院に向かった。
病室に入ると、カズエおばさんと横にはサキが座っている。
俺が会釈すると、
サキ「ハルちゃん。私が見てます。」
と言ってハルの手を引き病室を出ていった。
カズエおばさん「大丈夫よw ただどうも胸が苦しくてねw」
カズエおばさんは思っていたより元気そうだった。
カズエおばさん「わざわざ呼び出してごめんねw 当分家には帰れそうにないんだ。」
俺「うん」
お見舞いにきてくれるのはあの子だけよ。」
今日電話で話したのが初めてなんだが、想像してたのとは違ったのは確かだ。
世間話を簡単に済ます。
俺ちゃんにも心配させた。どうしても謝りたかったの。」
カズエおばさんは涙を流しながら俺に謝ってきた。
俺に謝ることなんて何一つないのにだ。
とてつもない迷惑かけてる、本当は俺の方が謝らないといけない。
おばさんがありがとうと言いながら枕元から封筒を出した。
カズエおばさん「これ使って。これで家を借りてハルちゃんと二人で暮らしなさい。
今の状態では何もしてあげられないからね。」
そう言って現金の入った封筒を俺に渡した。
中味は確認してないけど、かなりの金額だった。
俺「おばさんありがとう。でも俺大丈夫だからw もう家も見つけたよ。
おばさんのおかげでハルとやっていけそうだ。だからこれはいらないよ。」
俺はその封筒をおばさんに返した。