長くなるけど許してね。
私がまだ幼稚園児だった頃から、父親は他所に女作りまくって遊んでた。
見ると、彫りが深くてスレンダーマッチョ。私から見てもカッコ良い。
両親はよく喧嘩してた。母が父の不倫について怒る時は、
「私はないがしろにされてもいい。子供をほったらかして女にのめりこむな」
っていつも言ってた。
その後、父が専務をしていた会社が倒産して、私たちは夜逃げ。
母は父を見捨てないで、子供が4人いたからってのもあると思うけど、
一生懸命働いて、父の借金を返すために頑張ってた。
暫くして、父が独立する事になって、母は飲食店を経営するようになった。
ウェイトレスを何人か雇ってたんだけれど、父が全部手をつけたらしい。
それだけじゃなくて、自分の会社のお金を使い込んで、会社にも行かずに
女と遊びまくる日々。
母がだんだん、精神的におかしくなってくのは私も感じた。
一緒にいたかったけれど、合格した大学が遠すぎて一人暮らしする事になった。
半年振りに帰省すると、家中の雨戸が全部閉まっていて、キレイだった庭も草だらけ、
門扉は半開きになって、家は廃墟みたいになってた。
洗濯物が干してあったんだけれど、どう見ても昨日今日のものじゃない。
母はとてもキレイ好きで、こんな事今までなかった。
母と妹三人はそこにいた。
父は?と聞くと、
「あ、こないだ離婚したから~」
と妹から言われた。事も無げだった。
私は父に顔が似ていると昔から言われていた。それがその時の母には憎く映ったらしい。
「あんた何しに帰ってきたの?あんた見てると、あの男思い出すから二度と来るな!」
って言われて、コップの酒を顔に引っ掛けられた。
ムカツクとかじゃなくて、ショックだった。
大学二年生の時。母が貯めていた学費を父が持って行ってしまった事が発覚。
私は大学を辞めた。
実家に帰ると、「競売物件」という張り紙がしてあった。
妹にも母にも、父にも、連絡が取れなくなっていた。
親戚に電話をして聞いた。
母は末妹だけを残して、上の妹二人を連れて東北へ行ったらしい。
末妹は、祖母の家にいた。
ちょっと頭は弱い子だったけれど、すごく可愛くて素直で、優しくて、自慢の妹だった
のに、やつれて、金髪になって、タバコふかして。
祖母が腫れ物を触るように扱ってた。
祖母から母に連絡をして、私が大学を辞めて戻ってきたというのを伝えてもらったけど
「で?」
っていう返答だけだった。
暫くすると、母と下から二番目の妹だけが祖母のもとに戻ってきた。
東北で何か仕事をしていたけれど、うまくいかなかったらしい。
加えて、父が、母が結婚前から貯めていた貯蓄を勝手に解約していた事。
家が競売にかかっていたのは、父が勝手に家を担保にして借金をしていた事。
経営していた会社は倒産して、母が保証人になった借金が2000万近くあること。
祖母は結構な金持ちだったんだけれど、祖母から5000万父が借りたままである事。
色々な事を聞かされた。
私を見るといつでも
「あの男を思い出す。ここにいるなら殺してやる」
という事を言うようになって、妹と一緒に母を病院へ連れて行った。
祖母と妹と話をして、私は暫く離れた方がいい、という結論になった。
祖母から少しお金をもらって、東京で仕事を見つけて、一人暮らしをする事にした。
何年かして、突然父から電話がきた。
「元気でやってるか?」
と、まるで私が何も知らないかのような口ぶりで言われた。正直殺意が湧いた。
聞いてもないのに、自分は今恋人と暮らしている事とか、昔の女の話とか、延々
父は話しつづけた。
言うに事欠いて
「俺は家族を捨てたりしないからな」
とまで。思わず「は?」って答えてしまった。
父はそれに気付かないで、「彼女を紹介するから、今度飯でも食おう」とか
言ってたけど。妹達にも同様の電話があったらしい。
その頃には母はだいぶ落ち着いていて、私も何度か会いに帰ったりしていた。
でもやっぱり、帰省した初日はいいんだけれど、母はお酒を飲むとイライラとして
私に当たっていた。
すぐ下の妹の行方はわからない。
他の妹達は、母に取り立てに来る借金取りにお金を返すために、高校にも行かずに
働いていた。
祖母が母に、お金をあげると言っていたけど、母は父の失態だから頼らない、と
拒否してた。
「母は戻っているか。結婚した人がいるから、紹介したい。心配かけた分、安心して
もらいたい」
と言って、翌日には婚約者を連れて祖母宅に来た。
母はこの妹の事は特別可愛がっていた。
父には報告しない、と妹は言っていたけれど母は
「仮にもあなたを育ててくれた父親なんだから、結婚の報告だけはしっかりしなさい。
電話でもいいから」
と諌めていた。
母にとって、父は夫ではなくなったけれど、いつまでも子供の父なんだ、とこのとき
母を尊敬した。
結婚するのが決まったら、顔を合わせることになるのに。そしたら母が辛いのに。
結局このタイミングで、私たち姉妹と妹の婚約者、父が対面した。
あろうことか父は、恋人を連れてきていた。
恋人は私と同い年だった。
父は所謂「ラリってる」状態だった。
「結婚式には、こいつ(恋人)も同席させるからな」
姉妹一同で「はぁ?」と言ってしまった。
「あいつ(母)の事で神経質になるのも分かるけど、お前達もあいつも、乗り越えないと
成長しないぞ」
末妹が言った。
「あんたはやった側だからそういえるんだよ。捨てられた子供の気持ち考えろ」
父はそれでも空気読まず、
「だったら結婚式を二回やろう。そしたらこいつも母親として参列出来るし」
「知らない人呼びたくないから」
と、父の恋人の参列を断った。
その半年後、結婚式の日。
招待状を出してないのに、父の恋人が父と腕を組んで現れた。
母が入り口で硬直した。
父は他人事のように「よぉ。元気でやってるか?」と声をかけた。
祖母が走りよってきて、父を引っ叩いて
「恥を知れ!この恩知らず!」
と一喝した。
しかし母は、父を庇った。
「この人だって、何も思わずにここに来るわけがない。」
そして父の恋人に向かって、笑顔で
「娘の結婚を祝ってくださってありがとうございます」
と言った。
控え室に母を連れて行くと、堰を切ったように泣き出した。
化粧を直してあげて、落ち着かせるためにお水をあげて。
父と父の恋人は、親族の席に座ろうとしていたけれど、妹達が
「いや他人だから」
といって一般席に誘導した。
式は滞りなく済んだ。
でもその帰り道、父が母に「金を貸してくれ」と無心し始めた。
妹と祖母が激怒した。
「どの面下げてそんな事いえるんだ、この恥知らずが」
母は放心してしまっていた。
「この金やるから、とっとと帰れ。クズ」
「クズ」という言葉で、父の恋人が激怒した。
「あなた達、この人がどういう苦労してきたか知らないくせに!」
このとき私は初めて喋った。
「勝手に家庭捨てて、勝手に苦労しただけでしょう。馬鹿な事しなければ今の苦労は
なかったはずでしょう」
父に引っ叩かれた。
「誰に向かってそんな口きいてるんだ!!」
と怒鳴られた。
「子供から金もらって、恥ずかしくないの?」
もう罵詈雑言の応酬だった。
それから、父からは連絡がなかったんだけれど、去年の今ごろ、いきなりまた
電話がかかってきた。
「恋人と結婚するから、式に来て欲しい」
バカじゃないの、と一言言って電話を切った。
妹達にも同様の電話があったようだった。
末妹は「さようならって言ってくるわ」と言って出席した。
本当に「これで家族終了だね」と言ったらしい。
今は私も結婚して、母は下の妹たちと、すぐ下の妹も旦那と、幸せにしてる。
でも何度か、心中未遂もあった。
普通の家庭ってなんだろう。
縁切って良かったね