20年以上前、当時健在だった祖父が所有地の整理を始めて、いくつか土地を売った。
そこは、理由は不明ながら祖父は売りたくなかったらしいけど、相手側に「マンションかハイツを建設したい、
最上階角部屋を破格値で分譲するから土地を売ってくれ」と言われ、一人暮らしの祖父を案じていた父達が
賃貸住だった叔父夫婦にそこに住んでもらえばどうかと勧め、祖父も合意した。
で、マンションというには.微妙な高さのマンション完成。
そしたら、立地条件よし・広さや値段も手ごろだった為、完成前後に完売御礼になったらしい。
無論、叔父夫婦が住む予定だった部屋も。
話が違うと祖父や父達が相手先の会社に訪問したら、「証書もないですしねえ」とヘラヘラ。手違いで売買したのではなく、
口約束だけで法的な書類がないのをいいことに、故意にやったんだろうとわかった。
新築の広い部屋に移れると思っていた叔父夫婦ショボーン。父や他の兄弟も、「高い勉強代だったと思うしかないな」と慰めた。
しかし明治生まれで二度の戦争経験者である祖父は引き下がらなかった。
何度も相手先に赴き、「近くに息子夫婦が来てくれると思ったからこそ売ったんだ、今からでもどうにかならないか」と訴える。
「もうあなたとも先方とも正式な売買契約が成立してますのでねえ。あまりしつこいようだと、警察に…」とやられたそうな。
そうこうするうちに、購入者達の入居がほぼ完了してしまった。
祖父は、そのマンションの敷地三方を囲む形でまだ土地を所有していた。残る一方は山。マジ山。人の登り下りもキツそうな山。
所有する土地に「私有地につき立ち入り禁止」と囲いを付けた。業者に頼まず一人で毎日日曜大工したらしい。
結果、マンションの住人さんは「徒歩・自転車・原付の出入りはできるが車は無理」な幅1mあるかないかの通用路しか使えなくなった。
それまでは、私有地を通過するのを祖父曰く「厚意で」許していただけ。
宅配便や郵便屋さんも、トラックがマンション前まで行けない。こちらは田舎なので皆車で移動するが、マンション入居者さん、
車を出せないor入れられない。
ちなみに祖父は気が向いた時しか電話に出ない人なので、緊急の用件の時は身内すら直接「じいちゃーん」「父さーん」と訪問するしかなかった。
車の出し入れができないと買い物や通勤に支障を来す、と入居者達が祖父に言うも、「駐車場借りればよかろう」と無視。
その頃、そのマンション近隣には駐車場になるような土地は余ってなかった。あったのは祖父所有地のみ。そして祖父は絶対に駐車場にするつもりはない。
1週間も立たないうちに、マンションを建てた会社のお偉いさんが謝罪と要求に来た。
何とか、車の通行ができるだけの土地を売ってほしいと。
祖父は「ワシはお前さんところの言うことは信用せんと決めた。だから土地は売らん。ワシが死ぬまで諦めろ。
ワシが死んだら、息子達の誰かが相続するから息子達に相談しろ」と追い返した。
マンションの入居者達の中でも、事情を知っている人は祖父に事前に頼んで、祖父所有地に車を置いていた。そこからならマンションまで徒歩1~3分。
なので、「車の出し入れができなくて困っている人達」というのは、「叔父夫婦が買うはずだった部屋」を購入した夫婦(と、配達に来る各宅配便屋さん)。
祖父は田舎ならではのネットワークを駆使して、その夫婦が「この部屋は土地の売主さんとの契約が決まってまして」と断った営業のお兄ちゃんの言葉を無視し、
その上司にゴネて売買契約成立させた、と知っていたらしい。
最終的に、祖父は当時幼稚園だったうちの弟が父に言わされた「じいじ、おいたはもうだめ、ね?」に負けかけたが何とか踏ん張り、
結局その夫婦が出て行かざるを得ない状況に追い込んだ。その後、私有地を開放。「私有地につき、立ち入り禁止。○△マンション居住の方・御用の方は通行可」と
看板設置。
そして空いた部屋には叔父夫婦をと言われたが、「あんな奴らが住んだところに息子夫婦を住まわせられるか」と断って、近くの土地に叔父夫婦用の家を建てた。
父達は疑問顔だった。
確かに、マンション建てるなら、その敷地から公道までの通用路を確保するもんじゃないのだろうか…?と思っていたら、祖父の所有地近くは当時区画整理か何かで
土地の登記がかなり変更された時期だったらしい。役所に書類取りに行ったら住所の番地が変わってた、とご近所さん達が口々に言っていた時期なんで、
もしかしたらマンション側も把握しきれてなかったのかもしれない。建築中は、叔父夫婦が住めると思ってた祖父も私有地通行はスルーしてたわけだし。
名前欄が何か色々おかしくて申し訳ない。
なんで、こんなこと言わせたんだ?
結局死ぬまで、その会社に土地を売らなかったらしい。相続手続きの時、伯母が気づくまで
「○△マンションへの道」の分だけでも売ってると思ってた。
「死ぬまで売らん」と言った明治男の意地なのかと呆れつつ感心してたら、その周りの土地を相続した弟が教えてくれた。
「じいちゃんはー、○△マンションへの道(祖父が整備してはいたがアスファルト舗装ではない)のとこに
植えてある桃の木を伐りたくなかったんだ。ばあちゃん(かなり早くに亡くなった)が植えた木だから
絶対伐ってくれるなって約束した。だから、あの会社に怒ってたんだよ。桃の木を伐ってくれって言われたから。
車を置かせてた逆方向の土地なら、売ってやってもよかったんだって」
元気だった頃の妻と眺めてた桃の木を伐りたくない、と言う本音がこっ恥ずかしかったそうだ。
うちの弟は祖父には末孫で特別可愛がってたから、「ワシが死んでも伐らんでくれな」と言って相続させたんだと。
なるほどええ話しや、映画化したら見に行く
早いうちに亡くなったばあちゃんは吉永小百合で頼む