恋愛も上手くいき、仕事も上手く行き、彼女は本当にキラキラしていた。
「今度読み切りの掲載が決まりました~~!!」
というような報告を皆の前でしていたこともあった。
S先生やFさんは「すごいね」と心から祝福を送っていた。
俺も醜い本心を悟られぬよう全開で笑顔を作って賛辞を述べた。
Eさんはそれがまた嬉しくて、大船に乗ったかのような景気のいい発言を並べていった。
「彼女」としては当然なのかもしれないけど、Eさんはやはり俺に一番褒めてもらいたいようだった。
俺もそれに応じていたが、段々とそういう関係が心苦しくなっていった。
でもそういうの大好物です。
ライセンスがあるわけではないし、同人作家でも漫画家を名乗る者は結構いる。
ある者は読み切りが一度掲載されればそれでもう「漫画家」だと言っていた。
そしてEさんはそういう定義を自分の中で定めていたらしい。
そして、俺は、
「漫画家」ではなかった。
読み切りというには短過ぎる漫画も載せたことはあった。
だが、「漫画家」というにはあまりに小さな仕事だった。
そして、Eさんは、確かに「漫画家」を名乗ってもいいだけの経歴だった。
Eさんの「やっぱり漫画家になるとそれまでとは違う『責任』みたいなものが
大きくのしかかってくる感じがするなぁ」というような他意のない発言にも俺は
「そうなんだ」と相槌を打つことしか出来なかった。
「俺にはまだ分からないや。早くそういう感覚が理解できる位置まで行きたいよww」
とはどうしても言えなかった。どうしても。
つかEさんは少しくらい>>1に気を使っても・・・
もしかしてEさん的には>>1のことも同じ”漫画家”として見てたのかなぁ?
崩壊つーか自滅
自分でチャンス不意にしてんじゃん
そこに来た連中は皆、俺の持ち込む雑誌よりも遥かに有名な雑誌で、
デビュー、短期集中連載、連載などを獲得している新人だった。
そして、殆ど全員が、俺よりも若かった。
どいつもこいつもキラキラしていて、俺よりも数段上の高みにいて、
年上なのに俺は萎縮してしまった。
「俺さんはどこに持ち込んでいるんですか?」→「あ、××です」
→「へぇそうなんですか。もう掲載とかはされてるんですか」
→「あ、いえ、まだ…ちょっと上手くいかなくて」
→「…あ~~…、実際大変ですもんね。ネーム通すのって。実は俺もこないだぼつあdjヴぁvにdh」
というような流れが大体だった。
せっかく出来た彼女の前で、格好付けることも出来ずに背中を丸くしているだけの自分が本当に情けなかった。
これさえ上手くいけばまだ何とか自分を保てるというギリギリのラインだった。
しかし結果はボツだった。
実は新人漫画家にとって担当編集というのはかなり重要で、
担当編集の力・権力が大きくその後の道を左右したりするのだ。
俺の担当編集は優しかったが、新人だった。
そういった権力はほぼ無いに等しかったと思う。
かといってそれを敗因だと決め付けてしまうのは愚かだとも思う。
どうあれ、俺の作品は、ボツになった。
第一回の連載用ネームがボツになってから、気が付けば8ヶ月が経っていた。
でも担当編集、S先生、Fさん。そしてEさん。
俺を取り巻く環境・人間は依然として優しく、暖かかった。
気が付けば、それが俺の全てだった。
既に他に友人はいなかった。
俺が切り捨ててしまったんだ。
高校のとき、ミュージシャンを目指すと言っていた彼も、今は普通に就職してしまった。
俺だけが、一人取り残されてしまった。
ずっとせき立てられていたあの「早くしなくちゃ」という感情は、
おそらく「早く引き返さなくちゃ」ということだったんだと思う。
でももう遅い。
気が付けば俺は、もうすぐ28歳だった。
何もなしていない。職歴も資格も無い。28歳。
その日から約1週間後、俺は初めて精神科に行った。
だから先生の言うことは何一つ根本的な解決になっていないように思えた。
先生から処方された薬も助けになっているのかどうか良く分からなかった。
でも睡眠薬はとても有難かった。
これのお陰で少なくとも俺は夜眠ることが出来た。
そして、既にこれが無ければ眠れない体にもなっていた。
今思うとこんな状態になったのならすぐにでもアシスタントをやめるべきだったのかもしれない。
でも、アシスタントを辞めてしまえば俺は本当に一人。
外界と一切のリンクがないニート。
Eさんとも別れることになってしまう。
いや、その説明をまずEさんにしなくては…。
俺を取り巻くごくわずかな周囲の人は優しかった。
そのお陰で俺は半ば自動的に人間らしい生活を送ることが出来ていた。
でももう漫画は描けないでいた。
そんな中Eさんは遂に連載を獲得した。
俺が恐れていた日だったが、もうこの日が来るのは誰の目にも明らかだった。
おめでとうと周囲から称えられ、笑顔で応じるEさんは可愛かった。
就職しよう…と思った。
やってやれないことは無いはずだ。
就職して、そして、Eさんと結婚でもしよう。
漫画のことは完全に忘れたいけれど、これだけ世の中を沸かしている漫画を一切目にも耳にも入れずに生きていくなんて不可能だ。
ならばいっそ、俺の夢はEさんに託して…。
そんな風に思って、再びハローワークのHPを覗く日々が始まった。
そして遂に、決定的に俺が崩壊する日が来た。
睡眠薬は処方される数が制限されているのでこういうことはしばしば起きた。
冬の寒い日で暖房のタイマーも切れ、空気が再び寒くなるまで俺は眠れずにいた。
3時間は眠れなかったと思う。
空腹を感じたので俺は近所の牛丼屋に行くことにした。
すぐ隣で眠るS先生を起こさないように、慎重にドアを閉めた。
こういうことは何度かしていた。
雪の降る深夜、駅前まで歩き、牛丼屋に入店する俺。
帰りにコンビニにも寄り、仕事場に帰ったのは1時間後くらいだったと思う。
EさんやS先生を起こさないようにそっと扉を開けた。
帰ってきた俺は一瞬首を傾げた。
俺が出て行くときにあったS先生の姿がなかったのだ。
…?
こんな夜中に外へ出て行ったのか?
先生も牛丼を…?いや、コンビニかな…?
息も凍る真夜中。
ふと柱の梁がミシッという音を立てる。
「…?」
…え?
…?
俺の心拍数は急速に上がっていった。
うそでしょ?まさかそんなことないでしょ?
布団がこすれるような、本当にごくわずかな音だけが聞こえる。
声は聞こえない。
俺はしばらくその場に立ち尽くした。
と思った。
このふすまを開けてしまいさえすればハッキリする。
だが、
俺の体は信じられないくらい震えて、遂に手は動かなかった。
そんな俺が次にとった行動は、なんと普通に元の自分の布団に潜り込むことだった。
「なんで…?え…?」
…と思った。
でも俺の体は動かなかった。
それどころかこんな状況にもなって、証拠・確信を掴もうと耳だけは澄ましていた。
音が止んだかと思うと、また布団のこすれるような音がする。
その繰り返し。
なんで…?
何故? と思った。
でも答えは最初に違和感を覚えたときからずっと俺の頭の中で響いていた。
S先生は
漫画家だった。
そして、Eさんも漫画家だった。
俺はその二人を心の中で「お似合いだな」と思っていた。
二人は全てが上手く行っていた。
二人の人生は輝いていた。
二人は俺の夢を実現させていた。
二人の職業は漫画家だった。
そして、俺は、ただの漫画家アシスタントだった。
そうだな、先生は二人の関係を知らなかったんだし
そして、もう誰とも連絡を取ることはなくなった。
大騒ぎになると両親に迷惑を掛けるから、短い事務的なメールだけをEさんとSさん。
そして担当編集に送った。
こうして俺の漫画家への夢は幕を閉じた。
何もかもを失った俺は立ち直るのに半年近くかかった。
でも半年で結構いい状態まで持ち直したと思う。
就職活動はそれからしてみたものの、やはりなかなか上手くいかず。
いちから何かを構築するということに、精神がもうめげてしまっているのかも。
ただ、運のいいことに(これは俺が立ち直るきっかけをくれた人でもあるんだけど)
漫画家志望友達が簡単なイラストの仕事を紹介してくれて、
その仕事が今に続いている。
食えるにはまだ程遠いけど、今は前よりも少し人前に出る自信が付いた。
近く始まると言っていたEさんの連載は未だに誌面を飾っていない。
長々と付き合ってくれてありがとうございました。
本当に思いつくまま書きはじめたせいでレスを返せずごめんなさい。
これでも「待たせちゃいけない」と必死に打っていました。
完全な特定を防ぐために若干のフィクションを織り交ぜてます。
うpは今も絵の仕事をしているためできません。ごめんなさい。
(そもそもうpどうやるのか分かってない。出来たとしても微妙な反応しか返ってこないと思うww)
Eさんとは完全に連絡を絶ちました。多分バレたことに二人とも気付いてます。
僕も読みましたがあんなに文章上手くない。
でもそう思われたことは光栄です。
あと面白いといってくれた人もありがとう。(…というところなのかどうか分からないけど)
フィクションかどうか気になる人はフィクションだと思ってください。
にちゃんねるでこんなに文章書いたのは初めてです。
それこそブラックの人の気分を少しだけでも味わえて楽しかった。
…こんなとこかな?
ありがとうございました!
いつかまたどこかのスレでノシ
無理せず仕事がんばれよ!