書きまくって入賞し
あと一歩で漫画家デビュー
あれだけ自信のあったマンガ
時代をとれると思ったマンガ
担当も絶賛したマンガ
だが結果は最終候補止まりだった
だがすぐあとに担当の謝罪が続く
「ごめんなさい……雑誌の方向性.変わる事になって……」
そして今回は前回の件よりももっと悪い事態だった
やはり萌え雑誌へのシフトなのだが例え萌えマンガでも作家の好きなものを描く事は出来ない方向性.のシフト
いわゆるコミカライズ雑誌になるという事だった
俺は結果を待っている間に用意していたネームでまた新たな雑誌を探す事にする
ちなみにこの雑誌の担当だった編集とは未だにたまに連絡をとっている
いつかまたこの人とマンガを作りたいとも思う
人と人との巡り会いってホント大事だもんな
画力も確かに上がっている
問題は雑誌選びだ
2回連続で同じ目にあった俺はブレる事の少なそうな大きめの雑誌を選ぶ事にした
まあこの時代方向転換の可能性.どこの雑誌にも付きまとうだろうが
原稿を完成させ持ち込みの電話をかける俺
始めてかける編集部だがもはや緊張は1mmもなかった
「明日w急ですねえ」
と返された
そんな事を言われたのは始めてだ
その返答自体に悪い印象は持たなかったが俺の頭に一瞬ジャバがよぎる
やはり老舗の雑誌とは言っても1社に絞るのは危険かもしれない……
だがその時点で深く考えても仕方あるまい
普通にいい編集の可能性.ってあるのだ
俺は今後の事は明日の持ち込みのあとに考える事にした
そして持ち込み当日
だがなかなか編集は原稿に手をつけない
これも初めての経験だった
いくつかマンガについての雑談を交わしたあとようやく
「じゃあ読ませてもらいます」
だがやはり俺は大した緊張はしなかった
読み終えた編集が口を開く
「……もう1回読ませて下さい」
周辺の観察にもすっかり飽きた頃
「……ありがとうございます」
「とても面白かったです」
「読み始めた時“うわー”と思っちゃった」
「でもさ最後まで読んだらこれでしょ」
「いや本当、素晴らしかっ」
来るまではどうするか迷っていた俺だが結局その原稿はその雑誌の賞に出す事になり編集に預けてその日は帰宅した
結果を待つ俺は思っていた
だが同時に不安もあった
こう思うのは何度目だ?
担当は通って当然といった感じだったが俺はやはりその不安を拭えずにいた
担当が絶賛したって通らないことだっていくらでもあるのだ
そして俺はそれを嫌というほど経験していた
会議当日
担当からの結果の電話を受ける俺
それも今まで壁になっていた
「デビュー出来る賞」よりも
何段階も上の賞だった
しかも規模のでかい雑誌とはな
と思ったけど最後まで書いちゃうかな
やはり俺がやってきた事は間違っていなかったのかもしれない
自信を持っていた担当もここまでとは思っていなかったらしく驚いていた
友達もみんな喜んでいた
最初は「マンガ?就職しろ」と言っていた母親も喜んでいた
酷い奴にもたくさん会ったが俺の周りにはそれ以上にいい奴がたくさんいた
だが新人だからかもしれないが批判的な意見は少なく、あってもジャンル自体への批判で批判しながらも俺自身の技術は認めてくれているものがほとんどだった
誉めているものは素直に嬉しかった
特にそのジャンルのトップの作品をあげて
「俺の大好きな○○より面白い、悔しい」というのにはさすがにニヤけた
おめでとううううううう!
ってリアルタイムじゃないからおかしな話だがww
俺は本当の意味でその作品を超えなければならないのだ
そしてその頃
俺は結果を聞いてから、そしてデビューしてもなお、の自分の不思議な心境に気づいていた
確かにデビュー出来た事へのホッとした気持ちはあった
だがそれだけなのだ
しかしそれは考えれば当たり前の事だった
だって俺はまだ何も成し遂げていないのだから
思うような形で連載を完結させられた訳でもない
相変わらず自分のマンガ以外の仕事をしなければ生活できない
デビューする前も後も別に何が変わった訳でもないのだから
いや、取りかかっていると言おう
頑張れ超頑張れ
10年前にマンガ家を目指し始めた俺は10年後の今も同じようにマンガ家を目指してマンガを描いている
良かったね。
見守ってきた甲斐があったわ。ひと月だけど。