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:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします2011/09/07(水) 21:32:01.44 ID:5NzmtL8y0それに隔離状態はそんなにキツくなかった
とりあえず白血球が減る分には自覚症状はないし、夜になれば浜田さんや綾ちゃん、新しく入ってきた同病仲間達が入れ替わり立ち代り遊びに来てくれてたからさびしくはなかった
そんなある日、無菌室にやってきた綾ちゃんは目が真っ赤だった
綾ちゃんはまだいくらか混乱してたが、途切れ途切れに何があったか話してくれた
綾ちゃんには凄く仲のよかった同病のがん患者さん(Aさん)がいた
その人には入院前から結婚の約束をしてた彼氏さんがいて、病気が治ったら結婚するんだ、って綾ちゃんに嬉しそうに話してたらしい
俺が入院するしばらく前にその人は退院したんだが、彼氏さんの両親に挨拶に行ったAさんはこう言われたそうだ
「そんな病気の人間と結婚して、子供に遺伝したらどうする」
「足が悪いらしいが、そんな母親では生まれてくる孫がかわいそう」
「ウチの息子をあなたと結婚させるわけにはいかない。諦めてほしい」
彼氏さんと一緒になる事だけを生きがいに治療に耐えてきたAさんは、鬱のような状態になってしまった
肝心の彼氏さんも親の言うことを優先してAさんを見捨てるような形で別れてしまい、結局Aさんはその後自*してしまったそうだ
顛末をひとしきり話した後、綾ちゃんが泣きながらポツリといった
「私もきっともう恋愛も結婚も出来ないんだ。おっきな傷跡だってあるし、もし治ってもいつ再発するか分からないし」
顔が可愛いって事ももちろんあるが、いつも笑顔で励ましてくれて、俺がキツくて動けない時に何回もご飯を作ってくれたりして、そういう優しいところが大好きだった
部活ばっかで女に縁がなかった俺じゃなくても、きっと彼女に惚れてたと思う
そんな綾ちゃんが目の前で泣いてて、自分には何も出来ないって状況が悔しかった
そして、自分でも意外な言葉を発してしまった
この後に続けて色々言ったはずなんだけど、完全テンパってて何言ったか覚えていない
綾ちゃんはなんかポカーンとしてた
ヤバい、やっちまった
ていうか俺何言ってんだ、終わった
そんな思考に頭が占拠されてた
何分も沈黙が続いた後、綾ちゃんが小さい声で言った
けどね、私達の好きって、普通じゃないかもしれない。
私達、同年代の子達とは少し違う境遇にいるよね。同じ病気の人たちもちょっと年離れてるし。
自分に一番近い相手に共感を抱いて、それを好きと勘違いしてるのかもしれないよ。
だからどっちかが退院して「外」の人になっちゃった途端、終わっちゃうかも。
それでもいいの?
当時中2なの?中3なの?
ごめん、正しい定義は分からない
>>53
一応、手術後5年経ったら安全圏みたいなセオリーはある
けど7年後に再発してタヒんでしまった知り合いもいるし、正直今でも怖いよ
定期健診のときはいつもドキドキしてる
すまない、中3が正しい
俺はこの話を聞きながら、この子は大人だな、けどその通りかもしれないなって思ってた
でもそれ以上に俺の事が好きだって言ってくれて嬉しかったし、もしかしたら綾ちゃんの言うとおりになっても退院まで1人ずつでいるより一緒にいたほうが絶対いい気がしてた
だから「それでもいい」って断言した
綾ちゃんはまたちょっと黙った後恥ずかしそうに笑って「これからもよろしくね」って言ってくれた
デートと言っても2人で病院から出たりは出来ないから、院内を散歩したり売店行ったり夜話会の後に2人残って話したり程度
それでも俺にとっては十分だった
治療の副作用が抜けるのを待って、俺は手術を受けた
抗がん剤の効きは期待ほどじゃなかったそうだ
けど、可能な限り筋肉の機能を残しながら、がん細胞が残らないように手術をしてくれたとの事だった
リハビリを頑張れば右手はかなりのところまで元通りになる、がんばろうと先生に言われた
1年近くベッドの上ばかりで生活してたから、トレーニングで動けるのが嬉しかった
おれより数ヶ月前に手術を受けてた綾ちゃんと一緒にリハにいったりもした
無論綾ちゃんの調子がいいとき限定だが(綾ちゃんはすでに術後の抗がん剤治療が再開してた)
手術前とは違うクスリがメインだった
透明な、ぱっと見は水みたいなクスリ
このクスリは赤&透明ほどの吐き気はこない(それでも吐く時は吐くが)代わりに、血液成分にダメージが大きいクスリだった
これを投与されると白血球が格段に減って、すぐ無菌室行きになる
しかも投与期間が長いので、2週間以上無菌室に閉じ込められる事が増えていった
赤血球が減るから強烈な貧血になるし、血小板が減って血が止まらなくなる
何かの拍子で鼻血が出て、1時間以上止まらない事も何度もあった
その状態で寝てると鼻血がに咽に降りてきて吐き気を誘発するんだが、副作用で体力が消耗してるから起き上がっていられない
そうこうしてるうちに咽に降りてきた鼻血ごと吐いて、それが原因で今度は咽から血が出る、なんてループに陥ることもあった
その頃手の甲を軽くすりむいたことがあるんだが、その時も2時間くらい血が止まらなかった
今でも傷跡が残ってる
綾ちゃんも同じクスリを投与されてるから、お互いに無菌室で会い様がない、という状態が多かった
そうじゃない場合でも必ずと言っていいほどどちらかの調子が悪く、一緒に散歩に行ったり出来る機会も格段に減った
そんな状態がしばらく続いた後、綾ちゃんの抗がん剤治療が終わった
綾ちゃんは徐々に副作用から回復して、また会える機会も増えていった
けどそれは、綾ちゃんが退院する時が近づいてるって事でもあった
綾ちゃんの退院日はあっと言う間に近づいてきて、その日俺は無菌室にいた
小1から点滴しまくったり手術しまくったり入院しまくったりして今に至る
というか入院期間が累計1年半くらいなんだけど他の患者さんと仲良くなったことがない
個室だからいけないのか
入院はつらいよな
同い年の奴らが学校行ってる間に俺はなんでって気持ちになる
個室の人はやっぱり知り合い出来にくいと思うよ
談話室とかにしょっちゅう来てればそうでもないのかもしれないけど、どうしても部屋にいることが多くなると思うし
当然見送りになんていけないって事は綾ちゃんも分かってて、両親が退院手続きやらなにやらしてる間、ずっと俺の部屋にいてくれた
何を話したか、正直あまり覚えていない
油断したら今にも泣きそうだったから、必タヒこいて耐えてた
最後に綾ちゃんが俺にキスをして「手紙書くからね。ちゃんと返事送ってね」って言った事だけはよく覚えてる
綾ちゃんが出て行ってから、布団にもぐってちょっと泣いた
百何冊の医学雑誌から探してきたぜ。
詳しくはなんともいえないが、小児癌の一種だと思う。
俺と綾ちゃんの文通?は週1往復くらいのペースで続いてたし、定期検査のときはお見舞いにも来てくれた
そして俺も退院した
退院は凄く嬉しかった
抗がん剤治療がない、普通の体調で、普通にご飯を食べられる毎日が戻ってくるなんて夢みたいだった
退院してしばらく経った頃には髪の毛も生えてきて、猫っ毛の坊主みたいなちょっと変な髪型になってた
凄いクセっ毛の変な髪だったけど、帽子無しで人前に出られることが幸せだった
病院ってのはなるべく遠ざかっていたい居場所だよな・・・