ベテランさんが皆に「嫌な事忘れる薬入れといたで」とコーヒーを入れてあげてた。
やっぱりベテランさんは凄いと思った。
昨日の事がなかったみたいに振舞ってた。
しかも、何があったのか凄くご機嫌さんだった。
友近さんにもお菓子とかあげてた。
普段から浮き沈みの激しい忄生格だったけど、ちょっと怖かった。
何でクビにならないのかもわからなくて、色んな意味で怖かった。
辞めさせるは無理だろうから、製造の工場で使ってはどうかという話もでた。
でも、ワンマン社長は、知り合いの人の娘さんという事もあり困っていた。
アントンはとりあえずデスクワークがしたいらしい。
「よし!営業部で頑張ってもらうから」
その時の皆の反応をみて、アントンが居なくても凍りつくんだなぁって思った。
営業の方が電話・FAX・コピーや雑用が多いので絶対に無理だ。
しかもユリさんもまだ居るしベテランさんも手伝ってくれてるから、充分だと訴えた。
けどそこはワンマン社長。聞いてくれるわけもない。
ってことで、次の週からアントンは営業部で仕事をすることになった。
ユリさんが何故か「何か・・・ごめんね」って謝ってきた。
私はちょっとお腹が痛くなった。
友近さんは明日から週末まで、製造の工場の方へ会議で行くことになっていた。
だから、今日でアントンとの仕事は終わり。
あんなウキウキした友近さんは久しぶりに見た。
そんな友近さんにベテランさんが猪木の顔真似しながらガッツポーズしてた。
顔真似がちょっと上手くなってた。
社長が営業部への異動を伝えるため、アントンを会議室によんだ。
しばらくしてバーンと会議室からアントンが飛び出してきた。
そして
「私はまだまだやり残した事があるんです!設計部も私が欠けると困ります!」
って、叫びだした。
皆が「え?何が?」って感じだった。
社長は悩んでた。
そして
「じゃ、これからも設計部で頑張ってもらおうかな」
って言った。
皆が「え?何で?」って感じだった。
週明けの友近さんの唖然とした顔を今でも忘れられない。
普段は引き締まった顔なのに、その朝は稲中に出てきそうなユルイ顔になっていた。
そんなこんなでユリさんも辞め、月日は流れ、設計部の皆が諦めと絶望を感じ、アントンの扱いにも慣れてきた頃、
営業部に新しい事務員さんが入ることになった。
この人も重要人物なので、名前を付けます。
とりあえず今回も綺麗な人だった。
雰囲気的に滝川クリステルみたいな人。
なので、クリステルにします。
クリステルも35歳。
アントン、ベテランさんと同い年。
クリステルは、忄生格温厚で覚えが早くしかも仕事が丁寧だった。
余談だけど、社長は「女は35歳から」って言ってた。
だから35歳がこんなに集まったのか、たまたまなのかは謎。
私1人お子様みたいでちょっと寂しかった。
でも予想通り、アントンはクリステルを嫌ってた。
常に先輩面して、クリステルに雑用を押し付けてた。
クリステルはアントンに理不尽な事言われても常に温厚だった。
私もこんな人になりたいと思った。
常に『出来る女』を演じてたアントンは、自分の方が仕事が出来て上の立場だと思っていた。
アントンのポジティブさも見習おうと思った。
設計の修正箇所を電話で聞いていたアントンの連絡ミスで、大慌てで修正することになったらしい。
今更アントンを責めても逆切れされるのは分かっているので、皆何も言わなかった。
なので、クリステルの歓迎会は営業部だけでやる事になった。
もちろんお店はいつもの居酒屋さん。
何か昔に戻ったみたいで嬉しかった。
が、なぜかアントンが登場した。
クリステルの歓迎会なのに・・・。
皆がバタバタしてるのに、「部下の歓迎会には出る!」と言い張ってたらしい。
部下ってなに?部署違うし。
『出来る女』の妄想が設計部の部長くらいまで出世したようだ。
でも、皆アントンが居ないほうが仕事が捗るので行かせたらしい。
こっちはいい迷惑だった。
帰ればいいのにと思った。
クリステルは大人の対応で、「お忙しい所ありがとうございます」って言ってた。
ベテランさんは、ニヤニヤしながらスルメの天ぷら食べてた。
アントンはまた不味いと言いながらもまたワインをがぶ飲みしてた。
今日はクリステルの歓迎会なので、皆がクリステルを主役にするのは当たり前なのに、アントンはそれが気に入らなかったらしい。
いきなりクリステルにあれこれ質問しだした。
前はどんな仕事をしてたのか。
実家は何をしてるのか。
出身はどこか。
結婚はしてるのか。などなど。
理由はクリステルが片親で育てられて、高校卒業後すぐ働き出した。
結婚はしているが、旦那さんは出張が多いということ。
その後のアントンは、今まで以上に本当に最低だった。
片親で育ったって事は貧乏だったんだろうとか、高卒でちゃんとした知識はあるのかとか。
旦那は絶対ほかに女がいるとか、子供出来ないなら結婚してる意味ないから離婚しろとか。
私は始めて人を殴りたいと思った。
こいつ本当に極悪人だと思った。
周りもいい加減にしろと止めていた。
そんな時でもクリステルは大人の対応をしていた。
私は何だか泣きそうになってきた。
ベテランさんはビールをピッチャーで注文してた。
ピッチャーのビールをアントンにあびせる。そういうのを希望
クリステルがトイレに立ったすきに、アントンが上座を占領してた。
アントンはずっとしゃべってた。うるさかった。
昔から、ブランド物のバッグしか持ったことがない。
クリステルが使っているようなバッグはスーパーの袋と一緒。
一回使ったら捨てるのが私の基本。
パリスヒルトンでもそんな事しない。ほんとバカだと思った。
ベテランさんはピッチャーを受け取りながら私に、「飲み物来たぞー」と助け舟を出してくれた。
アントンから離れピッチャーを受け取ろうとした瞬間ベテランさんが
アントンの方へビールをぶちまけた。
ベ「ごぉめぇーん。私酔ってるみたいやわぁ」
ビショビショになり喚くアントン。
急に酔っ払いになったベテランさん。
トイレから帰ってきて呆然とその光景を見詰めるクリステル。
私とほかの人はキョロキョロしてた。
その後、お店にモップ借りて床とアントンの靴を拭いてた。
私たちも大将に布巾をかり、テーブルとか拭いた。
さすがのアントンもビショビショのままで居るわけにいかず、プリプリしながら帰っていった。