長女はかなり厄介な病気と身体障害を持って生まれて来た。
俺も仕事のストレスが酷かった。ハタチそこそこなのに髪が禿げてね。
妻子さえいなきゃすぐに辞めてるような、本当に酷い会社だった。
家に帰ってくると、出迎えも晩御飯もなく
散らかった部屋に娘の泣き声がぎゃんぎゃん響いてて
嫁はその横でボサボサの髪のまま睡眠不足でぐったりしてて…
お帰りなさいの言葉もなく愚痴を聞かされて…
っていうのがずっと続いて
嫁1人じゃ無理だから、俺も育児家事やるんだが
仕事と重なってもう限界で、毎日喧嘩の言い合いだった。
ある日役所の人が来てね、俺らが虐待してるっていう通報があったらしい。
勿論虐待なんてして無いが、娘の異常な泣き声とか喧嘩の声とか疲れきった姿とかで
誤解されたんだろうね。でもその時は、虐待って事で良いから娘を連れて行ってくれって思ったよ。
俺も嫌になって、一週間くらい家に帰らず安いホテルに泊まった。
久しぶりに帰宅すると、家の電気がついてなくて、娘の泣き声が響いてて
嫁がキッチンで倒れてた。救急車呼んですぐに病院。
ずっと前から体調悪かったらしいが、娘の世話で病院に行く余裕もなかったらしい。
嫁の親が血相抱えて病院に来て、俺は全部事情を話した。
義母に「あんたらには家庭持つのは早すぎた。孫は私が引き取って面倒見る!」って言って
その場で長女を連れ去って行った。娘が3歳になるかならないかくらいの時期だな。
それから半年は、平凡で穏やかな日々だった。
俺は職場を退職して、失業保険と貯金を生活費に当てて
2人でゆっくり過ごした。
離婚して自由になりたいって思ったけど
お互い沢山寝て、沢山休んで、それで冷静になれた。
半年振りに娘と再会して、やっぱり自分達で育てたいって思った。
それで娘を引き取った。
それからは娘に療育や医療を受けさせる為に引っ越して、一からやり直した。
鶏の唐揚げとかシーフードピラフとか、俺の好きなものが色々出てきて
デザートは長女が作ったくれたケーキだった。
次女も生まれた。長女と11歳離れてるけどね。
育児ノイローゼだった嫁も、長女のことがきっかけで
障害児保育、病児保育に携わりたいと思ったらしく
保育士の資格取って施設で働いてる。
仲良い家族だねーって周りから言われるし、自分でもそう思う。
今は家に帰りたくなくなる事なんて全く無い。
偉いぞ。
荒んでいる俺にはとても参考になった。
簡単に真似できる事ではない。
義母は仏様じゃのう。
そんなものが好きだなんてガキだな。
俺を泣かせやがって、馬鹿やろうめ。